フリーページ
「国旗というものが持つ『象徴的な価値』が公然と毀損(きそん)されること、を防ごうとするものなのでしょう。実際、高市早苗首相は過去(21年1月)に自身のホームページで、国旗損壊罪の創設を通じて侵害から守るべきものとして次の二つを挙げています。『国旗が象徴する国家の存立基盤・国家作用』と『国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念』です。いずれも、モノとしての日の丸ではなく、国旗の持つ象徴的な価値に焦点を当てていると言えます」
――国旗損壊罪を制定しようとする人々からは、あくまで侮辱目的での損壊を規制するだけで、政府への抗議の表現まで取り締まるものではない、との反論も予想されます。
「警察での取り調べや裁判など実際の運用場面を考えると、『あのような表現が侮辱的だということは当然認識できたはずだから、侮辱の目的があったと推定される』といった論法で有罪視されてしまう事態が容易に予想されます。なので、侮辱目的に限るとの規定が実際に歯止めになるかどうかは疑問です」
「また、逮捕された人が『目的は侮辱ではなかった』と証明するためには、自分の思想信条を捜査機関に明かさなければいけなくなります。その意味で国旗損壊罪は、捜査機関が個人の思想信条に踏み込むきっかけを作り出す法律でもある。 法や公務員が個人の内面に踏み込むことを禁じ、思想・良心の自由を保障した憲法19条に抵触する可能性があると私は思います」
――国旗損壊罪は米国にもあると言われていますね。
「ええ。ただ、1989年に重要な司法判断が出されていることも確認しておくべきです。自国政府への抗議デモで星条旗を焼いた男性が、国旗を侮辱した罪に問われた事件で、連邦最高裁は、国旗を損壊する表現を禁止・処罰するテキサス州法は違憲だとの判断を示しました。政府への抗議を表すための国旗損壊を、憲法が保障する『政治的な表現』と認めた形です」
「この判決は保守派の反発を招き、連邦議会は星条旗への保護を強めようとして連邦法を改正しましたが、連邦最高裁は90年、この改正法についても違憲だとする判決を下しています」
―― 一方でトランプ米大統領は、それらの司法判断に対する不満を表明してきました。
「ええ。トランプ大統領は今年、星条旗を焼くなどの行為をした人を起訴するよう命じる大統領令に署名しています」
――国旗損壊罪を制定しようとしている人々は、フランスやドイツ、中国などにも同様の法律があると訴えています。
「それぞれの国がどのような実害を踏まえて、いつ導入し、表現の自由との衝突をどう調整しているのか、英国やカナダにはなぜないのか……。調べた方がいいことが山積みです」
■ ■
――国旗損壊罪の制定に反対すると、一部の人々から「日本を愛していないのか」「それでも日本人か」という非難が寄せられてしまう状況もあります。
「愛と追従は違います。自国や郷土への愛があるからこそ、そこで起きている問題や過ちに対して内側から厳しく批判・抗議する人々は、歴史に繰り返し登場してきました。国や郷土をあっさり見捨てて離脱するタイプではないからこそ、表現もときに辛辣(しんらつ)になるのです」
「愛や尊敬は結果としてついてくるものです。それを法と警察力で強制すれば、萎縮による追従は得られても、人心の内実は離れ、国への尊敬や帰属感はかえってもろいものになります。尊敬される国政を実現することに専念すべきでしょう」
(聞き手 編集委員・塩倉裕)
*
<しだ・ようこ> 1961年生まれ。武蔵野美術大学教授。日本や米国などにおける表現・文化をめぐる憲法問題に詳しい。著書に「『表現の自由』の明日へ」など。
[大弦小弦]金子文子と天皇(6日の日記) 2026年08月06日
「女系天皇誕生封じる」 海外、日本社会… 2026年08月05日
11宮家が離れたわけ(4日の日記) 2026年08月04日
PR
キーワードサーチ
コメント新着