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人はなぜ、本を読むのだろう。
暇つぶしのため。知識を得るため。新しい世界に出会うため。
答えはきっと、本を読む人の数だけある。
そしてこの物語『アウシュヴィッツの図書係』の主人公の少女、 14 歳のディタにとって、それは生きるため、人間らしさを失わないためだ。
「絶滅収容所」と呼ばれたアウシュヴィッツの 31 号棟は、子ども専用の収容所。そこには、世界で一番小さな秘密の図書館があった。
蔵書はたった 8 冊。
ページがばらばらになった地図帳や、幾何学、世界史の本。
表紙のないロシア語の小説や精神分析入門など、ふつうの暮らしをしていたら、本棚の奥に押し込めたまま見向きもしないかもしれない本たちが、ここでは千金に値する宝物だ。
収容所の冷酷な看守たちが恐れているのは、剣でも、鈍器でもない。
表紙がばらばらになり、ところどころページが欠け、読み古された一冊の本が、子どもたちから人間性を剥奪しようとする者たちにとって最大の脅威になる。
本は、とても危険だ。
なぜなら、それは囚人たちに、「ものを考えること」を促すから。
看守たちに本が見つかりそうになったとき、 14 歳のディタは自分の命をかけて本を守ろうとする。
彼女が服の下に隠し、痛いほど強く抱きしめて守ろうとしているのは、インクの染みがついた単なる紙束ではない。
彼女にとって本は、人間の尊厳を支える知恵の象徴、生きる希望そのものだ。
どんなささやかな希望も、容赦なく踏みにじられ奪われていくディタと子どもたちの物語に耳を傾けながら、『夜と霧』の精神科医、 V.E. フランクル博士の言葉を思い出さずにはいられない。
私たちは、人生に起こるさまざまな出来事に意味を求め、時に何かが与えられることを期待し、「自分らしく」生きようとする。
でも、本当はそうではない。
「人生が何をわれわれから期待しているかが問題」なのだ。
今、この瞬間も、人生は私たちに問いかけている。
「それで、あなたはどうするの?」と。
そして、人生から出された問いにどう答えるかという選択において、たとえ肉体を拘束されていても、私たちの精神はかぎりなく自由だ。
古今東西、無数に書かれてきた本の中には、さまざまなやり方で人生からの問いに誠実に答えようとした先人たちの経験と知恵が、ぎっしり詰まっている。
極限まで情報が制限された世界一小さな図書館の物語は、情報が溢れ飽和状態になった時代に生きる私たちに、書物をひも解くことの本質的な喜びを思い出させてくれる。
どんな状況の下にあっても、人間は自分の意志で「答え」を選べる。
本はいつでもそこにあって、問いに答えようと試行錯誤する私たちに、手を差し伸べてくれているのだと。
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