文豪のつぶやき

2008.07.28
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カテゴリ: 時代小説
 新町は修羅場と化していた。
 官軍は十二潟、黒津、大口、それに森立峠からも大挙して来ていた。
 その雲霞の大群が新町口を守る三間隊を攻めに攻めたてた。
 特に新町口攻撃の官軍の中心をなす薩摩軍の猛攻は激しく、長岡軍銃卒隊長の篠原伊左衛門がたちまちのうちに戦死した。
 五人は長町を抜けた時まで固まって走っていたが、足軽横町にさしかかった時、伊藤が抜きんでて先を走りだした。
「伊藤さん」
 四人は追ったが飛び交う銃弾の中、伊藤の背だけがみるみるうちに遠ざかってゆく。
 やがて伊藤は砲煙の中に消えた。
「伊藤ー」

 ここまで来ると銃弾が耳元をかすめはじめた。
 その時、新町の方向から閃光が走った。
「来るぞ」
 白井はそう叫ぶと町屋の影に飛び込んだ。
 爆裂が起こり四人の走っていた位置を吹き飛ばした。
 青木と矢口はとっさに軒下に転がり込んだが、加藤は遅れた。
 砲煙の立ち込める中には、手足を吹き飛ばされた加藤の遺骸が転がっていた。
「加藤」
 青木がしぼりだすような声で叫んだが銃弾が激しく近寄ることが出来ない。
「青木さん、俺は行くよ」
 そういうと矢口は軒下から飛び出、新町にむかって走り出した。

 青木はよろよろと道に出ると、加藤の遺骸を抱きしめた。
「青木さん、あぶない」
 白井が声をかけた瞬間、二度目の砲弾が加藤を掻い抱く青木を捕らえた。
 二度目の砲弾はさらにすさまじく白井は体をかがめ顔を手でかばい、衝撃に耐えた。
 やがて砲煙が晴れ、白井はゆっくりと目を開けた。

 白井はそれをじっと見ている。
 が、やがて深呼吸を一つすると刀を抜いた。
(俺はやるよ)
 誰に言うともなくつぶやくと道に飛び出、駆けた。





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最終更新日  2008.07.28 09:18:48
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