《櫻井ジャーナル》

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2010.04.10
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 東京地裁は9日、「沖縄返還」に関する「密約文書」の開示を「国」に命令する判決を言い渡した。主権者に所属する情報を官僚や政治家が私物化している現状では、画期的な判決だと言えるかもしれない。

 密約の存在を初めて明らかにしたのは毎日新聞の記者だった西山太吉だが、情報源の外務省事務官とともに「国家公務員法違反」で有罪判決を受けることになる。裁判の過程でマスコミは検察側が起訴状に書いた「情を通じて」という表現に飛びつき、重大な政治問題を「下ネタ」にすり替えていった。

 おそらく、マスコミは政府に「まんまとしてやられた」のではない。権力者と対峙せずにすむ口実を与えられ、喜んで飛びついたのである。そうでなければ、取材方法に問題があるにしても、密約問題を追及する手を緩めるはずはない。権力犯罪を追及する西山記者を内心では不愉快に感じていた記者が少なくなかった・・・そうとしか思えない。現在でもマスコミや出版の世界では、そうした雰囲気が蔓延している。

 ところで、沖縄が日本へ「返還」された1972年、ベトナム戦争は最終局面に入っていた。アメリカのヘンリー・キッシンジャーと北ベトナムのレ・ドク・トが和平協定案に仮調印したのは1973年1月のことだ。軍事力でアジアを制圧するというビジョンを放棄するべきだと考える勢力が、アメリカ支配層の内部で発言力を強めた影響があったかもしれない。

 当時を振り返ってみると、1968年1月30日のテト(旧正月)攻勢は大きな節目だったと言えるだろう。この攻勢でアメリカ大使館が解放戦線に一時、占拠されたのだが、この様子をアメリカ国民もテレビを通じて「目撃」し、自国の軍隊がインドシナで泥沼から抜け出せず、もがいている実態を知ることになった。リンドン・ジョンソン大統領は追い詰められ、3月31日に次の大統領選挙に出馬しないとテレビ演説で表明、5月13日にはアメリカと北ベトナムは第1回パリ会談を開いている。

 この年の11月に行われた大統領選挙で勝利したリチャード・ニクソンは「タカ派」と見られていたが、戦争を軸にした政治経済政策は限界に達したと判断し、「デタント(緊張緩和)」へ舵を切ることになる。1970年にニクソンはカンボジアへの軍事侵攻を承認し、ラオスへの侵攻作戦も決断しているが、これは和平交渉を有利に進める目的があったと言われている。

 ともかく、1969年7月にはアメリカ軍の撤退が始まるが、この年の11月に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが「ソンミ村(ミ・ライ)事件」に関する記事を書き、注目された。ウィリアム・カリー大尉の率いる部隊が前年の3月、ソンミ村で数百名の村民を虐殺したという事件だ。ハーシュの記事より約8カ月前にも報道されているのだが、話題になったのはハーシュの記事だった。

 この村民虐殺はCIAとMACV(ベトナム軍事支援司令部)の共同作戦、「フェニックス・プログラム」の一環。1970年にはデイビッド・ミッチェル軍曹がCIAの主導的な役割を明るみに出している。

 この秘密作戦が始動した1967年当時、CIA長官はリチャード・ヘルムズ、MACV司令官はウィリアム・ウェストモーランドであり、作戦を立案したのはDEPCORDS(民間工作と革命的開発支援担当のMACV副官)だったロバート・コマー。暗殺担当のチームは海軍特殊部隊SEALsなどから引き抜いて編成、実働チームとしてPRUという傭兵部隊も組織され、命令はすべてCIAから出ていた。



 コルビーが議会で証言したこともあり、世界的に見ると、この秘密作戦は広く知られているのだが、日本では学者もマスコミも触れたがらない。「NATOの秘密部隊」でも言えることだが、アメリカの破壊活動、暗殺作戦について、日本の学者やマスコミは触れようとしない。(この件の詳細に興味があるならば、拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を)

 ともかく、1972年の段階でアメリカ政府はベトナム戦争を終結させる準備を本格化させていた。出撃拠点としての価値が低下した沖縄を「返還」してもかまわないとアメリカ側が考えても不思議ではない。(基地の経費負担の問題に加え、日本の「左翼衰退」で沖縄を独立させる事態はこないと判断した可能性もあるが)

 密約問題を含め、日米安保には不透明な部分が多い。その理由を説くカギを提供してくれたのが関西学院大学の豊下楢彦教授である。「日米同盟」の中身を決めるにあたり、日本側の中心人物が昭和天皇だったことを明らかにしたのである。日米同盟の闇に光を当てようとすると天皇の姿が浮かび上がり、憲法が定める「象徴」の意味を問われ、天皇制の存続問題に発展することにもなりかねない。おそらく、日本のエリートにとって、日米安保最大の問題はここにある。





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最終更新日  2010.04.11 02:19:29


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