2004年10月13日
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 戦火の中のバグダッド、停電の合間をぬって書きつがれる24歳の女性の日記『リバーベンド・ブログ』。イラクのふつうの人の暮らし、女性としての思い・・・といっても、家宅捜索、爆撃、爆発、誘拐、検問が日常、女性は外を出ることもできず、職はなくガソリンの行列と水汲みにあけくれする毎日。「イラクのアンネ」として世界中で読まれています。すぐ傍らに、リバーベンドの笑い、怒り、涙、ため息が感じられるようなこの日記、ぜひ読んでください。
(この記事は、TUPとリバーベンド・プロジェクトの連携によるものです)。
http://www.geocities.jp/riverbendblog/
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 イラクで鎮静剤や麻薬の依存症が蔓延していると知り憂慮するメールが、リバーに届いた。以下は、その「善意」に対する、リバーの答えです。
(文中のオプラやヴァリウムなどについて、末尾に注をつけています)(TUP/池田真里)
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ヴァリウム・・・

 オプラ・ショーでは、例の放送が注目を集めていた間に、なんともたいへんな話題が出ていたらしい。その話の前にちょっと言わせて。オプラとは誰か、わたしたちもしっかり知っている。MBCの2チャンネルはこの何カ月かオプラのショーを放送している――数週間遅れではあるけれど。人気のショーだ。なぜって、ショーの話題がばかばかしいほど、気が紛れるってことにみんな気がついたから。上手な美容整形医の見つけ方とか五番街でのショッピング三昧には何を買うべきかとか、ね。わたしは、オプラの大ファンというわけではないけれど、面白いテーマがあれば見ていた。オプラが番組にコンディ・ライスを呼んで、思いやりの人だと持ち上げようとしたので(正直、むかついた)、それから見ていない。

 さて、ウィルという人からメールをもらった(返事をしたが、届かないで戻ってきてしまった)。ウィルは、イラクの人々にヴァリウム依存症が広がっているというのは本当か、ヴァリウムが薬店でたやすく買えるというのは本当かと聞いてきたのだ!


 ヴァリウムはかつても今も薬店で手に入る。イラクは、ほとんどどんな薬でも‘薬店で処方箋なしで買える’という国々のひとつだ。必ずしも、どこでも何でもというわけではないけれど、だいたい、鎮静剤から抗生物質まであらゆる薬が薬店で売られているといっていい。それにイラクでは、薬はとても安い。そう、“実質的に”安いのだ。経済封鎖が行われる前、イラクには “サマラ薬品”というアラブで有数の製薬会社があって、ペニシリンから感冒薬まであらゆる薬を製造していた。

 ウィルの質問。イラク戦争後ヴァリウム依存が広がっていますか。もちろん、広がっている。ヴァリウムは戦争の間、必需品だった。戦争への備えに、生活に必要な品々のリスト作りがあった。次から次へと作ったたくさんのリストの中に必需医薬品リストがあった。リストには、脱脂綿、バンドエイド、アルコール、ガーゼ、一般的な痛み止めなど基本的なもの、また、ペニシリン、コデイン(咳止め)、ヴァリウムなどの薬品。家族にはヴァリウムを飲んでいる人はいない。だが、これは“もしもの場合”の薬、買っておくが使わずに済みますようにと願うような薬のひとつとして、入れられたのだ。

 4月の第一週、戦車がバグダードに侵入開始したと同時に、ヴァリウムを使わざるをえなくなった。家に年取った叔母が来ていた(住んでいたところから避難させられたのだ)。それにいとこ、その妻と二人の娘、叔父が加わり、家は混み合っていて、この非常時に、ほとんどお祭り気分だった。

 爆撃が激しくなり、一日の食事や睡眠のリズムが大きく乱された。すべてがバグダード攻撃を中心に回っているようだった。爆撃の中休みを縫って大急ぎで食事を調え食べ、‘衝撃’と‘畏怖’の合間にほんのひと眠りする。全く眠らなかった夜も何日かあった。そのような夜は、ただ起きていて、所在なく暗闇の中でお互いを見つめ、爆音に耳を澄ませ、地面が揺れるのをからだに感じていた。

 じゃ想像してみて。バグダードの寒い夜、真っ暗な空に突然白い閃光があふれる。まるではるか上空で星々が爆発しているよう。爆撃は激しく、窓はがたがた鳴り、地面は音をたてて揺れ、ミサイルのヒューという発射音が不気味に近く聞こえる。こどもも大人も全員、窓のない廊下に集まった。いとこの娘たちは毛布にくるまり、母親のそばでからだを丸めている。この子たち、とても静かにしているので眠っているようだった。が、眠ってはいないと私は気付いていた。見開いた目の白眼の部分が、ランプだけでほとんど真っ暗な廊下の、向かい側にぼんやりと見えていたからだ。

 さて、衝撃と畏怖の爆弾が嵐のように荒れ狂い始めると、それからはもう普通の会話はまったくできない。一言、二言早口に何か言うことはできるかもしれない。がそれも一時、そのうち爆音がとどろいて、口を閉じ頭を屈めながらまだ家が壊れていないことに呆然とするはめになるのだ。



 で、どこにヴァリウムの出番があるかって? この騒ぎのただ中で爆撃におののいている年取った叔母を想像してみて。恐怖のあまり心もからだもじっとしていられない。廊下を行ったり来たりし、ブッシュにブレア、戦争に関わる者は誰でも罵りたおす。でもこれは、まだ落ち着いているとき。心底怯えると、激しい罵りは止み、わたしたちみんな死んでしまうと、絶望して泣きわめく(このとき叔母さんは自分は息が止まっていると思っている)。わたしたち、瓦礫の中から掘り出されることになる。生きたまんま焼かれるんだわ――これがずっと続く。

 このすさまじい興奮の発作が起きるとそのつど、いとこは黙って、だがきっぱりとした態度で、叔母さんにヴァリウムと水を一杯渡すのだ。叔母さんは両方を飲む。するとほんとに数分で、落ち着いて少し平常に戻る。叔母さんはヴァリウム依存症ではなかった。しかし、戦争が激しくなったとき、とても役にたった。

 戦争が終わった今もまだ、同じことがあちこちで繰り返されていると思う。人間は、重荷が耐えられないまでになると、軽くしてくれるものにすがる。ほかの国では、つまり平時であれば、重荷を背負っていても、自分一人で耐えなくてもいい。友だちだって、身内だって、精神分析医だっている。誰か、がいるのだ。話を聞いてくれる人が。ここイラクでは、誰もが自分の問題を抱えている。家族が死んだ、拘束されている人がいる、強盗にあった、誘拐された、爆発にあったなどなど。で、とる道はふたつのうちのひとつ。ヴァリウムを飲むか、ブログを始めるか。

 もう一つの‘薬物’問題(そうこれも現実だ)は、もっとずっと深刻だ。戦争と占領の前、イラクでは、薬物(コカインとかマリワナとかのことよ)はそんなに大きな問題ではなかった。もちろん、さる人物から、またある場所でハシシやマリワナといったものが手に入るといううわさはあった。が、それほどふつうのことではなかった。大きな理由は、薬物を売れば、死刑で罰せられたからだ。いまは、バグダードのいくつもの場所で、薬物が手に入るし、南部ではありとあらゆる薬物が出回っている。バスラやナジャフなど南部の人々は、イラン人が密かに持ち込み売っているのだとこぼしている。イランは大量の麻薬取引をおこなっていて、いまやそのかなりがイラクに流れ込んでいるのだ。

 バグダードには、レイプから誘拐はては殺人までさまざまな犯罪と犯罪人の巣窟として知られた地区がいくつかある。犯罪人たちは、多くの場合麻薬常用者で、自分が商っているものを自分もやっている。その何かしらでハイになるからか、金が欲しいからか。



 もっと頭のまわるときなら、わたしだって薬物問題の深刻化について本気で考えた。問題は大きくなる一方だということはわかっているし、それをくい止めるためにすぐできることは何もない。だが、いまこの世にはより大きな問題がさまざまあるようで、薬物問題はほとんどわたしたちの心を捉えていないように思える。新学年が始まって、親たちは、子どもが誘拐されるか、爆弾で吹き飛ばされるかと心配している。メディアも深刻化しつつある薬物問題にさほど関心を払っていない。最終的には悲惨と荒廃をもたらすとしても、薬物は突然腕や脚を吹きとばしはしないし、車の中で爆発もしないし、空から降ってきて家を焼いたり家族を焼き殺したりもしない・・・つまり、誰も差し迫った脅威とはみなしていないのだ。

 飢えたワニを撃退しようと必死の最中に、自分がガンだと知るようなものだ――病気の心配はあとまわし。

リバーによって掲示 午前1時39分

(翻訳:TUP/リバーベンド・プロジェクト:池田真里)


(訳者注:オプラ・ショーとは、アメリカで人気のトーク番組、オプラ・ウィンフリー・ショー。オプラは逆境を乗り越えて黒人女性として初のニュースキャスターとなった。9月半ば、番組の19周年記念に新車を276人にプレゼントして話題となり、その後も受け取った人は課税されることがわかるなど騒ぎが続いた。
 MBCは、ドバイを拠点とするアラビア語衛星テレビ局。ニュースと娯楽の2本立て。
 コンディ・ライスはコンドリーザ・ライス米国家安全保障担当大統領補佐官。
 ヴァリウムはベンゾジアゼピン系の催眠鎮静剤、抗不安剤。日本での商品名は、セルシン、ダイアップなど。ウィルのメールには、オプラ・ショーに出たイラク女性の話で、サダム政権下より生活、治安すべてが悪化していること、恐怖と不安からヴァリウム依存症が蔓延していることなどを知ったと書かれている)。






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最終更新日  2004年10月17日 18時22分45秒 コメントを書く


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