森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2020.02.03
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臨済宗の住職、玄侑宗久氏のお話です。

「うすら寒い」とか「うすらバカ」などという言葉は、どちらかというと否定的な言葉である。
しかし、禅宗ではこの「うすら」というのは大変重要な言葉である。
これは森田理論の核心に迫る言葉であるので紹介してみたい。

「うすらぼんやりと」と見るとどんなことが起きるのか。
試しに、目の前に人差し指をたてた手を置いていただきたい。
距離は30センチくらいだろうか。
手の長さに自然に任せればよい。
その上で、普通にその指を見てください、といえばおそらく指に焦点を合わせるだろうから、当然指は1本に見えるはずである。

しばらく「うすらぼんやり」していると、指が2本に見えてこないだろうか。
これはもともと左右の目に見えている2つの像が、「うすらぼんやり」することで統合されずに見えている状態であるから、別に驚くほどのことはない。
しかもその指の像は、よく見ると向こう側の物を透かして半透明になっていると気づくだろう。

また試しにその状態を保ったまま、腹を立てよう、あるいは不安を感じようとしてみてほしい。
あなたがもしちゃんと「うすらぼんやり」しているなら、それが無理であることに気づくだろう。
感情に伴った身体状況が得られないから、感情は定着できないのである。

しかもその「うすらぼんやり」状況で、あなたの体がリラックスしていることにも気づくはずである。
いわば生命力が最大になっている。なんと人間は、「うすらぼんやり」で生命力が最大になるという厄介な生き物だったのである。「うすらぼんやり」には価値判断もなく、好き嫌いもない。
どうやら理解したり表現したりする世界ではなく、ただ味わうだけの世界なのだ。
(禅的生活 玄侑宗久 ちくま新書 48ページより抜粋して引用)

私は早速指をたてて実験してみた。

うすらぼんやりと眺めていると、意識の集中は起きない。ぼやけているから固定できないのだ。
意識の集中が起きないということは、いわば大脳の前頭前野が活動を休止している状態だ。
いいとか悪いとか、好きとか嫌いだとか、正しいとか間違いだとかという価値評価のない世界に入り込んだ感じだ。この状態では腹を立てたり、不安や恐怖を感じようとしても不可能である。
つまり神経症の原因となる、不安、恐怖、違和感、不快感などは発生しないのである。

「うすらぼんやり」の反対は、「はっきり、しっかりと精神を集中させて眺める」ということだろう。

その時、周りのことは全く見えていない状態である。
こういう条件が整ったときに、大脳の前頭前野がたちまち活動を開始する。
大脳の前頭前野は、その人が今までの人生の中で経験、習得した確信的な思考パーターンによって、価値評価を下していくのである。
いつもネガティブで否定的な思考パターンを身につけた人は、それなりの価値判断を下すのだ。
これは本来の思考力、創造力、問題解決力、分析力を担ってる前頭前野の活用方法を間違えているとしか思えない。

森田理論ではとらわれたときはそれにとらわれていればよいという。
ただし、気になる一点にとらわれすぎるのは、百害あって一利なしという考えである。
とらわれる対象が時間の経過とともに、どんどんと変化していくことを想定している。
気になることや解決すべきもので、何とかなるものはどんどんと処理していく。
どうにもならないものや自分の手に負えないものは、そのまま積み残していくという考え方なのだ。
飛行機に乗り遅れた人を、親切に待ってあげるようなことはしなくてもよいという考えだ。
時間がたてば解決することもあるし、どうにもならないこともたくさんある。
放置しておくことは、後ろ髪を引かれる思いがするだろうが、そのままに放置しておくしかないものもある。苦しみや悲しみはつぎつぎと目の前に現れてくる。
それでも小川の水はさらさらとさらさらと流れいく。
生命力が最大となるというのは、とらわれて淀みを発生させるのではなく、いつもさらさらと勢いよく流れている小川のごとくである。
それが生命力を最大に発揮させる自然な人間の営みなのである。





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Last updated  2020.02.03 06:20:05
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