森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2025.05.26
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元精神科医の帚木蓬生氏のお話です。

長い医学教育の過程で、医師は何が正常で何が異常かを峻別する訓練を受け、頭のなかに叩き込まれます。
医師は病気を見つけ、それを治療する責任があるという意識を植え付けられます。
異常があれば発見し、大事に至らないうちに正常に近づけるのを天職と心得るのです。

できるだけ早く患者さんの問題を見出し、できるだけ早く、その解決を図ることが至上命題となります。
あまり迷いがあってはなりません。
症状から、いくつもの鑑別診断を思い浮かべ、早急に検討して、快刀乱麻、解決策を見つけるのです。

ところが現実の患者さんの状態は、そう簡単に病気の原因を特定できるものではありません。
問題が見つからない場合や、複雑すぎる場合、そもそも解決策がない場合だってあります。


死にゆく患者さんですから、もはや治療法は限られています。
限られているどころか、皆無かもしれません。
こうなると医師は病気の鑑別診断をして病因を特定して、治療方針を決定するのが仕事だと思っている人は、もう患者さんの傍にいること自体を苦痛に感じます。
表立って何もしてあげられないからです。
どうせ何もしてあげられないなら、病室を訪れないほうが楽です。
受け持ち看護師に様子を見に行かせ、報告を聞くだけで、事は済みます。

帚木蓬生氏はネガティブ・ケイパビリティの立場に立って患者に接しておられました。
ネガティブ・ケイパビリティとは、どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力のことです。


死にゆく終末期の患者さんの目の前に立たされた精神科医は、記憶も理解も欲望もない状態にあるのが分かります。
目の前の事象に、拙速に理解の帳尻を合わせず、宙ぶらりんの解決できない状況を不思議だと思う気持ちを忘れずに、持ちこたえていく力がここで要請されます。
誰でも一人で苦しむのは、耐えられません。
誰かその苦しみを分かってくれる。見ていてくれる人がいると、案外耐えられます。

親しい人が死んでいくという悲しみを背負っている身内は、それ以上の苦しみを回避するために、患者さんに必要以上は近づきません。
ましてや、死にゆく患者さんに心境を聞くなどという、さしでがましいことはできません。
患者さん自身も、家族を前にして、今の心境を語るのは勇気がいるし、何よりもエネルギーを要します。
その結果、家族と死にゆく患者さんで交わされる言葉は少なく、以心伝心になってしまいがちです。

その点、主治医としての精神科医は特権的な地位にいます。

答えの出ない事態に耐える力というのは森田理論で言われていることです。
この続きは明日投稿します。
(ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 帚木蓬生 朝日新聞出版 78~85ページ参照)





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Last updated  2025.05.26 06:20:08
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kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) New! 申し訳ございません。生涯森田様でした。
kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) New! 障害森田様 この記事の中で「心とは裏腹…
楽天星no1 @ 早速のご返事感謝 森田生涯さんへ 早速のご返事ありがとう…

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