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売れる作家の全技術
<売れる作家の全技術>
作家デビューを企てるというほど、アホやないけど・・・・
この『売れる作家の全技術』という本で説かれている作家の作り方が興味深いわけです。
まず、心構えあたりから紹介します。(大使、鼻息が荒いです)
<直木賞ぐらいでおたおたするな>
よりp267~269
ここまでの話でもおわかりだと思いますが、直木賞までたどり着ける人間は一握りしかいません。直木賞まで行ければ作家としては万々歳ですが、そこが頂点ではないと知るのもいいことだと思います。だって、直木賞で終わりだったらつまらないでしょう。私が直木賞をもらったのは37歳のときです。そのあとの人生に目標がなかったらやっていけない。まだ先がある、目標にする賞があると思えば頑張れる。別に、賞を目標にすること、賞をもらいたいと思うことと、賞を取るために小説を書くことは、まったく別のことですから。
特に直木賞は、何度も候補になり何度も落とされると、「こうすれば選考委員に認めてもらえるんじゃないか」と傾向と対策を考え始める。そんなことをしても小説は決してよくならないのに。
もっと怖いのは、直木賞を取ることにエネルギーを使い果たして燃え尽き症候群になってしまうことです。
今度は時代物でどうだ、人情小説でっどうだ、ミステリーでどうだといろいろやって、ようやく取れたときには書くことが何もなくなってしまう。自分が本来書くべきもの、書きたいものが何だったのかわからなくなってしまうんですね。
最近は少なくなりましたが、20年ぐらい前まではそういう作家がけっこういました。これなどは直木賞の功罪の「罪」のほうでしょうね。勝手に候補にされてものすごく騒がれて、選考委員からもいろいろ言われて結局落とされたりすれば、誰だって頭にきますよ。受賞すればしたで、テレビのニュースに出る、新聞がインタビューに来る、もう大変です。だから、「候補を受けない」という作家もいます。何度か候補になって大変な思いをして、もう嫌だと思う気持ちもわかりますが、私は候補を受ければいいと思うし、取ることを目標にすればいいと思う。東野圭吾さんは賞という賞に落ちまくった人で、直木賞も5回落ちて6回目に取りましたが、選考委員が「お前の名前を見たくない」というまで候補にしてくれなくてかまわない、どれだけ落とされても負けないという態度で臨んでいました。
(中略)
文学賞を取っていなくても立派な作家、いい作家はたくさんいます。でも、文学賞によって成り立っている作家のヒエラルキーというものも確実にある。特に、今は昔のような文壇的、政治的なものは減ってきていますから、いい仕事をしていれば、ずぶの新人でも、デビュー2,3年の人でも、すぐに直木賞の候補になったりします。つまり、それだけみんなが作家の仕事そのものを見ている、いいものを書けば答えが出る時代だということですから、逆に、いつまでも文学賞の候補にならないとしたら、自分の作品には何かが足りないんだということに、作家は気づかなければいけません。
今の皆さんにとっては、はるか遠い話に思えることでしょう。でも、デビュー後もいい仕事を続けていれば、必ずこういうものが見えてくるときがきます。私は、吉川英治文学新人賞が作家としての一つの大きなジャンピングボードになると思っています。この賞を取ったあたりで、「この人、そろそろ来るな」とリーチがかかる。「この作家、押さえておいたほうがいいな。直木賞作家がウチから出せるかもしれないぞ」と編集者が考えるようになり、出版社の扱いもどんどんよくなっていきます。「うちの仕事で直木賞を取りましょう」と編集者は言うかもしれません。「そんな言葉に騙されるな」(笑)と言いたいところですが、編集者にとっても賞を取るような作品を出すことはトロフィーになる、いい仕事をしたという証明になるんですね。だから、才能ある作家と一緒にいい作品を作り上げて文学賞までつなげたい、そういう気持ちを持つことは編集者として当然だと思います。そう思ってくれる編集者は、皆さんに命を預けている人でもあるから、そこは頑張らなければいけません。
とはいえ、
直木賞をクリアしてもまだその先がある。「直木賞に落ちたぐらいでガタガタ言うな」であり「直木賞を取ったぐらいで威張るんじゃねえ」ということですね。いずれにしても、納得したらそこで終わりです。悔しがることも喜ぶことも大事だけれど、まだ先があるという思いを持って書き続けることが大切です。
精神論はこれくらいにして、次は実技偏の一部を紹介します。
<三つのハードルを克服しろ>
よりp27~28
今回のテーマは「一人称の書き方」です。皆さんにはすでに「一人称で書く」という課題作(400字詰め原稿用紙換算30枚)を提出していただいているので、各作品の講評をしながら講義を行いますが、まず、なぜこの課題にしたかをお話ししておきます。
一人称で描く目的の一つは、
視点の乱れをなくす
ということです。日本では神の視点は受け入れられないし、特に新人賞では損をします。視点の乱れは絶対マイナスですから、一人称で書くことでこの問題を克服する訓練をしてほしいんです。
二つ目は、一人称にすると、情報が一点からしか入ってこなくなるわけで、これは物語を動かす上でかなりの足枷になります。書き手がつい「と言いつつ、実はこうでした」というように書いてしまったらそれだけでアウトです。つまり、
限定された視点の中でどこまで読者に情報を提供し、物語を形作れるか、その難しさをぜひ体感してほしいということ。
三つ目は、
視点人物、つまり語り手である「私」や「僕」や「俺」の個性をどれだけ読者に伝えられるか。
三人称ではないから、主人公のことを「彼(彼女)はこうだった」とは言えないわけで、ではどういう方法で主人公のキャラクターを立たせていくか。例えば、「私」という語り手に対してある女性が、「これまで何人の女を泣かせてきたの?」と言えば、この「私」はモテそうなやつだなと読者は思うし、別の男に、「おまえが悪いやつとは知っていたけど、こんなにひどいとは思わなかった」と言わせれば、相当悪い人なんだという印象を読者に与えられます。つまり、会話でキャラクターを立たせていくという手法です。
一人称で書くためには、この三つのハードルをクリアしなければなりません。かなり難しいはずです。実際に書いてみて、「あれ、一人称だとうまく伝えられないぞ」と気づく人も多いと思いますし、そこで、一人称にもかかわらず視点の乱れが起こり、つい「〇〇は真っ赤になって怒った」でなければいけないのに。
「一人称一視点で書く」ことによって、自分の能力がどの視点かわかりますから、そこから次のカリキュラムへの一歩を踏み出せるはずなんです。
<キャラクターには登場する理由がある>
よりp55~56
小説にはさまざまな人物が登場します。ミステリーを例にとると、主役、ヒロイン、敵役という三つのキャラクターが物語の主軸となります。主役が女性ならば相方はヒーローでも構いませんし、敵役、つまり悪役が複数になるケースもあるでしょう。
小説を書くとき、
私がもっとも頭を使うのは、実は主役のキャラクターではなくて、ヒロインと敵役の造形です。どんな魅力的なヒロインを出すか、どんな印象深い悪役を登場させるかということに一番知恵を絞る。
悪役も、ただ「悪い奴だ。非情で残酷だ」と書けば悪さにつながるわけではありません。悲しい悪役もいれば、悪をしたくないのに立場として悪をせざるをえない人間だっている。つまり、
彼らがその物語に登場する理由というものが必ずある
んですね。小説には、この「理由」がとても重要なことなのです。主役にもヒロインにも敵役にもその物語に登場する理由がある。メインの三役だあけではなく、ドラマで言えば「通行人A」や「客B」など、名前すらつかないキャラクターであっても、必ずその場面にいる理由があるわけです。
皆さんが小説の主人公だとします。あなたは今電車に乗っている。同じ車輌に乗り合わせた人を見てみましょう。中年の男性サラリーマンや女子高生、あるいはお年寄りもいるかもしれない。小説では、この場面に登場する人間には必ずそこにいる理由があるということをふまえて、登場人物を配置しなければなりません。例えば、この電車の中である事件が起こったとします。乗り合わせた人たちは目撃者になります。目撃者の中に女子高生がいた場合、事件が起こったのが午前11時だとすると、平日のこの時間に高校生が電車に乗っているのはおかしい。なぜ彼女はそこにいたのか。「試験のため学校が早く終わった」あるいは「体調が悪くて遅れて登校するところ」など、そこには必ず理由がある。理由があるからこそ、その人物はこの場面に登場するのです。この理由は、必ずしも物語の中に出てくる必要はないのですが、作者にはちゃんとその理由がわかっていなければいけません。
ここで出版業界のウラ話を紹介を紹介します。
<出版界の厳しい現実>
よりp255~256
この講座を始めた頃よりも出版状況はさらに悪くなっていて、今、実績のない新人作家の単行本を出すとしたら、1800円で初版4000部というあたりでしょうか。ということは、印税10%で72万円。1年かけて書き下ろした本の収入が72万円。よほどの幸運がない限り重版されないので、収入はこの72万円で終わり、これが現実です。
社によって割合は違いますが、だいたい定価の65%が出版社の取り分で、35%が取次と書店の取り分になります。つまり、1冊1800円で初版4000部の本を作ると65%、たかだか468万円が出版社の取り分で、しかもこれには作家の印税72万円から始まって、制作費、宣伝費、社員の給料、紙代、印刷代、製本代、みんな含まれている。4000部すべて売れたとしても、出版社はほとんど儲かりません。初版が売れて儲けが出るためには、1桁上の4万部くらい刷らなければダメでしょう。今、単行本を初版4万刷れる作家が日本に何人いるか。20人くらいしかいないんじゃないでしょうか。他の人は4000部からスタートして、実績に応じて6000部、8000部、1万部と初版部数を増やしていくしかない。直木賞受賞作家でも初版1万部という人がたくさんいるというのが、この世界です。
作家になるからには、皆さんには初版2万、3万、5万、10万という作家になってもらいたい。印税72万円の長編小説を年に1冊書いていても生活はできません。しかもこれはハードカバーの話であって、今は時代小説など文庫書き下ろし全盛の時代ですから、さらに厳しくなります。
(中略)
出版社は原稿料を払っても元が取れないような作家に雑誌の連載など注文しません。「書き下ろしなら出してあげますよ。それも文庫書き下ろしです。60万円にしかならないけど、それでよかったら原稿を持ってきてください」。その文庫書き下ろしから始めて今もっとも稼いでいるのが、時代小説の佐伯康英さんです。たぶん初版20万部、年間10冊くらい書いているでしょうから、ざっと見積もっても初版と重版の印税だけで年に2億4000万円ぐらいになる。そういう生活をしている作家も確かにいます。でもそれは、東野圭吾か佐伯康英かという話なんですね。こういう数字を見るだけでも、作家で食っていくことがいかに大変かがわかると思います。
こんな感じで即戦力となるような実技編、ウラ話が続いていて、興味はつきませんが・・・
本気で作家を目指す人にお奨めの本であります。
なんか、ここまで読んでくると・・・作家を目指すことがかなり無謀なことであると、わかってきますね(笑)
【売れる作家の全技術】
大沢在昌著、角川書店、2012年刊
<「BOOK」データベース>より
200以上ある文学新人賞から毎日多くの作家が誕生しているが、数年後に残るのはわずか数パーセントにすぎない。30年以上にわたりトップを走り続ける著者が、作家になるために必要な技術と生き方のすべてを惜しげもなく公開する小説講座の決定版。
<大使寸評>
作家デビューを企てるというほど、アホやないけど・・・・
この本で説かれている作家の作り方が興味深いわけです。
だけど、この本を読むと小説がより面白くなるかと言えば…微妙ですね。
rakuten
売れる作家の全技術
星野達郎@satoshi_tsuruda
応募したことあるし。できれば特別賞にしたいっていわれたし。電話しつこかったし。 → 自費出版の日本文学館、コンテスト受賞者の6割超を捏造して発表 会社側も疑惑認める http://www.mynewsjapan.com/reports/1904
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