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朝、目が覚めると下に寝てることに気づき、昨夜のことを思い出す。はっと起き上がってベットを見ると、かぐや姫がすやすや寝ている。夢ではなかったのだ。起こそうかと思ったが、しばらくこうして可愛い寝顔を見ていよう。白い素肌に長い黒髪。口紅をつけてないのに紅いのだ。もの憂げに顔をしかめて、伸びをしたかと思うと、パッと目を見開き、目が合ってしまった。「おはよう」思わず照れ隠しに言う。「おはようございます。」まだ目が覚めやらないようだ。「もう朝だよ。お腹は空かないかい?」「いいえ、まだ空いてません。」「でも、少しは食べなくっちゃね。何なら口に合うかな。パンしかないんだよ。」「何でもいいです。いろんなもの食べてみたいから。」お姫様にしては気取りがないよな。二人でパンをトーストして食べた。牛乳とサラダも出したが、「意外と美味しいですね。」とぺロッと平らげてしまった。結構、食欲あるらしい。痩せの大食いかも。「僕は会社に行かなければいけないから、君はここで留守番していてくれないか。」少し心配だけど仕方がない。「何をしていればいいのですか?」「別に何もしなくていいよ。」「ここを片付けてもいいでしょうか?」見られて恥ずかしいものもあるから困るな、と思いつつ、そうも言えない。「片づけてもらうとありがたいけど、どこにあるか分からなくなってしまうから、端に寄せておいてもらえばいいよ。それより、僕が帰ってくるまで、決して外に出てはいけないよ。危ないからね。それに、誰かが来てもドアを開けないこと。ここで話せばいいんだ。」とインターホンを教える。まるで白雪姫だな。「はい、分かりました。」素直にうなずくかぐや姫を見ていると、可愛くて思わず抱きしめたくなってしまう。「でも、もし外にでたくなったらどうしたらいいのですか?」おいおい、急にどうしたんだよ。「それはちょっと待ってて欲しいな。今日、服とか買ってくるから、それまで我慢してなね。」「じゃあ、服に着替えたら、外に出てもいいの?」目を輝かすかぐや姫。これじゃあ駄目って言えないよな。「明日ならいいよ。僕も休みを取ってくるから。」仕方なく、といっても、デートかな、なんて思いつつ、約束してしまった。
2005年09月12日
「とにかく、こんな格好ではなんだから、うちに行って着替えないか?」僕は薄衣のかぐや姫を人目からかばうように前に立ち、歩いていった。後ろから素直についてくる。「こんな時間に開いてるブティックはないからね。」と言いながらも、それを口実に自分の家へ連れて行こうとする僕。でも、今夜泊まるところもないだろうし、ほっとけないよな。自分にそう言い訳している。タクシーでうちまで直行してしまった。結構かかったけど、仕方ない。部屋は散らかっていたが、あわてて片付けて、座らせる。かぐや姫は、周りを珍しそうに見回してる。来る途中も見たかっただろうが、ゆっくり見られなかったのだろう。お茶を出すと、恐る恐る手を伸ばす。「これは何ですか?」「日本茶だよ。紅茶や珈琲よりもいいかと思って。昔、飲んだことあるんじゃないかな。」「そういえば、地球に居た時、飲んだことあるような。もうずっと前だからよく覚えていないけど。」首をかしげるしぐさも愛らしい。「そうだろうね。お茶は貴重で薬代わりだったしな。飲んで、落ち着いたら、着替えようか。目のやり場に困るから。」本当は着替えさせるのが惜しいくらいなのだけど、そうしないと、自分が抑えられなくなりそうで怖い。スエットの上下を渡して、洗面所で着替えるように言う。「これはどう着るのですか?」「足をこのズボンに通すんだよ。」「こうですか?」目の前でやろうとするので、あわてて、止めた。羞恥心がないのだろうか。男の前で無邪気すぎるよな。「それでいいから、洗面所でね。」といってもユニットバスだから、バスルームも兼ねているのだが。こんな狭いワンルームマンションで、二人っきりとは、僕の自制心が持つだろうか。今夜は長いなあ。「着替えてきました。」スエットの上下でこんなに可愛いのだから、ワンピースでも着せたら、と想像してしまう。とりあえず、ベットに彼女を寝かせ、僕は下のカーペットに横になる。「私だけ寝床を用意してもらって、申し訳ないわ。まだ余裕ありますよ。」と自分の脇を指差す。「いいよ。僕はここで。隣では寝られないんだ。」あわてて手を振る。「そうですか。じゃあ、お休みなさい。」やけに素直に引き下がる。誘ってる訳じゃないんだよな。分かってないのだろう。そう思っているうちに、疲れていたのか、軽い寝息が聞こえてくる。僕はやはり寝つかれない。起き上がって、寝顔をのぞく。安心しきった顔を見ると、とてもじゃないが、何も出来ない。眠れないまでも、せめて目を瞑って休まないと。明日はどうしようと考えると、ますます目が冴えてしまうのだった。
2005年09月11日
今日はいい天気だったせいか、夜も星や月がよく見える。久しぶりに月を見つめていると、なにやら落ちてくるものがある。錯覚?と目をこすっても、かえってはっきりと見えてくるのだ。天女かと思った。薄い衣を身にまとい、恥ずかしげに舞い降りたのだ。「ここはどこですか?」と口を聞いた。「君は誰なんだ?」と僕。「私はかぐや姫です。」「冗談言うのはやめてくれよ。」「本当です。」ときっぱり言う。嘘を言ってる様子はない。「じゃあ証拠を見せてくれよ」「不老不死の薬を持ってます。試してみますか?」「いいよ。昔も燃やしたんだろ。」「そうですね。不死ならぬ富士の山で。」「すごいな。僕は興味があって知ってるけど、そんなことまで知ってるなんて、今の女性らしくないよな。」確かに不思議な女性だ。「そうでしょう。」とにっこり微笑む。思わず引き込まれそうになるほど、可愛い。「まあ、いいや。とにかくそんな透けそうな服、着替えた方がいいと思うよ。目の毒だから。」と見たいけど、見てはいけないと目をそらしてしまった。「これしか着るものはないのです。いつのまにかここに来ていたのですから。あなたと目が合って、惹き寄せられるようにここに降りてきてしまった。どうしてなんでしょう。」と、大きな瞳でまっすぐに見つめられると、心がかき乱されてしまう。「どうしてなのかは、僕の方が聞きたいくらいだよ。でも、僕の為に来てくれたと言うのなら、ありがとう、かぐや姫。」「どういたしまして。」「といっても、かぐや姫なんて、誰も信じないだろうから、別の呼び名を考えないと。別名、この花咲くや姫ともいうらしいから、咲きちゃんと言うのはどうかな。」「咲きちゃんですか?ちゃんと言うのは何ですか?」「まあ、姫ということだよ。」「ならいいでしょう。」やはり姫なのか、気品があるんだよな。こんなふうに咲ちゃんことかぐや姫と僕は出会ったのだ。
2005年09月10日
ただかすかに思い浮かぶのは、ろうそくの光の中でうごめく白い肌。確かにこの手で触れたはずなのに幻のように消えてしまう。本当に彼女だったんだろうか。夢うつつの僕を朝日が起こす。隣を見ると、ワイシャツが脱ぎ捨てられていて、かすかに彼女の香りがする。確かに彼女はここに居た。でも、どこに行ったんだ?もう帰ってしまったのか、それとも朝食の用意でもしてくれているのか。ワイシャツを脱いで、裸なんてことはないよな。昨日着てきた服がもう乾いてそれを着ているんだ。そうだよな。自分ながら笑ってしまう。それにしても静かだ。やはり帰ってしまったのか。置手紙もないようだ。カーテンを開けると、そこは眩しいほどの青空。台風一過だ。嵐は去ったのだ。静寂を破る電話の音。「もしもし?」彼女から後朝(きぬぎぬ)の電話かと思った。「落ち着いて聞けよ。彼女が昨夜、交通事故で亡くなってしまったんだ。」僕達を逢わせてくれた友人からだった。「嘘だ。だって昨夜はここに居たんだから。」そう言いながら、足元が崩れ落ちるような恐怖感を覚えた。受話器が手から離れ、床に落ちる音が遠くに響いている。それでは昨夜ここに来たのは誰なんだ?確かに彼女だったはずなのに、顔がよく思い出せない。ろうそくの光に映し出されたあの白い顔は?手に残るはずの感触さえ、砂のように零れ落ちる。「どうしても逢いたかったの」と彼女は言った。逢いに来てくれたのか。嵐と共に。嵐のように僕の心をかき乱し、嵐が去ると同時に往ってしまった。青空を残して。空を見上げれば太陽が目に沁みる。涙が溢れてるのはそのせいなんだ。彼女が居なくなったからじゃない。そう自分に言い聞かせていた。後朝の歌帰りては朝日まぶしく照らし出すシーツの白さに匂い立つ香
2005年09月08日
窓をたたく音がする。誰かと思うとそれは雨だった。あの人かと思ってしまった。彼女は一途だから、もしかしてこの嵐の中でも僕のところに来るのではないか?なんてうぬぼれてしまう。今夜、逢おうと約束していたのだが、嵐になるから取りやめたのだ。それでも、もしかしたら、と淡い期待をしてしまう。突然電気が消える。停電だ。慌てて懐中電灯を探したが、電池切れでつかない。手探りで物置の奥のろうそくを取り出す。マッチも一緒に取り、火を点ける。ゆらゆらと揺れる炎を見ていると、なぜか心が落ち着いてくる。いくら彼女だって、こんな嵐の中を来るはずがない。そう思っていると、今度はドアを叩く音がする。もっと風雨が強まったのか。呼び鈴まで鳴る。さすがの雨も呼び鈴までは押せないだろう。慌ててドアを開けた。ずぶ濡れになって立ってる彼女。「なんでこんな嵐の中を。」「こんな夜中にごめんなさい。どうしても逢いたかったの。」愛しくなって、思わず抱きしめてしまう。「早くシャワーを浴びて、体を温めるんだ。」素直にうなずいて、バスルームへ向かう。「着替えはどうしよう」と彼女に聞くと、「あなたがいい」と言う。ドキッとしたが、とりあえず僕のワイシャツだけ洗面所に用意しておく。まだ彼女とはそういう関係になったことがないのだ。お互い経験がないわけではないだろうが。こんな嵐の夜にずぶ濡れになりながら来てくれたのに、このまま何もせずに帰す訳にもいかないよな、と自分を納得させている。シャワーの音と嵐の音が重なり、ますます激しくなったように感じた。嵐がやんだように静かになる。シャワーが終わったようだ。ワイシャツ一枚で現れた彼女。抱き寄せてそのままベットへ。後は夢のようで覚えていない。
2005年09月07日
歌をクリックしてください。回覧板さんの詩「さくらのうた」につけた歌が聴けます。 「私を呼ぶ声」2(最終回)私は彼に付き添って看病することにした。「息子が目を開けて、話せるようになったのはあなたのお陰」と彼のお母さんも許してくれた。付き合ってたときはあれほど反対してたのにね。だから短期間で付き合いは終わりになってしまったのだ。お互い好きだったのに別れたから、思い出したくなかったのかも。彼は医者も不思議がるほどの回復をみせ、車椅子で庭を散歩できるようになった。私が彼の車椅子を押し、木立の中を歩いていると、金木犀の香りがした。「この金木犀の香りがあなたの声を届けてくれたのよね。」「そうだよ。僕も君もこの香りが好きだったから、思い出してくれるんじゃないかと思って、そうしてくれるように神様にお願いしたんだ。」「祈りが通じるなんて、すごいことだわ。普通は何も変わらないのに。」「僕の思いの強さに根負けしたんじゃないかな。眠ってる間、ずっと想いつづけていたから。」「だから、眠り続けていたのね。なんて、お祈りしたの。」「死ぬ前に君に逢わせて欲しいと。そうすれば他には何も望まない。命さえも。」「そんなことを言っては駄目よ。死んじゃうかもしれないじゃない。」「もう大丈夫だよ。神様だって許してくれるさ。」安心しきったように笑う彼を見てると、かえって不安がさざなみのように押し寄せてきた。でも、不安を押し込めて微笑むのだ。「そうよね。きっともう大丈夫よ。」しかし、彼は散歩して、金木犀の香りをかぐ度、少しずつ病状が悪くなっていくようだった。「もう散歩に行くのはやめましょう。外気に当たると体に障るわ。」「外に出て、金木犀の香りをかぎたいんだ。そうしなければ生きていけない気がする。」「それは逆じゃないの?かぐ度に悪くなってる気がするわ。」「そんなことはないよ。あの香りは君を連れてきてくれた。だから僕には必要なんだ。」「私ならもうここにいるじゃない。金木犀の香りがなくてももうどこにも行かないから大丈夫よ。」「そうだよね。金木犀の香りがしなくなったら、君がどこかへ行ってしまいそうな気がしたんだ。」「そんなことないわ。」と言いながら、私は逆のことを考えていた。『もしかしたら、彼の方がどこかに行ってしまうのでは?執行猶予は金木犀の香りのする間?そんなはずない。いくら神様だって、そんな残酷なことする訳がない。』かぶりを振りながらも、頭に浮かんだ考えを振り払えなかった。それからというもの、車椅子で散歩に行けなくなってしまった彼の枕元に金木犀を生けるようにした。もう金木犀の季節も終わりかけている。開花時期の遅い地域から取り寄せもした。金木犀を切らしたら、彼が死んでしまうような気がして、必死だったのだ。非科学的だと思いながらも、彼との再会がそうだっただけに否定できなかった。そしてついに最後の金木犀の花になってしまった。ぽろぽろと花が零れ落ち、床に散らばっている。その残り香だけが彼の命だ。私の目からも涙がぽろぽろと零れ落ちてしまう。彼の前では泣かないようにしてたのに。「どうしたんだい。何か哀しいことでもあったの。」「何でもないわ。金木犀が終わりになるのが淋しかっただけ。」「君と僕の金木犀だものね。でも、僕はずっと君のそばにいるよ。」「当たり前じゃない。そのために私を呼んだんでしょ。また元気になってもらわないと。」涙を振り払い、元気ありげに言う。「そう思ってるんだけど、なんだか力が入らないんだ。」私は彼の手を取って、また瞼、唇、首、胸と触れさせた。彼の驚きの顔は微笑みに変わり、私を抱き寄せた。「ありがとう。君を一人にしてしまうのは辛いけど、僕は幸せだったから、哀しまないで欲しいんだ。」「何、弱気なこと言ってるの?それに、もしあなたが居なくなったら、私が哀しまないわけないじゃない。」「泣いてもいいから、いつかは泣き止んでね。」「そんな口たたけないようにしてあげる」私から唇をふさぎ、キスをした。彼の手に力がこもり、抱きしめられる。次の瞬間ふっと力が抜け、彼の腕が垂れた。「どうしたの。行かないで。」薄目を開ける彼。「ごめんよ。君と居られて良かった。優しくしてくれてありがとう。」「嫌よ。優しくなんかないわ。これからは優しくするから、一緒に居てよ。」「もう逝かなければいけないんだ。執行猶予は終わりだよ。君も分かってたんだろ。金木犀の香りが見せてくれた夢だって。」「そんなの知らないわ。金木犀なんてどうでもいい。私のそばに居てよ。」「君の心の中に居るよ。いつでも呼んでくれれば応えるから。」「忘れないでよ。約束だからね。きっと戻ってきてよ。」「ああ、金木犀の香りがまた僕の声を運んでくれるよ。」残り香が消えるように彼の命も消えた。そしてまた金木犀の季節が来る。私は秋風を待っている。私を呼ぶ声を。(終わり) ご感想、アドバイスありましたら、掲示板やメッセージに書いてくださいね。よろしくお願いいたします。 前に書いた小説も良かったら読んでください。「見果てぬ夢」です。
2005年09月01日
回覧板さんの詩に付けさせていただいた曲「鎮魂歌」が聴けます。「鎮魂歌」クリックして聴いてみてください。音楽サイトやまともや、MUZIEでは歌も聴けます。やまとも回覧板さんの詩「鎮魂歌」はここをクリックすれば読めます。 詩「かそけき声」を小説にしてみました。どうでしょうか?感想、アドバイスお願いします。 「私を呼ぶ声」金木犀の香りが私の鼻をくすぐる。秋風が運んできてくれたのだ。目を閉じて甘い香りを楽しんでるとかすかに私を呼ぶ声がする。はっと目を開け、振り返ってみるが誰も居ない。秋風のいたずらか、葉の衣擦れとも思ったが木々を見上げても揺れてはいない。目を閉じるとまた遠くから声が聞こえる。「あなたは誰?」と聞いてみるけど答えはない。その声の主が知りたくて、声のする方へ行こうとするけど、あるのは暗闇ばかりなのだ。なぜか懐かしい声。涙が出そうになるほど。暗闇の向こうに光が見える。その人は光の中にいて、こちらを向いているのだけれど顔はまぶしくて見えない。少しでも近づきたいと思うのに、足に根が生えたように動かない。「私の方へ来て」と頼んでみる。ふっと消えたかと思うといつのまにか私の後ろから目隠しをして耳元で「だーれだ」と囁く。その手の温もりには覚えがある。冷たいようで段々温かくなっていく。温もりをいつまでも感じていたくてわざと答えないでいる。じれるようにもう一度「僕はだーれだ」とその人は聞く。「分からない。でも、聞いたことある声だわ」と私が言うと、「忘れたのかい?あんなに愛し合ったのに。」とすねたように言うのだ。目を覆ってた手が唇に触れ、首をつたって、胸に触れる。ぞくっと感じてしまった。『この感触と順番は・・・』遠い記憶が呼び起こされるようにぼんやりと顔が浮かんでくる。「あの人だ」と分かった瞬間、その手の温もりが消えた。「行かないで」と叫ぶと、また声だけが遠くに響く。「よく思い出してくれたね。これで安心して天国へ行けるよ。もしかしたら地獄かもしれないけど、君も僕と同じだろうから、先に行って待ってるよ。きっと神様が同じところにしてくれる。」私は驚いて「あなたは死んでしまったの?」と聞いた。「いや、まだ死んではいないけど、もうすぐ死んでしまうんだ。君に逢うまでは死ねないとこうして逢いにきたのに、思い出してもくれないなんて、酷いよな。」「あなたに触れられたら思い出したわ。」「僕も死にたくなくなったけど、そういうわけにはいかないんだ。思い出してくれてありがとう」「待って。あなたは今どこにいるの?」「ここにいるじゃないか。」「心だけでしょ。あなたの体はどこにあるの。」「K病院のベットの上だよ。」「私がそこに行くまで死なないでね。待っててよ。」慌ててタクシーを拾い、K病院まで飛ばしてもらう。K病院に着くと、受付で彼の病室を聞き、駆けつける。彼のお母さんは覚えていてくれたらしく、驚きながらも、そばに行かせてくれた。ベットの上で横たわっている彼の手を取り、同じように瞼、唇、首、胸と触れさせる。『私を感じて』と念じながら。その感触に反応したのか、手が動き、目をゆっくりと開けて私を見る。驚きもせず、私の名を呼び、見つめるあなた。「ありがとう。君だけを愛してた。ずっと待ってたんだ。」「ごめんなさい。すぐに思い出せなくて。」「いいんだ。こうして来てくれただけでも嬉しいよ。もうこれで思い残すことはない。」「逝かないで。私を残して。」「ごめんね。向こうで君を待ってるから。悲しまないで。僕は幸せだよ。君に看取られて死ねるだなんて思いもよらなかった。」「やっと思い出したのに、もう逝ってしまうの。かえって酷いわ。」「君に淋しい思いをさせてしまうけど、僕は心の中にいるから。忘れずにさえいてくれたら、僕は君と生き続けられるんだ。」「そんなこと言わないで。また忘れてしまうかもしれないわよ。生きて私と一緒に居て。」「無理言わないでくれよ。君に逢いたくて、神様に執行猶予をもらったのに、これ以上伸ばしてもらう訳にはいかないよ。」「こんなに話せるじゃない。執行猶予なんかじゃなくて無罪放免にしてもらって。」「確かに生きる希望が湧いたせいか、力が出てきたみたいだな。君のお陰だよ。神様も君にかかっちゃ、かたなしだな。」彼は手を見つめ、驚いていた。家族や医者も奇跡のようだと思っていた。植物状態が続き、危篤に陥ってたから。私だけが彼の病状を知らないせいか、今の彼を見て、もう大丈夫と思っていた。あのことが起きるまでは。(続く) 前に書いた小説も良かったら読んでください。「見果てぬ夢」です。
2005年08月31日
ここをクリックすると作詞作曲した「私は信じています」という歌が聴けます。BGMを停めたいときは、プレーヤーのストップボタンを押してくださいね。別宅の癒しの音楽にも是非行ってみてください。私が作曲した歌が聴けます。ここをクリック以前から、パソコンの調子が悪く、CDやDVDが読み込めない状態でした。とうとう明日の朝、修理に出すことにしたので、しばらくパソコンは使えません。簡単な日記だけは、携帯から載せるかもしれませんが。この小説は、実は一回載せたものなので、フリーページに最後まであります。最初から読んでくださる方はNO.1を見てください。今日の続きはNO.4で読んでくださいね。NO.5まであります。お手数ですがよろしくお願いします。ご感想、ご意見、いただけると嬉しいです。 「見果てぬ夢」7 ついにべスは研究所で実験の途中、倒れてしまった。打ち所が悪く、意識不明の重態だ。植物人間になるかもしれないと言われた。父ジョンは友人の医師に、まだ研究途中の新薬を、べスを実験台にと頼み込み、使用してもらった。母エミリーはべスが死んでしまうと必死に止めたが、ジョンの意志は固かった。植物人間になって、死んだ方がましだとベスはいうだろうと。『研究を続けられないなら、生きている意味はない』とまで思いつめていた娘のために。ベスが死んだら、ジョンも死ぬつもりだった。ベスの研究が完成しなければ、いずれ人間は滅亡するのだから。エミリーもしぶしぶ承知した。新薬を試してから、数日が経った。何の変化も見られないように思われた。ジョンもエミリーも覚悟していた。だが奇跡が起こった。エミリーが目覚めたのだ。 ベスは大きく息をス込むとうっすらと目を開けた。ベスの看護で疲れきっていたエミリーは、ベスにもたれて夢うつつだったが、動きにハッとした。「ベス、気が付いた?ママよ。分かる?」思わずベスの顔を覗き込んだ。「ママ、ここはどこ?」「ママが分かるのね。良かった。あなたは研究所で倒れてこの2ヶ月、意識不明だったのよ。今、パパを呼んで来るから、待ってて。」エミリーはあわてて部屋を飛び出していった。ベスはあたりをゆっくりと見渡すと、花が生けてあった。真っ白なカスミソウだ。『私の好きな花を覚えててくれたんだ。』しみじみ見ていると、涙で霞んできた。 『ママに心配かけちゃったな。つくづく私って親不孝だよね。反対を押し切って、研究を続けた挙句、倒れて迷惑かけちゃうなんて。でも研究は諦められないわ。ここでくじけちゃ、パパの期待を裏切ってしまう。心配かけて申し訳ないけど、ママのためにもなるんだから、研究は完成させなくっちゃ。』ベスは心に誓うのだった。ジョンが研究所から駆けつけて、必死の形相で病室に飛び込んできた。「ベス、大丈夫か?」息を切らせながらも、娘を気遣う父にベスは言葉が詰まってしまった。「新薬を使ったから、副作用があるかもしれない。サムを呼ぼう。」父の友人のサムは、母からも知らせを聞いて、既に家を出ていた。「もうすぐ彼も来てくれる。具合はどうかい、ベス。顔色はいいな。かえって前よりもいい位だ。ちょっと心配だが、検査すれば分かるだろう。」「体が軽い感じよ。前より調子がいいほど。どんな新薬を使ったの?」「うん。なんでも細胞を活性化させ、免疫や治癒力を回復させる機能をもってるらしい。まだ研究段階で、お前はその治験第1号というわけだ。」「それよ。私が探していたのは。人工細胞を作るところまではいったのだけど、活性化しないの。増殖活動をしないのよ。それを使えばもしかして、人工細胞が活性化するかもしれないわ。パパ、その開発者を紹介して。」「それはいいが、お前はまだ研究できるような状態じゃないんだよ。また倒れたりしたらどうする気なんだ。これ以上パパやママに心配かけないでくれ。」「ごめんなさい。でも会ってお話だけでも聞きたいの。いいでしょう。」「しょうがないな。お前は一度言い出したら聞かないんだから。まあ、会って話す位はいいだろう。ただし、この病室にきてもらうぞ。」「いいわ。だから早くお会いしたいの。パパ連絡して。」「もう連絡はついてるよ。開発者は、あのサムなのだから。今頃、病院に向かってるところさ。」「パパのお友達の? それならそうと早く言ってよ。ああ待ち遠しいわ。」噂をすれば陰で、サムが息せき切って、駆け込んできた。「べスが目覚めたって、本当か?」「サム、よく来てくれた。べスも待ちかねていたんだ。大丈夫かい?」「ああ、急いでいたからな。一刻も早く様子が知りたかったんだ。」「ありがとう。お陰でこの通り、前よりも元気になったくらいだよ。」「そうか。やっぱりな。もしかしてあの薬が聞きすぎたのかもしれない。」と、サムはちょっと首をかしげた。「どういうことだ。副作用でもあるのか。教えてくれ。」と、詰め寄るジョン。「いや、今のところ、まだよく分からないんだ。とにかくあれは実験段階だから、申し分けないが、べスの様子を見ない事にはなんとも言えない。」うなだれるサムに、ジョンが肩をたたく。「それは覚悟している。意識さえ戻ればこの通り、研究意欲が湧く子だからな。ベス、サムに聞きたいことがあれば、今聞いてみなさい。」「ほう、聞きたいことって、何だね。私に分かってる範囲でお答えしますよ。」サムも急に目を輝かし、ベスと研究者同志の会話がはずんだ。「まず、その薬はどんな効用があるんですか?」「今わかってる事は、細胞の中の遺伝子を刺激して、活性化させるということだけなんだ。その結果、人間本来の自然治癒力を高める働きをする。」「遺伝子自体が活性化するということですか。それなら人工細胞を増殖させるのに役立つかしら。遺伝子を移植しても、細胞分裂しなんですよね。活性化できますか?」「うーん、やってみないと何とも言えないね。でも私もその研究には興味あるな。協力するよ。君の人工細胞に私の薬を注入して、試してみよう。」「本当ですか? ありがとうございます。今すぐにでも飛んで行きたい。」NO.4へ
2005年02月25日
冗長な会話から一転?あら筋のような感じですが、読んでみて下さい。十何年も前に書いたので、もう開発されてる技術もあるかも・・・時を経て、べスは科学研究所に勤めることになった。ジョンは定年間近で協力することは出来なかったが、陰ながら応援していた。ローリーは故郷の町に帰り、機密の仕事に携わりながら、自分の研究をひそかに続けていた。二人は決して約束を忘れて訳ではなかった。つまずき、あきらめかけても、約束を思い出し、負けるものかと自分に言い聞かせていた。 研究はなかなか思うように進んでいなかったが、着実に基礎研究はしていた。べスは人間から遺伝子を取り出し、それのみで培養する技術は出来ていない。だが、遺伝子をロボットに組み込む技術は出来ていない。それどころか、組み込むべき人造人間すら、完成してなかったのである。べスの専門はバイオ技術だった。人工臓器、人工血液は出来ても、人工脳は出来ない。ましてや増殖する人工細胞など夢のまた夢だった。いつになったら人造人間が出来るのか、気が遠くなる思いだった。もちろんその研究だけしているわけではない。科学研究所の研究員としての仕事も果たさなければいけない。自分の研究は、主に自宅の研究所に持ち帰ってのことだった。実験道具は父に援助してもらい、少しずつ揃えてはいたが、とても足りない。研究所に勤めてる関係で安く手に入るとはいえ、高価な器具は手が届かない。このテーマを正式な研究として認めてもらおうとしても、人間、ロボットどちらからも異端の目で見られる。それぞれの誇りがあるだけに、中間の人造人間など許せないのだ。 その頃は、既にロボットの地位が向上し、彼女以外に現役で、人間の研究員はいなかった。あとは科学研究所の所長などの管理職、といっても名誉職だが。他には、定年間際で実際にはもう研究をさせてもらえない人間達。その中には、べスの父親も含まれていた。父の世代以降は、もう人間の研究員はずっと採用されていなかったのだ。べスが研究員になれたのは、人間ながらも大学院を卒業し、その論文が認められたからだった。論文の題名は「人間の未来」。「人間は退化し滅亡する。ロボットの時代が来るであろう、その日の為に人間とロボットの合いの子である人造人間を作り、子孫を残す必要がある。人造人間に人間の遺伝子を組み込み、人間の今まで歴史を残すのだ。恐竜の一部が鳥に進化し、生き永らえたように。」 論文は科学研究所の所長の目に留まり、趣旨に感激して強引に採用した。最後の人間の研究員として。ロボットはおろか、人間までも、単なる所長の感傷に過ぎないと非難したが、これが所長としての最後の決断だとべスを推し通した。父ジョンとも友人であるため、縁故採用とも言われたが、べスの優秀さは皆も認めざるを得なかった。だが、それも人間の中では優秀というだけで、ロボットとは比較にならない。 べスは論文が認められたと思い、研究を続けようとしたが、執拗な妨害に遭い、自宅に持ち込んだ。正規の研究とは認められず、個人的な研究とみなされたからだ。かえって、採用条件の論文のテーマとして知られていただけに、反感を抱かれてしまったのだ。人間、ロボットどちらからも、「こうもり」扱いされる始末だった。ただ一人の理解者は、父ジョンだった。ジョンも最初は反対していたが、べスの熱意に負け、またそうしなければ人間は滅びると痛感していた。 他の人間はまだ、ロボットに寄りかかったままで生きられると信じていた。ジョンがいくら人間の滅亡の危機を説いても、耳を貸そうとしなかった。ドームの中は人間の楽園と高をくくり、安楽をむさぼる生活を送っていた。その間にもロボットは着々と改良され、進歩していった。ロボット達の手によって。人間は必要悪とされていた。ロボットを操るホストコンピューターがなければ、とっくの昔に、人間はロボットに滅ぼされていただろう。そのホストコンピューターでさえ、今はロボットに管理が委ねられていた。反逆の意志を持たない従順なロボット達の中にも、少しずつ疑問を抱くものが出てきた。 ローリーは反逆分子のリーダーになっていた。自分の意志と感情で動く事を許されていたので、秩序を乱すことなく、見えないところから意識の変革を図っていたのだ。人間の信頼も勝ち取り、自治を許され、機密の町をロボットの秘密基地へ変貌させた。人間が眠って間にもロボットは働き続けていた。 ローリーも研究を続ける事は続けていたが、自治長としての仕事や秘密結社の任務に追われ、途切れがちになっていた。放射能を通さない物質を見つけないことには始まらなかった。同志のロボットの協力を仰ぎ、いろいろなところから、石や土などを送ってもらい、研究を重ねていたが、発見出来なかった。例のロボットを構成していた物質を調べようにも、資料がない。第一、昔はそれどころではなかったのだ。生きるために必死だった。そのロボットさえも、狂うプログラムを制御しながら、次代のロボットを作り、消滅したと言われている。その物質さえ、完全に放射能を通さなかったわけではないらしい。そう思うと絶望的な気持ちになった。ドームの外で無理に生きるより、この快適なドームの中で、人間を滅ぼし、ロボットの大国を作った方がどんなに楽かしれなかった。ローリーが研究を途中で投げ出し、秘密結社の陰謀に加わってるのも、無理はなかった。彼が首謀者というわけではなかったが、優秀さと意志の強さを買われ、皆の人望を集めていたのだった。だが、それを快く思わないロボットもいた。秘密結社を最初に作ったのは俺だ!という自負ばかり強く、何もしようとしない元リーダーだ。 彼の名はユダ。イエスを裏切った者の名だ。だが歴史を知らない時代に生まれた者達にとっては、その名の意味など関係ない。コンピューターに登録されている膨大な名前の中から、偶然に選ばれたに過ぎない。ロボットだけでなく、名前に意味があるということさえ考えなくなった人間も、子どもの命名をコンピューターに任せるようになってしまった。名前は単なる符号でしかなくなった。番号でもいいのだが、忘れやすい人間には、まだ名前の方が覚えやすいというだけの理由から。 だが、子どもの名前を付ける必要も無くなっていた。人間の子どもが着実に減っているのだ。人間はロボットにはない唯一の生殖能力さえ失いつつあった。体力が衰え、生きる化石と化していたのだ。人間はただ生きているだけで、死ぬのを待つばかりだった。滅亡する日まで。 べスだけは人間の滅亡を防ごうと研究を続けていた。研究所では仕事をこなし、自宅に帰ってからは研究に没頭していた。母エミリーは、心配でならなかった。余り無理をして体をこわすのではないかと。ジョンも一時過労で倒れたことがあったのだ。もともと人間は体が丈夫ではない。知力だけでなく、体力もロボットに劣る人間にとって、昼夜を問わず研究すること自体、無理があったのだ。
2005年02月24日
曲をクリックしてください。yosiさんの詩「驟雨」に付けさせていただいた曲が聴けます。 小説「見果てぬ夢」5二階に駆け上がり、自分の部屋に閉じこもると、ベットで散々泣いた。泣きはらした目で、下に降りてきて、ジョンに噛みついた。「なんでロボットじゃいけないの。好きになっちゃ駄目なの?」「ロボットを好きになるだけならいいが、やがて結婚し子どもも欲しくなるだろう。その時はどうするんだ。ロボットと結婚しても子どもは出来ない。」「作ればいいんでしょう。ギルバートのようにロボットの子どもを作るわ。」「それではお前の子どもにはならないよ。ただのロボットだ。」「じゃあ、どうすれば私の子どもになるというの。」「お前の遺伝子でも入ってない限り、子どもとしては認められないな。」「ロボットに遺伝子を組み込めば文句ないのね。やってやるわよ。」「そんなことが出来るくらいなら、苦労はしない。ロボットにはプログラムしか組み込めないのだ。それくらいお前にだって分かっているはずだろ。」「分かっているわよ。だけどそうしなくっちゃ子どもとして認めないというんだったら、作ってやるわ。純粋なロボットじゃ無理かもしれないけど、もっと人間に近い人造人間だったら、可能かもしれないじゃない。私、これを研究するわ。決めた。研究テーマが決まって、嬉しい。」「勝手にしなさい。研究するのはいいが、どうするつもりかね。」「もちろん今はまだそんなこと出来ないわ。もっと勉強して、基礎知識を身につけてからよ。科学研究所に勤められたら、研究できるでしょ。」「科学研究所はそんなに甘いところではない。上から与えられたテーマをこなしていくのが精一杯だ。個人的な研究なんかしている暇はない。」「人造人間が出来たら、画期的よ。このままでは人間はロボットに取って代わられる。せめて遺伝子だけでも残さなければ、人間は全て消滅しちゃうわ。」「それは仕方のないことかもしれない。人間はどんどん退化している。頭も体も、そして心までも。ロボットの方が優秀、頑健、かつ純粋なのだ。進化の歴史を見ても、おごった恐竜が滅んだように、人間が退化し、滅びるのも時間の問題だと思うよ。」「そんなこと言わないでよ。パパはそれでもいいかもしれないけど、私はこれからなのよ。人間が滅びるところなんて見たくない。だからこそ、ロボットと人間の遺伝子を組み合わせた人造人間を作るのよ。パパも協力して。お願い。」「私にはどうすることも出来ない。だがお前がどうしても科学者になり、研究がしたいというのなら仕方がない。まず科学者になるための勉強を教えるくらいならパパにも出来る。それでいいか、ベス。」「ありがとう、パパ。そう言ってくれると思ってた。パパならきっと。」ベスがジョンに急に抱きついたので、二人でソファに倒れこんでしまった。「苦しいよ。ベス。」ジョンは成長した我が子の重みをかみしめていた。 ベスはローリーに学校で謝ろうとしたが、話しかける隙もなかった。なんとかしようと帰り道で、待ち伏せをした。ローリーは本を読みながら歩いてきた。ベスには気が付いていない。脅かしてやろうとほくそえんだ。「ワッ。」後ろからローリーの背中を思い切り叩いた。「痛い。」声を上げてのはベスの方だった。ローリーはロボットなのだから。ベスを無視して、そのまま立ち去る。「待ってよ。もう分かっているくせに。」それでも、ローリーは立ち止まらずにどんどん歩いていく。「もう、待ってって言ってるでしょ。聞こえないの。」ベスは追いかけて、ローリーに通せんぼする。「聞こえてるよ。耳があるんだからな。」「じゃあなんで待ってくれないのよ。分かっているなら。」「君だと分かっているから、待たないんだ。失敬。」と、また歩き出す。ベスはローリーと並んで歩く。早足で。「待ってとは言わないから、もうちょっとゆっくり歩いてよ。」「僕は急いでいるんだ。君に構ってる暇はない。」「せめて私に謝らせて。御免なさい。」「詫びなんていう必要はないさ。人間と話をするだけ無駄だったんだ。」「そんなこと言わないで。パパの失礼は謝るわ。でも、全て無駄だったわけじゃないわ。いいアイデアが浮かんだの。聞いてくれる?」「聞かないと言っても、君は勝手に話すんだろ。さっさと言えよ。」「パパは、子どもが出来ないから、ロボットとの結婚に反対したのよ。それなら、人間とロボットの子どもを作ればいいのよ。ロボットに人間の遺伝子を組み込んで、人造人間を作るの。ね、いい考えでしょ。」「そんなものは前から研究されているよ。僕がその前段階のロボットさ。」「まあ、それは残念。せっかく私が研究しようと思ってたのに。」「大丈夫さ。父の個人的な研究に過ぎない。僕を作っただけだ。」「それでも、あなたは普通のロボットとは違うんでしょ。どこが違うの?」「父は僕を未完成のまま死んだ。どうしようとしていたのか今は分からない。だが君のパパが言ってたように、コンピューターに支配されない、独立した人格を持ったロボットにするつもりだったことは確かだ。だが、それも許されない。秩序を乱すというのだ。ロボットの反逆を怖れてる。コンピューターに支配されてるのは、人間の方だというのに。」「じゃあどこが違うというの? コンピューターに支配されているなら。」「まあ僕はそれでも許容範囲が広いんでね。人間に逆らう事も出来るのさ。どこまで許されるかは教えられていない。ただその時は消滅だ。」「ひどいじゃない。何の前触れもなく、殺されてしまうの?」「警告はあるさ。だが1回きりだ。それ以上はない。口で言う分には問題ないが、暴力を振るう事は許されていない。」「この間、人間をとめたじゃない。あれはいいの?」「あそこまでだ。正当防衛は許される。だが攻撃してはならない。人間を少し傷つけることはともかく、絶対殺してはいけない。」「普通のロボットなら、少しでも傷つけたら、消滅させられてしまうものね。それだけでも進歩というべきかもしれないけど、他には何かないの?」「まあ、能力が特に優れている事かな。学習機能が違うのだ。父の手作りのプログラムだ。父も優秀なロボットだったが、自分のプログラムを分析し、さらに改良を重ねたらしい。自分のプログラムをいじることは許されなかったから、僕に夢を託したのだろう。」「夢ってなあに?」「このドームを出て、ロボットだけの独立国を作る事。人間は存在せず、ロボットは自由に振舞う事が出来るのだ。もちろんコンピューター支配もない。みんな自分の意志と感情で動く事が出来る世界だ。「素晴らしいわね。うらやましい。そんな夢が描けて。ロボットなら、このままいけば夢は叶うかもしれない。けど人間にはそんな未来はないわ。今だってロボットに頼り、コンピューターに支配されてるというのに、気付きもしない。どんどん退化するばかりだわ。将来、滅亡するのも目に見えてる。」「よく分かっているじゃないか。人間はもっと退化し、滅びるよ。早くそうなってしまえばいいんだ、人間なんて。ロボットが今までどんなに辛い目にあっていたか、今に思い知るがいい。ロボットは、いつも消滅の恐怖に怯えている。人間には、ロボット全体を消滅させる事だって、可能なんだ。コンピューターにそうインプットしてるからね。」「ロボットが全部消滅したら、その時は人間も滅びる時よ。人間はロボット無しでは生きられないのだから、そんなことしないわ。」「そうとも限らない。人間が滅びるとき、ロボットも道連れにされるかもしれない。自分達だけ滅びるなんて、誇り高い人間様には許せないのさ。だからこそ、父はロボットだけの独立国が作りたかった。ドームの外に。」「それで残留放射能の研究をしていたのね。でもなぜ亡くなったの。」「詳しい事は聞いていない。実験の最中に放射能が漏れて死んだとしか。父の死の原因を突き止めたい。放射能に負けないロボットを作るためにも。そうすればドームの外に出られるんだ。」「昔、人間を守ってくれたロボットは、放射能を通さない物質で出来ていたんでしょ。それじゃ駄目なの。いつも疑問に思ってたんだけど。」「この中にはその物質がない。何の物質かさえ分かっていないのだ。プログラムさえ保護できたら、ロボットにはドームなんて、必要ない。人間とおさらばして、出て行くことが出来るんだ。」「あなたはその夢を追っていくのね。ドームの外へ行ってしまうの。」「ああそうだ。君もせいぜい人造人間とやらの研究をするがいい。さもないと本当に人間は滅亡するよ。近いうちにね。」「あなたの作るロボットに私の遺伝子を組み込めたら、どんなにいいか。」「それは不可能だ。たとえ出来たとしても、遺伝子には何の価値もない。人間のようにただ存在するだけか、邪魔な存在になるだけさ。」「人造人間に遺伝子だけでなく、脳も組み込めたらいいんじゃない?」「人間の脳など、ロボットのプログラムより数段も劣るのに、わざわざそんなものを組み込むのか。お笑いだね。話にならない。」「分かったわ。あなたのロボットと私の人造人間のどちらが優秀か、そして、ドームの外で暮らせるかどうか、試してみましょう。いつかきっと約束よ。」「ああいいとも。その前に人間が滅亡してなければいいんだがな。アハハハハ・・・。」ローリーは高笑いしながら立ち去った。ベスは悔し涙をぬぐい、いつまでも見送っていた。
2005年02月23日
ここをクリックすると、動画と詩が見られます。「雪の二人」をクリックすると、作詞作曲した曲が聞けます。 小説「見果てぬ夢」4ベルを押すと、父ジョンが待ち構えていたように、飛び出してきた。「遅かったじゃないか。何してたんだ。まあ、早く上がりなさい。」そそくさとリビングに通すと、ソファに自分だけ腰掛けてしまった。ローリーは、どうしていいか分からず、振り返ってベスを見る。「もうパパったら。お客さんを立たせたまま、自分はさっさと座って。」「やあ済まない。ついいつもの癖が出てしまってね。さあどうぞ。」と、座るように勧める。ローリーは落ち着いて、立ったまま挨拶をした。「ローリーと申します。お忙しいところを僕の為に時間を割いていただいて、ありがとうございます。それなのに、約束の時間に遅れてしまい、申し訳ありませんでした。」「いや堅苦しい挨拶は抜きにして、まあ座ってくれたまえ。」「パパはあんなこと言ってるけど、『ちゃんと挨拶も出来ないような奴は駄目だ。』と、いつも言ってるの。ローリーが気に入られた証拠よ。」「こら、もうばらすのか? まあともかく私も第一印象は気に入った。だが、問題はこれからだぞ。覚悟して答えるように。まず君は娘のどこが気に入ったのかね。このじゃじゃ馬娘のはねっかえりを。」「その勇ましいところです。勇気と正義感を持った人だと思います。」「フーム。まあ人間としてはともかく、女性としては魅力ないだろう。」「いいえ、心根は優しい女性だと思っています。同情心あふれるほど。」「もう、嫌味を言ってるの? そらぞらしいお世辞ばかり言わないで」と、ベスが割り込んで入った。「これは本当のことだろ。それを言うなら、皮肉と言ってもらいたいな。」「まあまあ、痴話喧嘩はやめてくれ。ベス、お前は黙っていなさい。私が彼と話しているのだから、口出しはしないでもらいたいな。さて、それでは君のご両親は、何をしていらっしゃるのかね。」「父は死にました。母は元々いません。僕には父しかいないのです。」「いろいろ事情がありそうだね。済まない事を聞いた。許してくれ。」「いいえ、別に聞かれて困る事でも恥ずかしい事でもありません。僕は父を尊敬していますから、母なんていなくても構わないのです。」「君のお父さんはさぞ立派な方だったんだろうね。君を見れば分かる。「そうですね。父も科学者でした。国家の機密に携わる研究をしていて死んだのです。殉職したと言った方が、通りはいいかもしれませんが。」「そうだったのか。それで君は将来何になろうとしてるのかね。」「科学者です。父に負けないような研究をしたいと思っています。」「お父さんは何の研究をしていたのかね。良かったた、教えて欲しい。」「残留放射能の研究です。ドームの外にどれだけ残っているか。」「何だって。私と同じ研究だ。お父さんの名前は何というのかね。」「ギルバートです。ご存知なんですか。」「知ってるどころではない。彼は私の友達だった。ロボットでは唯一の。君ももしかしてロボットなのか? 彼の息子ということは。」「そうです。僕はロボットです。父に作られた実験ロボットです。」「そうだったのか。君が、あの転校生のロボットだったんだな。ギルバートが個人的に作っていたロボットが、君だったとは。」「僕を知ってるんですか? 父が僕を作っていたのを。」「ああ、彼は自分の子どもを作るんだと張り切っていた。大量生産され、コンピューターに操られるロボットではなく、自分の意志と感情のみで動く、人間のようなロボットを作るのだと。だが、完成間近に彼は亡くなったはず。」「僕は研究所の実験ロボットとして、その後完成されたのです。父の意思に反して、コンピューターにつながれていますが。」「それで並のロボットより、優秀だというわけか。君自身は素晴らしい。大変優秀なロボットだ。しかし、残念なことだが、娘とはこれ以上深く付き合わないで欲しい。友達として、またライバルとしてなら、喜んで君を受け入れよう。だが、恋人となると話は別だ。愛し合えば、結婚や子どもを望むだろう。それが無理なことは君も分かってくれると思う。ギルバートの息子の君なら。「分かりました。やはり、あなたもただの人間だったと言う訳ですね。僕は、お嬢さんを愛してはいない。だが、ロボットを恋人として認められないというのは承服しかねます。現実問題として、今は無理だとしても、将来きっとロボットが人間と同等、いやそれ以上になる時が来るでしょう。その時は覚悟しておいて下さい。人間の科学者など要らなくなりますよ。」「ああ、覚悟している。今でさえ、ロボットと対抗して、研究するのは大変だ。だが、娘だけにはせめて夢を叶えさせてやりたい。科学者になる夢を。」「そうなればいいですけどね。まあせいぜい頑張ってください。僕はこれで失礼します。もうお嬢さんとはお付き合いしませんので、ご安心を。」ローリーは慇懃に礼をして、ドアを閉めた。ベスは後を追った。「待って、ローリー。」「ベス、止めても無駄だ。」ジョンがベスの腕をつかんだ。「放して、パパ。行かせて。」「どうしようもないんだ。これだけは。」「イヤ! ローリーが行っちゃう!」ベスは泣きながら叫んだが、ローリーの耳には届かない。虚しく空に響くだけだった。
2005年02月22日
ここをクリックすると曲が聴けます。作詩作曲した「人間」という曲です。「見果てぬ夢」3 待望の日曜日。彼と待ち合わせして、うちに行く前にちょっとデート?「あなたが例の転校生だってことは、内緒なの。パパは私の好きな人よりも、その転校生に会いたいって言ったのよ。失礼しちゃうと思わない?娘の恋人に会いたくないなんてね。だから罰として驚かせてやるの。あなたも黙っていてね。約束よ。指切りげんまん。」無理やり小指をからませて、指切りをしてしまった。触れちゃった。彼は怪訝そうな顔をして、慌てて手を振り払った。「どういうことだ? 僕が君の恋人だなんて。冗談じゃないよ。」「冗談なんか言わないわ。まあ、今は違うけど、未来の恋人よ。」「君も相当な自信家だね。いつ僕が君の恋人になると言った?」「今にならせてみせるわ。私は自信家ではなく、努力家よ。」「そうか。それなら、僕も受けて立とう。僕は決して君の恋人にはならないよ。誰も愛さないし、愛されたくもないんだ。」「『ならぬなら、ならせてみせよう、恋人に』これ分かる?」「『鳴かぬなら、鳴かせてみせよう、ホトトギス』のパロディだろ。」「そう、よく分かったわね。歴史は習っていないはずなのに。」「馬鹿にするな。だが僕の町しか、歴史の研究は許されていない。君こそ、なんでそんなことを知ってるんだ?」「パパに教わったのよ。昔の武将が詠んだ歌だって聞いたけど。」「君のパパは怖ろしい人だな。科学者といえど、そんなこと知ってる訳がない。歴史は国家の機密だ。あの町でしか知りようがないはずなのに。」「そう言えば、あなたのいた町は、なんという町なの?機密のある町だとかパパも言ってたわ。それなのにあなたはなぜ出てこれたの。」「僕は奴らのモルモットさ。ロボットにどこまで出来るか、能力を試されている。だからこそ、僕は負けるわけにはいかないのさ。君にもね。」「それで何もかも一番になろうとしているのね。スポーツはかなわなくても、勉強では負けないわ。私だってパパの子ですもの。科学者になりたいと思ってるのよ。」「ふん、科学者ね。君のパパの時代には、人間が科学者になれても、君の時代には、ロボットが頭脳労働の全てを牛耳ることになるだろう。もちろん、僕もその一人になってるだろうがね。」「あなたも負けず、自信家というか、努力みたいね。あなたのようなライバルが現れて私も遣り甲斐があるわ。今まで、私のような人間が首席を取れたくらい、この学校にはろくな人間も、ロボットさえもいなかったのよ。」「能無しの人間と、顔色をうかがうロボットか。それじゃ人間以下だな。」「あまり馬鹿にしたものじゃないわよ。人間だってやれば出来るというところを見せてあげるわ。そうそう、パパに会わせる約束だったわね。」「自慢のパパとやらを紹介してもらおうか。人間の科学者さんに。」「言葉遣いにだけは気をつけてね。パパは結構うるさいのよ。」「君の言葉遣いだって、誉められたものじゃないけどね。」「だからいつも怒られているのよ。レディじゃないって。」「そうだろうな。とてもレディとは思えない勇ましさだ。」「冗談言ってる場合じゃないわ。約束の時間に遅れちゃう。パパは約束守らない子は嫌いだって、言うんですもの。」「君は本当にファザコンだな。パパのことしか言えないのか。」「もう、パパついての予備知識を教えてあげてるのよ。結構、気難しいところがあるから。根は優しい人なんだけど、とっつきが悪いのよ。まあ、あなたと似たようなものかしら。」「僕と一緒にしないでくれ。優しくなんかないぞ、僕は。」「そんなことないわ。本当はきっと優しい人よ。私信じてるもの。」「勝手にそう思ってるがいいさ。期待を裏切っても悪く思うなよ。」「そういうところが優しいっていうのよ。いたわってくれてるじゃない。」「僕はさんざん人間に裏切られてきたから、信用しないんだ。君もせいぜい裏切られて学ぶがいいさ。口で言っても分からないからな。」「私は人を信じるわ。信じたいのよ。人間もロボットもみんな人だわ。」「君は甘いな。人を信じて裏切られたことはないのか?」「あるわ。でも、その人にはその人なりの訳があったのよ。裏切りたくて裏切った訳じゃないわ。その人の立場になれば、仕方ないのよ。」「そんなことを言っていたら、自分の立場を守れなくなるぞ。君は人間だ。ロボットじゃない。いくらロボットの立場に立とうとしても、出来るもんじゃない。僕達の苦しみが人間に分かってたまるか。」「分からないわ。だからこそ理解したいと思っているの。駄目かしら。」「余計なお節介はやめてくれ。どうせ、分かりもしないくせに。人間なら人間らしく、自分の立場だけを守っていればいいんだ。」「それだから、人間はロボットに恨まれているんでしょう。どうしたらいいというの。私はどうすればあなたに近づけるの。教えて。」「何もしないのが一番さ。ロボットに軽蔑も同情もしないこと。ただ放って置いてくれれば、それでいいんだ。構わないでくれ。」「それじゃ、いつまでもたっても人間とロボットは平行線のままよ。」「それでいいんだ。根本的に違うのだから、同じ立場には立てない。」「同じになろうとは思ってないわ。ただ、少しでも歩み寄りたいの。」「そんなことより、約束の時間に間に合わないんじゃないのか?」「あ、ホントだ。急がなくっちゃ。走るわよ。ついてきて。」「これだから人間は嫌なんだ。君こそ遅れるな。」ローリーはベスを追い抜かした。ベスの家へ向かって走る。「待ってよ。家が分かるの?」「調査済みさ。君の家くらいすぐに分かる。」やっと追いついた時は、既にベスの家の前だった。ベスは息が乱れたら、ローリーは顔色ひとつ変えずに玄関の前に立ち、ベスを待っていた。「ハァハァ、ちょっと待って。少し落ち着くまで。」「自分の家なんだから、中で休めよ。早く呼んでくれ。」「分かったわよ。もう意地悪なんだから。」
2005年02月21日
曲をクリックして、聴いてください。停めたいときは、出てきたプレーヤーのストップボタンを押してください。BGMは、相田みつをの「厳冬」に私が曲を付けたものです。聞こえないときと、歌詞を見たい方はここをクリックしてくださいね。読んでくださった方は、一言、感想頂けるとうれしいです。ちなみに、ベスとローリーという名前は、大好きな「若草物語」から、借りてしまいました。他にもいろんな名前が出てくるけど、どこから借りたか当ててね。 小説「見果てぬ夢」2 彼は転校生だった。私のクラスに入ってきたのだ。学級委員である私に、先生は彼に学校の案内をするように指示した。ちなみに先生もロボットだ。人間の教師は少なくなってきている。というより、まず人間の人口が少なくなってきているのだ。体力知力共、ロボットに劣る人間は、自然淘汰されてきているのかもしれない。その代わりとして、ますますロボットが生産され、頭脳労働に携わるものも、ほとんどロボットになりつつある。私のパパなど、残された数少ない人間の科学者の一人なのだ。だから、パパはまだロボットに理解がある。上司の人間より、部下のロボットの方が優秀で、また人格的にも信頼できるというのだ。まあ、ロボットは人格と言うより、ロボット格とでも言ったほうがいいかもしれないが・・・ともかく、ロボットにとって代わられた人間の嫉妬は醜い。先生も人間の教師に妬まれているらしい。私の大好きな先生なのに。生徒は平等に扱ってくれるし、良いところを認め、伸ばしてくれる。奴らもロボットは馬鹿にしているが、先生にだけは一目置いているらしい。不良でもこだわらずに声をかけ、励ましてくれる。人間の先生の中には、「不良なんて、人間じゃない。ロボット以下だ。」なんて言う人もいる位なのに。 そうそう、彼の案内役の話だったわね。私が校内を案内しても、彼は興味無さそうに聞き流していた。私を避けるように、どんどん歩いて行ってしまうのだ。道も分からないのに。「待ってよ。そっちには何も無いわ。ただ海があるだけよ。」「いいんだ。学校を見ても仕方が無い。海のほうがましさ。」彼は海を見ながらも、何か遠くを見つめているようだった。「あなたは何を見ているの? 海なんか見てないでしょ。」「自分の中の風景さ。ただ何も無い原っぱに、風が吹いている。」「なにそれ。自分は孤独だって言いたいの。随分と気障な言い回しね。」「なんとでも言うがいいさ。君には関係ない。誰にも僕の邪魔はさせない。」「それが気障だって言うのよ。格好つけないで。一度位、みんなの前でいいところを見せたからって、いい気にならないでよね。」私は素直じゃない。本当は、彼が言うと、気障に聞こえないなと思いながらも、強がりを言ってしまうのだ。好きなくせに憎まれ口ばかり。『もう自己嫌悪! そのくせ直せないんだよな、この性格・・・』彼はもう何を言っても聞こえないとばかりに、黙って海を見つめていた。私は彼に話しかけることも出来ず、一緒に海を眺めてるしかなかった。海をしみじみ見たのは初めてだった。海はどこまでも続いていると思われた。あの海の向こうに昔の廃墟があると聞いていたが、そんなことは信じられなかった。誰もまだ行ったことがないのだ。 核戦争で世界が滅びるとき、放射能を通さない物質で作られたロボットが、人間の赤ちゃんを、男女一人ずつ抱いて生き残ったのが、私達の祖先だと言われている。まるでノアの箱舟だ。ロボットが人間が育ててくれたのだ。ロボットは、人間の命の恩人ではないか。その恩も忘れ、そのくせ、最初にロボットを作ったのは、人間だと威張っている。 ここは放射能から隔離されたドームの中。ロボットが作ったものだ。ロボットだって、放射能には弱い。プログラムが狂ってしまうのだ。でも、人間よりは強いかもしれない。死ぬ事はないから。それでも、昔あの海を渡ってきてから、向こうの世界へ行ったロボットはまだいない。海もまた、ドームの外。見ることは出来ても、行くことは出来ないのだ。ドームの外に出る事は許されていない。もちろん誰も行くハズはないが。まだ放射能が残っているのではないか、ということもあるが、もうすでにドームの外は、人間が住める環境ではないだろう。ドームの外には海しかない、この島からでは、何も分からない。ただそこには、海があるだけなのだ。ぼんやりと海を見ながら考えていた。 ハッと気付くと、彼の姿はなかった。彼はもっと先まで進んでいたのだ。私は、彼に無視されながらも、付いて歩いた。振り向いてくれるまで。「君も相当しつこいね。いくら付いてきても、僕は君の事なんか知らないよ。僕は誰とも付き合わない。ロボットならいざ知らず、人間なんかと口も利きたくないんだ。さっさと帰ってくれ。」 彼は人間に恨みがあるようだった。まあロボットなら多かれ少なかれ、人間を恨んでいるだろうが、彼ほど憎んでるものはいないように思えた。少なくとも、表面的には。口に出して、人間を非難するのは彼だけだった。「人間に恨みでもあるの? あるなら、言ってごらんなさいよ。」「恨みを持たないロボットはいない。人間はロボットの犠牲の上に胡坐をかき、働きもせず、のうのうと生きてきた。それなのに、感謝するどころか、軽蔑の眼差しでロボットを見る。ロボットにこそ人間を軽蔑する資格があるんだ。」「本当にただの恨みじゃないわね。何があったというの?教えて。」「人間になんか、話す必要はない。ロボットにさえ話したことはないんだ。」「言えないのなら、言わなくていいわ。それなら、恨み言も言わないで。」「なんだって。君もただの人間だったんだな。少しは見所のある奴かと思ったのに。それなら、僕も言わせてもらう。ロボットを哀れむのはやめろ。軽蔑も耐えられないが、同情はもっと許せない。上から見下してるには変わりない。『可哀そうに』なんて言いながら、優越感に浸っているだけだ。」「そんなつもりはないわ。ただロボットも人間も平等だと思ってるだけよ。」「ふん、ふざけるな。どこが平等だ。同じ学校や職場に居ながら、この差別はなんだ。学問や仕事を真面目にやってるのは、ロボットだというのに、人間は、ロボットを差別するためだけに来ているようなものじゃないか。役に立たないくせに。」「そんなことはないわ。確かにロボットの方が、優秀で役に立つかもしれないけど、人間にだって、頑張ってる人はいるわ。私はそれほど優秀ではないけれど、努力はしているわ。能力だけが問題じゃないでしょ。やる気の問題よ。」「そのやる気が人間にはないんじゃないか。どうせロボットがやってくれるとたかをくくっているから、何もしないでいられるのだ。ロボットは役に立たなければ、スクラップだ。ロボットだって、学習機能だけのプログラムしか与えられていないのだ。自分で学習するしかない。努力とはロボットのためにある言葉だ。能力はその賜物なんだ。」「人間だって同じよ。初めから能力を持った人なんかいないわ。努力よ。」「じゃあ、その努力している人間を見せてもらおうじゃないか。君以外の人間で。」「いいわ。私の父も努力の人よ。ロボットに混じって、科学研究所で働いているの。父だって、決して元から優秀な人じゃない。家に帰ってからも書斎にこもって、勉強しているわ。徹夜で研究を続けて、何日も家に帰ってこなかったことも、数え切れないほど。」「そんなロボットはいくらでも居る。だが人間では珍しいな。会わせて欲しい。」「いいわ。だけど、父の都合に合わせてもらうわよ。忙しい人だから、なかなかつかまらないの。私でさえ、すれ違いで、会えない日のほうが多いくらい。」 それでも、早速、父に彼のことを話した。「前から好きな人が出来たら、連れて来いと言ってたでしょ。私、好きになれる人が見つかったの。まだ相手はそんな気ないけど、連れてくるだけでもいいでしょう。」「ああ、もちろんだとも。パパがベスの目に狂いはないか、確かめてやる。今度の日曜は出勤しないから、連れてくるといい。」「このところ、休日出勤ばかりだったのに、大丈夫なの?何か研究が終わったの?」「ちょっと一段落というとこかな。ベスは、科学に興味があるのか?」「うん、私もパパみたいな科学者になりたいの。なれるかな。」「ウーン。難しいけど、ベスなら大丈夫。頑張ればきっとなれるよ。ただし、ロボットの中で人間が互角にやっていこうとしたら、並大抵の努力では駄目だ。彼らの学習機能は、私達人間の比ではないからね。」「そうね。本当にそう思うわ。学校の勉強でさえ、ロボットに太刀打ちできないのに、研究なんて出来るかしら。不安になっちゃうわ。」「え? ベスは、首席ではなかったのか? ロボットも含めての。」「今度、凄い転校生が入ってきたのよ。勉強もスポーツも抜群なの。」「ほう、そんなに凄いロボットなのか。どこから来たのかね。」「なんでも、北のはずれの海沿いの町から来たと言ってたわ。」「北のはずれだって? その町の名はなんていうのかね。もしかして、あの町かもしれない。そうだとしたら、彼は一体何者なのか。」「北の町がどうかしたの? 何があるというの?」「いや。私も余り知らないのだが、機密のある町らしい。誰もその町に出入りする事は許されていないのだ。その中にいる者も、出る事はかなわない筈だ。彼はどうして出てこれたのか。」「あまり詳しい事は言いたがらないの。人間嫌いなのよ。」「そうか。私はそのロボットに会ってみたいな。好きな彼よりも。」「今に会わせてあげるわよ。それより、彼を楽しみにしていてね。」パパの驚く顔が目に浮かんだ。心の中で、ペロっと舌が出ちゃった。
2005年02月19日
ここをクリックすると作詩作曲した「プライド」という曲が聴けます。歌詞を見たい方はここをクリックしてくださいね。 「見果てぬ夢」 22世紀、純粋な少女がいた。少女は、見果てぬ夢を追いかけていた。 その夢とは、ロボットと結婚すること。そして、ロボットの子どもを生むこと。 人間はロボットと共存しているが、結婚はおろか、恋愛さえ禁じられていた。ロボットは差別されている。人間と同様の外見と能力を持ちながら、人間に奉仕する為だけに作られている。ロボットにも意志と感情が植えつけられていたにもかかわらず、人間に逆らい、平等を叫ぶことは、許されていないのだ。 少女はいつも疑問に思っていた。なぜ、ロボットに恋しちゃいけないの?同じ学校に通い、一緒に時を過ごしているのに、好きになっちゃいけないなんて、無理だわ。人間よりロボットのほうが、よっぽど純粋で素直な心を持ってる。従順というだけでなく、醜い心を持っていないから。人間に似せて作られたはずなのに、かえって人間よりも優れている。なのに、不当に差別されてるわ。ロボットが優秀なのは、人間が作ったから?でもロボットが人間を作ったら、もっと良い人間が出来るかもしれない。ロボットがロボットを作る時代に生まれた私達には、人間がロボットよりも優っているとは思えない。ロボット無しでは生きられないなら、ロボットに支配されてるのと同じだわ。 私はロボットに魅せられてしまった。恋してしまったのだ。別にロボットだからという訳ではない。ただ好きになったのが、たまたまロボットだったというだけ。それがなんでいけないの?「好きな人が出来たら、家に連れてきなさい」と言うから連れてきたのに、どうしてロボットじゃいけないの?人間だから偉いというの?いつもは、人間もロボットも平等だなんて私に言ってたくせに。本当に大人って、嘘つきだわ。パパは少なくとも科学者だから、もっと進歩的な考えを持ってると思ってたのに、がっかりした。ママはいつもすぐに感情的になってしまうから、仕方ないけれど・・・パパやママがどうして反対するのか分からない。私には人間とロボットの区別なんかつかない。動物と機械の違いなんて何よ。生活するうえでは何の変わりも無いじゃない。ただ、食べ物が違うだけ。 私の名前はベス。彼の名前はローリー。ロボットにだって、ちゃんと名前はあるのよ。人間と変わりはない。ただ、名付け親が、コンピューターセンターのホストコンピューターだってことだけ。ロボットはみな、コンピューターによって制御されている。普段は自分の意志で動いているのだけど、人間に逆らったりすれば、コンピューターから指示が来る。でも、余程の事がない限り、自由なの。まあ、人間に対する神様みたいなものかしら?そのロボットの神様、コンピューターを作ったのが人間だから、人間はロボットの神様というわけ。でも、人間もコンピューターに支配されてるんだけどね。 そんなことはともかく、ローリーは素敵なの。私が一目惚れしちゃったくらい!私、今までそんなに男の子に夢中になったことはなかった。もちろん、一目惚れなんて、論外よ。でも私は決して、顔に魅かれたわけではないわ。彼の言動を見て、尊敬と言うか、憧れを抱いてしまったの。彼の態度は立派だったわ。惚れ惚れしちゃうほど。学校で、人間がロボットをからかっていた。ロボットは能力があって、尚且つ人間に逆らう事が出来ないから、出来の悪い人間は、ロボットをいじめて喜んでいるの。ロボットも、人間に暴力を振るわない限り、コンピューターに止められる事はないのだけれど、逆らうと後が怖いから、抵抗しないの。だからまた、奴らがいい気になるのよ。人間だって、みんながロボットを馬鹿にしている訳ではないけど、やはり係わり合いになるのが怖いのだ。そういう私も、実を言うと怖い。でも、勇気を出して、止めようと思ったの。「何をしているの。止めなさいよ。そんなこと。」「女が口出す事じゃない。ひっこんでろ。」奴らが私に向かってきた。何をされるか分からない。「男ならいいのかい? 止めてもらおうか。」と、そこに彼が現れたのだ。正直言って、ホッとした。でも、今度は彼が標的だ。「ロボットが、何を? 生意気な!」と言いながらも、いいカモが来たと喜んでるのが、見て分かる。「ロボットには何をしてもいいと言うのか? そのロボットを放せ!」毅然とした態度で言う彼に圧倒されて、奴らは一瞬ひるむが、頭を振り上げる。「ロボットなんて、人間様にお仕えするために作られたんじゃないか。偉そうな口をきくんじゃない。自分を何様だと思っているんだ?」「僕は確かにロボットだ。ただし、人間に盲従するだけのロボットではない。自分の意志と、誇りを持っている。おまえたちにそれがあるのか?」「ふん。ロボットの誇りって、何だ? ロボットは人間が作ってやったんだ。その誇りとやらも、人間に作られたものじゃないか。いい加減にしろ。」「たとえ、最初は人間に作られたものだとしても、今はロボットが自分達の手で、ロボットを作っているのだ。今の人間には、作れまい。」「俺達は、おまえ達ロボットの神様なんだぞ。刃向かう気か?」「支配されているのは、お前達の方だ。ロボットがいなければ、何も出来ないではないか。現に今だって、おまえ達はロボットにレポートも何もかもやらせている。いなくて困るのはおまえ達だぞ。」「口では敵わなくても、力では負けない。ロボットは人間に逆らえないのだ。やっちまえ。」奴らは大勢で彼を囲んだ。頭が悪いだけに、腕力には自信があるらしい。一人が彼の後ろから、ナイフで切りかかった。彼は振り向くと、腕をつかんだ。「いてて!放せ。馬鹿野郎。このロボットの出来損ない!」腕をねじ上げられ、ナイフが落ちた。口は何やらうめいていたが、顔は真っ赤だ。彼はゆっくりとナイフを拾い上げると、腕を放した。「こんな物騒なものは、持ち歩かないようにするんだな。」「覚えていろ。今度会ったら、コテンパンにしてやる。」ナイフをひったくると、負け犬の遠吠えをしながら、走り去った。見ていたものはみな、安堵の溜息をついた。私は彼に走りよった。「ありがとう!助けてくれて。すごいわね。あなたって!」「別に君を助けたわけではない。同志を助けただけだ。」彼は、倒れていたロボットを助け起こすと、一緒に去っていった。それが彼との出会いだった。私は一目で恋に落ちてしまったのだ。<続く>
2005年02月18日
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