山口小夜の不思議遊戯

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2005年11月06日
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 それはその日の夕暮れになってもおさまらなかった。

 あの目はいけなかった。
 彼はもはや小夜に「見えている」のだ。

 気配を消せるはずの豊にとって、こんなことは初めてだった。
 さらに彼の心をざわめかせるのは、もはや自分は小夜以外の人間にも見えてしまっているのだろうかという疑問であった。

 彼の憶えによれば、綾一郎の目をもってしても、見ようとすればもはや自分の姿は見えるようであった。

 豊は自己流で使いこなしていた‘姿封じの呪文’を、今いちど本気で父親に確かめようとさえ思いつめた。

 ひらめきはその日の晩飯の時に訪れた。



 しかし、兄弟の誰かが軽く口にした言葉に、豊は我に返って思わず箸を取り落とした。
 ──父さま。動かさんでも、消してしまう呪(まじない)はないもんかいな。

 それを聞くや、豊は何かにとり憑かれたかのように、座布団を蹴って外に飛び出していった。あまりに急なことに、彼を止められたものは誰もなかった。

 その日、さわの五男はまったくのところ挙動不審であった。
 晩飯は途中で家を飛び出し、夜は夜で豊が戻ってきたのを見かけた者はいなかった。
 そして翌朝、豊は全身泥まみれで朝帰りしてきた。

 ──おおかた狐に化かされたっちゃ。
 大笑いする家人をよそに、豊は自分の布団を引きずり出すと、気を失ったかのような体(てい)で絶え入るようにに眠ってしまった。

 知らせがきたのは、それから半時ほどたった後だった。

 それは奇妙な知らせだった。
 昨日の夕暮れまで確かにそこにあったはずの岩が、今朝はあとかたもなく消えているという。



 神の為せる業だと有難がる人まで出てきた。
 一昔前ならばそれで済んだのであろうが、これほどはっきりと顕われた奇跡に際しては、さすがの相生の民も究明に乗り出さないわけにはいかなかった。

 村人が集落からほど近い現場に集められ、皆がこの謎に包まれた事件の証人となった。



 本日の日記-------------------------------------------------------

 今日は楽天のメンテナンスなんですね。


 今日は少しレトリカルなお話をさせてください。
 もし本文中のネタバレがあまりお好きでない方は、本日の日記は読み飛ばしていただいてもさしつかえございません。

 【遊戯三昧】

 まずは昨日、 solya さんのコメントを拝見したときの所感をこちらに申し上げようかと思います。

 唐王朝の張彦遠著『歴代名画記』には「画の六法」という段があって、そこで士大夫が画をたしなむときの覚えとして、

 気韻生動:きいんせいどう(すぐれた精神が生き生きと脈動していること)
 骨法用筆:こっぽうようひつ(力強い骨格を形づくる用筆の法)
 応物象形:おうぶつしょうけい(対象に応じて形をうつすこと)
 随類賦彩:ずいるいふさい(対象にしたがって色彩をほどこすこと)
 経営位置:けいえいいち(画面を構成すること)
 伝模移写:でんもいしゃ(自然をそのまま写しとること)

 などのうんちくが長々と語られるわけです。

 でも、そんなことよりも人生に一番大切なのはズバリ、
 「遊戯三昧」(遊び心)なのじゃああ!!!
 と張彦遠は最後に自説をくつがえしているのです。

 そこまで読んだとき、「このおっさんええこと言うのぉ」と思ったのでした──という内容のコメントのやりとりが昨日こちらのブログであったのです。

 で、この『歴代名画記』についてはですね、私どこかで解説したことがあるな~と、一晩中気になっていたんです。

 そこで、ここから少しネタバレになりますが・・・。
 私は以前(2002年)、東京書籍『仏教美術事典』の中で、「歴代名画記」の解説を担当したことがあるのです。

 この分厚い本、全国のどこの図書館、また大学の図書館、大型の書店などには置いてあると思いますので、お手にとっていただける方はどうかよろしくお願い致します。各項目には執筆者が記名してありますので、すぐにおわかりになると思います。

 ちなみに、私が担当したのは、歴代名画記のほかに、

 観音経変相:かんのんぎょうへんそう
 観無量寿経変相:かんむりょうじゅきょうへんそう
 華厳経変相:けごんきょうへんそう
 化生童子:けしょうどうじ
 胡旋舞:こせんぶ
 十方諸仏:じゅっぽうしょぶつ
 弥勒経変相:みろくきょうへんそう
 少林寺:しょうりんじ
 維摩詰経変相:ゆいまきつきょうへんそう
 新彊ウイグル自治区博物館

 などの18項目となっております。

 私が担当したこれらの項目は、ほかの諸先生方の解説とは少々毛色が変わっていることがよく指摘されます。
 私の文体を見慣れた方がお読みになればすぐにそれとわかるような、事典の解説文というよりなんとなくロマンを感じさせるような、そんな独特の語り口になってしまっているのです(笑)。

 以上、ちょっと宣伝してしまいました。
 普段の日記とは少し違うことを書いてしまって、ごめんなさい。
 もうこんなことしません☆(←かわいく)。


 明日は●動く大岩●です。

 岩はなぜ忽然と姿を消したのでしょう。
 そして、泥まみれだったという豊の姿との関わりは?

 タイムスリップして、答え合わせをしにきなしゃんせ。


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最終更新日  2006年02月10日 12時44分18秒
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