山口小夜の不思議遊戯

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2005年11月04日
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 ──小角さまはどこにおんさるだ。

 豊はその問いかけに微妙なニュアンスを感じ取った。
 件の出来事に対応する、呪師の数が足りないのだ。そこで、それに答えるとき、彼はなにげない声音をよそおって、なんとか自分の感情をかくそうとした。

 ──ああ・・・・・あの人な。いや、知らんわ。

 それから外へ出て、父の居所を訊ねまわるふりをした。彼が朝餉の後に村を出て、南に向かったのを見た者がおり、たぶん岩の出現地へ行ったのだろうと見当をつけた。

 父宮が出かけていった理由を知りたくなくて、豊は自分の気配を消すことだけに没頭することにした。それから村に起きた重大事のことを早く頭のなかから消し去って、今日いちにち何の要員になることもなく、ひとりで過ごせるにはどうしたらよいのかというのだけを考えられるようにつとめた。

 彼は可能なかぎり自分の逃亡のあとを隠す呪を施しながら、屋敷のすぐ裏を流れる渓流をたどっていった。

 うれしいことに、水辺には誰も来ていなかった。


 そして、そこからひょいと向こう岸の雑木林に踏み込むと、昼寝におあつらえむきの木を見つけてするすると身軽によじのぼった。

 彼が梢から身を乗り出すと、冷たい浅瀬に自分の姿が映っていた。
 風はごくかすかに吹いているだけだったが、充分に初夏の暑さを和らげてくれた。
 彼は腿の上に両手のひらを上にしておき、肩から力をぬいて、ゆったりと流れる水をなかば瞑った目で眺めていた。

 そうやって、半時ほど楢の木の梢に腰掛けてのんびりと風に吹かれていた少年は、ある時ふと気配がしたのに目を開けた。
 そして、ぎくぅっと身をすくめた。

 ──えへ。

 ぎょっとするくらい近くで手をふっている小夜がいた。

 紺色のチェックのブラウスに、えんじ色のジャンパースカートをはき、いつもはきっちり三つ組にしている髪を、今日はほどいたままの姿で。

 いつどうやってよじのぼったのか、根元を見れば三尺も離れていない隣の木の枝から、彼女は危なっかしいほどにこちらに身を乗り出していた。語る目をして。



 腑に落ちないような顔をしたままでいる豊を見ると、小夜はもっと身近く、言葉を直接その耳に吹き込んでやろうとするかのように、いきなり空中に体重をあずけかかった。

 うわ。あぶな。

 まったく反射的に腕を伸ばした豊の手を、小夜はためらいもなくつかまえた。
 その刹那、ふたりは共鳴し合うかのような白い光の波に包み込まれて見えた──少なくとも豊の目からは。



 せせらぎ、吊り橋、渓流のぬしが棲む淵、五百年もそこに建っている屋敷、霧に包まれた聖域の鳥居。そこここにはり巡らされた結界をいともたやすくくぐり抜け・・・・・精霊の首都の若君に会いにきた。

 めまいのするような感覚に翻弄されながら、腕の力が限界を超える直前、彼はただひとつのことを思っていた。

 なんだか命がけだな──。




 本日の日記---------------------------------------------------------


 【北京のもののけ姫】←私のことではない。

 昨日、映画‘もののけ姫’の話を書いていたときにはすっかり頭になかったのですが、そういえば、私はもののけ姫の背景の舞台、屋久島に行ったことがありましたよ。
 縄文杉にも会っただよ。

 もののけ姫といえば──日本語で「もの」といえば、「人間の感覚または思惟によって知ることのできる、すべての有形・無形の物体をさす」(新潮国語辞典)ことばだそうです。

 このことからも、英語のマテリアル(物質)とはたいぶ語感が違うことがわかります。

 食べ物、飲み物、鳴り物(楽器)、物置、物の具(武器)、生き物、けもの(毛物が語源)、曲者(くせもの)、余所者(よそもの)、もののけ(物の怪)、化け物等々、目に見えるさまざまな物とともに、人をも意味するまでは納得できても、目に見えない霊的な存在を「もの」と呼称することには、不思議な感じがします。

 しかし、そうした「もの」の世界に、私たち日本人はなにげなく生きています。「もの心がつく」とは幼児から子供への成長過程で物事の道理や人の情を理解するようになることをいいます。やがて大人になり、「ものになる」といえば、ひとかどの人物になることをさすようになります。

 大物主神(おおものぬしのかみ)は、出雲の大国主神(おおくにぬし)の別名ですが、偉大な霊力を持つ神という意味です。「おおもの(大物)」といえば現代語でも充分に意味が通じますが、元来は霊力に関係する言葉であることがわかります。

 人生の機微をわきまえた人物については、「もののあはれをしる」ともいい、これを略して「ものしり」ともいいます。

 こうしてみると、「もの」は単なる物質ではなく、目に見えない霊をも意味する言葉なのです。ここに森羅万象に対する日本人の基本的な考え方が見てとれます。山川草木、自然界のあらゆるものに霊性があると、古の人は考えてきたのです。

「いのち」の語源 は前に語らせていただきました。
 私たち人(ヒト)も「もの」であり、自然界の一部であるということです。すべてのものに「いのち(生命)」があり、霊性があると考え、出会いと別れ、その延長に生死があって、その道理を知ることが「ものの哀れ」を知るということなのでしょう。

 ちなみに、中国で見た映画「もののけ姫」の主人公の名前は「桑(サン)」だったけど──どうよ桑って・・・。


 明日は●消してしまえ●です。
 突然の岩の出現に騒然とする相生の里。
 小夜の出現に煩悶する豊。
 そして、彼の頭にひらめいたこととは──?
 タイムスリップして、風雲急を告げる展開を、目の前にしにきなしゃんせ。


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最終更新日  2005年11月05日 06時02分40秒
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