2006/06/19
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オペ


午前8時…。
「Wangen hilft Togo(ヴァンゲンはトーゴを救う)」プロジェクトの優秀な医療チームにより、
ヌリソンちゃんの手術が始まった。

そして2時間後-。

ヌリソンちゃんの手術は無事に終わった。

「手術はすばらしい結果になりました。経過も良好です。来週には、鼻に埋め込んだスティックも外すことができるでしょう。」
セデール医師は、手術の成功を力強く語ってくれた。

しかし僕の本当の心配は、
「手術後、彼女がトーゴに帰った後も病院に通う必要があるのではないか?」ということだった。貧しいトーゴに住む彼女にそんな余裕があるわけがない。それを尋ねると、セデール医師はこう語った。


(では、彼女は普通の女の子として過ごせるようになると?)その通りです。彼女はとてもすばらしい女の子になるよ。」

右がガイヤー医師。
☆手術のサポートをつとめ、トーゴのチームドクターでもあるガイヤー医師(右)


そして手術から数日後-。

ヌリソンちゃんと母親は、彼女にこのプロジェクト発足の縁を与えてくれたトーゴ代表チームを訪れた。

選手たちに囲まれるヌリソンちゃん

トーゴのエースFW、アーセナル所属のアデバヨルはこう語る。
「僕にとって、ヌリソンちゃんのような子供を見ることはとても辛いことなんだ。もしも身内の誰かが同じ病気を背負ったら、僕は絶対に助けなければならない。彼女を見ていると、今まで自分が何の問題もなく育ってきたことを、本当に申し訳なく思ってしまうんだ。」

アデバヨルが手を差し伸べるが・・・。
☆ヌリソンちゃんを抱こうとするアデバヨル・・・

お母さんが一番のよう。
☆やっぱりお母さんの方がいいようです。
 トーゴの国民的英雄も、母親の愛にはかなわない。

驚くことに、彼女の母親もアデバヨルのことは名前だけしか知らなかったという。そう、彼女たちの家にはテレビがない。W杯初出場の原動力になったアデバヨルを、彼女たちは知る機会すら与えられていないのだ。

”世界中がW杯に沸いている”なんて言ってみても、自分がいかに限られた世界で生きているのかということを思い知らされる。


ヌリソンちゃんの元気な姿に、誰よりも目を細めているのは、他ならぬ彼女なのだ。

僕は、少し意地悪な質問をした。
「もしもこのプロジェクトがなかったら、どうやって過ごしていくつもりだったんですか?」 
「娘はこれから、学校に通わなければいけません。私は全てを費やして娘を支えたことでしょう。あなたが普通に出来ていることを、私たちは全て必要としているんです。」


学校に通う-。



母と娘

トーゴ国内には今も病気に苦しみ、治療を受けられないでいる人々がたくさんいる。
そんな中でこのチャンスを得ることができたヌリソンちゃんは、ある意味では運が良かったのかもしれない。しかし、セデール医師はこう言う。

「私たちのフレンドシップは一日限りのものではありません。これはただの始まりに過ぎないんです。私たちは12月にトーゴを訪れ、今度はトーゴの人々をトーゴで助けたいと思っています。このプロジェクトはヴァンゲンで始まり、今後世界中に広まっていくことでしょう。もちろん日本の人たちとも協力できれば、こんなに素晴らしいことはありません。」

僕は問いかけた。
(医者として、あなたが一番大切にしていることは何ですか?)

セデール医師「子供・母親・父親に、普通の生活を与えてあげることです。それが私にとって一番大切なことです。人々を救うことができれば、それが私の幸せになるんです。」
ガイヤー医師「スポーツや仕事など、患者が体の機能を取り戻す手助けをし、それぞれが人生を楽しめるように支えることです。」
イゴール医師「人を救い、幸せにすることです。あのトーゴから来た女の子のように。」


ヴァンゲンに暮らすおじいちゃん

ヌリソンちゃんは、僕たちになかなか笑顔を見せてくれなかった。たくさんの人に囲まれて緊張していたのだろうし、口と鼻に残る手術の傷も影響していたのかもしれない。

そこに、たまたま散歩をしているおじいちゃんが通りかかり、彼女にあやしながら話しかけてきた。するとなんと、ヌリソンちゃんが自分から手を出して笑っているではないか。
選手たちにも、ましてやカメラを構えた僕には決して見せなかった笑顔を、このヴァンゲンのおじいちゃんはアッサリと引き出してみせたのだ。

僕はその笑顔を見て、やっと確信した。
これでこの子は幸せになれると-。


MFカカ(6)は、「Wangen hilft Togoプロジェクト」についてこう語る。
「このプロジェクトは本当にすばらしいと思うよ。医者は彼女のために手術をし、僕たちは彼女のために全力でプレーし、そして君も彼女のために記事を書いてみんなに知らせようとしている。みんなが彼女のために何かをしようとしているんだ。人を助けることは、自分が幸せになることでもあるだろ?」

カカの最後の一言は、最近の僕の気持ちを見透かされたような気がした。


「19日のスイス戦、彼女のためにどんなプレーをしたいですか?」 選手たちはこう答えた。
FWアデバヨル(4)「シンプルに元気付けてやりたいんだ。彼女と母親のために、そしてトーゴにとっても大切な初勝利を挙げたい。だって、自分が彼女と同じ病気にかからないなんて誰にも分からないんだから。でももし君にそういう病気が襲いかかったら、きっとヴァンゲンの人たちは君を助けてくれるだろうね。」
DFカリム(21)「僕たちは彼女のために、プレーで何かを見せる必要がある。」


アデバヨルは、ヌリソンちゃんの手術の前にこう語っていた。
「彼女は俺たちのラッキーガールなんだ。だって、ヴァンゲンの人たちに温かく迎えられて手術を受けることができるようになっただろ? 彼女の手術が成功すれば、きっと俺たちトーゴも成功するよ。」


スポーツの勝ち負けは時の運に左右される。
だからもちろんトーゴが負けることだってあり得る。
それがサッカーだ。

しかし例え負けても、明日につながる戦いであってほしい。
ヌリソンちゃんが知らせる幸せな未来を、世界の友達に自慢してほしい。

がんばれ。トーゴ!
僕は声が出なくなるまで応援するぞ!





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Last updated  2006/06/19 08:58:49 PM
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ドイツ特派員01 清水英斗

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