GOlaW(裏口)

2007/03/24
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 『おろし』の風が吹く。
 そは、祖父の御霊(みたま)が啼く声か。
 そは、孫への虎落笛(もがりぶえ)か。

 その刻、青年は祖父の荒御霊とともに、冥府に下らんと決意す。


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 『華麗なる一族』、完結しました。
 結局、私の中では『血のつながりなど関係ない、子供はきちんと愛せ』という結論で終わりました。
 また、『己という人柱で祖父の荒御霊を鎮める』という鉄平の結論は、ある意味で日本的なのかな、とも思いましたね。…神道の概念に見立ててしまえる自分がすごく怖い…。

 今回はその二点を中心にまとめてみようかと思います。

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 ドラマの中で響く『六甲おろし』『丹波笹山のおろしの風』の音は、『虎落笛』に聞こえました。
 『虎落笛』とは、『もがりに吹く風の音』。“古代日本、人が死んで本葬にするまでの一週間、仮葬場(もがり)にすえていた。『もがりを囲む柵や矢来』を冬の突風が吹き抜けることで鳴る、笛のような音”のことを差します。
 まるで、鉄平が死へ向かう姿を、弔うように。
 強く印象に残りました。

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 雪山の禊ぎ。


 以降の括弧の中は、 Uraraが無理矢理に作り出したトンデモ妄想理論 になります。
 笑って読み流してくださると幸いです。

 万俵家において災いであったのは、父の暴走であった。
 それを止める為に鉄平は全力でぶつかった。
 そして、片方が立ち上がれなくなるまでぶつかることで、全ての確執を昇華しようとした。

 されど、父はその確執を昇華することはできなかった。
 鉄平が何をしても、父の中の祖父への憎悪を消すことはできない、と。


 人は死せば、全て『御霊(神)』となる。そう、神道は言う。
 加護を賜れば『和魂(にぎみたま)』、荒ぶり害を為せば『荒魂(あらみたま)』と、人は呼ぶ。そは御霊の二面性を示す言葉。

 鉄平は始めて、祖父の『荒魂』としての一面を、父の中に見たのだ。


 その時、鉄平は『将軍』という、『御霊の意思を伝える化身』を見、決意する。
 自らの身に宿りし祖父の影ごと、もろともに冥府へと持ち去ることを。

 彼は12月25日から、家族との縁を切り、雪山を彷徨う。
 それは『禊ぎ』──あるいは“身殺ぎ”。
 人らしさを失うことで、その体を御霊の状態に近づけることである。

 『鉄平らしさ』が、身殺がれていく。
 鉄平はより深く、『祖父の御霊』に近づいていく。

 そして、『山』という霊気の篭る地が、もっとも神聖となる時が訪れる。

 それが殺生を禁ずる大晦日である。

 祖父と自分を繋ぐもの──『祖父と自分が夢を語り合った地』『祖父の銃』『祖父が自分に託した会社の服』──を手元に引き寄せ。
 一つ一つの儀礼を、過たずにこなしていく。
 自分の体に、祖父の御霊を下ろしていく。

 そして祖父との思いが染み付いた大樹──神が宿る木、神離(ひもろぎ。正しくは『草かんむりに離』の字)──に寄り添う。
 そして、祖父の銃を持って、祖父の御霊ごと己を冥府へと下らせる。

 万俵家の池に潜む、祖父の御霊の意志の具現たる『将軍』は、役目を終え、ともに冥府に下る。



 注意事項として。
 上記の解釈は、あくまで『こういう解釈もありえるが、 十中八九間違っている 』ものです。
 そしてこうは書きましたが、私自身は、鉄平の自殺を神聖視するつもりはまったくありません。

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 鉄平の甘え、逃避。

 この自殺が『十歳にも満たぬ少年少女』によるものだったなら、まだ同情すべき点もあります。
 しかし、鉄平は既に社会にも出た大人のです。

 鉄平には妻と子供があります。

 特殊製鉄の皆には、『高炉の灯を見せてくれ』と約束しました。
 妹や弟達を守る義務があります。
 そして、父に思いが通じずとも、その悲しみと憎しみを受け止め、乗り越えていくことも、必要なのだと。

 妻や子や兄弟や母は愛してくれるのに。
 辞めた後にも、鉄平を支えにし、支えようとする業務員もいるのに。


 愛と友情を溢れるばかりに与えられながらも、果たさねばならぬ責任と人の死を抱えながらも。
 明日の太陽という、希望さえも捨てて。
 それでも死を選んだ鉄平は、どうしようもない『甘え』と『ずるさ』を抱えているとしか思えないのです。

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 ドラマの中では、何度も彼を英雄として描こうとしていました。
 しかし、“恵まれた環境と、重大な使命を背負っての自殺”を選んだ人間が英雄であるわけがありません。
 玄さんや大川の遺した想いも、関係者の死も。放り出すような人間が、『本当の企業理念』を持っていたとは思えないのです。

 この辺り、ドラマスタッフによる『現代に必要な企業家としての理念とは何か』という主題が、殺されていると感じました。
 それが残念ですね。

 『純粋であろうとし、そうであることを求められた、青臭く幼い青年。故に脆く、守られることを失った時に、ぽっきりと折れる』
 第一話から感じていたその感想は、その死後さえ覆ることはありませんでした。

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>「理性では愛そうとした。でもできなかった」

 彼が愛そうとしたのは事実でしょう。
 彼が『愛している』と言ったとき、『そうでありたい』と強く願ったはずです。
 人は『自分の心に無いもの』を演じることはできません。心の奥底では、確かに『愛していた』のだと、私は思います。
 しかし、『憎むべき人間の子供』という思いが、その『愛』よりも強すぎただけなのです。


 けれど、『血縁』だけで愛情が左右されるような、そんな家族は歪んでいます。
 親子であることに、血の繋がりは、本当は関係ありません。

 親子とは『愛している』と伝え合う関係です。互いを信頼し、互いに存在価値を与え合う、そんな関係です。

 そんな大切なことを、大介は実感できなかったのです。


>「なんという残酷な…」
 鉄平の血液型が間違っていたことを知り、まず最初に大介が呟いた台詞です。
 それこそが、身勝手な理屈ではないでしょうか。

 たとえ血が繋がっていようといまいと、鉄平と大介は親子としての時間を過ごしていたのですから。
 鉄平をちゃんと息子として愛していたならば、こんな悲劇は起こりようが無かったのです。

 鉄平の死後に大介が感じる身勝手な哀しみも、身勝手な苦しみも、身勝手な感情に心を委ねた結果でしかないのです。
 因果応報ともいえるでしょう。

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 けれど、私が一番観たかったのは、『大介が真実を知る瞬間』でした。

 人間一人の中で、『ある出来事や人間に対する意味』が反転することがあります。
 そんな、奇跡のような(あるいは惨劇のような)一瞬を目撃できるのが、物語の醍醐味でもあります。

 奇跡は大介にも訪れました。
 一瞬にして、鉄平の存在が彼にとって変ってしまったのです。

 鉄平の言葉を、我が子の言葉として受け止めることができたとき。
 その時になってようやく、大介は鉄平の愛を受け止めます。

 そして。
>「一度でいい、微笑みかけて欲しかった」
 生前のその願いを叶える為に、彼は必死で、不器用に、笑顔を作ろうとします。

──手遅れであるのに。
──この世に、その笑顔を見るものはないのに。


 その場面を目撃した私の胸の中で膨らんだのは、
『大介の笑顔を見ることを諦めて、先立ってしまった鉄平の甘えへの憤り』
『鉄平の血液型一つで、態度を変えてしまう大介の身勝手さへの怒り』
の二つでした。
 二つが入り混じった『怒りと悔しさとやるせなさ』で、私は涙ぐまずにはいられませんでした。


 敬介の影を越えて、生前に愛し合うこと。信じること。
 何故、この二人はできなかったのだろう、と。

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>「鉄平さんは、あなたの子供だったんです!」

 母親が『ごめんなさい』と鉄平に謝らなければ、鉄平も裁判などを起こさず、血のつながりや愛情を諦めることは無かったのに。
 母親は自殺へと背中を押した一人だと、私は思います。
 寧子にその台詞を言う資格は無いです。

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 寧子が不貞の子を産んだわけではない。そう知った大介には、もう愛人は必要ありません。
 相子が捨てられたのは、間違いなく『鉄平の死』がきっかけでした。

 愛人という不自然な関係、そして閨閥作りという無理のある行為。それらに救いを求めた相子が、それらによって否定されるのは、自然の成り行きかもしれません。
 彼女の間違いは、彼女自身を裁いたのですね。

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 美馬の裏切り。

 これまでも間近で、大介の背信行為と非常さを見続けてきた美馬。
 彼の中には、『不必要になったら、捨てられる』という恐怖も密かに生まれているはずです。
 それ故に、彼は『向こうがその気なら、こちらから先に利用して捨ててやる』という理屈も生まれているでしょう。
 つまり、これまでの大介の行為が、美馬の裏切りを招いたのです。

 けれど、大介の行為は閨閥を守るためだったのに。
 そのことを思うと、やるせなくなります。

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 慣れ親しんだ阪神間(大阪・神戸を中心にした地域のこと)を舞台にしてくれたことで、胸が躍りました。
 役者の皆様、そしてスタッフの皆様、お疲れ様でした。

 これからも魅力のあるドラマを作り続けてくださいね。

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 製鉄所の煙は、一足早い荼毘の煙。
 虎落笛は吹き鳴らされ、鉄平と敬介の魂は、ともに冥府へと下らん。
 かくて万俵家、その繁栄もまた終わらん。





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Last updated  2007/03/24 05:49:00 PM
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