万俵家において災いであったのは、父の暴走であった。
それを止める為に鉄平は全力でぶつかった。
そして、片方が立ち上がれなくなるまでぶつかることで、全ての確執を昇華しようとした。
されど、父はその確執を昇華することはできなかった。
鉄平が何をしても、父の中の祖父への憎悪を消すことはできない、と。
人は死せば、全て『御霊(神)』となる。そう、神道は言う。
加護を賜れば『和魂(にぎみたま)』、荒ぶり害を為せば『荒魂(あらみたま)』と、人は呼ぶ。そは御霊の二面性を示す言葉。
鉄平は始めて、祖父の『荒魂』としての一面を、父の中に見たのだ。
その時、鉄平は『将軍』という、『御霊の意思を伝える化身』を見、決意する。
自らの身に宿りし祖父の影ごと、もろともに冥府へと持ち去ることを。
彼は12月25日から、家族との縁を切り、雪山を彷徨う。
それは『禊ぎ』──あるいは“身殺ぎ”。
人らしさを失うことで、その体を御霊の状態に近づけることである。
『鉄平らしさ』が、身殺がれていく。
鉄平はより深く、『祖父の御霊』に近づいていく。
そして、『山』という霊気の篭る地が、もっとも神聖となる時が訪れる。
それが殺生を禁ずる大晦日である。
祖父と自分を繋ぐもの──『祖父と自分が夢を語り合った地』『祖父の銃』『祖父が自分に託した会社の服』──を手元に引き寄せ。
一つ一つの儀礼を、過たずにこなしていく。
自分の体に、祖父の御霊を下ろしていく。
そして祖父との思いが染み付いた大樹──神が宿る木、神離(ひもろぎ。正しくは『草かんむりに離』の字)──に寄り添う。
そして、祖父の銃を持って、祖父の御霊ごと己を冥府へと下らせる。
万俵家の池に潜む、祖父の御霊の意志の具現たる『将軍』は、役目を終え、ともに冥府に下る。
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