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そいつはおふくろの形見なんだよお火事と喧嘩は江戸の華、背中に咲いたいれずみと、美貌と度胸で男売り出す吉五郎。加賀百万石のお抱え火消が、町火消は組の娘を好きになったばかりに、火消稼業の仁義に泣きます。江戸情緒豊かに、鉄火と恋と友情を綴っての、橋蔵さん久々の纒ものです。この作品は、邦枝完二の「喧嘩鳶」が原作で、戦前長谷川一夫、山田五十鈴、花井蘭子、黒川弥太郎共演の「喧嘩鳶」で映画化されヒット作でした。そんなことでマキノ監督はこの映画化に乗り気ではなかったようです。 ぜひやりたいと橋蔵さんの熱心な申し出と、会社からの話もあり、マキノ監督が演出することになったのですが、この時代の若い人にもよく分かるように、恋愛の世界を中心にすることにして、脚本を大幅に改訂した内容になったようです。そして、橋蔵さんは、淡島千景さんとは「雪之丞変化」に続いての共演になり、マキノ雅弘監督とは「恋山彦」「雪之丞変化」に続いての3作目になります。マキノ雅弘監督の指導は、新人でも水を得た魚のように動く・・・監督自身が実にうまく演技をやってみせて指導をするのです。京都弁の荒っぽい口調で遠慮なく連射砲のようにぶっつけられるので、俳優は潜んでいた能力をパッと開いていくのだそうです。淡島千景さんの「女優というプリズム」という本の中に、「江戸っ子肌」のある場面でのマキノ雅弘監督について話しています。(抜粋していますので)《加賀鳶衆の宴会が終った後の二階座敷。紅襷をかけた女中たちが膳を片付けているところ、酔った芸者小いなが障子を開けて座敷に転がり込んでくる。銀の煙管を手に「いや、返さない」と横座りに座り込む小いな。加賀鳶の半纏を引っかけた吉五郎が後を追って座敷に入ってくる。煙管を取り返そうとする吉五郎から身をかわしながら、「これは女持ちよ」と咎める小いな。吉五郎は照れて畳に腹這いになりながら、それが母の形見であることを告げる。》---という場面で。----この最初の登場シーンで、淡島さんは、半回転しながら襖を開けて、泳ぐようにスーッと座敷を横切ってきて、婀娜っぽく横座りするという、かなり複雑な動きをされています。お相手の橋蔵さんも、畳の上に腹ばいに寝そべって、ゴロンと一回転したりしています。マキノ雅弘監督は、よく女優さんや男優さんを、「回らせる」ことで優美に色っぽく見せる演出をなさいますが、先ほどお話に出た”ワルツ”というのはそういうことだったのでしょうか?淡島 うん、そうね。普段自分が好きな足を使っていたんじゃ、決めた位置には行 かれないのよね。「イ チニッサン、ニーニッサン」という足運びにしない と。垣内 同じ歩幅で行ったって全然色っぽくないんですよね。トントントン、トトン と行かないとね。舞台出身だとそれがわかるじゃないですか。淡島は舞台を やってきましたから、マキノ先生も安心してやらせていたんじゃないかな。----ここでアップ、あるいはポーズをとる、というふうにカットで割ってしまうのではなく、動きのリズムやきれいな流れをみせるということを重視されていた監督だったということですね。淡島 マキノ監督は、ご自分ができるからね。それが違いますよね。「恋山彦」の無二斎や「雪之丞変化」の闇太郎で橋蔵さんが見せた痛快ぶりは、マキノ監督の演出の引き出し方のおかげといれるようです。この「江戸っ子肌」でもマキノ監督の連射砲が浴びせられて、橋蔵さんのまだねむっている面が開花しているかもしれません。◆第72作品 1961年2月7日封切 「江戸っ子肌」 吉五郎 大川橋蔵小いな 淡島千景おもん 桜町弘子おりん 千原しのぶ中原扇十郎 山形勲石町の勘五郎 柳英二郎助蔵 堺俊二次郎吉 黒川弥太郎猪吉 田中春男金太 本郷秀雄伊兵衛 香川良介向井左太夫 石黒達也三原国十郎 阿部九州男猫六 中村時之助伊藤四郎兵衛 月形哲之介赤尾弥左衛門 小田部通麿清吉 時田一男舟五郎 伊藤亮英村右衛門 北龍二お杉 霧島八千代おまき 赤木春恵加賀鳶衆の宴会が引けていきます。「今夜はぶれいこう、気を利かしてやんな」と言われ助蔵が気を揉んでいます。宴会が終った二階座敷では、女中達が芸者小いなの噂をしています。「あんなに酔ったのを初めて見たわ」「それもはじめは冗談かとおもったが、小頭が背中の金太郎の入墨を見せてからよ」「じゃ、姐さんは吉五郎さんに惚れたんじゃないのね」「そうよ、背中の金太郎さんに惚れたのよ」と楽しくおしゃべりをしながらかたずけをしていると、廊下の方から「いや」と言う声がしたと思うと、芸者小いなが障子を開け「いや、いやいや」と言い部屋へ入って来て倒れ込み胸に煙管をしっかりにぎり廊下の方を見て、小いな「返さない」と言っていると、吉五郎「おっ、おい」と小いなを追って加賀鳶の吉五郎が飛び込んで来ます。吉五郎は、女中達の顔を見て、ばつが悪そうなそぶりを見せます。 そして、吉五郎は女中に聞きます。吉五郎「おう、もうみんなけえったのか」残っているのは、小頭だけといわれ、吉五郎は「ほーら、みろ」と小いなに近寄っていき、 吉五郎「よう、頼むからその煙管けえしてくれよ」小いなは吉五郎をじらしにかかります。吉五郎「そいつはおれにとっちゃあ・・・」小いな「いやだったら」吉五郎「どうしてよう」小いな「うーん、だってさあ、この煙管は女もちよ」 煙管を取り返そうと手を伸ばす吉五郎、小いなが「みんな見てよ」と女中達にその煙管を見せると、「お安くないわ」の声に、吉五郎「やだなあ」と言いながら畳に寝ころぶと、 吉五郎「その煙管はなあ・・・」小いなは煙管を吉五郎の目の前に置くと小いな「誰にもらったの」ときいてきたので、吉五郎が「形見だよお」と言って煙管を取ろうとすると、「うそうそ」と煙管を取上げ、小いな「あんなに大切にするんだもん。𠮷さんには、きっといい人が・・・」吉五郎「そりゃあおるさ」 その返事に小いなが「ちきしょう」と煙管を振り上げるのを見て、吉五郎「おっと、待ってくれよ。・・・いい人っていうのはな、おふくろ。そいつ はおふくろの形見なんだよお」 「ほんと?」と聞く小いな、「うん」と答える吉五郎。そして、吉五郎「よう、小いな、そりゃあわけえ男が女持ちの煙管を大切に持ってるなんて えのは、みんなにとっていい笑いぐさかも知れねえが、この吉五郎にとっ ちゃ、そいつがたった一つの色香なんだい」 そう言った吉五郎は女中達を見ると起上りながら、「おう、可笑しいか、おい」と言うと、吉五郎「へっ、笑ったっていいんだぜ・・・なあに、加賀百万石のお抱えだって威 張ったって、おいら、ただの火消よ。今にもジャンとなりゃ、明日は背中 の金太郎が水っぷくれになって泣いてよって、へっ、はかねえ商売だ。お めえさんのような櫓下の姐さんに焼かれて喚かれるような男じゃござんせ んよ」 小いな「ふん、お気の毒さま。それが惚れたんだからどうしようもないでしょ」吉五郎「それがほんとならうれしいが、惚れた腫れたは娘のときに言って欲し いよ」 小いな「それは無理よ、野暮ってものよ。いわなきゃいえない女心ってえのを、 吉さんは」吉五郎「お気の毒だが、分らねえ」小いな「嫌い」 「好かれたって」と言った吉五郎に小いなが「何さ」と返します。吉五郎は「酔いが醒めちゃった、帰ろう」と部屋を出て行ったあと、小いなは呟きます「ほんとうにおっかさんの形見かしら」と。 📌(m.wの独り言・・櫓下の芸者小いなとしては、吉五郎に心底から惚れていても言えない歯がゆさ、それを知ってか知らずか、吉五郎には恋愛の相手としてはまだ見えていなかったのでしょう。もし、おもんという娘が出て来なければ気持ちは違ったかもしれませんね。マキノ監督は俳優さんをうまい具合に回転させていますね。ほんとにお色気が出ています。) 続きます。この記事の下のコマーシャルの下にも、橋蔵さんに関するものを載せています。時々下の方へスクロールしてみてくださいね。このブログのために今まで作った表題画像も掲載しています。
2026年06月21日
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貴殿のその心意気には勝てぬ小次郎が屋根から飛び降りると右門も飛びおり、屋根の上での攻防から中庭での攻防となります。 二人の間の攻防の決着はつきそうもなかった中、相手と組み合った瞬間、言葉をかわし、お互いの太刀さばきを褒め合うのです。小次郎「うーん、錣正流、水も止まらぬ太刀さばきだ」右門 「北辰一刀流、見事だぞ」そういうと二人は離れ構えます。 小次郎がうしろへさがります。そして、暫くすると短刀を持っている手をさげ構えをやめます。はっとする右門。 小次郎「うーん、負けた」じっと小次郎を見つめる右門。小次郎「武士は己を知る者の為に死す、の一言、近頃地に落ちた武士どもに、まさ に頂門の一針。・・・千波小次郎、残念ながら貴殿のその心意気には勝て ぬ」右門 「それでは・・・」小次郎が短刀を懐にしまうと、右門も刀を鞘に納め、二人はお互いに歩み寄り固く手を握り合い目と目で語り合い、黙って小次郎が去って行こうとします。 そのとき、右門が「小次郎殿」と声をかけます。振り返った小次郎に、右門はこういいます。右門 「お花ちゃんが、約束の場所で、与吉さんの来るのを待っているはずだ」小次郎「お花さんは、拙者のことを・・・」小次郎の言葉にゆっくりと首を縦に振ります。与吉でなく、千波小次郎ということを知っていると伝えたのです。小次郎は右門に礼をいうように、そして去って行きます。 右門がいったように、お花は約束の場所で与吉の来るのを待っていました。「お花ちゃん」と呼ぶ与吉の声のほうを振り向きます。言いずらそうに与吉が話します。与吉「お花ちゃん、俺はおめえと二人で葛飾へ行くことを約束したんだが・・・」お花は「いいの、いいのよ。あたいも田舎へ行くことは諦めたわ」 そんなお花の様子を見ていて、与吉は胸がつまったのでしょう。与吉「お花さん」という与吉の様子からびっくりしたようなお花は自分から先に話をしだします。 お花「あたいは、これからもずっと、綱渡りをして暮らします」与吉の胸の中で泣きたいような気持ちをじっとおさえ話すお花の決心は与吉には辛いものがあったでしょう。お花の気持ちをいやと言うほど分っているし、自分にもいつしかお花への愛情が芽生えているのですから。与吉「約束を破って、すまぬ」お花「いいの・・・。あたいは、一生与吉さんのこと・・・忘れません。・・・さ よなら・・・」涙を見せまいとするお花は、与吉の前から走り去って行きます。 📌(この物語を見ていて、時期が来て、事情が許されるなら、お花を迎えに行ってほしいと思うのは、いけないことでしょうか。)千波小次郎は、大老土井大炊頭に報告するのです。土井 「何?世情の噂のみじゃと」小次郎「はっ。まったく、世情の根も葉もなき流言にござりました」 土井 「しかし小次郎、そもそもこの度のことは、その方の報告に端を発したこと ではないか」小次郎「申し訳ありません。全ては私の思惑違い、水野家には断じて内紛はござり ません」そう言うと、小次郎は右門との約束を守ったのです。 右門は、相変わらずで、南蛮鮫事件は同心あばたの敬四郎に手柄を譲り、今日も町へと出て行きます。(完)📌この映画の中では、与吉とお花は、このまま別れてしまうのか、それとも一緒になれるのか、見ている人の想像に任せるようにもとれます。筋書きからいきますと、この後千波小次郎は隠密をやめで、お花との芽生えた恋に、新しい生活に出発して行くようです。映画の中では、すんなりいっては・・・とひとひねりしてきたのでしょう。🎥『右門捕物帖・南蛮鮫』前回までの投稿掲載分は、ページ内リンクできるようにしてみました。下記のそれぞれをクリックしてご購読することができます。右門捕物帖 南蛮鮫・・・(1)右門捕物帖 南蛮鮫・・・(2)右門捕物帖 南蛮鮫・・・(3)右門捕物帖 南蛮鮫・・・(4)右門捕物帖 南蛮鮫・・・(5)右門捕物帖 南蛮鮫・・・(6)この記事の下のコマーシャルの下にも、橋蔵さんに関するものを載せています。時々下の方へスクロールしてみてくださいね。このブログのために今まで作った表題画像も掲載しています。
2026年06月01日
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