吾が輩は野良猫である

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ルキシト

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テーマ: 闘病日記(4015)
カテゴリ: 健康
2014入院.jpg

 2014年の正月を無事に迎える事が出来、今年こそは入院0を目指そうと意気込んでいたその矢先の事だった。それは僅かな歯の痛みから始まったが、それがやがて緊急入院の切っ掛けになるとは思いもしなかった。

 1月20日、昨年末に予約しておいた三井記念病院の歯科外来へ行き、痛みのある奥歯の事を伝え、一週間後に神経の治療をする事になり、痛み止めのロキソニンと抗生剤を三日分処方して貰った。翌日の朝、左顎に違和感があり少し腫れているように思ったが、さほど気にも止めず処方された薬を服用してやり過ごしたが、22日の朝、鏡を見ると左の頬が昨日の倍ほどに大きく腫れ上がり、口を大きく開ける事もままならなかった。

 痛みはそれほどでもなかったが、その腫れ具合からして尋常ではない事が起こっていると察しが付いた。夜になってから流石に心配になり救急外来へ電話を入れると、明日朝一番に歯科外来へ連絡するようにと告げられた。

 この時、既に入院の予感が脳裏を掠めたので心の準備だけはしておいた。翌朝8時30分丁度に電話を入れると、「腫れてしまいましたか…」と、予想していたかのような返答だった。直ぐに来院する事と入院の可能性もあるとの事だったので、入院グッズをバッグに詰め込み支度を済ませた。

 体重も増えて心不全の兆候もあったが、顎の腫れで救急車を呼ぶ訳にもいかず、かと言って電車で行く元気もなかったのでタクシーを呼んだ。

 歯科外来の待合室にいる時、看護師がやって来て顔の腫れ具合を確かめて行った。1時間ほど待った後、診察室に入るといつもの担当医が「かんべさん、ごめんなさいね…」と頭を下げて来た。担当医はわたしが心不全を繰り返し何度も入院している事を知っているし、心臓の事を気遣ってこれまで歯の治療をしてくれていたのだが、今回の腫れを起こした炎症が心不全の切っ掛けにもなっているのだろうと責任を感じている様子に見えた。

  「入院になりますので、内科と連携して治療に当たります…」

 昨年と同様に12階の一般病棟へと緊急入院、心不全も併発している事から、担当医は歯科と内科の二人が付いた。左蜂窩織炎(ほうかしきえん)での入院となる為、循環器ではなく、一般内科のようであるが、治療方針は前回と同様、ヘパリンに加え抗生剤の点滴、そして体重を落とす為に利尿剤のラシックス投与となり、先ずは「左蜂窩織炎」と心不全の治療が優先される事となった。

 炎症を起こしている部分や歯全体の検査をした結果、残存不可能な奥歯が親知らずも含め3本ある事が分かりその3本とも抜歯しなくてはならず、炎症が収まり心不全が軽快した時点で抜歯手術を受ける事となった。

 2月5日、心不全が軽快した為、一旦内科を事務手続き上退院となり、翌日6日に病棟もベッドもそのままで今度は歯科・口腔外科での再入院となる。手術は6日の夕方5時頃を予定していたが、2時間ほど早まり午後3時半頃に手術室からお呼びが掛かった。

 薄いブルーの手術着に着替え、点滴のヘパリンは外して車椅子で看護師一人に付き添われ7階にある中央手術室へと向かった。手術室へ入るのはこの病院で「僧帽弁置換術」を受けて以来26年振りの事となるが、今回は意識を完全に保ったままの入室である。

 7階入口に到着すると、執刀医や麻酔科医、手術室看護師ら数人が笑顔で出迎えてくれた。その横には既に手術を終えた患者が一人、ストレッチャーに乗せられて病棟へと戻る所であった。ドアが開き中へと入って行く。

 物々し医療器材があちこちに見受けられたが、そこから更に部屋が幾つかに別れており、私はその中の第9手術室へと運ばれた。約15畳ほどあるかと思われる 空間の丁度真ん中辺りに小さな手術台があり、その上から手術用の照明器具である「無影灯」が満月の様に白く輝いていた。

 その周りを囲うように立ち並ぶ医療器材の数々はどれも見覚えのあるものばかりだったが、人工心肺だけは見当たらなった。車椅子からその小さく狭い手術台へと移り、仰向けになった。顔が動かぬ様に頭の部分が枕で固定され目隠しをされた後、口の部分だけが大きく開いた布らしき物が顔に被せられた。

 バイタルチェックの準備も整い、執刀医や第一助手が優しく声を掛けて来る。

 「麻酔を数本打ちますからね~、ちょっと痛いけど御免なさいね…」

 「直ぐ傍にスタッフがいますから何かあれば合図して下さいね」

 「メリメリ、ミシミシ…」「はーい、一歩抜けました」それは想像していたより遥かに容易く抜けてくれたようで安心したのと、ワーファリンの影響でかなり出血するのではと不安が募るばかりであったが、そんな不安も取り越し苦労に終わってくれた。

 続けざまに、2本3本とトラブルもなく予想時間の2時間を大幅に短縮して抜歯手術は終わった。

 「麻酔が切れるとかなり痛みますよね…」私はその後の事が気になっていたので訊いてみた。

 第一助手が抜いた歯を3本小さなケースに入れて渡しながら言った。

 「48時間が痛みのピークです、個人差はありますが痛み止めもありますから…」

 私は抜けた自分の歯を見詰めながら、小さく頷くと車椅子に移り「これからが大変かな?」と独り言を呟いた。部屋の外に出ると病棟の看護師が笑顔で待っていた。

 「随分早く終わりましたね~、出血も殆どなくて良かったですね~」

 「想像していたより簡単に終わってくれたみたいで安心したよー」と私も笑顔で言葉を返した。ベッドに戻り暫くすると抜いた部分にジワジワと鈍痛が走り出した。様子を伺いに来た看護師にすかさず痛み止めをお願いした。処方された痛み止めは私が予想していたロキソニン等と違って「カロナール」と言う薬だった。 それを2錠服用し痛みの去るのを待ったが、時間が経っても一向に痛みは治まらない。

 薬が効かない事を告げると次は「ペンタジン」の点滴が始まった。抗生剤の「ヒクシリン」も始まっていたので、点滴瓶を2本ぶら下げる事となった。然し、そのペンタジンも効果がなく痛みは治まってくれない。

 その内に今まで出血していなかった傷口から夥しい出血が始まる。殆どの患者が寝静まっている病棟で、私だけが痛みと出血に悩まされ続けていた。止血はガー ゼを傷口に押し当てるしか方法がない。然し、痛みでガーゼをまともに噛む事すら出来ず、うがいとガーゼ交換でまる二日眠る事が出来なかった。

 ガーゼが役に立たない事から、抜いた部分を型どって透明の止血プレートを作り、それを被せて漸く出血は収まって行ったが、出血の原因は痛みにより血圧が急激に上昇した為であった。痛み止めの定番と言えば、ロキソニンやボルタレン座薬であるが、腎機能が低下している私にはそれを使えない為、それに代わる痛み 止めを何種類か試したが結局どれも役立たず、最後の手段として「モルヒネ」の投与となった。

 まさか此処で「モルヒネ」のお世話になるとは想像だにしていなかったが、さすが「麻薬」だけの事はあり、その効き目は抜群で、それまでの痛みが嘘の様に跡 形もなく消えて行った。然し、内科の担当医はそのモルヒネを使うにあたり、かなり慎重で中々首を縦に振ってはくれなかった。

 痛みが去ってしまうと抜歯後の回復も早く、体調を見て抜糸した後に退院となる筈だったが、結局抜糸は次回外来時に行う事となり、東京に二度目の大雪が降り 始めた14日の午前中に退院となった。心不全から開放され、息切れもなく足取り軽くいつもの道を闊歩し、途中好きな「神田川」で記念撮影をして普通に歩く 事の出来る有り難さを満喫しながらそぼ降る雪の中を家路へと急いだ。

 結局の所、今年も例年通りの入院で始まってしまったが、それでも生きている喜びを噛み締めて、どんな状況下にあっても希望と笑顔は絶やさず前向きで歩んで 行きたいと思った。多くの善意ある人たちに背中を押されている自分に気付けば、やはり自分も誰かの背中を押したりさすったりして生きているんだとつくづく思う。






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Last updated  2014.02.24 15:32:19 コメントを書く


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