逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

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2022.11.09
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もう立冬を過ぎましたが……。



その、鮮烈な赤。

喩えるなら、夜空に咲いた花火が散る寸前に散らした火花。くっきりとしていながら、気づけば闇に散り溶ける。美しさを否定されることはなく、むしろ賞賛されるのだけど。

「綺麗ではあるよ」

どうしてだかそれだけでは済まされない、この花、彼岸花。

「でも、陰気なんだよねぇ」

そう言って、阿加井さんは溜息を吐く。

「どう思う? 何でも屋さん」

「いや、まあ……」



「この花が咲くと、ああ、秋だなぁ、って思います」

うん、秋を彩る花だよ。昼間はまだまだ暑くても、朝晩涼しくなってきたし。

「そうだね。だけど私は……好きじゃないんだよ。血みたいな色でさ。本当は根っ子っていうか、球根ごと掘り返してしまいたいんだけど、ね」

家を建て替えても、これだけは手を付けるな、って昔から言われてるんだよ……と、また阿加井さんは溜息を吐く。

「何か理由があるんですか?」

訊ねてみつつも、思う。ケバくて陰気だけど(言っちゃった……! でも心の中だからいいだろう)、とても綺麗な花だから、観賞用に置いておけってことなのかも? 手を掛けるどころか、放置してても、忘れていても毎年咲くし、ここのお庭みたいに群生してると、見事というほかはない。

「どうだろうね……今では、もうよくわからないんだ。ただそのように伝わってるだけで」

阿加井さんは歯切れが悪い。

「家伝、ってやつなんですね!」

だけど、俺はそれで納得できてしまった。旧いお家みたいだものなぁ。家屋こそ近代のものになってるけど、この敷地自体にこう、歴史というか、伝統の重みを感じる。どこがどう、って説明はしにくいんだけど、しっとりと湿った庭の土や、端の方に生えてる庭木、さりげなく置かれた庭石も苔むしていて、よく見れば枯山水のような趣もある。

その庭の一隅に。



お花畑、というと可愛すぎるかもしれないけど──これはお花畑だよな。

「枯れるときは溶け崩れるように枯れていくから、死人花の異称がよく似合う」

「……」

彼岸花には曼殊沙華のほかにも、死人花だの、幽霊花なんて名前もあったっけ。聞いたことがある。

「あはは。見た人の見たように見えるのかもしれませんね」



「見た人の見たように見える、か……。何でも屋さん、なかなか鋭い視点を持っているね」

「そ、そうですか? ありがとうございます! あはは。──俺は今日は、あっちの四阿の周りの草むしりをすれば良いんですね? あと、屋根の上の落ち葉なんかを払っておけば」

阿加井家では毎年この時期になると来客があって、ここでお茶のもてなしをするのだという。

「梯子は言ったとおり、向こうの物置の中にあるからね。じゃあ、頼みましたよ、何でも屋さん。わからないことがあったら、私はあちらの縁側のある部屋にいるので、声を掛けてください」

「はい!」



ちょっとだけ続きます。
ちょっとだけです。





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最終更新日  2022.11.09 06:25:41
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