つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2005.06.10
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テーマ: お勧めの本(8158)
カテゴリ: Book
この作品をベストに挙げる星新一ファンも多いようです.のちに発表される傑作「白い服の男」の原型とも考えられる,全体主義的な管理社会を描いた寓話です.新潮文庫『ボッコちゃん』所収.

安全で豊かで争いもなく自然とも調和した,理想の社会が温かい筆致で描かれます.そしてその社会を実現した一つの施策を実行する,生活維持省の若い職員ふたりが,いつもどおりの外回りの仕事に出かけます.上司は穏やかで好もしく,青年達は職務に誇りを持ち,平和な世界に生きられることを感謝する温かい気持ちを持っています.

そして当然というか,そのような状態を維持するためには冷酷で強引な施策でもなければ実現できるまいというアイロニーがここで展開されます.そしてこの冷酷な仕掛けは,か弱い人民のみならず,職務に忠実なこの青年にも牙をむきます.ここが「白い服の男」との最大の違いです.

しかし,この作品が愛されるのはそういうプロット上の仕掛けというよりも,青年が最後にした具体的な振舞いであり,余りにものどかなその時の情景であり,交わす言葉のひとつひとつです.なんて温かく,なんて哀しいのか.何て偽善的で,なんて愛おしいのか.要約することが困難な,血の通った温かみが一瞬だけ,強烈に感じられるのです.

作品集としては,玉石混交の『ボッコちゃん』よりも,未来世界を舞台にした粒選りの作品集『白い服の男』の方が断然すばらしい.でも,星新一最初期の作品には,作者自身,絶対に追い越せないような珠玉の作品がいくつか入っています.何度読み返しても,新しい発見がある,ほんとうに貴重な一冊です.

「生活維持省」はビートルズで言うなら”All My Loving”で,『ボッコちゃん』はオアシスでいうならファーストアルバムでしょうか.ユーモアと単純さと強烈な苦味が混在しているあたりは,ビートルズと星新一はとてもよく似ている.

フリーページ 星新一
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Last updated  2005.06.10 23:58:48
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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