つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2008.12.20
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カテゴリ: Other topics



『町でうわさの天狗の子』第1巻に収められている短編。ちっとも派手でも爆発的でもありません。地味で、しんみりしてて、ひそやかで、繊細です。でもこれが凄いのです。

*

高校生男子のたっくんは口が悪くて意地悪だけれど、ユーモアがあるし、また、恥をかいたり悪者になることを怖れない、いい男です。彼は母の再婚相手の連れ子である、義理の姉に恋心を抱いています。

姉のマミちゃんは25歳くらいの図書館勤め。子供のときに母親が事故で失ってしまったときの不安感を、いまだに抱えており、そのため人見知りも激しい。可憐な美人で、図書館通いの子供たちにラブレターをもらったりしてます。

彼女は親に見合いを勧められますが、家族と離れることに恐怖感を感じます。また、性格的にきっぱり断れる自信が無く、見合いをさせられるとそのままずるずる結婚しそうなので、激しく躊躇しています。

たっくんは当然、妨害できないだろうかと思案します。でも、娘を溺愛している継父が、苦労させてきた娘になんとか幸福な結婚をと願う姿を見てしまったので、とりあえず、なりゆきにまかせることにします。

たしかに、泥酔したお父さんが結婚式で言おうとしている空想のスピーチを、うわごとのように喋るシーンはせつない。でも、娘の恐怖感に気づかず、「幸福な結婚」観を疑いも無くたずさえてひたすら前進する親の姿には、善意ゆえの悲劇といった印象もあります。

TEASEED

結末については、肩すかし、または期待はずれと感じるかもしれません。でも、一見乱暴者に見えるたっくんがここで思いとどまる心中の動きを、渾身の表現で描き込まれたラストの数頁こそが見ものです。



ラストでは、二人の手だけを切り取った絵が、三つ描かれます。

 一つ目は、現在の二人の手。
 二つ目は、幼い姉の手を現在のたっくんが両手で包む、回想+空想のシーン。
 三つ目もまた、現在の二人の手。ただし、マミちゃんが軽く握り返している。

最後のコマでは、二人とも画面に背を向けています。たっくんは、最後まで姉に告白しません。最後のせりふも投げやりです。でも、じゃああの、二人の手を執拗に描いた作者の意図は何だろう、タイトルの意味はどこまで深読みしていいのだろう、と考え出すと余韻がひどく長引いてしまうラストです。何回読んでも、そのたびに見落としていた何かを見つけてしまう、底の深い短編です。

なにげない人物。よくある設定。材料がこんなに普通なのに、どうしてこんなに特別な味を読者の心に引き起こせるのでしょう。ぜんぜんわかりません。

岩本ナオという天才に泣かされた、今年の下半期でした。岩本ナオ、すごすぎる。 


(フラワーコミックス・アルファ、小学館、2007)






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Last updated  2008.12.20 21:45:12 コメントを書く


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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
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ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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