つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2009.05.03
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テーマ: 本日の1冊(3697)
カテゴリ: Book
(Joe Hill,2008,小学館文庫)



SF初心者がこつこつ話題作を読んでいくというテーマの,第三回目です。( 一回目は「夜更けのエントロピー」 二回目は「ハローサマー,グッドバイ」

表紙の絵はぱっとしないけど,約18編700頁余りでアンダー1000円は魅力です。前半は不満でしたが,ラストの数編は確かにすばらしく,我慢して良かったです。


*私好みの短編をみっつ挙げますと,

1位「自発的入院」

 読み終えて,ほうとため息をつき,本を閉じました。自閉症と診断され,話があまり通じない弟が,徐々にそれまでとちがう姿を見せてきます。それは,兄にとってただ恐ろしいだけでなく,共犯関係のような安心感も伴ってきます。その弟が姿を消したいきさつにたいする感慨は,単純ではなく,とても複雑ですが,そこがたまらなく良いです。何度も読み返したくなるような味わい。


2位「おとうさんの仮面」




3位「ポップ・アート」

 設定は思いきり奇をてらっているけれど,ストーリー自体は単純です。孤独な少年がたった一人のマブダチと別れる話です。終りかたが潔くて,いいです。『プラネテス』に出てくるハチマキの切迫感を思い出しました。

sheep


いかにもホラー的な短編群は,私には退屈でした。ただし「黒電話」は,風通しの良い素っ気ない語り口が私の肌に合います。

読後感の良いものとして,「二十世紀の幽霊」「うちよりもここのほうが」「ボビー・コンロイ,死者の国より帰る」は万人に勧められます。とくに表題作はいろんな魅力が揃ってて,良質なアメリカ映画のようです。

また,キリスト教徒特有の苦しみに興味がある人には「救われし者」が面白いかもしれません。ちょっと高村薫的な,一見殺伐としたストーリーだけれど,筋がシンプルなので良いです。ありふれた愚かな男の苦悩を正面から描いてて,ああ文学を読んでいるなという気になる,歯ごたえのある短編です。







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Last updated  2009.05.03 20:54:57
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inalennon @ Re[1]:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子(09/19) フィンちさん >この世は なんてままなら…
フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
inalennon @ Re:4年はあっという間(03/04) ハオさん >バーチュー&モイヤー組見…
ハオ@ 4年はあっという間 バーチュー&モイヤー組見ました。 優雅…

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