つきあたりの陳列室

つきあたりの陳列室

2011.05.05
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カテゴリ: Other topics



知ってる方には説明不要ですが,長門有希とはライトノベルの連作「涼宮ハルヒ」シリーズの登場人物で,寡黙な本好き宇宙人,という設定の彼女は常に本を読んでおり,彼女の読んでいる本は一部で内容を仄めかす記述があるものの,タイトルは伏せられています。

その後,「長門有希が推薦した」という設定で,原作者の谷川流(たにがわながる)が,掲載雑誌の企画において百冊の本を紹介したわけです(ザ・スニーカー 2004年12月号)。

そのラインナップは作者の読書遍歴や趣味趣向を反映するだけでなく,作中で長門が読んでいる本を特定する手がかりとして,また無口な長門の心の内を想像するよすがとして,読者の興味を大いにそそりました。

そしてやはりというべきか,全百冊読破を目指す猛者なども現れ,アニメ化の際には彼女の読んでいる本が一部ファンの注目を集めました。



私にとってこの企画は,涼宮ハルヒシリーズを独立した娯楽作品として読むだけでなく,他ジャンルに視野を広げる直接的な契機となりました。またライトノベルに興味の無かった本読みたちの中にも,谷川流がこうした素材をどう自作品に生かしているかを知りたくなって「ハルヒ」を読み始める,というケースもあったと思われます。

読書家たるもの,他の読書家の部屋を訪れた時には本棚を舐めまわすようにチェックし,そやつの実力を値踏みすると言います。

ヲタ向けのアニメキャラが表紙になってるあの本の作者が一体どんなもん読んでるんだよ,とSFファンやミステリファンがこの「100冊」ラインナップを見たとき,果たしてどう評価するのかが面白かったわけです。



私自身は読書家という自覚はありませんが,漫画読みとして,自分なりの価値基準や美意識があります。「100冊」の中の数少ない漫画作品のひとつにとり・みきの作品が選ばれ,また氷室冴子の青春小説や,筒井康隆の作品が入っていていたことに,私は何となく納得がいきました。

谷川流の文章にも彼らと同様,凛々しい態度とか美しい心根への憧れのようなものが垣間見えるからです。しかしそれをストレートに表現することに対して彼は恥じらいを感じているのでしょう。そして幼い日の自分を思い出したときに覚える感傷とか,翻って今の自分を見るときの自己嫌悪なども見え隠れしますが,それらはまさにジュブナイル小説を読む人たちの心性と共通します。

ひねくれた自意識を抱え,ひねくれた時代を生きる私たちは,少年少女たちの瑞々しい姿への敬意を持ちながらも,そうした美しい物語をストレートに表現したり楽しんだりすることが難しくなっているような気もします。

そんな私たちはもはや,空想世界の中の宇宙人や,未来人や,異世界人たちに勧められでもしなければ,こうした単純な青春譚を楽しもうとする機会すら無いかもしれない。というのはさすがに考え過ぎでしょうか?




注1:正確には「長門有希の100冊」に入っていたのは,絶版中のちくま文庫「クレープを二度食えば。」で,表題作は重複しているものの,それ以外の短編のいくつかは今回出版された単行本には収録されていないようです。

長門有希の100冊 - 長門スレまとめWiki :この他にも凝ったまとめサイト多数あり。詳細はグーグル先生参照のこと。

第弐齋藤 土踏まず日記:「なに読んでるの? 長門さん」

ニコニコ動画:長門有希の「本,読んで」






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Last updated  2011.05.05 12:04:45 コメントを書く


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フィンち@ Re:「記憶の中の源氏物語」 三田村雅子 「人生のままならなさ」への強烈な疑問と,…
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