inti-solのブログ

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2018.08.04
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テーマ: 戦争反対(1190)
カテゴリ: 戦争と平和
何となく、YouTubeを見ていたら、 「もしもミッドウェイ海戦で日本海軍が勝利していたら?」という動画
この種の戦争にまつわる歴史のifの定番です。他には、真珠湾攻撃の際にもし米軍の空母が在泊していたら、レイテ海戦で栗田艦隊が反転していなければ、なんてものもあります。

ミッドウェイ海戦については、攻撃隊があと5分早く出撃していたら、というifもあります。米軍の急降下爆撃機の攻撃を受けたとき、日本艦隊は攻撃隊の発艦準備が整ったところで、攻撃隊の1番機が発艦した直後に被弾してしまった。あと5分米軍の空襲が遅ければ、日本側の攻撃隊は全機出撃して、海戦の結末は変わっていた、というものです。敗北の当事者である草鹿参謀長と淵田飛行長が戦後に著書で広めたもので、冷静に考えると、怪しさ満点の主張ですが、私が子どもの頃の戦記本では、定説のように扱われていました。
これに初めて公然と疑義を呈したのは、ミッドウェイ海戦の全戦没者を調査した「滄海よ眠れ―ミッドウェー海戦の生と死」の著者である澤地久枝です。ひとつには、生存者からの聞き取り調査、もうひとつは、当時の戦闘詳報などを基に防衛研修所戦史室が編集した「戦史叢書」の記録などから、この定説を覆したのです。
今日では、「運命の5分間」説は完全に虚構であることが明白です。攻撃隊の1番機が発艦した直後、というのは、実際には米軍機を迎撃するために発艦した戦闘機(零式艦戦)をさしたもので、攻撃隊自体は、まだほとんど発艦準備が整っていませんでした。このとき唯一生き残って反撃した空母「飛龍」が攻撃隊を発艦させたのが、3隻の被弾から30分以上後であることからも、このことは明らかです。

そもそも、それ以前に、よく知られているように、連勝によって日本側が増長著しかったこと、日本側の暗号を解読されていたこと、米軍はすでにレーダーを実用化していたのに対して日本側はまだ試作段階であり、対空警戒の目に大差があったこと、など、5分間がどうこう以前の弱点を日本側は沢山抱えていました。
なので、史実のミッドウェイ海戦の経過の中で日本海軍が勝つのは絶望的に困難です。艦隊の編成からすべてやり直せば-具体的には、アリューシャン列島への陽動作戦や上陸部隊の護衛用に派遣した3隻の空母をすべて機動部隊に加え、何故か空母部隊のはるか後方を付いていった戦艦中心の「主力」部隊を機動部隊の前面に配置すれば-勝てたかもしれない、という程度です。
勝てたとしても、敵は空母3隻全部撃沈、味方は損害なしということは、絶対にありません。太平洋戦争中日米の空母同士の海戦で、日本が米軍の正規大型空母を撃沈したいずれの海戦(珊瑚海海戦と南太平洋海戦)でも、日本側は、それと引き換えに艦載機を大量に撃墜され、また日本側の空母も大きな損害を受けているからです。


つまり、もし日本がミッドウェイ海戦に勝っていたら、言い換えるなら、他の空母も米空母への攻撃に参加していたら、搭載機の撃墜と搭乗員の戦死はもっと多かったはずなのです。「飛龍」の数字から類推すれば、史実の2倍以上が戦死したでしょう。
そこまで被害を出しても、米空母の防御力(ダメージコントロール力)は日本空母に比べて格段に高く、撃沈は容易ではありませんでした。したがって、勝つとしてもせいぜいあと1隻撃沈して、残りの1隻が一時的に戦闘不能、くらいが関の山です。日本側の艦船の損失ゼロはありえませんが、仮に奇跡的に艦船の沈没がゼロだとしても、飛行甲板に被弾する空母は確実に出ます。日米の空母が激突した海戦で、日本空母が被弾しなかった例はありません。
米空母は、飛行甲板に被弾しても応急処置用の鉄板を敷いて飛行機の発着艦を可能にしましたが、日本海軍にその発想はなく、飛行甲板に穴をあけられたら、帰港して修理するまで戦力喪失です。だから、海戦に勝っても、その直後の時点では運がよければ、2隻程度の空母がかろうじて運用可能で、その搭載機の半分が使える、程度でしょう。しかも、航空燃料や搭載爆弾が残っていたかどうかは分かりません。

つまり、海戦にかろうじて勝ったとしても、そのあとミッドウェイ島に上陸する陸戦部隊を航空援護することは、もはやできなかっただろう、ということです。
どうも、「もしミッドウェイ海戦に勝ったら」というifには、「海戦に勝てば上陸作戦も成功する」という思い込みがあるように思いますが、現実はそうではありません。
ミッドウェイに上陸する予定だったのは、後にガダルカナルに転用されて壊滅した歩兵第28連隊の1個大隊(歩兵4個中隊・機関銃1個中隊、歩兵砲1個小隊)及び連隊砲、速射砲各1個中隊(おそらく速射砲4門、歩兵砲6門、重機関銃8丁と思われる)・通信隊・衛生隊1/3個からなる、一木支隊の約2000名余です。

※連隊砲中隊、通信隊、衛生隊が抜けていたため訂正しました。したがって、歩兵砲2門と書きましたが、大隊の歩兵砲小隊に連隊砲中隊をあわせれば6門あったはずです。また、この時期の歩兵1個大隊は3個中隊編成が標準ですが、このときの一木支隊は4個中隊編成だったので、通常の歩兵大隊よりは兵力が3割増ということになります。

これに、海軍陸戦隊も2000名余が加わりますが、これに対する米軍のミッドウェイ防御部隊は、兵力こそ3000名ほどですが、全島に数十門の火砲と戦車を配備、火力では日本側を圧倒していました。さらに飛行場には120機の飛行機もありました。その過半は日本空母との戦いで喪失しましたが、少なくとも20機や30機は生き残っていたはずだし、当然、ハワイから増援の航空部隊も送られてくるだろうことも考えると、一木支隊は、全滅の場所がガダルカナルではなくミッドウェイ、時期は2ヶ月ほど早まるだけで、その命運は史実と変わらなかったでしょう。

実際には、もしミッドウェイ海戦に日本が勝ったとしても、珊瑚海海戦と同じことになったでしょう。つまり、大損害と引き換えにかろうじて海戦には勝ったが、上陸作戦は中止、撤退、ということです。そこで、なおもミッドウェイ島の占領にこだわり続けたとすると、やはりガダルカナルの泥沼の消耗戦がミッドウェイで起きることになったでしょう。
仮に奇跡的にミッドウェイ島占領に成功しても、日本本土からこんなに遠い島に充分な兵力を置くには、補給もままならず、日本軍が占領した太平洋上の多くの島と同様、1年後には奪回されて、守備隊は全滅したでしょう。さらにハワイを占領なんて夢のまた夢、米本土上陸なんて、夢でもありえない、というところです。

ミッドウェイ海戦では、日本海軍は4隻の空母という「箱」と搭載機約260機のすべてを失いましたが、前述のとおり、搭乗員の戦死は120名ほどに過ぎませんでした。続くガダルカナルの戦いでは、飛行機の損失(陸上機も艦載機も合わせて)800機以上、搭乗員の戦死は2000人以上なので、損害の大きさは比較になりません。加えて、輸送艦船や艦隊の手足となる駆逐艦も大量に喪失し、太平洋戦争における本当の転機となりました。

さて、もし日本がミッドウェイ海戦に勝っていたとしても、最初の推定のようにミッドウェイ島の占領はできずに撤退した場合(珊瑚海海戦と同じ)、史実同様にガダルカナルの戦いが起き、史実とさほど変わらぬ経過をたどっただろうと思います。

そうすれば、酷使されて損耗した駆逐艦の損害が多少減ったかもしれませんし、奇跡的にガダルカナル島の占領にいったんは成功したかもしれません。そうだとしても、程なく奪回されたでしょうし、航空戦力の消耗は史実と変わらず、空母の防御上の欠点はミッドウェイでは露呈しなかった代わりにガダルカナルの戦いのどこかで露呈して、4隻同時ではなくても、結局は次々と撃沈されていったでしょう。そこで生き残ったとしても、マリアナ海戦かフィリピン沖海戦で沈むか、搭載機も燃料も尽きて呉軍港で動けないまま空襲に晒されるか、要するに史実と大同小異ということです。

もし、日本軍がミッドウェイ占領を簡単に諦めなかったとしたら(占領に成功した可能性は低いけれど、仮に成功したとしても)、前述のとおり、史実のガダルカナルで起きた泥沼の消耗戦、航空戦力と駆逐艦、郵送船舶の大量喪失がミッドウェイをめぐる戦いで発生していただけのことで、その後の戦局の経過には史実と差はあっても、戦力枯渇の経過は史実と大差なく、最終的には史実と大同小異の結末を迎えたでしょう。

結局、ミッドウェイで日本が勝っていたとしても、太平洋戦争の結末は史実と差ほど変わりがなかっただろう、というのが結論です。
ミッドウェイで勝っていれば米国と講和、なんてのは、相手の都合を考慮しない夢物語の最たるものです。生産力の差から、戦争が長引けば長引くほど米国が有利なのは歴然としているのに、わざわざ自国にとってもっとも不利なタイミングで講和しようと考える国がどこにあるのか、立場が逆で日本米国の立場だったら講和したのか、と考えれば、それがどれほど非現実的な話かは明らかです。

上記の番組中で、田岡俊次氏はミッドウェイ海戦にもし日本が勝っていたら、ミッドウェイを占領し、ハワイを占領し、ひょっとしたら米本土にも侵攻を試みて、その結果、日本は負けるが戦争は史実より1~2年長引き、その結果日本の損害も史実よりさらに膨らんだだろう、という見立てでした。

もし、史実より1ヶ月でも戦争が長引いていたら、多分3発目の原爆が投下されていただろうし、毎日のように餓死者が出ていたので、それこそ1日につき1万人ずつ死者が増えていたとしても不思議ではありません。その意味で、「ミッドウェイ海戦で負けてよかった」というのが偽らざる感想です。





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最終更新日  2019.02.27 07:06:46 コメント(8) | コメントを書く
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