12. Old Head Golf Links




いくつかの休みを取った後に、だいぶオールドヘッドに近くなった浜辺で車を停めて、伸びをする。と、海に突き出した半島の突端に小さく灯台が見える。「あれっ、オールドヘッドかな? きっとそうだ」そう思ったとたん、運転の疲れも忘れ、勇んで車に乗り込み先に進んだ


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オールドヘッドに近づくにつれ、なだらかな丘を登り、突然に視界が開け眼下に一条の細い道が城門を貫き、その向こうに菱形の土地が広がる。城門の向こうがオールドヘッドで、それがオールドヘッドのへの侵入者を拒んでいるようだ。車がアプローチするたびに城門のところで守衛が扉を開けている。これが和風の門だと鳳琳のような感じるのかな、などと下らぬ考えが頭を過った


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プロショップに立ち寄り、明日の天気を確認すると「ちょっと寒いけど、よい天気になるわよ」と教えてくれた





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この日の夜は何を食べようかと思案し、B&Bのおかみさんに相談するとキンセールにある魚料理のレストランを紹介してくれた。キンセールは入り江とも河口とも呼べるような入り組んだ港町で、漁船やヨットが多く停泊し、その周りは小高い丘に囲まれた美しい街だ


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紹介されたレストランではボールスープというには大きすぎるスープと、ツナのステーキをいただいた





明けて今日は、今回の旅の白眉のひとつであるOld Head Golf Linksでのラウンドだ

朝から晴れ渡り最高の天気。気温は4度と低いが雨もなく、そのうちに気温も上がるだろう

このコースの事はいくつかの文献や写真集で見て、気になっていたが実際にこの目で確かめ、足で踏みしめると、どう表現したら良いのか、言葉が見つからない。この世界観を伝える写真を撮りたいと思うが、どうやら鳥の視点が必要だ


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写真の灯台は「新しい灯台」と呼ばれるもので、この灯台に続く道が血管のようにコースを貫いている。新しい灯台とはいえ1850年代に建てられたもので、今でも現役だそうだ




コースに着くと、スターターが待ち構えていた。実はスタートの時間を間違え、まさにスタートというタイミングでの到着となってしまった。この日はビッグトムというあだ名のキャディがjunhiroのバッグを担ぎ、マイクという名のメンバーが一緒にラウンドしてくれることになった


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ビッグトムはこのゴルフ場にごく初期からいるキャディの一人で、彼自身も全盛期には片手のハンディキャップを誇るプレイヤーだったそうだが、今では本業の牧畜業もリタイヤし時間がある時にこうしてキャディの仕事をしているのだとか。ま、実際には仕事というよりは朝の散歩のようなものらしい。ちなみに多くのプロゴルファーだけでなく、あのマイケルジョーダンのキャディも勤めたことがあるそうで、junhiroのキャディをしてもらうのはなんだかこそばゆい気分だ。さすがに多くの人に愛されているだけあって、指示が的確で信頼できる男だった


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ロケーションに圧倒され、興奮のうちにラウンドを進める。いくつかエアレーション後のグリーンがあったが、その状態でも転がりはとてもスムースで満足の行くものだった。また、今回の旅で回った9つのゴルフの中で、最も高いラウンドフィだったが、それをも納得させてしまう圧倒的な景観があった


一緒にラウンドしたマイクはアメリカのサンフランシスコ近郊に住んでおり、このコースのメンバーになって15年ほどになるという。毎年夏にこのゴルフ場を訪れるのだが、今年は都合でこのタイミングになってしまったそうだ。彼が住んでいる場所と、junhiroの会社の本社がある場所とは20分ほどしか離れておらず、いろいろと共通の話題が見つかり会話も弾んだ

サンフランシスコやペブルビーチ辺りのゴルフ場の話をすると、どこのゴルフ場の話をしても話題についてくるだけでなく、ほとんどのゴルフ場でラウンドした事があるという。あのサイプレスポイントでさえも! それだけでなく、彼の父はモントレー・ペニンシュラGCのメンバーだと言う。そのゴルフ場は長い間AT&Tのプロアマの会場から外れていたが、今年、何十年か振りにPGAのコースに復帰したプライベートクラブだ


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マイクはオールドヘッドでプレーをしなければ年会費が単なる「寄付金」になってしまうので、年に一度は訪れているのだという。もうちろん、そうした消極的な理由だけではなく、このコースでプレーできる満足感は何者にも代え難いだろう


コースは断崖を行くホールがいくつもある。また、 以前の日記で紹介したこのパー3 は、写真の中の風景と少し違っている事に気がついた。マイクによると、このホールは塩害がひどくグリーンの芝がやられてしまうので、その養生に海側に柵を立ててグリーンを守っていた時期があったそうだ。どうやらその写真は、その当時に撮られたもののようだ

またあるホールでは崖越えのティショットを強いられる。白ティからのプレーだったが、「絶対にお前に見せておきたい景色がある」と黒ティまで連れて行ってくれた。ここからではチチさんの飛距離でもボールが崖に飲み込まれるかもしれない


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マイクとの楽しい18ホールが終わると、どちらともなく一緒にランチを食べる事になったのだが、彼と食事をしていると食堂のスタッフや通りかかるスタッフが彼にみな挨拶をし、彼もjunhiroの事を皆に紹介してくれる。まあ、メンバーの特権かなと思っていたのだがどうも事情が違うようだ。スタッフの他にも多くの品の良い人たちが彼に挨拶をしていく

たとえば、このゴルフ場を保有するオコーナー兄弟の一人やら、「彼は確かアイルランドの閣僚だったと思う」とか「彼は地元の名士で非常に大きな不動産の事業をやっている」などと、彼が紹介してくれるメンバーが大物ばかりでびっくりだ

オーナーのジョンは一緒のテーブルに座り込み、我々に混じってしばし歓談をするが、話のレベルがあまりに違うので驚く事ばかりだ。マイクが「ここのメンバーになって素晴らしい経験をしているが、一方でバリーバニオンに行く機会を失ってしまったのはちょっぴり淋しい。ここからだと車を飛ばしても3時間はかかるからね」と話すとジョンが「ヘリで行けば30~40分もあれば着くはずだ。いつでも飛ばしてあげるよ」と、真顔で言う

またjunhiroがOld Headの後はMount Julietというゴルフ場に行くと言うと、「あんなクズみたいなゴルフ場になんて行く必要はない。あそこに行くくらいなら、オールドヘッドから30分ほどの所にあるコークGCに行けという。すぐにヘッドプロに電話させてお前のティタイムを取ってやる」と、、、 

きっと彼は生粋のリンクス好きでMount Julietのようなパークランドは好まないのだろう


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そして、マイクがトイレに立った隙にマイクの父はアメリカで最も人気のあるプロスポーツ会の重鎮だとこっそり教えてくれた。後にググってみたらなんとWikipediaにもちゃんと彼の父の項目があり、父の名を冠したファミコンのゲームまで販売されている。さらに日本に戻ってアメリカ人の同僚に聞いてみたら大概のアメリカ人ならマイクの父の事は知っているという。プロ選手を引退した後に、とあるチームの監督となりチャンピオンへと導いた後、そのスポーツのテレビ中継の解説を20年もの間つとめ、その後はコミッショナーのオフィスでアドバイザーをしているという。どうりで、お父さんが名門コースのメンバーで、彼自身も多くのコネクションを持っているわけだ


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マイクが使っていたゴルフバッグにはオリンピックGCのロゴが入っており、サンフランシスコGCは素晴らしいと言う。どちらもプライベートクラブで普通の人はアクセスできないゴルフ場だ。さらに、 junhiroが過去に2回ラウンドした事があるワイナリーの中のコース のオーナーとも知り合いで、そのオーナーはサイプレスポイントのメンバーで彼に誘われて何度かサイプレスも回った事があるという

サイプレスには彼は気が向いた時に誘ってくれるのだが、彼が誘ってくれるのは大抵が前日で、しかもマイクに他の重要な用があるときだという。「きっと彼は俺の予定を知っていて行けない日に電話をかけていると思うよ」と笑いながら話してくれた

で、サイプレスの評価はというと、「あくまでも個人の感想だけど」と前置きした上で、「サイプレスは素晴らしいコースであることは間違いないけれど、閉鎖的でなかなかプレーが出来ないので、神秘的なイメージがあって実際のコース以上に評価されていると思う」との事だった。また、あのあたりで他に好きなコースはどこかと話していた時に、二人の口から同時に飛び出したのが パサティエンポ だった


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控え目で落ち着いた振る舞いと、誠実な態度にすっかり彼の事が好きになっていた。彼も奇妙な日本人がいろいろなリンクスコースを回っている事に興味を持ったようで、junhiroが去年行ったバンドンデューンズの話も興味深く聞いてくれた


マイクとは固い握手をし、junhiroがアメリカに出張に行く際にまた会おうとわかれた。そして別れ際に、「ジョンはMount Julietの事を悪く言ったけど、きっと気に入ると思うよ。僕も回った事があるけど、素晴らしいコースだったよ」と、教えてくれた。この旅で新たな友人ができた喜びでMount Julietへと車を進めた

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