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まだまだ続く。三木はタブレットをスクロールした。 「我々が生き残れたのは、防護服を着た技術者とAIロボットによる原子力発電所の運営で電力が確保できたことと、その電力による光で、工場内で作物の栽培され、畜産も可能になり、食料の確保ができたことによる。それができなかった地域は、次第に人がいなくなった。 原子力発電所以外の発電所は、ミサイル攻撃によって破壊されていた。多くの原子力発電所は攻撃されなかったが、作業員の避難のため作動不能、メルトダウンに陥っていた。攻撃がなくなっても、原子炉からの放射線で近づけない。運営できたのはほんの一部の発電所だ。 我々はそんな時代に生まれた。太陽の光は物語の中にあるだけで、体験しないで育ったのだ。生まれたときからの環境、何の不便も感じなかった。この地球の他の地域については、歴史の資料や地理の書物で知っていたが、他の地域との通信手段もなく、狭い地域の中だけの生活であった。でも、何の不自由もなかった。 我々の祖国日本がどうなっているか、連絡もとれなくて、不明であった。ただ、ドミニカに避難した日本人とは避難当時から連絡をとりあっていた。」 (今の日本は・・・・、偵察衛星の映像では、もとあったところには島1つもない、大西洋に移転している。移転前を知っているから不思議なだけで、移転後に生まれた子供にとっては、何の不思議もないということだ。) 「悲劇に気が付いたのは、我々が成人してからだ。結婚したカップルが何組もいるのに子供がいない。何年も子供が1人も生まれていない。最年少の子供が5歳だった。 狭い地域である。子供が1人も生まれない年もあった。生まれる子供が少ないのは、大地に紫外線が降り注ぎだしてから、ずっとそうであったから、誰も疑問に感じなかった。ところが、何年もなんてことはなかったのに、4年間ゼロだったのである。 我々は連絡のとれるすべての地域に問い合わせた。どの地域も同じであった。今生きている人は、いつかは死ぬ。今生きている人が死ねば、我々の知っている地域の人類は全滅する。寿命を考えれば、100年もない。 我々の知っている地域に起こっていることが、知らない他の地域には起こっていないと考える方が不自然、地球全体に起こっている人類の危機と考えた。 そんな絶望の中で、人工的な人たちの育成と時空移転装置の開発がなされた。 20××年の日本を現在2×××年より495年後に移転するようにセットした理由はすでに説明している。約500年後だから、日本が移転してきたときには我々はいない。ただ、発動のセット後に人類の集落が見つかったように、この地球に人工的な人たち以外に、まだ生き延びることができる人類がいるかもしれない。 悲劇の未来に移転してきた日本への説明は以上である。 すべてのことを説明したとは思わないが、我々の説明できることはもうない。さらに、未来を切り開くのは、やってきた日本と残っている人たちである。」 そして、三木はその続きに目を通して、真っ青になり、タブレットの電源を切った。
October 15, 2025
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三木はさらに読み続ける。 「敵意を持ったままではあるが、攻撃することもなく、静かな状況が続いた。平和とは言えないが、地球上どこにも、国同士の戦いはなかった。 人類ははたくましい。都市が水没しても、高層ビルは島の様に海面から出ている。そこを根城にして船で行き交い生活している人たちもいた。陸地が減っても、戦いさえなければ生活していける。 ところが、恐るべきことが進行していた。 気付いてはいたが、無視していた。低軌道上の人工衛星は1年ほどで大気圏に突入し燃え尽きる。高速インターネットを提供するためには、その人工衛星を毎年8000基ほど打ち上げ続けなければならない。そして、それらが毎年大気圏で燃え尽きている。生じたアルミニウム硫化物の微粒子はオゾン層を破壊する。 気付いていたのである。しかし、その影響が微々たるものだと、便利さを優先したのである。微々たるものが蓄積されればどうなるかを知っていたのに。 ミサイルによって破壊された人工衛星はスペースデブリになったが、いくらかは大気圏に落下し燃え尽きた。そのことが引き金になったのか、極地方のオゾンホールが広がり始めた。 そして、オゾン層が破壊されると、地上に強い紫外線が降り注ぐようになり、我々の祖先は地下に潜った。地上へ出るには防護服が必要な環境になったのだ。 争った国も争わなかった国も関係なく、地下に潜るか海底に潜むかしか生き延びる手段がなかった。海底に都市をつくる準備などはしていなかった。時間的余裕もなかった。しかし、地下街や地下室があった。窓から入る紫外線を遮れば、建物の中で生活できる。」 (強い紫外線が降り注ぐ外には出れず、だから、地下に潜って日光を浴びずに育ったせいだと言ったのか。)三木は、はっきりと確信していた。この惑星は未来の地球で、そこに転移したのだと。そして、未来の地球の悲惨さを嘆いた。 「生き延びる手段はあったが、食料とエネルギーの確保という問題に直面して、それが解決できないまま、多くの人が死んでいった。その数は、戦争や事故で死ぬ人の数などとは比較にならなかった。人類の半数以上が死んでいった。そして、年を追うごとに、半分、更に半分と人類の数が減っていくのである。 そうなって初めて、人種の違いとか、宗教の違いとか、イデオロギーの違いとか、国の違いとか言っておれなくなり、人類が協力し合うようになった。」 (どうにもならなくなるまで、協力しないのは、今のこの世界も同じだ。日本に協力している国も日本の科学技術を取り入れて、日本に追いつき追い越すためであり、どの国も、日本の軍事力に平伏しているだけで、隙あればと思っている。そう思っていないのは、人工的な人たちだけだ。猫耳、熊耳の人達の集落、なつかしい、しばらく行っていない。)三木はそう思った。 (でも、待てよ。政府はここが地球と分かっていて、認めていないんだ。他の国はどこに行ったのかという切り札でもって。これが表に出れば、その切り札もなくなる。絶対に秘密にしたい。)そう考えたとき、三木は自分の身が危ないことを感じ取った。 (都合の悪い秘密を知っている者を暗殺する国家をいくつも見てきた。日本だけは例外なんて誰が言える。) そう考えた三木は、いつもなら、調査したことはすぐに報告していたのだが、今回は報告を見送ろうと思った。
October 14, 2025
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さらに手紙は続く。 「我々がなぜ子孫を残せなくなったかは正確には不明であるが、このような現状になった出来事は、記録にあるから、それを説明する。 この記録は、我々の祖父母の時代の出来事であり、親の世代が記録したものを我々が書き起こしたものである。歴史は正確に伝わるものではなく、現在の認識でしかない。これから記述することは、当然、我々の歴史認識でしかない。 それは、AIによる雇用カットの進行による雇用不安から始まった。 2022年にChatGPTが公開されてから、急速にAIの実用化が進展した。シリコンバレーの各社はAI投資を行って性能向上を目指し、企業向けのコンサルタントはAIの活用による効率化を全ての産業に提唱した。人間の仕事が急速にAIに置き換わっていったのだ。 大学卒業レベルの知的職務もソフトウェア技術者の仕事も、AIに置き換わって、会計、法務、監査などの文書管理、カスタマーサービスの現場管理などは自動化が進行した。 AIそのものを扱う仕事もデータサイエンスなど大量のデータを扱う仕事も同じで、少人数で済むようになった。 経営者もAIに熱心で、メーカーは本社の事務職を一気に削減、小売りの大手はAIが管理するロボットなどの導入、人手不足の解消が人手不要に置き換わる。 人はいらなくてもエネルギーはいるから、地球温暖化も何のその、化石燃料の使用が膨れ上がる。シベリアの凍土も溶けだし、メタンが大気中へ、それでますます気温が上がる。 雇用不安と環境不安は社会不安を導き、どの国も自国第1主義に陥っていく。自分の国を第1に思う心境は当然と言えば当然だが、それが過ぎると排他主義になる。」 (まてよ、これは移転する前の地球の状況ではないか。)三木はそう思った。 「南極の氷もほとんど溶け、海水面が上昇して国土が消滅した島国の人たちを受け入れる国はどこにもない。船上でずっと暮らすわけにもいかないから、密入国で陸にあがる。生きるためには略奪も必要になる。そして、島国だけでなく、赤道付近の人たちは、高い気温のため生活できなくなる。しかし、どこも助けてはくれない。どの国も自国に問題を抱えていて、他国にかまっていられないのである。 大陸の平野部にまで海が上昇してきて、ついに悲劇が起こった。 同盟国も助けてはくれない。どこからも援助がない。どうにもならなかった国から、弾道ミサイルが発射された。理由は分からないが、国内の危機的不満を、外に敵をつくることで逸らしたかったのだろうとの当時の所見があった。 弾道ミサイルの発射を探知した人工衛星は、ミサイルの迎撃を指示し大気圏外でミサイルを破壊した。 軍事衛星を破壊しない限り弾道ミサイルの攻撃ができないことを悟り、今度は人工衛星を攻撃する。かくして、人工衛星の攻撃とミサイルの都市攻撃合戦が始まった。 同盟国との通信を断つために海底の通信ケーブルも破壊しあい、世界戦争の様相を帯びてきた。 人々は地下の核シェルターへ避難するが、核兵器は使用されなかった。核の使用は敵も滅ぶが、自らも滅ぶことを知っていたのだ。 水没しかけているニューヨークにミサイルが飛んできて高層ビルが破壊する。幸い、人々は水没のため避難していたので、人的被害はなかった。 長い間ミサイルの打ち合いが続いたが、破壊されたのは敵対国や同盟国の都市だけで、多くの戦いに参加していない国は何の被害もなかった。 そして、停戦の合意もないまま、自然に戦いが終結した。 発射するミサイルが無限にあるわけではない。弾がなくなれば終わるしかない。ミサイルの製造工場も破壊され、再生産には時間がかかる。戦闘機も爆撃機も無人、潜水艦も軍艦も無人、ゲームの様に互いに破壊しあえれば、そのうちなくなる。敵国まで生身の人間が侵攻して攻撃するような過去の戦い方の手段は、どちらも持ち合わせていなかった。 日本もミサイル攻撃を受けた。しかも、平野部のほとんどが水没したために、多くの国民がアメリカに避難していた。それが、我々の祖先だ。」 (予想していたことだが、古の民とは日本人ということだ。・・・であれば、人工的な人たちの言語も頷ける。戦いは・・・。我が国だって攻撃はまず軍事施設と軍事工場。破壊されて生産不能になるのは当然だろう。で、なぜ、終結したのに、滅亡なのだ?)
October 11, 2025
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日本大使館に戻った三木は、洞窟で撮影した映像を日本に送った後、手に入れたUSBメモリをタブレットに接続し作動させた。タブレットに鮮やかに日本語の文字が浮かび上がった。 「この文書は20××年頃の日本への手紙である。今の記録媒体では再生できないことを懸念して、データ記録媒体歴史資料館から20××年の頃の記録媒体DVDとUSBメモリを譲り受け、それらに書き込むことにした。 我々は、宇宙の時間や空間の歪や揺らぎの研究から、一定の空間を物質と共に移転させる方法を発見し、時空移転装置を開発した。その装置の発動には莫大なエネルギーが必要なため、この地球に残っているすべての核資源をかき集めた。幸い、核兵器は使用されなかったので、必要な量を集めることができた。 西暦20××年の日本を西暦2×××年の現在から495年後に移転するように設定し、発動させた。495年後に設定したのは、500年も経てば植物によって大気中の酸素濃度も上がり、紫外線による酸素のオゾン化も進行し、オゾン層が回復するとの計算による。」 三木は愕然とした。日本列島の移転は不思議な超自然現象ではなく、これを残した古の民の作為的な操作なのだ。三木は古の民からの手紙を読み進める。 「時空移転装置を発動させた直後、ドミニカの研究所にいる仲間から、南の方に集落をつくっている人たちがいるという情報が入った。 バハマ諸島やキューバなどの島がほとんど水没し、ハイチやドミニカの国があるイスパニオラ島に人々が避難していた。二つの国は難民を受け入れており、日本人も避難していた。 その情報により、調査に出向くと、多くの人が自分の身の危険もかえりみず攻撃してきた。彼らはポルトガル語で我々を侵略者と言った。そして、驚くべきことは彼らが防護服を着ていないことだった。 我々は場所と言語と港のたくさんの船から、海を渡ってきたブラジル人ではないかと推定した。彼らの集落には子供たちもいた。これは人類にとって希望であった。この希望をつぶすわけにはいかない。我々は退却した。」 (ドミニカの研究所?そうか、バーキー王国の古の民の遺跡だ。サンパル皇国の経典に、古の民を追い払ったという言い伝えがあった。空が真っ白になりそして真っ黒になったというのは、時空移転装置なるものの発動のせいか。) そう思いながら、磁気媒体が500年も保持できるのは、箱の材質に秘密がある気がしていた。 さらに読み続ける。 「我々は、時空移転装置を発動させたことを後悔した。人類の希望の芽が消え去ったと思っていたが、まだ、人類の希望が残っていたからだ。しかし、発動させたものを止めることができない。この操作が吉とでることを祈るだけである。 我々は高度な科学技術を持てば危機を救えると信じていたが、それが過ちであったと気付いた。それがために滅ぶこともある。そんな当たり前のことにやっと気付いたのだ。 この後悔が、この世界に呼び込んだ日本に向けて手紙を書くことを決心させた。」 (サンパル皇国の人たちが人類の希望?どういうことだ。) そう思った三木は、さらにタブレットをスクロールさせていく。 「日本列島を、元の位置ではなく別の位置に移動させたのは、もとの位置では、移転後、孤立した日本が滅ぶと考えたからである。元の位置には周りに何もなく、食料もエネルギーもすぐに枯渇し、移転で混乱しているのに、さらに大混乱に陥る。だから、我々がつくった人たちが集落をつくって住んでいる地域の近くに転移させたのだ。その地域には油田もあり、当面は食料もエネルギーもなんとかなる、そう思った。 この地球は紫外線が強くて、我々は防護服なしでは外に出ることができない。外での作業はAIロボットがやっているが、外の環境で生きていける人をつくれば、外での活動が効率的になると思った。だから、細胞融合や遺伝子工学を応用して、人をつくることを試みたのだ。 試みは失敗の連続であったが、偶然、人工的な人が誕生した。サイボーグでもロボットでもない、生命体なのである。この人工的な人は繁殖もする。それは、我々にとって、希望であり夢であった。 この偶然の成功に気をよくしたアニメ好きの研究者は、エルフやドワーフによく似た人たちもつくった。河童、鬼、天狗など考えられる空想上の人も試みたが失敗に終わった。しかし、成功した人工的な人たちは、この過酷な地球環境の中で生きており、繁殖もしている。 試行錯誤の結果の偶然だったので、原理や手順が不明で再現ができないが、確実に人工的な人たちは増えているのだ。 我々は子孫を残すことができない。我々の世代で人類の歴史が終わる、そんな絶望の中を我々は生きているのだ。原因は、降り注ぐ強い紫外線のせいだとか、メルトダウンした原子力発電所の原子炉から出る放射線のせいだとか、地下に潜って日光を浴びずに育ったせいだとか、いろいろ言われているが、よく分かっていない。我々は深い絶望の中でも、かすかな希望の光を見出そうとあがいていたのだ。 我々は、人工的な人たちにいろいろなことを教えた。彼らは優秀であった。呑み込みはAIロボットより速いのではと思うほどであった。AIロボットと決定的に違うのは、彼らには主体的な意思があるということだ。生物学的な分類でいえば、紛れもなくヒトなのである。」 (伝承にあったように、猫耳、熊耳、尖った耳の人たちや小さき人たちは、古の民がつくったのだ。サンパル皇国の人たちは、つくられたのではなく、ここに住んでいた人たちだ。古の民が彼らを人類の希望といったのは、彼らには子供がいるからなのだ。) 三木は、古の民の高度な科学兵器に脅える必要がなくなった安堵感よりも、間近に絶滅が迫っている古の民の悲しみを思い、深いため息をついた。
October 10, 2025
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(南北緯度5度の範囲の気温が50℃~60℃ですか。1時間程度の航海なら冷房の効いた船室にいれば何とかなりそうだが、1時間で通過となると・・・、それに高温に船が耐えられるかどうかも・・・。そんな経験もないから何とも言えない。安全に通過ですか、無茶な作戦を。) 頭を抱えているのは、水上戦術開発指導隊司令になった渡辺であった。部下に検討させる前に、自分なりの解決方法のめどをつけておこうと思っていたのだ。渡辺には大量の機材と人員を運ぶ手段だけで、目的などは知らされてなかった。 渡辺はふと思い出した。 「ご栄転おめでとうございます。海しか能のない男がちゃんとしがみついているではないですか。」という三木からのメールであった。人を食ったようなメールを受け取ったときは、三木がどうしてメルアドを知っていたのか不思議だったが、これで三木に連絡ができると思った。 かなり前のメールであるから、三木は日本にいないかもしれない。でも、インターネットは海外ともつながるようになっている。西方大陸東岸基地、アイロン港湾基地、ジュラス東港湾基地、スパン南基地、そして今建設中のスリム港湾基地とも情報の共有ができるのだ。 (どこにいても通じるはずだ。三木ならどう答えるか尋ねてみよう。) 渡辺は三木からのメールの返信で、南北緯度5度の範囲の通過方法を尋ねた。 渡辺は、エラーになるかもと半信半疑であったが、メールは発信された。あとはその答えを待つだけである。 しばらくすると、返信が届いた。 「お祝い返しのメールかと思ったら、専門のあなたが素人の私に質問ですか。素人なりに答えましょう。」相変わらず、人を食った口調である。 「今、建設中のスリム港湾、そこまでは、貨物船や客船で機材や人員を運べますね。」 (まだ、公開していないスリム港湾基地なのに、どうして知っているのか。)と三木は思った。 「高温の海上の通過に不安があるのなら、海上を止めて海中にすればいいだけです。潜水艦は物を運ぶのに適していないが、人を減らせば、物も運べる。少なければ、潜水艦の数を増やせばいいだけ。何隻あるか知りませんが。潜水艦で運ぶのは、空港をつくる人とそのための機材だけ。で、オーストラリア大陸の海岸線に空港をつくる。」 (ちょっと待て、オーストラリア?どうして三木が私の知らないことを知っている?)渡辺は佐川や日野が言ってた「三木は只者ではない。」という言葉を思い出していた。 「船がダメなのですから、港をつくる必要はない。空港ですよ。航空自衛隊には戦車も運べる輸送機があるはずですから、重い機材も運べる。素人考え、参考になったでしょうか?司令殿♡」 ・・・・・・・・・・・・・・・ 三木の心は軽かった。渡辺からのメールの返答に少し時間を取られたが、諦めかけていた洞窟の発見が成功したからである。 三木はトムに案内されて、その洞窟に来ていた。相変わらず黒いリュックを背負っている。地下に続く階段を見て、(間違いなく古の民の洞窟だ。)と思った。 古の民のものと思われる未知の洞窟、秘密保持のためには、トムやトメリア王国の兵たちを洞窟の前に待機させ、三木は心細くても1人で階段を下りて行くしか仕方がなかった。 階段を下りるにつれてだんだん暗くなり足元が見えなくなる。三木は足元に明かりを灯してゆっくりと降りて行く。ところが、深くなるにつれてだんだん明るくなり、階段の最下部では明かりの必要がなくなった。見覚えがあった。バーキー王国の古の民の遺跡と同じだ。明り取りの穴が天井にいくつも開いていた。立体映像投射装置のような機械、パワードスーツのようなものが入っている朽ちかけた木箱、三木は黒いリュックからタブレットを取り出し撮影する。 バーキー王国の時の様に調査隊の派遣というわけにはいかないので、細部にわたり撮影する必要がある。中にあるものもバーキー王国の古の民の遺跡とほぼ同じだが、レーザー銃のような棒が見当たらない。そして、テーブルの上に置いてある宝石箱のような大きさの材質不明の箱を撮影すると、三木はその箱を開けてみた。簡単に開けることができ、なんとその中にはDVDかCDかと思われる円盤とUSBメモリと思われるものが入っていた。 三木の持っているタブレットはDVDもCDも再生できないが、USBの端子はある。再生してみようと思ったが、撮影に多くの電力を消費していたので、途中で切れることを懸念して、持ち帰って再生することにした。箱の材質も調査するために、箱ごとリュックにしまい込んだ。 (他には何もないか。バーキー王国の古の民の遺跡もここも、人骨らしきものがないし、生活の跡らしきものもない。だから、研究所か何かで、人が去った後だと思った。でも、研究所を地下につくるだろうか。古に民、不思議な民だ。)そんなことを考えながら、三木は洞窟の階段を上り外に出た。 トムに「ここを立ち入り禁止にしてください。入り口に柵をつくって。」と言った。 そして、そのための費用と調査の礼金を払って、日本大使館にもどった。
October 9, 2025
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三木はトメリア王国の日本大使館にいた。当初、街中の宿で待機していたのだが、洞窟調査が長引き、結局、大使館で宿泊のお世話になっていた。 トムに会ってから1週間以上経っていて、洞窟発見の連絡はあったが、どれも自然の洞窟で人の手が加えられているものはなかった。 三木の持っているB5版のタブレットにメールが入った。日本からである。今までは、日本国内でインターネットが使用できたが、海外では無理だった。やっと通信衛星によって、海外でも使用できるようになった。多数の低軌道衛星ではないので、通信速度は速くないが。 メールの内容は、偵察衛星によるこの惑星の人の住んでいる場所の報告てある。すでに判明している国や集落以外に人の存在する反応がないということであった。広大なユーラシア大陸もアフリカ大陸もオーストラリア大陸もである。 この惑星の人類は少ない。昆虫と動物の天国である。 (古の民、未来の地球人と思っていたが、間違っていたのかもしれない。ここが地球だとすると、人類は滅んだ。今いる人たちは、わずかに残った人たちなのだ。サンジー教の経典に、北の空が真っ白になりそして空全体が真っ黒になって後に、やってきた古の民とあった。宇宙からやって来たのだ。宇宙人に滅ぼされた、古の民とは宇宙人かもしれない。としたら、古の民を探すのは無駄かもしれない。宇宙に去っている。) 三木は悩んだ。読みが正しければ、1週間も探せば見つかるだろうと思っていた。1国の軍隊が探しているのである。ところが、見つからない。 無駄も調査のうちと諦めて、調査の打ち切りを指示しようとした時、発見の報告が入った。しかも、地下に通ずる階段があると言う。 ・・・・・・・・・・・・・・ 西方大陸東岸地区の集落は、相変わらず、ガスも電気もない生活で貨幣も存在しない状態であった。しかし、農作物などと日本の農機具などとの交換で、畑の開墾が進み、ますます多くの農作物が収穫できるようになっていた。小さき人たちの集落も、日本の工具で作業能率が上がり、森の南側の草原に3つの集落が復活したことで、南側の仕事が増え、森の南側にもう1つの集落ができていた。 猫耳、熊耳の人たちの集落が森の北側に4つ、南側に3つ、そしてその周りの広大な農地、小さき人たちの集落が森の北側と南側に2つ、そしてその周りの森が、住民以外は立ち入れない保護区になっていた。住民たちは、油田地域、空港地域、港湾地域などに自由に出入り出来て、日本のものを交換していた。 西方大陸東岸地区の返還を求めていたアメリカは、日本の拒否に抵抗できずに、西方大陸北部の開拓に力を注いでいた。アメリカ軍の隊員たちは、戦車の代わりに重機を操作して、国土の開発にあたっていた。日本に頼らない独立の国家を目指して。高緯度の地域とはいえ、暖かいこの惑星では雪なども降らず、温暖で過ごしやすい気候であった。 日本政府は、どうしても不足するレアメタルを求めて、未知のオーストラリア大陸を開拓することを決定していた。かつての世界ではオーストラリアはレアメタルの産出国だったのだ。 ただ、問題なのは赤道を越えずに南半球には行けないと言う事であった。気温が50℃~60℃と推定される南北緯度5度の範囲をどうやって越えるのか。航空機ならば、成層圏を通過すれば、難なく南半球へ行ける。しかし、降りる空港がない。 オーストラリア大陸の開拓を決定したものの計画の立てようがなく、具体的な手段は自衛隊に丸投げされた。
October 8, 2025
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古の民のことは日本政府の秘密事項であった。バーキー王国にある古の民の遺跡調査を日本の調査隊が実施したのは、まだ事の重大さに気付いていなかったからである。今の日本の科学技術よりも50年、100年、いや1000年かも知れないほど先に進んだ国の存在が、公になると大混乱が起こる。だから、重要な秘密事項になったのだ。その調査に日本の自衛隊や調査隊を使わないのも、秘密を守るためだった。 三木がその場所のジャングルに目をつけたのは、海水面が上昇してアメリカの宇宙センターが移転するとしたらどこかと考えた結果である。施設設備は移転できなくても、人や資料は移転できる。 そして、洞窟だと考えたのは、バーキー王国にある古の民の遺跡が洞窟であったことと、長い年月が経っても地下であれば残っていると思ったからである。 「誤魔化して申し訳ない。本当の理由は訳あって言えません。人工的なもの、人が造った形跡がある洞窟を見つけてください。お願いします。」三木はそういって頭を下げた。 あるか、ないか分からないものを探せというのだ。頭を下げる以外になかった。 下野大使にも古の民のことは知らされていなかった。外務省から内調の者が行くから協力するようにと指示されていただけだった。しかし、下野は三木が調査しているということだけで、重要なことだと感じていた。 「まあ、お2人は知り合いでしょう。せっかくですから、席を用意しています。一杯やりましょう。」 下野はそう言って、2人を宴会場へ案内した。 ・・・・・・・・・・・・・・ 日本の報道番組では、海底の様子を隠していた政府を批判していた。そして、この惑星が地球であると主張するコメンテイターは、反地球論の高瀬教授を、体制にしっぽを振る政府の犬とまで言っていた。高瀬は純粋に反地球論を信じており、信じてもいないのに都合がいいというだけで、それに乗っかったのが政府である。 地球だと主張したコメンテイターも、他の国がどこへ行ったかという疑問で地球だとは思っていなかった。話を面白くする番組の意向に沿って主張しただけである。報道番組は報道という名の番組であり、バラエティーなのである。 政府への批判と共に、雲で覆われた未知の赤道付近の推測と、その探索の必要性の議論もさかんであった。緯度が南北5度以内の地域が衛星からの映像では、地形も分からないのである。まるで金星の様に雲が晴れない。調査隊を派遣して調べる以外にないと言う声が多かった。しかし、政府は調査隊を派遣する気はなかった。 実は政府には、地形も分かっていたのである。80m海面が上昇した地球の地形であると。 上空の対流圏を飛行することは上昇気流が激しくて難しいが、成層圏ならば問題なく飛行できる。地表の表面温度を赤外線の測定で推定し、陸地と海との区別ができるのだ。 しかも、その地域がとんでもない温度であることも分かっていた。しかし、衛星からの映像だけを公表して、そのことは公表しなかったのだ。 元の太陽系で最も温度の高い惑星は、太陽に一番近い水星ではなく、金星であった。厚い硫酸の雲に覆われていて、大気のほとんどが二酸化炭素である金星は温室効果も高く、夜の放熱も少なくて、地表の気温は460℃と推定されていた。 この惑星の赤道付近は雲で覆われているが、それは水滴であり、金星のようなことはない。しかし、地表の気温が50℃~60℃と高く、とても生き物の住める世界ではなく、調査隊を派遣できるような環境ではなかった。高温でも生きていけるバクテリアや植物は生存可能かもしれないが。
October 6, 2025
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日本ではマスコミが騒いでいた。秘密にしていたケネディ宇宙センターのロケット発射台やニューヨークのビルの瓦礫などの海底の映像が表に出てしまったのだ。政府の後押しでこの惑星の名称をアンチアースと決定した矢先であった。反地球を英訳しただけの名称であるが、正式名称にしたのである。 映像は厳重に保管されていたはずである。しかし、デジタルデータとしての映像が外に漏れないなどというのは幻想でしかない。完璧なセキュリティなどというのはあり得ないのである。海外からのサイバー攻撃はなくなったが、国内からはあり得る。疑えば、職員のコピーの持ち出しだって考えられる。ネットでの拡散も速かった。 ともかく、公表されてしまったのである。政府は何があってもアンチアースの一点張りであった。もし地球なら、ほかの国はどこへ行ったんだと反論して。 真っ先に国に帰ると言い出したのは、在日中国人である。「どうぞ、ご自由に」と以前からの対応をするが、帰っても何もない。広大な国土であるが、焼き畑農業から始めなければ、何も作物ができないのである。それに、移動する手段もない。他の国も同じであった。帰りたくても帰れない。 だが、アメリカは違った。国土は開発され、しかも多くの人が住んでいる。当然、アメリカの土地だと主張する。日本は、この惑星はアンチアースで、アメリカの土地ではない、西方大陸北部に国土をもっているはずと主張する。ケネディ宇宙センターのロケット発射台やニューヨークのビルの瓦礫などは海底ではあるが、確実にアメリカのものであるので納得しない。 平行線の対話が続く中で、トメリア王国はすでに国家があるので、侵略行為になるからとアメリカが諦めた。しかし、西方大陸東岸地区の油田や集落は日本が管理しているのだから、譲れと強く迫る。日本もこの場所が生命線である。譲るわけにはいかない。 日本は強気に出た。在日アメリカ軍の基地は全て西方大陸北部の開発と引き換えに返還してもらってるし、基地の備品や弾薬などの在庫も日本が買い上げていた。持ち込みが禁止されていた核弾頭も日本の管理下にある。 西方大陸北部のアメリカの港に軍艦などが揃っていても、打つべき弾は日本が握っている。それに、憲法改正、自衛隊とは名ばかりで、民間の企業もミサイルなどを量産し、軍事大国になっていることをアメリカは知っていた。西方大陸北部の開発をする以外にないのである。 ・・・・・・・・・・・・・ 三木は再び日本大使館に来ていた。 「要望の通り、手配しましたよ。日本の外務大臣に会うのは余程のことがないと無理ですが、この国の外務大臣には簡単に会えますからね。あはは、先日どこかで言ったですね。で、軍務大臣を紹介してもらいまして、担当の責任者が来てます。隣の部屋で待ってます。」 隣の部屋には、かつて、日本で捕虜として過ごした鉄砲隊の隊長トム、三木とはジョージ侯爵の救出で一緒だったトムがいた。 「どういうことです。ジャングルの中の洞窟を見つけよとは。ケイン軍務大臣から指示されて探していますが、大使に尋ねたら、知らない、あなたに聞けと言うし、理由を教えて下さい。」と、挨拶もそこそこトムが尋ねた。 「ええ、理由ですか。何か面白いものでも、見つからないかと・・・・。」三木は返答に困る。 「何ですって、日本からの依頼だから我々は探していますが、そんなことに命はかけられません。」 ジャングルの調査は命がけなのである。人を襲う猛獣がたくさんいるし、毒蛇もたくさんいる。それに、樹木で空が覆われて薄暗く、景色はどこも同じで、迷い込んだら出ることができない。そんな中に入っていくのは自殺行為である。 樹木を切り倒し、火炎砲、ガスバーナーの筒を大きくしたもので焼き払いながら、少しずつ進んで行くしかないのである。だから、軍隊なのだ。 日本の調査隊もいろいろな場所で地質調査を行ってきたが、ジャングルだけは避けていた。バーキー王国だけジャングルの調査ができたのは、そこに住んでいる人たちがいて、その人たちの案内があったからである。その人たちも木の上に住んでいる。
October 3, 2025
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三木はバーキー王国在日大使の接待を受けた5日後には、トメリア王国の日本大使館にいた。 成田空港からトメリア王国のアイロン空港までの航空便が1日往復2便運航していた。異変があってから航空会社は海外の航路が断たれ、国内だけの運航で青息吐息であった。観光客はまだいないが、ビジネスで利用する客が多く、軍事用につくられた空港を民間に譲り渡していた。三木はビジネスの客と一緒にトメリア王国に入国したのだ。 「バーキー王国のシルビアという女性に私のことを教えたのはあなたですね。」と三木。 「そうですよ。美しい女性には弱いのでね。でも、所属だけですよ。それ以外は私も知りません。」 下野大使がそう答えたとき、猫耳の女性が入って来て、2人の前に紅茶を置いた。三木と下野は紅茶を飲んで1息いれた。 「日本にやって来て、私のいるところまで来ましたよ。」 「それは、すごい。執念ですね。私は無理だと思ったのですが。だって、三木は本名ではないのでしょう。偽名なのに会えたのですか、信じられない。」と下野。 確かに迂闊であった。以前の世界では日本に帰るたびに、新しい任務に就くたびに、三木は名前を変えていたのだが、異変があってからずっと三木のままだった。暗号通信の必要もない世界で、名前を変える必要もないと思っていたのだ。 「外務大臣に会ったそうです。外務大臣から官房長官に紹介されて。」 「外務大臣ですか、外務省の私ですら挨拶を聞くだけで、面識もないというのに。」 「相手は大使ですから、会おうと思えば会えるでしょう。」 「そうですね。私も、この国の外務大臣に会おうと思えば会えますね。」 「あはは、そんなことを言いに、ここへ来たのではないのです。実はお願いがありまして。」 三木はそう言って、1枚のプリントを下野に渡した。 そのプリントを1読した下野は、「わかりました。トメリア王国に要望してみます。で、どうします?宿泊の部屋を用意しましょうか?」と言った。 「いえ、街に宿を予約していますので、2日後に伺います。手配のほどよろしく。」 そう言って三木は、紅茶を飲み干すと、黒い長方形のリュックを背負って部屋から出て行った。 ・・・・・・・・・・・・・ 三木は、宿に立ち寄り部屋を確認したのち、黒いリュックを背負ったまま、トメリア王国の首都カバンナの街を散策していた。 以前来た時と街の様子ががらりと変わっていた。行き交う人の中に猫耳や熊耳の人たちがいなければ、日本と勘違いするほど、街並みは日本と似ている。違うのは、カバンナ城がそびえていることだけだ。 街の人たちの言語は英語か日本語、両方が混ざっている。この街では言葉で苦労することはない。そして、驚くべきことに、通貨が変わっており、トメリア円。日本の通貨がそのまま使える。 (ここはまるで仮装した若者が溢れる渋谷のようだな。猫耳、熊耳、尖った耳で溢れている。以前は奴隷だったせいで、建物の中に押し込められるか、農場で働かされるかで、自由に街を闊歩できなかった。今は生き生きと買い物をしている。ん、以前はいなかった日本人もかなりいる。まてよ、なぜ、あの黄色人種が日本人と言える?) 三木は重要なことに気が付いた。この惑星には、日本列島に取り残された人たち以外に黄色人種はいない。中国人も朝鮮人もモンゴル人もいない。黄色人種がいるとしたら、猫耳、熊耳の人たちだけだ。 (絶滅したんだ。この地球で何が起こった。核戦争か。古の民、お前たちは何をしたんだ。どこにいるんだ。)
October 1, 2025
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三木はバーキー王国大使館の門を通過すると、門番に呼び止められた。訪問の理由を言うと、周知していたのだろう、すぐに案内人がやってきた。懐かしい、熊耳だ。熊耳の案内人に連れられて、玄関まで行く間に熊耳や猫耳の人たちと出会った。きもちのいい会釈をしてくれる。彼ら、彼女らがアイドルのように人気があるのが理解できた。 建物の中に入ると出迎えてくれたのは、耳の尖った女性、大使の妹カルビアであった。背が高くなっていて、大使と区別がつかなくて戸惑った。 バーキー王国大使館にはいわゆるバーキー人は1人もいない。門番だけが日本人の警備員で、あとはすべて猫耳、熊耳、尖った耳の人たちと小さき人たちだけである。大使をはじめその人たちみんながバーキー王国の人という意味では、バーキー人とも言えるが。 昼食会とは名ばかりで、三木を接待するだけの会であった。三木の両側に猫耳の酌など食事の世話をするだけの女性、向かい合って大使とその妹、食事をするのは3人だけである。 「どうして、私の居場所が分かったのですか。」三木は疑問を尋ねた。 「母に尋ねると、トメリア王国の下野日本大使なら分かるかもしれないと。だから、下野大使に聞きました。」と大使。 「下野大使に尋ねても、所属ぐらいしか。」 「所属が分かれば、日本政府の人に聞けばいい。私はそのために、在日大使になりました。」 「大使になると言ったって、そんなに簡単には。」 「日本から大使館設立の話があった時に、父にお願いしたのです。父は、国王が王子の時、匿っていましたから、国王にお願いして、国王から外務大臣に話がいって。」 「そうですか。でも、政府の人も私のことを知っている人は少ないはず。」 「外務省の人は知りませんでした。外務大臣が官房長官なら分かるかもしてないと言って、紹介してくれました。」 (まいったな、外務大臣から官房長官までいってるのかよ。)三木は、大使シルビアと妹カルビアの顔をしみじみと眺めた。 三木にとっては、2人の姉妹もその母も助けたのは職務の1環、覚えてはいるがそれほど印象に残ることではなかった。しかし、助けられた側はそうではなかった。会って礼をするために大使として日本に来ていたのだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 軍事衛星からの情報は驚くべきものだった。この惑星の赤道付近は全く分からない。厚い雲で覆われていたのである。以前の地球であれば激しい上昇気流によって雲が生じるが、全体が雲で覆われることはなく、雲が移動して地形が衛星から分かる。この惑星は赤道付近全体が雲で覆われていたのである。 それ以外の地域は、80m海面が上昇した地球の海岸線と同じであった。ただ、氷の全くない南極大陸は上昇したのかあまり変わらなかった。 陸地は緑の大地であった。草原か森林かジャングルか、とにかく植物で覆われていたのである。岩肌が見えるのは、極地方の一部か、高山の山頂付近か、できて間もない火山島だけであった。氷はどこにもない。 この情報をうけて、マスコミの報道が過熱した。いろいろな意見が出たが、主流は高瀬教授の反地球論であった。 大気の流れも調べられた。地形や季節によって変化するが、以前の地球であれば、大雑把に言えば、赤道の上昇気流が上空で高緯度に移動して緯度30度付近で下降するハドレー循環、30度付近の下降気流が地上を高緯度に移動して緯度60度付近で上昇するフェレル循環、そして極循環の3つの循環であった。 ところが、この惑星は赤道付近の激しい上昇気流が上空で高緯度に移動して極で下降するたった1つだけの大循環であった。自転による渦によって中緯度地域に上昇気流が生じて、至る所に積乱雲が生じていたが。 海底にロケットの発射台と思われるものが見つかってから、海底も詳しく調べられた。ニューヨークの海面に突き出るはずの摩天楼のビルも 瓦礫となって沈んでいた。海底の様子は秘密にされて、まだマスコミに嗅ぎつけられてなかった。 偵察衛星を打ち上げて、スペースデブリがたくさんあることも分かったが、このことも秘密にされた。 偵察衛星の写真の中にも、秘密にされたものがいくつかある。エジプトはカイロなどほとんど海底に沈んでいて、砂漠もなかったが、ギザのピラミッドが緑色の苔に覆われて映っていた。それだけでなく、樹木に覆われて判別し難いが、確かに万里の長城も映っていた。そのほか、高所にある建造物がいくつも大木の陰に映っていたのである。紛れもなくここは地球なのだ。
September 26, 2025
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日本に帰った三木は、休む間もなく、ヒューストンから避難するところとして目星をつけた場所の探索の計画書を作成していた。 (渡辺艦長は丘にあがり、艦長ではなく水上戦術開発指導隊司令になったそうだ。ご栄転か。俺はまだこんなことをやっている。俺の次のポストはあるのだろうか。あるとしたら、室長か。それはないよな。室長はキャリアの腰かけ、入れ代わり立ち代わり若い奴が俺の上司になる。) そんなことを思いながら、渡辺にお祝いのメールを送り、計画書の作業をしていると、職員がやって来て、面会者が来ているから応接室へ行くようにと言われた。三木の居場所も仕事も秘密であり、今まで面会者などというのは一度もない。そもそも面会の許可が下りること自体が不思議なことだった。 応接室のドアを開けると、耳の尖った女性と室長がいた。 「やっと、会えた。」その女性は甲高い声で言った。 三木は耳の尖った女性を何人か知っているが、どの女性もよく似ていて区別がつかなかった。 「バーキー王国在日大使です。」と室長。なおさら分からない。 「シルビアです。助けていただいた。」 三木は何年か前にバーキー王国で兵に襲われている姉妹を助けたことがあった。その姉だった。 お礼がしたいので、大使館へ来て欲しいということだった。室長は職務だとばかり行けと言う。 三木は気乗りはしないが、明日の昼食会に伺うことにした。 日本は各国に大使館を設けたが、日本に各国の大使館はつくらなかった。表向きは、在日大使に連絡しても通信の不備ですぐに本国に伝わらない、本国にある日本大使館に連絡して伝える方が速いからということであった。本当は、まだ日本のことを知られたくなかったのだ。限られた者しか入国させなかったのも同じ理由だ。 ところが、この惑星が地球かもしれないということになって、国民の目をそらす必要が生じた。戦争も終わって、新たな話題をつくる必要が生じたのだ。そこで、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たち、耳の尖った人たちの登場である。 政府はバーキー王国に働きかけ、大使は耳の尖った女性、職員は猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちで構成してバーキー王国大使館を設立したのだった。バーキー王国は宰相が猫耳の人であり、建設復興大臣は小さき人、保険厚生大臣は耳の尖った人、外務大臣も耳の尖った人、治安維持長官は熊耳の人といろいろな種族の人が国の中枢にいる国だから、日本政府の要望に簡単に応ずることができた。 バーキー王国大使館には連日、マスコミが押しかけ、大使だけでなく、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちはまるでアイドルであった。 バーキー王国の大使館が日本にできると、トメリア王国、ジュラス都市国家、サンパル皇国と、次々に大使館ができた。安定していないナガアとスリム、そして東方の大陸の4か国はまだであるが、やってくるのは時間の問題である。 政府は、西方大陸の北部を領土にと主張していたアメリカに協力することにした。以前は、どうぞご勝手にと無視していたので、いくら広大な土地を得ても森林だらけでどうしようもなかった。日本の援助なしに開拓などできないのだ。 アメリカの西方大陸の北部の開拓に協力することになったのは、西方大陸東岸地区の集落や油田を守るためであった。日本にとって重要な食料とエネルギーの供給地なのだ。 アメリカに守ってもらうべき敵はもういない。国内のアメリカ軍の基地は必要ないのだ。行き場がないから抱えていただけで、西方大陸の北部へ移動してもらえれば、願ったり叶ったりである。 マスコミの関心事は、耳の尖った人たち、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちの動向だけでなく、この惑星の正体にもあった。新惑星科学賞を受賞した高瀬教授が連日テレビに映り、反地球論を展開していた。政府のほかに目をそらす策は成功していたと言える。
September 24, 2025
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リベルテ国のトイヤ港湾地帯を日本の租借地とし、海軍基地の建物が仮の日本大使館となり。川本が大使として着任した。今までの租借地は5年間の期限付きの契約であったが、5年ごとに契約をし直す形になった。日本大使館の建物も、首都カンナに建設中で、海軍基地の建物はそれまでの臨時大使館であった。交渉で未開発の地域の日本の地質調査が認められ、発見された鉱床の採掘権を日本が得ていた。 トイヤ港湾は日本の港湾工事がなされ、大型の船舶も接岸できるようになっていた。多くの日本の船がトイヤ港にやってきており、商談や調査がなされていた。 スパン帝国は国名をスパン王国に改め、皇太子がスパン国王になり、国王は君臨すれど統治せずという立憲君主制の国家に変わっていた。ロマスク帝国に亡命していた皇太子に立憲君主制をたきつけたのは他ならぬ日本であった。スパン王国も首都マドラに日本大使館を建設中である。 スパン南基地には軍事上の機密があるもので取り外しのできないものが多く、港湾、空港を含め、現状以上に広げないという条件で日本の領土と認めてもらった。元々何もない国境近くの未開の地だったことも幸いした。基地にはリベルテ国に行っていた76式戦車など戦闘車両も戻っており、護衛艦かがも停泊していた。 ロマスク帝国も首都カーペに、プロリ共和国も首都ポンリに日本大使館を建設中であった。日本と東方大陸の4か国との交易も始まり、日本国内には多くの課題が残っていたが、国家間の状況は落ち着いてきた。 そして、惑星歴498年が暮れ、499年が始まった。伝承によると、古の民の帰還まで後1年。日本より50年も100年も、もしかすると1000年も科学技術が発達していると考えられる古の民。この惑星のどこかにいるのか、宇宙にいるのか、この惑星の実像を知るべく、日本は偵察衛星を多数打ち上げた。 第5章 (完)
September 23, 2025
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ハイル総統は地下室で自害し、二ホンの自衛隊と反政府集団とプロリ反乱軍がトスリン宮殿を制圧した。バーダンは、制圧はしたものの後のことを考えていなくて、しきりに日野に話しかける。しかし、日野には言葉が通じない。 日野は、宮殿制圧を護衛艦かがに連絡し、川本外交官に事情を話し、宮殿にきてくれるようお願いした。川本はお願いされなくても、戦いが終われば、宮殿に行くつもりであった。戦後のリベルテ国との交渉を指示されていたのだ。 しばらくすると、輸送ヘリで川本が到着した。日野とバーダンの間に川本が入り、やっと通訳付きの会話が成立する。しかし、実行されるのは、川本の指示であった。 まず、バーダンの集団の名称をリベルテ解放軍とし、リベルテ解放軍の勝利宣言をし、反抗している兵を投降させ、避難している市民を呼び戻すこと。日本は、リベルテ国の復興に干渉も関与もしない。 プロリ反乱軍も名称をプロリ独立軍と改め、すぐにプロリに勝利の伝令を走らせ、堂々と凱旋行進をして帰国すること。日本は、プロリの再興に干渉も関与もしない。 「それでは、二ホンの利が全くないではないか。」とバーダン。 バーダンだけでなく、プロリの将校たちもハイル総統の政権を倒したのは二ホンだと思っていた。 領土を1部取り上げられてもしかたがないとさえ考えていた。 「いえいえ、ちゃんと交易さえできるようになれば、お互いの利になります。あとは対等の交渉と言うことになります。」 対等の交渉と言ったが、言った川本もバーダンもそんな綺麗ごとの交渉などないことを知っていた。 「お願いですが、リベルテ国の復興のために、力をお借りしたいのですが、三木さんと言いましたか、あの方は?」 「三木?いったいどういう事でしょう。」 「この国で一緒に働いて欲しいのです。」 「そうですか、残念ですが、三木はもう日本に向かって出発しています。会う機会があれば、そう言ってたとお伝えしましょう。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 護衛艦かがだけがトイヤ港沖に残り、護衛艦いずも、まや、もがみ、あぶくま、そして輸送艦しもきたは帰路についていた。日本では港湾工事や空港工事の民間の船やプロリ、スパン、ロマスクと交渉を行う外交官たちの乗った船などが東方に向かって出発していた。 三木は護衛艦いずもの司令室にいた。 「三木さん、これが最後の船旅になりそうです。」 「えっ、どういうことです?」 「私も若くないですから。」 「自衛官は退官がはやいと聞いていましたが 、そういえば佐川さんもはやかった。」 「佐川さんは有能でしたから仕事がありましたが、海しか能のない私は・・」 「いえいえ、その能があれば、しがみつけばいいのですよ。」 「あはははは、面白いことを。」 そんな話をしていると、通信員がやってきて、「至急、いつもの定時連絡を入れるように。」というメモを三木は受け取った。 三木は船室に戻り、黒いリュックから受信機を取り出し、日本と通信。 「どうしたんですか、至急とは?」 「海底調査の結果、ありました、宇宙センター。ロケットの発射台が沈んでいました。」 「そうですか、やっぱり。」 「で、箝口令です。政府に衝撃が走りましたが、ここは反地球。それが政府見解です。」 「どういうことですか。」 「いくら地球と似ていても、地球でないから外国人は国に帰るとは言わない。でも、ここが地球だと分かったら、もとの国土に帰ると言い出す。」 「好都合ではないですか、在日外国人の問題が一気に解決ですよ。帰っても何にもないが。」 「察しのいいあなたらしくないですね。でも、アメリカは違う。ここが地球だと分かったら、西方大陸の東岸地帯、油田地帯など日本の手によって開発された地域を返せということになります。日本が生き延びたのはこの地域の食料と石油のおかげ、手放すわけにはいかない。下手をしたら日本列島もアメリカの領海内の島ってことにも。そうなれば、在日アメリカ軍と戦争、これは非常にまずい。そこで、文部科学省が新惑星科学賞をつくり、反地球論の高瀬准教授を受賞候補に、そして彼を教授に推薦することになりました。」 「分かりました、室長。でも、マスコミはかぎつけますよ。」 「だぶんそうでしょう。でも、何が見つかろうと、反地球で押し切るつもり、いや覚悟でいます。」 「そうですね。私はこのまま古の民の調査を続けていいのでしょうか。」 「それも重要なこと、だが口外しないように、古の民の件も秘密事項です。必要なものは用意するから、調査を続けてください。新たな任務が生じたら連絡します。以上。」
September 21, 2025
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三木は護衛艦いずもの司令室にいた。西方大陸東岸の地図を見ながら言った。 「これを見て、北アメリカの東岸だと最初に気付いた人はすごいね。」 「そうですね。私は言われても分からない。」と笑いながら渡辺艦長。 「海抜80mが海岸線ですよ。ニューヨークもワシントンも海の底、普通気付かないですよ。」 「見慣れている地図ではないですからね。」 「反地球とか言ってる人もいるようですが、艦長、どう思います?ここは地球そのものだという気がするのですが。」 「地球ですか?そうすると他の国はどこへ行ったのでしょう。それに、ニューヨークが海に沈んだとしても、ビルは見えるはずです。エンパイアステートビルはアンテナもいれると443mですから。」 「そうですよね。」 (まてよ、この惑星の年号の始まり、サンパル皇国ではサンジーが古の民を追い払った時からだった。リベルテ国では東の空が真っ白になり・・・・古の民が宇宙へ旅立ったときか・・・) そこまで考えると、三木は渡辺に礼を言って自分の船室に戻った。 三木は、黒いリュックから通信機を取り出すと、地球の北アメリカ東岸とこの惑星の西方大陸東岸の地図を見比べながら、日本と連絡。 「そう、トメリア王国の南の海、地球で言うと、フロリダのケープ・カナベラルがあったところ、その海底を調査してください。」 ケープ・カナベラルはNASAのケネディ宇宙センターがあり、ロケットの打ち上げが行われていたところだ。 (ジョンソン宇宙センターのあるヒューストンは海抜15m、当然海の底。ケープ・カナベラルは海抜3m、海水面が急に高くなるわけがない。避難する余裕がある。) もう、三木の頭の中は、この惑星が地球であると決めつけている。地球の地図を見ながら、都市の標高の表をチェックしながら、しきりに何かを見つけようとしている。 (ヒューストンから避難するとしたら、どこだ?) ・・・・・・・・・・・・ 三木の頭の中で、転移以外の疑問が繋がったのだ。 (リベルテ国の南に高い山並みが見えたが、雪や氷のない山頂だった。この惑星は暖かい。以前の地球では温暖化が懸念されていて、南極の氷が全て溶けると70m以上海面が上昇すると試算されていたが、高い山にある全ての氷河がなくなり、シベリアの凍土もきえてしまったら、80mぐらいは上昇するだろう。シベリアの凍土はメタンガスを封じ込めていたいたはずだから、その温室効果ガスも大気中に出る。それで、ますます暖かくなる。 海岸に砂浜がない。河口が中流のようで砂が少ない。これは海面の上昇が比較的短期間100年程度で起こり、それから何万年もは、年月が経っていないということだ。間違いない、500年程度しか経っていないのだ。我々が未来の地球に移転したとしたら、猫耳や熊耳の人たちの集落の違和感もリベルテ国の違和感も この惑星の不思議さが納得できる。古の民とは未来の地球人なのだ。 人工衛星の謎も、戦争があったと考えれば衛星がなくなることも想像できる。現代戦や未来戦において、軍事衛星の脅威は計り知れない。正確な偵察だけでなく、弾道ミサイルの発射や移動が探知できる。だから、戦いの真っ先に攻撃すべきは軍事衛星なのだ。衛星の軌道は決まっているから攻撃を回避することが困難で、簡単にミサイルの攻撃を受ける。通信衛星も気象衛星もGPSも軍事衛星になるので攻撃を受ける。互いに破壊しあえれば、やがて、すべてスペースデブリになる。1967年の宇宙条約で大気圏外の核兵器の使用が制限されたが、世界大戦レベルの戦争でそれが守られるはずもない。) 三木は自分で勝手に想像して身震いがした。
September 18, 2025
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日本では相変わらずリベルテ国との戦争に反対する声が多く、国会の審議が戦争関係にすり替わり空転することも多かった。マスコミも戦争反対の論調が多く、話題のほとんどが戦争であった。 この惑星のことも分かって来て、マスコミがそれを取り上げることも多かった。 この惑星の大気圏が調べられ、地表付近の大気の成分の割合は地球と同じで、二酸化炭素濃度も移転前の地球とほぼ同じであった。オゾン層も電離層も同様にあったが高度が少し低かった。ただ、上空のメタンガスの濃度が高いのがこの惑星の特徴であった。 植物は地球と同じ亜熱帯、熱帯の植物で、動物もその地帯の動物であり大型化していた。地球を水の惑星、昆虫の惑星と称した人がいたが、水も多く、昆虫の種類も数も多かった。 惑星の大きさ、質量、重力加速度、自転周期、自転軸の傾き、公転周期は地球と同じで、地球に多数存在していた人工衛星は皆無であったことは以前から分かっていたが、天体観測から新たに分かったこととして、太陽をまわる惑星もその衛星も、小惑星までもが地球のいた太陽系と同じであった。 そのことから、量子重力理論を研究している高瀬準教授がテレビ画面に映ることが多かった。 彼は反地球論を拡張して、反太陽系論を主張していた。彼の主張していたことが、次々と明らかになり、元の地球とは違うこの地球、反地球を決定づける証拠が見つかったのだ。 西方大陸東岸、トメリア王国海岸、バーキー王国周辺の島々、サンパル皇国などの海岸線が、元地球の北アメリカ大陸東海岸、中央・南アメリカ大陸のメキシコ湾・カリブ海側の海岸、大西洋・カリブ海の島々の海水面が80m上昇した時の海岸線と一致したのだ。 惑星全体は軍事衛星を打ち上げて調べるまで分からないが、一部の地域とは言えこの一致は高瀬準教授の主張を決定づけるものだった。ただ彼の反地球論では、日本列島が大西洋にあることが矛盾であった。日本列島はユーラシア大陸の東の端にある弧状列島である。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 二ホンの自衛隊と反政府集団とプロリ反乱軍は、トスリン宮殿がみえる位置で進行を止めた。コガタトラックに積んでいた自動小銃を反政府集団とプロリ反乱軍に配り、日野がバーダンに身振り手振りで説明する。銃の取り扱いと宮殿制圧の方法の説明だが、通じたかどうか、分からない。日野は川本外交官のいないことを悔やみ、警告の録音が終われば戻るように手配すべきだったと思った。 トスリン宮殿の周りが、リベルテの兵でも近衛兵でもなく、反政府集団とプロリ反乱軍で溢れていることを知った宮殿内の人たちは、逃げ場所を港の艇と勝手に決めて、港への出口で隠れ潜んでいる近衛兵に制止されるのも聞かず、飛び出して行った。港で待ち受けていた戦闘艇は味方ではなかった。 ダダダバン、ダダダバン、ダダダバン。射撃を受けて次々と倒れる。その中にニコルもいた。マイト中尉はニコルを知らなかったが、ほとんどの者が宮殿内の役人の服装なのに、1人だけ近衛兵でもなくリベルテ陸軍の服装だったので、死体を別のところに置いていた。 反政府集団とプロリ反乱軍がトスリン宮殿に入っていく。 ダダダダダ。ダダダダダ。二ホンから受け取った自動小銃が唸る。近衛兵が反撃する間もなく倒されていく。 一階を制圧したが、バーダンが探しているハイル総統もニコルもいない。港から逃げることが考えられたので、港への出口に向かう。 ダダダダダ。ダダダダダ。出口にいる近衛兵たちを射撃。(二ホンの銃はすばらしい。)バーダンはそう思った。 出てみると、戦闘艇の乗組員たちが死体を片付けていた。バーダンに気付いたマイト中尉が敬礼し、 「変わった奴の死体があるので見て下さい。」と言って、ニコルの死体のところに案内した。 バーダンには一目でニコルと分かった。しばらく眺めていたバーダンは、マイトに尋ねた。 「ハイルは来なかったのか?」 「はい、見ていません。」 ハイル総統は宮殿の地下室にいた。 「ゴザン、交渉は失敗したようだな。」とハイル 「降伏しましょう。」とゴザン軍務大臣。 「もう遅い。スパンでもプロリでも皇帝を処刑、一族まで殺害してきたからな。お前は助かるかもしれない。この部屋から出ていけ。」ハイルはそう言うと、銃を取り出した。 「早く出ていけ。無様なところを見せたくない、出ていけ。」 ゴザンが地下室から出ると、ズドン。1発の銃声が響いた。
September 15, 2025
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三木は、トイヤ港湾の海軍基地に残っているレアル大佐に尋ねていた。 「今年は何年ですか。」 「498年だ。」 「年号の最初の数え始めは?」 「数え始め?」 「498年の最初、元年,1年はどこから?例えば、この国の昔の建国からとか。」 「ああ、聞いたことがある。昔、明け方の東の空が真っ白になり、それが空全体に広がって、やがて空全体が真っ黒になったことがあったと。しばらくして元に戻ったが、それが天地の終わりで始まりだから年号の始まりになったと。」 「ありがとうございます。まだ聞きたいことがあります。スパン帝国も2つの街だけですか。」 「そうだ、街道にいくつかの村があるが。」 「スパンの南にロマスク帝国と言う国があるそうですが、その国も同じですか。」 「そこは知らない。」レアルはそう答えて、変なことを聞くやつだと思った。 (なんとなく、分かってきた。この地域の人口は少ない。この地域だけではない。西方大陸でもそうだった。この世界は科学技術の発達の割には歴史が浅い。この惑星で人類が誕生してからどれだけの年月が過ぎてから、年号を数え始めたか分からない。しかし、地球で西暦500年と言えば、日本では飛鳥時代より前の古墳時代、ヨーロッパではゲルマン民族の大移動、古代から中世の始まりの頃だ。そのころの地球の科学技術では思いつきもしない核兵器を造ろうとするのだから、異常である。たった2・3の街や村で国を名乗り政治体系ができるのは、この異常な知識のせいなのでは。そして、有り余るほどの未開の大地が自国にあるのに他を侵略しようとするのも、この異常な知識のせいなのだ。やはり、この世界はいびつだ。) 三木はそんなことを考えながら、窓の外を眺めていたが、ふと思いついて、レアルに尋ねた。 「古の民のことを知っていますか?言い伝えとか。」 「古の民、何だそれは?知らない。」とレアル。 「そうですか。では、我々と形態の違う、例えば、猫の耳をした人はいますか。」 「何だ、それは。漫画のような想像の生き物だ。皮膚の色が違う人ならいるが。」 「じゃあ、魔法なんてファンタジーなこともないですね。」 「魔法のようなことはあるさ。それは二ホンの攻撃だ。」 (古の民の伝承もトメリア人の言う亜人も存在しないか。西方大陸とこことは交流もなかったようだ。日本の攻撃が魔法?そうかもしれない。古の民の国は、日本より50年も100年も科学技術が進んでいると考えられている。耳の尖った人たちの長の話では、猫耳も熊耳も尖った耳も古の民が造った人であると言う。そんな国から攻撃を受けたら、我々も魔法だと思うかもしれない。そんな国が滅んでいるはずがない。その国から攻撃を受ける前に対処しなければ、日本が滅ぶ。) 三木には古の民の遺跡にあったパワードスーツの訳の分からない構造の一部が解明されたという報告が届いていた。それは電気を通す度合いがいろいろ違う微小なプラスチックで構成された回路がコンピュータの回路に似ており、人工知能がプログラムされているものがスーツの中に組み込まれているので、戦闘ロボットではないかという報告である。 三木は、この惑星の奇妙ないびつさは古の民の仕業かもしれないと感じていた。 (古の民が亜人を造った。では、そうでない人たちはどうなのだ。肌の浅黒い人たちが圧倒的に多い。白人も黒人もいるが数が少ない。プロリの人たちも観察したが、リベルテの人たちと全く同じ。わしは薩摩だ、わしは長州だと言わなければ分からないのと同じで、みかけで区別がつかない。それに、トメリア人もバーキー人もみかけはリベルテの人たちと全く同じ、名乗らなければ分からない。見てはいないが、サンパル皇国の人たちも同じような気がする。人種の多様な地球とは全く違う。 地球では、黒人や肌の浅黒い人達が差別されたが、肌の色の違いで差別している形跡は全くない。西方大陸でもそうだった。差別は亜人に対してだけだった。) 三木は護衛艦いずもに連絡を入れる。いずもから輸送ヘリが飛んできて、海軍基地の広場に着陸。三木がそれに乗り込むと、離陸して飛び立つ。 (とんでもない国の只者でない男だった。たった1人で異国に潜り込んで、仕事をして去るのだから。)それを眺めていたレアル大佐は そう思った。 ・・・・・・・・・・・・・ 74式戦車で攻撃をしていた日本は、リベルテ国の戦車や軽トラを全て破壊したことを確認すると、装甲戦闘車と機動戦闘車が進行し、攻撃に参加する。コガタと呼ばれるトラックと輸送防護車はその場で待機している。 日本の圧倒的な破壊力に恐れをなしたリベルテ国の兵たちは武器を捨て、瓦礫となった街の方へ逃げて行く。 バーダン率いる反政府集団とプロリ反乱軍は、リベルテの兵たちの激しい抵抗に、一進一退を続けていた。ドカーン、ドカーン、ドカーン。西方から74式戦車が砲撃。二ホンの戦闘車両がやってくると、兵たちは武器を捨てて街へ逃げて行った。 しばらくすると、コガタトラックや輸送防護車もやって来て、二ホンの戦闘車両を先頭に街へ進行して行く。右手は爆撃により瓦礫となっており、爆撃のなかったところも人はいなかった。二ホンの自衛隊と反政府集団とプロリ反乱軍は、反撃されることもなく街中をトスリン宮殿に向かって進行して行った。 トスリン宮殿内の港で、近衛兵を攻撃していた戦闘艇の乗組員たちは、港湾に兵の姿も反撃もなくなったことから、艇を桟橋につけて上陸しようとしていた。それを止めたのは、マイト中尉であった。 近衛兵が隠れて待ち受けていることも考えられたからだ。戦闘艇にいる限りは安全、外は危険。そう思ったマイトは、陸路から侵攻してくる仲間を艇で待つことにした。
September 14, 2025
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トスリン宮殿ではハイル総統がコザン軍務大臣に怒りをぶつけていた。 「防衛は大丈夫と言ったのに、トイヤは敵の手に落ちた。しかも、二ホンではなく、バーダンら反逆者たちだというではないか。」 「申し訳ありません。皆がバーダンの口車に乗るとは。街の周辺に兵を配置して、迎え撃つ体制を整えています。」 「馬鹿か、お前は。敵は空からくるぞ。戦闘機はどうなっている。」 ハイルは内陸部のリベルテ総合科学研究所が攻撃されたことを思い出していた。 コザンは空港が破壊され、戦闘機が使えないことを言えなかった。 その時、二ホンのヘリが警告にやってきて街の北部が大騒ぎになっているとハイルの側近から報告があった。 ハイルは、その側近に「ブチル外務大臣を呼べ。」と言って、ゴザンに「下がっていい。街を守れ。」と言った。 しばらくして、ブチルがやってきた。 「プチル、二ホンと交渉しろ。和平だ。」とハイル。 ハイルは内陸部の総合科学研究所が攻撃されたことで二ホンに敵わないことを悟っていた。 「交渉しろとおっしゃられても、どうやって?」 「行くしかないだろう!聞くところによると、指令はトイヤ沖の二ホンの船から出ているようだ。」 ハイルにとって、指令が二ホンの本土から出ていることは想像もつかないことであった。 「白旗あげて小艇で行け。部下に行かすのではないぞ。お前、外務大臣が行ってこそ、交渉ができる。 降伏でもいい。攻撃を止めるのだ。」 トスリン宮殿内の港から、ブチル外務大臣を乗せた小艇が出航した。カンナ川を下っていると、上ってくる戦闘艇隊と遭遇する。簡単にブチルを乗せた小艇が拿捕される。 ブチルはしきりにハイル総統の命で二ホンとの和平交渉に向かうことを説明するが、マイト中尉はもうリベルテ国の軍人ではない。反政府集団の一員である。マイトはハイル総統に従う必要もないし、むしろ、和平交渉などされると反政府集団にとっては困ると思った。 ・・・・・・・・・・・・ 日野は川沿いの草原を進行していたが、大きな橋のところで首を傾げた。立派な橋である。戦車も満員のトラックも列をなして通れる。なのに、橋だけである。進行してきた側に道がない。草原に車両の通った跡はいろいろな方向にある。こちら側にも、南の方に街らしい建物が見えるのに。 (この橋はスパン帝国侵攻のためにつくられたのかも。対岸との行き来は船で十分か。) 日野はそう思いながら、指示された通り橋を渡り、対岸に達した。こちらは道が街の方に続いている。 しばらく進むと、リベルテ国の戦車や軽トラと兵が見える。日野は隊の進行をとめ、74式戦車だけ砲撃の準備をさせた。日本は近づくと弱いことを日野は知っていた。 ゴゴーブオーンと上空を改造Cー2が飛ぶ。74式戦車が進行して、砲撃が始まる。 ドカーン、ドカーン。リベルテ国の戦車と軽トラが爆発する。 バババカーン、バババカーン、バババカーン。改造Cー2による爆撃も始まる。 トイヤ港から軽トラでやって来たバーダン率いる反政府集団とプロリ反乱軍も街の手前でリベルテ国の兵と戦っていた。 バババン、バババン、バババン。バババン、バババン、バババン。 川を上ってきた戦闘艇は宮殿内の港から、近衛兵に向かって射撃。 ダダダバン、ダダダバン、ダダダバン。 街も宮殿も砲撃音や銃撃音が鳴り響く。爆撃されなかった地域の人たちも、街から逃げ始めた。城壁のない街で簡単に街の外へ出ることができる。街の外は草原でどこにでも逃げられるが、逃げても行くところもない。結局、街の外で集まって成り行きを見守る以外にない。
September 13, 2025
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途中で昼食を取り、更に東へ進むと、大きな川の岸に着いた。向こう岸の方に建物が立ち並んでいる大きな街が見える。北の方が河口で海が見える。とにかく、何もないのだから見通しがいい。海のはるか沖に船が見える。日本の護衛艦である。 河口にたくさんの戦闘艇が現れて上流の方へ航行している。日野は最初にこの川を訪れたとき。その戦闘艇を見ており、それが敵のものであることを知っていた。だから、地図の注意書きがなければ、きっと攻撃していたはずだ。日本の護衛艦も戦闘艇を攻撃しない。 (あの艇が敵ではない?味方?・・・三木さんか?只者ではない、恐ろしい人だ。 海の方から輸送ヘリがやってきて、日野の近くの草原に着陸した。ヘリから隊員が降りてきて、あたりを見渡し、輸送防護車の方へ走っていく。輸送防護車から川本が降りてきて、隊員と一緒に日野のところへやってくる。 「ヘリからの警告の録音をかがでするそうなので、かがへ行ってきます。では、また。」と言って、相原は隊員と一緒にヘリの方へ歩いて行った。相原が乗ったヘリは海の方へ飛び立った。 (この期に及んで、まだ警告をする?丁寧な国だ、日本は。)日野はそう思った。 今度は、74式戦車、装甲戦闘車、機動戦闘車、コガタトラック、輸送防護車が川に沿って上流へ進行していく。川を上流へと航行する戦闘艇が左手に見える。 ・・・・・・・・・・・・ イータ大尉がバーダンの元部下であったこともあり、簡単にバーダンの説得に従った。そしてメイキ中尉に陸軍基地に生き残っている兵を集めてくるように指示した。イータは陸軍基地が攻撃されたことをバーダンから聞いていた。 レアル大佐はゲイン少佐と共に港にいる戦闘艇隊の説得をし、マイト中尉を指揮官として再編成をした。 そして、膨れ上がった反政府集団は、もときた道をカンナに向かって進行し、戦闘艇隊はカンナ川をカンナに向かって上って行った。 トイヤ港湾の海軍基地に残った三木は、護衛艦いずもの渡辺艦長と通信していた。 「ついに、リベルテの首都カンナの攻撃ですね。で、どうするのですか。」と三木。 「鬼畜二ホンが効きましたね。三木さんの指摘の通り、民間の住宅の一部を爆撃することになりました。 」と渡辺。 三木は、「鬼畜二ホンに正義の鉄槌を」というスローガンと共に、カンナの軍事基地や施設はトスリン宮殿の中にあり、外にあるのは空港だけだと報告していた。そして、かつての日本が米英に抱いたように、市民は二ホンに強い敵意を抱いていると。 「当然ですよね。」と三木。 「哨戒ヘリで、市民に逃げるように警告してから、市民を殺さないように攻撃しろという命令です。」 「何と面倒なことを。さっさと駆除すればいいのに。」と三木。 「害獣駆除ではないのですから。」と渡辺は笑った。 護衛艦かがから哨戒ヘリが飛び立って、カンナ川の東側、カンナの街の最北の場所で警告。 「こちらは二ホン。今から2時間後に一帯を攻撃する。この警告が聞こえる範囲は、瓦礫になる。直ちに立ち去れ。さもないと命の保証はしない。繰り返す。・・・」川本外交官のフランス語である。
September 11, 2025
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しばらくして、レアルがイータを連れて、部屋に戻ってきた。イータはバーダンを見て反射的に敬礼をした。かつて、イータはバーダンの陸軍時代の部下だったのだ。 「バーダン大佐、どうしてここに。」 「大佐ではない。」笑いながらそう言うと、声を落として、「実は・・・」と本心を喋り始めた。 「レアルもこちらへ。今、反政府集団を仕切っているが、プロリの連中とも協力して、政府を倒そうと思っている。ちょうどいい具合に、二ホンが攻めてきた。」 さらに声を落として、「二ホンを利用すれば、政府を倒せる。」そう言うと、レアルが三木を見た。 「レアル、心配ない。彼は難しいフランス語は分からない。で、2人に協力して欲しいのだ。」 「我々で、政府を倒せますか。」とイータ。 「倒すのは我々ではない。二ホンに倒してもらうのだ。」 (二ホンを利用ですか。いいですよ。二ホンもあなたたちを利用しているのですから。)そう思った三木はフランス語が分からない振りをした。 ・・・・・・・・・・・・・・ マドラの港湾に残っていたリベルテの兵を一掃した日野たち二ホンとロマスクとスパンの連合軍は、マドラの治安維持のため、ロマスクとスパンの兵をすべて残し、二ホンだけで侵攻していくことになった。 納得がいかないのは、アコリ少尉であった。スパンのネント少尉と一緒に川本に抗議。 「ここで終わりとは、どういうことです。」 「ここで終わりではありません。ここの治安維持も大切です。」 「そういうことでなく、我々が侵攻できない理由を。」 足手まとい、それが理由だがそんなことが言えるわけがない。 「日野さんがどう思っているか分かりませんが、多分、スパン帝国の奪還が目的だったから、それが達成されたら、そこをきちんと治めることが大事と思っているのでは。それに、皇太子も戻ってくるそうだし。」 ネントは頷いて、アコリを説得している。アコリもそれ以上追求しなかった。 待っていたスパン南基地からのコガタトラックが2台到着したので、 日野たちはマドラの街を出た。トラックには食料と砲弾や弾薬が積まれていた。スパン南基地から送られた地図には、進行する経路と注意書きが書き込まれていた。 (真っ直ぐ海岸に沿って東へ進む。カンナ川に行き当たるとトイヤの街が見えてくるが、川岸を上流の方へ南進。トイヤの港から出たり川を進んでいる戦闘艇は敵ではない。ん?どういうことだ?) 三木は護衛艦いずもの渡辺艦長と日本とは頻繁に連絡をとっていたが、日野には連絡を入れていなかった。渡辺がスパン南基地に連絡をとり、日野に渡す地図に戦闘艇のことを書き添えたのだ。 74式戦車、装甲戦闘車、機動戦闘車、コガタと呼ばれるトラックが4台、輸送防護車が列をなして道なき道を東へ進む。道がなくても草原で走行には問題ない。日野は行き過ぎる景色を見ながら、三木と同じことを思っていた。 (どこまで行っても見えるのは草原、そして森。街どころか村もない。サラエからマドラまでもそうだった。少しの村はあったが。2つの街と少しの村、これだけで国家だった?訳が分からない。)
September 10, 2025
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トイヤ港湾にある陸軍基地にレーザーポイントで攻撃の誘導をした三木は、リベルテ国の海軍基地に向かいながらこの不思議な世界のことを考えていた。(カンナとトイヤの間にあるのは街を結ぶ道だけ。どちらの街も大きく広いが、他に町や村はなかった。他を侵略している強力な国家リベルテ国がこの2つの街だけなどということがありえるだろうか。不思議なことだが、これが現実。聞くところによると、リベルテ国とプロリとの国境も曖昧で、プロリも2つか3つの街でリベルテ国と同様だそうだ。どちらも、国土のほとんどが草原か森。考えられる結論は、人が圧倒的に少ないということ、大地が圧倒的に多いということだ。自国に開発の余地が十分あるのに、他国と戦争をするのはなぜなのか。人は本質的に争う動物と誰かが言ってたようだが、それだけではないようだ。) 三木は(私たちは戦いには向かない種族のようです)と言った熊耳のコリーの言葉を思い出していた。 リベルテ国の海軍基地はバーダンたち反政府集団に占領されており、三木は簡単に本部の建物に入ることができた。 三木が司令室のドアを開けると、「三木さん、待ってましたよ。」とバーダンが言った。 「この人は?」とレアル大佐が尋ねると、「二ホン人ですよ。」とバーダンは笑いながら答えた。 レアルの顔が曇る。側にいたゲイン少佐とマイト中尉が身構える。 「ダメですよ。仲間ですから。それに、この人には敵いませんよ。」とバーダン。 レアルには理解できなかった。なぜ、二ホン人がいるのか。なぜ、仲間なのか。なぜ、敵わないのか。 「この人たちは?」と今度は三木が得意でないフランス語で尋ねた。 レアルたちは二ホンの蛮人がフランス語を喋るのに驚いていた。 「海軍の兵隊さん、海では強いが陸ではからっきし。」バーダンはまた笑いながら答えた。 「そうですか。武装した船、たくさんある、どういうことで?」片言のフランス語で話す。 三木は港に停泊している小艇が異常に多いことに気付いていた。 「どうして、武装していると分かるのか?」大声でレアルが言う。 「乗ったことある、ニコルと。」三木が答える。 「何、ニコルだと?」今度はバーダンが驚いたように言う。 「はい、ニコル、陸軍の少尉。」 「そいつは陸軍ではない。秘密警察だ。」とバーダン。 バーダンは秘密警察のニコルに反逆者とにらまれ、収賄の罪を着せられたのだ。 (秘密警察?陸軍の宣伝隊員とばかり思っていたが。そういえば、宣伝隊員なら、私を監視したり、捕えに来たりするはずがない。)三木はそう思った。 「・・・で、どうして多くの船が?」三木がもう一度尋ねる。 レアルの説明によると、トイヤ港の戦艦や軍艦が攻撃されたので、カンナの港にいた戦闘艇が防衛のため川を下ってトイヤまで来たそうだ。トイヤに来たときはほとんどの戦艦や軍艦が沈没しており、二ホンの船に攻撃しようとしたのだが、レアルが全滅を予感して止めたと言う。戦闘艇もレアルの指揮下なのだ。 説明が終わった時、急に外が騒がしい。バーダンの部下が部屋に入って来て、「マドラの兵が戻って来て、イータ大尉がレアル大佐に会わせろと言ってます。」 「よし、行こう。」と言って、レアルが部屋から出て行った。 (マドラ奪還、成功したようだ。でも、逃げた兵がここへ来るか、ややこしいことになりそうだな。) 三木はそう思った。
September 9, 2025
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味方の戦艦などが次々の沈んでいくのを眺めていたレアル大佐は、青ざめていた。 「いまからでも遅くないですよ、降伏しましょう。」とゲイン少佐。 「そうしましょうよ。」と側にいたマイト中尉。 そのとき、ドカーン。と爆発音。 音のした方向の窓の外を見ると、陸軍の基地から噴煙が上がっている。 ドカーン。また、同じ方向。 「ここも同じことになりますよ。建物に白旗をあげましょう。」とマイト中尉。 とその時、ダダダダダ。ダダダダダ。部屋の外で銃撃音。 バタンとドアが開く。銃を構えた兵がなだれ込んでくる。 「撃つな!」大声で制したのは、バーダンだった。 「バーダン大佐・・・・」レアルがそう言うと、 「もう大佐ではねえよ。久しぶりだな、レアル。」とバーダン。 ゲインとマイトは顔を見あわせている。 「どうしてここへ?」とレアル。 「どうして?とにかく、海軍の兵は丘の上では弱いな。簡単に突破できる。」 「そういうことではなく。」 「分かっているさ。お前を助けに来たのさ。」 首都カンナにいたバーダンたち反政府集団がカンナを攻撃するのではなく、遠くの軍港トイヤに向かったのは、三木の描いたシナリオであった。バーダンはカンナ攻撃を主張したのだが、カンナで蜂起すれば二ホンの援護がなくて潰される。軍港トイヤは日本が攻撃していて、そこを抑えてからの方が確実と説得したのだ。 ・・・・・・・・・・・・ 自国の軍港トイヤが攻撃されても、マスコミは過去の戦勝報道しかしなかった。しかし、マドラから逃げ帰るのは兵だけでなく、民間企業の社員たちもカンナに戻ってきており、密かに戦況の悪化の噂が広まっていた。 勝ち続けていた時は、景気も良く占領下からの物資も豊富で、物が街に溢れていたが、負けて後退し始めると、物資も途絶え、だんだんと物がなくなり、人々は食べるものさえ困るようになってきた。 「鬼畜二ホンに正義の鉄槌を」というスローガンが街のあちこちに張り出され、兵だけでなく民にも戦意の高揚を図っていた。戦争というものは、常に正義は疑いもなく自国にあるものなのだ。 トスリン宮殿の執務室では、ハイル総統がコザン軍務大臣とブチル外務大臣を呼びつけていた。 ゴザンもブチルもハイルの軍隊時代の部下であった。 「コザン、なぜ、今まで戦況を報告しなかった?」 「小さな負けがあっても、いつもの通り、進撃できると思いまして。」 「進撃できる?敗退してるではないか。」 「・・・・・・・・」コザンは何も言えない。 「まあ、いい。ブチル、二ホンの使節団との交渉、報告がなかったのは?」 「交渉をしたオイド外交官から、いつもの通りの交渉だったと。だから、お忙しい総統を煩わせてもと思いまして。」 「二ホンは了解したのかね。」 「いえ、持ち帰って検討すると。」 「それが、不服を意味するのだと気が付かなかったのかね。」 「・・・・・・・・・・・」ブチルも何も言えない。 「しかたない。ところで、ゴザン、原子爆弾はどうなった?」 「・・・・研究所が攻撃され爆破しました。・・・」 「・・・・・・・・・・」ハイル総統は唖然とした。 多額の経費をつぎ込んだ開発が無駄になったからではない。内陸部の研究所を攻撃できる二ホンの軍事力に驚いたのだ。 ・・・・・・・・・・・・・ 日野たち第2特科連隊の隊員たちとアコリ少尉たちロマスク帝国とスパン帝国の兵たちは、マドラの街に入っていた。二ホンの戦闘車両やロマスク帝国の自走砲は、港湾地区一帯にリベルテ国の兵がたくさん残っているので、それを攻撃していた。リベルテ国の戦艦や軍艦は壊滅状態で砲撃を受けることもなく、時折、歩兵の連発銃の銃声がするだけであった。 ロマスク帝国とスパン帝国の兵たちは、リベルテ国の兵が逃げ去った街での治安維持にあたっていた。戦わせろとうるさいアコリ少尉は不満を川本外交官にぶつけたが、「街の人たちと言葉が通じるのはあなたたちだけです。」と適任であることを強調された。 アコリの不満はそれだけではない。アコリと腹心の部下たちは街に入るとき、武装を全部外してまた商人になるよう指示されたからである。 サラエの街を出るとき、缶詰や乾物などの保存食を大量にコガタトラックに積み込むので、アコリは食料にしては多すぎると不審に思っていたのだが、まさか自分たちが売る商品だとは思わなかった。 「仕方ないでしょう。あなたたちはすでに街の人たちに顔が知れているのですから。戦時中ですから、よく売れますよ。文句はそう指示した日野さんにしてください。私は伝えているだけですから。」 アコリは言葉の通じない日野に言っても無駄だと諦めた。実は、アコリたち商人の計画は川本が企てた策であったのだが。 マドラの港湾地区にまで退いていたイータ大尉はメイキ中尉に言った。 「ここもダメだ。戦艦も沈没。どうする?」 「攻撃する砲もないし、逃げるしかないですよ。」とセント砲撃隊長が口をはさんだ。 「これ以上、兵を無駄死にさせるわけにも。マドラを捨てて退却。決心してください。」とメイキ。 聞こえてくるのは、二ホンの砲撃と鉄の羽虫(ドローン)の音ばかり。
September 8, 2025
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かが、もがみ、あぶくまの3隻の護衛艦が、いずも、まやの2隻の護衛艦と合流。かがとまやはさらに東進してリベルテ国の軍港トイヤへ向かう。マドラの港の戦艦と対峙しているのは、いずも、もがみ、あぶくまになる。 惑星歴498年10月20日午前7時、軍港トイヤに近づいた護衛艦かがから改造Cー2、戦闘機Fー35Bが飛び立つ。日本の3か所同時攻撃が始まる。それと呼応して、スラムから武装した反政府集団とプロリ反乱軍が出ていく。 飛び立った改造Cー2と戦闘機Fー35Bに向かって5機のプロペラ機が飛んできたが、改造Cー2と戦闘機Fー35Bはそれらを無視して、内陸部へ向かう。速度がけた外れに違うので、簡単に振り切られたリベルテ国の戦闘機は、2隻の護衛艦へ向かう。 まやのイージス装置が作動して、近づく戦闘機にミサイルが発射される。ドカーン。 何度も学習しているリベルテ国空軍、旋回して戦闘機が逃げる。それをミサイルが追う。ドカーン。 マドラ港は護衛艦もがみの62口径5インチ砲の砲撃で、戦闘が始まる。護衛艦いずもは戦場から離れ軍港トイヤに近づいた位置で停泊し、司令室の渡辺艦長はモニターを観ていた。モニターには改造Cー2から送られてくる映像が映っている。 草原と森しかない景色の中に白い建物がポツンと現れる。(あれが核兵器の開発をしているところか。)そう思って観ていると、その建物が画面から消えて森だけになる。次は爆弾の落下の映像になり、白い建物に命中して爆発。映像はその爆発の様子を長く映し出している。 渡辺はホッとした。核爆発のきのこ雲が現れなかったからである。(日本でこれを観ている連中もホッとしているだろう。)そう思った。 もし、爆弾が完成していれば核爆発がおこるはず、願っていた通り、まだ開発の途中だったと考えられる。 改造Cー2はリベルテ国の2つの空港も爆撃し、航空機が使用できないようにして、かがに戻ってきた。戦闘機Fー35Bも、一度も戦闘することなく戻ってきた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 陸上では日本の74式戦車、装甲戦闘車とロマスク帝国の自走砲の砲撃が始まる。砲撃はリベルテ国の基地や武器弾薬倉庫や戦闘車両に限られ、市街地は避けている。 その様子を輸送防護車の中で、日野はモニターで観ている。リベルテ国の兵が攻撃されない街に逃げ込んでいるのが見える。 日野は、それを見て、装甲戦闘車だけ街に侵攻して、銃眼孔から兵だけに向けて小銃射撃を指示。装甲戦闘車が街に入っていく。 ダダダダダ。ダダダダダ。装甲戦闘車が街中の兵を倒していく様子が映る。ダダダダダ。 リベルテ国の基地が壊滅し、近くの街中の敵兵も逃げてしまったことを確認すると、日野は74式戦車、自走砲、機動戦闘車に、街に入りさらに攻撃するように指示した。 ドン、ドン。ドン。輸送防護車の入り口を叩く音がする。開けてみると、血相を変えたロマスク帝国のアコリ少尉が立っていた。「我々は、いつ攻撃するのだ。」 川本は日野に「いつ攻撃するのかと言っていますよ。」と言った。 「我々もここにいるでしょう。待ってください、と言って下さい。」 オート3輪の兵だけでなく、コガタのトラックの隊員も待機している。といっても、残っている日本の隊員は医療団と携帯地対空誘導弾の操作隊だけであるが。 ・・・・・・・・・・・・・・ マドラ港の戦艦は数が多く、護衛艦もがみの砲撃を受けた艦は航行不能になったが、残った戦艦が砲撃をしながら進行してくる。 もがみとあぶくまは砲撃の射程距離外へと旋回し逃げる。速度の違いで逃げ切れるのだが、わざと速度を落として逃げる。 突然、水柱をあげてリベルテ国の戦艦が沈没する。しかも、次々と。 実は、昨夜、もがみがその海域に機雷を敷設していたのだ。 水柱をあげて沈没する戦艦を確認すると、今度はいずもが航行した方向へ、軍港トイヤの方へ向かった。そして、待っていたいずもと合流すると、3隻の護衛艦は、さらに航行していった。 軍港トイヤの海軍基地では、ゲイン少佐が戦うべきでないと主張している。 「レアル大佐、見たでしょう。戦闘機が簡単に撃墜される。そんな艦と戦うべきでありません。」 「でも、ゲイン、戦闘放棄は軍罰もの、我々はリベルテ国の軍人なんだ。」 2隻の二ホンの艦を沈めるべく、港からリベルテ国の戦艦が次々と出航していく。 ・・・・・・・・・・・・ 3隻の護衛艦いずも、もがみ、あぶくまが軍港トイヤの沖合に達した時、護衛艦まやがSSM装置、対艦ミサイルでリベルテ国の戦艦を攻撃していた。あぶくまが前に出て、対艦ミサイルで攻撃し始めると、まやはゆっくりと後退した。続いてもがみも攻撃し始める。 軍港トイヤから出た戦艦、軍艦がほとんど沈没か航行不能になった頃、いずもの渡辺艦長に三木から連絡が入った。レーザーポイントで誘導するから陸軍の港湾基地を爆破して欲しい、海軍の基地は占領するからそれ以外は攻撃しないでということだった。 (占領する?どうやって?)と思いながら、他の護衛艦に連絡を取り、VLS装置のあるもがみとまやが陸軍の港湾基地を攻撃することになった。 VLS装置とは誘導ミサイルの垂直発射装置のことである。 もがみから誘導ミサイルが発射される。ドカーン。陸軍の港湾基地の本部の建物が爆破される。 しばらくして、まやから発射。ドカーン。陸軍の兵舎が爆破される。
September 7, 2025
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護衛艦いずもの渡辺艦長は、スパン南基地から待機の必要なしとの連絡を受け、護衛艦まやと合流すべく北上していた。日本から連絡が入る。 護衛艦かがが改造C-2(これは輸送機を爆撃機に改造したもの)と戦闘機F-35Bを搭載して、こちらに向かっているから、合流するまで護衛艦まやと待て、ということだった。なお、護衛艦もがみと護衛艦あぶくまも一緒にやってきてるとのこと。 渡辺艦長には三木からも連絡が入っていた。 (核兵器の開発か。リベルテはどんなに恐ろしいものか知らないんだよな。出来ると必ず使う。これはマズい。だから、できるまえに叩くつもりだ。) いずもは北上し、まやと合流して、マドラの港が目視できる沖に停泊し、かが、もがみ、あぶくまを待った。マドラの港にはリベルテの戦艦が迎え撃つように並んでいる。 ・・・・・・・・・・・・ 日野一尉たち陸上の部隊は、すぐにマドラの街に入れる位置で待機していた。 ロマスク帝国のアコリ少尉が「どうして攻めないのか?」と川本にしきりに尋ねたが、「さあ、分からない。日野さんに聞いてみて。」と答えるだけ。日野に聞いても、言葉が通じないから、無駄だった。 川本は待機の理由を知っていた。教えなかったのは、秘密事項でも何でもない、理解させるのが大変だと思ったからだ。教えたら、どうやって日本と通信しているのだと聞いてくることは目に見えている。そんなことまで説明していたら、考えただけで気が重くなる。 日野は輸送防護車の中で、哨戒ドローンから送られてくる映像を観ていた。手には撮影された街の航空写真を持っている。味方に被害者が出たことを気に病んでおり、もう被害者を出さないために、市街戦を避ける方法を探っているのだが、妙案が見つからない。 まだ待機と告げるため、 ロマスク帝国のオート3輪が集まっているところに行っていた川本が帰ってきた。そして、深刻そうな顔をしている日野に声をかけた。 「どうしたんですか、深刻な顔をして。向こうでは、まだ攻撃しないのかと言い寄られて、大変でしたよ。皆さんの士気が高すぎて。」 「そうですか、ごくろうさま。」 「どうしたんですか、おかしいですよ。」 「いえ、実は・・・・部外者に行っても・・・」 「部外者だから分かることもありますよ。それに言えば楽になる。」 「・・・・実は、もう被害者を出したくないので、街の中で戦わない方法を探っていたが・・」とモニターの映像を指さし、「方法が見つからなくて。」と言った。 「あは、そんなことですか。だったら、街に入らなければいいんです。」 「そんな、街は広いのですよ。入らないなんて。」 「以前、あなたが言ってたでしょう、自衛隊は接近戦は苦手だが遠い敵は叩けると。接近戦は避けて、遠い敵をたたけば、敵は逃げます。偵察ドローンで敵のいないことを確認して、街に入り、さらに遠くの敵を叩く。そうして進めば、広い街も、接近戦なしで攻略できると思いますよ。すみません。輸送防護車の安全なところにしかいない私が生意気言って。」 「いえいえ、安全なところにいるのは私も同じです。だからこそ、部下を危険な目に会わせたくないのです。ありがとうございました。」 そこへ、通信員が日野に耳打ち。 日野が川本に言った。 「明日の朝、7時に攻撃開始、リベルテ国も同時に爆撃、そう連絡が入りました。」
September 6, 2025
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護衛艦いずもは、念のためスパン南基地からの緊急のヘリ到着を想定して航行を停止し、護衛艦まやは、そのまま北上していた。 まやの対空レーダーが5機の航空機をとらえる。対水上レーダーも3隻の船舶をとらえている。 リベルテ国の最新航空母艦のヘリ―艦長は、二ホンの軍艦が恐れをなして逃げ帰ったという他の軍艦の艦長が言うことを信じてはなかった。マドラに向かって侵攻している二ホンの軍隊を海側から攻撃する命令にも気乗りがしなかった。 (戦闘機を簡単に撃ち落とした艦が逃げるはずがない。)そう、思っていた。 両脇をかためている戦艦の艦長は、マドラの街を攻めようとする二ホンを背後から砲弾と戦闘機で壊滅させようと士気盛んであった。 前方に1隻の船影が見えた。たった1隻、士気盛んな2隻の戦艦のスピードが上がる。5機の戦闘機が船影に向かって飛んでいく。 (まずい、あの船だ。)ヘリ―がそう思った時は遅かった。 護衛艦まやのイージス装置が作動、5機の戦闘機はミサイルの餌食になる。そして、ヘリ―が経験していなかった事態が起こる。前の敵艦に向かって航行していた2隻の戦艦が爆発したのだ。SSM、艦対艦ミサイルの攻撃だ。 ヘリ―は自艦に退却の指示をだしたが、間に合わなかった。ミサイルが飛んできて、航空母艦に命中。最新の航空母艦は数発のミサイルを受け沈没。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ リベルテ国のカンナの街では、相変わらず、戦勝ムード。敗れた兵がマドラの街から逃げ帰った者もいたが、それだけで秘密警察に捕まるので、何も喋らなかった。 スラムに潜んでいた三木は、マドラの陥落が間近であることを知っていた。周りに日本語の分かるものは誰もいない。もう、暗号通信などという回りくどいことをしないで、日本と連絡をとっていたのだ。 三木は、反政府集団のリーダーであるバーダンからプロリの反乱勢力の情報を得ていた。バーダンは元陸軍大佐だけあって、リベルテ国にも情報網があり、二ホンという強力な国が近くまで来ていることを知っており、よく三木に意見を求めていた。 三木もバーダンもお尋ね者で、スラムから外へ出れなかったが、バーダンの部下たちは顔の知られていない者も多く、彼らが外の情報をバーダンに伝えていた。 プロリの反乱勢力は、元プロリ帝国陸軍の将校たちが主で、武器などを隠し持っていて、リベルテ国も手を焼いていると言う。 三木はバーダンに言った。 「その反乱勢力と手を結び、こちらに侵入させて、日本が攻撃を開始した時に、一緒に蜂起したら、リベルテ国も終わる。その方がプロリの解放も早い。そう、説得してみて下さい。」 「二ホンがいつ攻撃を開始するのか分かるのか?」 「少なくとも1日前には分かります。その時はお伝えします。」 「そうか。ところで、意味が分からないが、こんなものを部下が。」といって、バーダンは数枚のプリントを三木に渡した。 そのプリントはフランス語で三木が読むことは不可能であったが、ウランの元素記号や書かれている図が何かくらいはわかる。ウラン235、遠心分離機、三木はピンときた。核兵器の開発だ。 「これを、どこで?」三木が尋ねる。 バーダンの説明によると、リベルテ国の南の端の中央山系のふもとでプロリの国境近くに、リベルテ総合科学研究所が最近できたそうだ。それを知ったのは、部下たちがプロリと連絡をとる道から見えるところにできていたからで、建物を警護する兵があまりにも多いので不審に思っていたと言う。 たまたま、プロリと連絡をとるため、その道を通っていたら、研究員のような男と出くわした。騒がれるとマズいと思い、銃を放って、その男の持っていたものを奪って逃げたそうだ。 それが、バーダンから渡されたプリントである。 核兵器の開発、重要な情報であった。三木はすぐにその情報を日本に送る。返答は、「対処する、そのまま、続けて工作を。」だった。
September 5, 2025
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森林を抜けると、草原のかなたにマドラの街が見えてくる。リベルテ国の軍隊はマドラの街を守るように街の外で待ち受けている。サラエの街の時とは比べ物にならない。たくさんの戦車、数えきれないほどの軽トラの数。 その様子を双眼鏡で眺めていた日野は、内心ほくそ笑んだ。 (この見通しのいい草原を決戦場にというわけか。願ったり叶ったり、市街戦が一番嫌なパターンだった。街の外で待ち受けるなら、先ほどの森林で待ち受けるはずだが、そうしなかったのは、航空機の援護があるわけだな。) 日野は接近戦の援護は戦闘機の低空飛行以外にないと思っていた。上空の高いところからの爆撃は味方のいないところでしかできない。だから、携帯対空誘導弾で対処できると。 携帯対空誘導弾の操作隊には上空、特に右手前方、北東方向に注視するよう指示していた。 リベルテ国には戦闘機はあるが、それより高度な爆撃機はないことを日野は知らなかった。 リベルテ国の車両の位置が74式戦車の射程距離内の位置まで進行すると、日野は隊を停止させ、スパン帝国とロマスク帝国はサラエの時と同じように配置し攻撃するように、アコリ少尉に指示して欲しいと川本に頼んだ。 「いいですよ、私は通訳ですから。」と笑いながら答えて、川本はオート3輪の隊のところへ去っていった。川本は分かっていたのだ。外交官の仕事ではないようにみえるが、スパン帝国とロマスク帝国と日本をつなぐために必要なことだと。 両軍は対峙したまま動かない。日野は敵が航空機の到着を待っていると察すると、74式戦車に砲撃を命じた。ドカーン、ドカーン、ドカーン。リベルテ国の戦車に命中する。 ドン、ドン、ドン。リベルテ国の戦車からの砲撃、届かないので前進してくる。同時に軽トラから兵たちが溢れるように出てきて突進してくる。 ドン、ドン、ドン。ドカーン、ドカーン、ドカーン。 スパン帝国とロマスク帝国は動かない。敵兵が近づくまで待っている。 ダダダダダ。ダダダダダ。オート3輪の陰から射撃、敵兵が倒れていく。 そのとき、ブオーン、ブオーンと大きな音を発してプロペラ機が5機、右手前方から低空飛行でやってくる。機関銃を撃ちながらの飛行で、リベルテ国の兵をも倒しながら、オート3輪を攻撃。 突然、空中でプロペラ機が爆発、ドカーン、ドカーン、ドカーン。携帯対空誘導弾の攻撃だった。 一瞬、全ての攻撃音が止まる。もっとも驚いたのは、間近でその攻撃を目撃したスパン帝国の兵たちであった。 (信じられない。飛んでいる飛行機を当てるなんて。我々はあの飛行機に攻撃されて、国を捨てざるを得なかったのに。)スパン帝国のネント少尉は、敵のリベルテ国よりも味方の二ホンに恐れを抱いた。 5機の戦闘機がすべて撃墜されると、オート3輪に向かって突進していたリベルテ国の兵たちは突進をやめ、逃げ出した。 それを見たアコリ少将は、ネントのように呆然としていたが、「追撃、全員、前進して追撃せよ。」と命じた。ダダダダダ。ダダダダダ。逃げる兵を追撃する。ダダダダダ。ダダダダダ。 それを見ていた日野は、(さすが、分かっていらっしゃる。あんなに多くの武装兵が街に逃げ込まれたら困ります。)そう、ロマスク帝国の兵を評価した。 日本の戦闘車両も砲撃しながら前進する。装甲戦闘車や機動戦闘車は逃げる歩兵に追いつき、、ロマスク帝国の兵たちと共に、逃げる兵を小銃射撃する。ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。 74式戦車はリベルテ国の戦車や軽トラを砲撃し、爆破していた。数台の軽トラが街に向かって逃げ帰ったが、他はすべて走行不能にしていた。 ・・・・・・・・・・・ 草原の決戦が二ホンの圧勝に終わったが、被害がなかったわけではない。機関銃を撃ちながらの戦闘機の攻撃でロマスク帝国の兵に死傷者が出たし、携帯対空誘導弾の操作隊にも銃弾を受けた者がいた。幸い操作隊員は防弾チョッキを着用していて、致命傷はなく怪我だけで済んだが。 コガタと呼ばれるトラックには医療団がいて、負傷者の応急手当てをしている。重症者もいるので、スパン南基地に連絡をとり、トラック1台が重症者を載せて引き返すことになった。医療設備があるのは、3つの艦だけである。スパン南基地には医師が常駐しており、輸送艦しもきたが停泊している。状況によっては医療設備が充実しているいずもへの転送も考えられるが、それは医師の判断による。
September 4, 2025
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皇帝のいないサンパル皇国はトール宰相が中心になって、新たな国造りを行っていた。 破壊された城の跡地には、行政官庁や議会官庁などが建てられ、皇室一族の居住地域は跡地の片隅に追いやられていた。 アイン海軍大将は海軍を退官し、警察機構のトップとして、国内の治安維持に奔走していた。トマス提督はアインの肝いりで海軍大将を拝命していた。 サンジー教は国教でなくなり、信教の自由が認められたが、人々の信教が変わるわけもなく、国民の大部分はサジー教を信じていた。 メリル教皇は多くの自爆兵による犠牲の責任をとる形で教皇を退き、教皇の制度そのものが廃止された。これは、日本の要求でもあった。 日本の租借地になったガント港湾地帯は、大型の船も停泊できる港に整備され、日本の港湾事務所や宿泊施設が設置されていて、地質調査などの日本人が多く出入りしていた。 ジュラス都市国家は小さな国だが、日本と親密な関係を保ち、人も物も交流が盛んで、街も軍備も近代化が進んでいた。ジャングルを抜ける道でサンパル皇国との交易も盛んになり、人々の生活も豊かになった。サミー補佐官が軍隊のトップであるせいか、軍備の充実は著しく、サンパル皇国をはじめこの地域一帯を征服できるだけの軍事力になっていた。 ナガア地方は独立をしたもののナガア王国の政治にかかわっていた一族は誰1人残っていなかった。だから、急遽設置した日本領事館と自衛隊で、立て直しに取り組む以外になかった。日本は、遠く離れた国を援助する余裕もなく、できるだけ早く手を引きたかった。 スリム地方はサンパル皇国に抵抗していた地下組織にスリム王国の関係者が多く残っており、彼らに国の再建を任せることになった。 ・・・・・・・・・・・・・・ サラエの沖合に停泊していた護衛艦いずも、護衛艦まやが北上を開始し、それにあわせて74式戦車、装甲戦闘車、機動戦闘車がサラエの街を出発していた。スパン帝国の車両は少なかったが、ロマスク帝国から多くのオート3輪と燃料、そして兵が補強され、たくさんの車両が続いた。その後に日本のコガタと呼ばれるトラックが3台いた。うち1台には91式携帯地対空誘導弾を発射する隊員たちが乗っていた。 敵の航空機の攻撃を想定していたのだ。最後は輸送防護車、川本外交官が乗っている。 アコリ少尉の宣伝活動が効いていたのか、通過する村々では皇太子の解放軍と勘違いをして、歓迎されていた。スパン帝国の国旗を掲げて歓迎する村まであった。 ・・・・・・・・・・・・・ 北上していた護衛艦まやの対水上レーダーが潜望鏡のようなものを探知したが、すぐに消えた。護衛艦いずもの対水上レーダーも同様、前方に潜水艦が潜んでいることは確かである。 潜水した潜水艦探知はプールで針を探すくらい難しいと言われている。 水中で電波探索はできない。電波は水に吸収されるからだ。魚群探知機だって電波を使用しているのではない。音波を利用しているのだ。 いずもからサラエの南にあるスパン南基地に連絡が入る。スパン南基地の空港からPー3C哨戒機が飛び立ち、まやの前方の海を偵察する。 Pー3C哨戒機から水測ブイを投下して、水温、雑音状況を測定する。そして、音波を受信するパッシブソノブイを大量に投下、スクリュー音やポンプの音を探っているのだ。スクリューを止め、音を出さずに潜んでいれば発見が難しいが、リベルテ国の潜水艦は見つかると思ってないのか大きな音を出している。すぐに、位置が特定できた。 静かに潜んでいても、音波を発してその反射音で探索するアクティブソノブイを使えば見つけることができるのだが、その必要もなかった。 Pー3C哨戒機からの情報が護衛艦まやに伝わる。まやにはアスロック装置がある。アスロックとは艦載用対潜ミサイルのことである。まやからミサイルが発射される。 リベルテ国の潜水艦は何が起こったのか理解できないまま、深海に沈んで行った。
September 3, 2025
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三木はやっと反政府集団のアジトにたどり着いたのだ。彼らがスラムに潜んでいる可能性が高いことは、考えてみれば当然であった。そして、三木が政府に追われる立場になって、誘われることも当たり前であった。二ホン人の三木、街に張り出されている手配書にそう書かれている。 三木と握手をした男は反政府集団のリーダーでバーダンといい、リベルテ国の陸軍の元大佐であった。ハイル総統の侵略政策に異論を述べただけで非国民と非難され、収賄の無実の罪を着せられて逮捕される直前に、腹心の部下をつれて逃亡したと言う。 リベルテ国とプロリ帝国が戦う前に、バーダンはプロリ帝国の軍部の人たちと交流があった。今もその人たちとつながっており、占領下のプロリの情報が入ってきている。 バーダンによるとリベルテ国の東方侵略に陰りが見えてきていると言う。プロリの反乱勢力の勢いが増し、リベルテ国の軍の被害が大きくなっているそうだ。 西方も二ホンの進撃により後退を余儀なくされているのであるが、リベルテ国のマスコミは、東方も西方も軍隊の快進撃を伝え、プロリの安定とロマスク帝国の降伏が間近であると報じていた。 企業は占領下の地域にどう参画するかの思案に明け暮れ、国民は勝利の心理的美酒に酔っていた。 リベルテ国の危機に気付いているのは、軍部のほんの一握りの人たちだけであった。 ・・・・・・・・・・・・・ 元スパン帝国の首都マドラでは、人々の間にスパン帝国の皇太子が強力な兵を引き連れて戻ってくるという噂が流れていた。街の人々は圧政であったスパン帝国の復活を望んではいなかった。 でも、噂の事情は少し違っていた。若き皇太子は先進的で、リベルテ国を追い払うと、国を一新、立憲君主国にするというのだ。憲法を定め、統治者を国民が国民から選び、君主は統治しないという制度だ。街の人々は理解に苦しんだが、それが本当なら今のリベルテ国の占領下よりずっといいと思い始めていた。 実は、川本外交官の入れ知恵であった。奪還したスパン帝国のサラエの街に入った川本は、街の人たちの敵意のある痛いほどの視線を浴びて、(これではいけない)と思い、ロマスク帝国のアコリ少尉に策を授けたのだった。スパン帝国のネント少尉は、自国のことであり策に反対することも考えられ、何よりも街の人たちがマドラ出身の彼を知っている恐れがあったので、他国のアコリに話をしたのだ。 サラエの街とマドラの街は、皇帝の視察のため1つの道でつながっており、途中にいくつかの村があるが、人の交流はなかった。アコリたちロマスク人がサラエの商人として、マドラに行ってもバレルことはないと考えられる。オート3輪に缶詰などの加工品を積み込んででかけ、村の手前でオート3輪を止め、商品を持って村に入り、売る。そして、若き皇太子の噂を流す。それを、村に着くたびにしながら、マドラの街に入り、同じことをする。マドラに来た時には、アコリたちは兵ではなく一端の商人になっていた。 川本は日本にも連絡を入れ、フランス語が喋れて政治体制の講義ができる人をロマスク帝国にいるスパン帝国の皇太子のもとへ派遣するよう依頼していた。 アコリたちは商品がなくなるとサラエに戻り、商品を仕入れて、行商にでる。それを何度か繰り返した。 マドラでは、若き皇太子の兵によってサラエの街が解放され、次はマドラだという噂が広がっていた。 イータ大尉は、メイキ中尉やセント砲撃隊長などサラエから退却した兵たちに、敗れたことの口封じをしていた。マドラはサラエと違って、軍港には戦艦や軍艦が停泊しており、本国の空港から戦闘機も飛んでくる位置なので、兵の士気を保てば守り切れると思っていたのだ。 しかし、その噂が リベルテ国の兵たちに伝わらないはずもなく、兵たちは戦々恐々としていた。
September 2, 2025
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戦い終えて、ロマスク帝国のアコリ少尉は考えていた。 (今までは、リベルテ国を正面から迎え撃って勝ったことがなかった。ゲリラ戦で相手の侵攻を遅らせることが精いっぱい。なのに、どういうことだ。今までより圧倒的に多くの敵兵を撃退したのだ。武器の性能、それもあるかもしれないが、それだけではない。二ホンが指示した通りにしたこと、それがすべてだ。作戦が、指揮がいかに大事か、よく分かった。) スパン帝国のネント少尉がやってきて、「ロマスクの兵、強いですね。」とにこやかに声をかけてきた。「ええ、まあ。」とお茶を濁したが、アコリの心境は複雑であった。 複雑なのは日本の自衛隊員であった。 奪還したこの地はサラエという街で、漁業、農業、工業、商業と産業が盛んな土地であった。その街の住民に歓迎されないのだ。自衛隊員に敵意に満ちた冷たい視線が飛んでくる。喜んでいるのは、スパン帝国の兵だけ。 しかし、これからが問題なのは日本ではなくスパン帝国である。サラエの街が、日本はリベルテ国と戦うために通過する街に過ぎないが、スパン帝国は治めていく街であるからだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ リベルテ国で追われる身になった三木は、街に潜んでいた。一番危険なところが、最も安全な場所であると、三木はスラム街に潜んでいたのである。スラム、都市の一角に形成される貧困者が集中して暮らす地域。水道、電気などの基本的なインフラが整備されておらず、不衛生な環境の地域。この首都、カンナにもそんな地域があったのだ。兵や警察がやってきたら、住民たちが寄ってたかって身ぐるみをはがす。殺すことなんか何とも思っていない。そんなところに、追手は来ない。 三木が最初にこの地域に足を踏み入れた時、ならず者たちが寄って来て、「その黒いリュックを置いていけ。そうすれば、殺さない。」と脅された。プシュ、プシュ、プシュ。三木は黙って消音銃を放つ。3人ほど倒すと、他の者は逃げて行った。それ以後、誰にも絡まれなかったが、寝首を掻かれないように気を付ける必要があった。飯屋で支払う時、店主も客も三木の財布に目が輝いたからである。 何人かの男や女が言い寄ってきた。金が目当てであることは察しがついたが、(こんなところにこそ秘密やお宝が落ちている。)と思い、情報を得るために、用心して適当に付き合った。 「ボンジュール」と声をかけられた三木は、相手の顔を見る。あたりを気にしてビクビクしている気の弱そうな男であった。フランス語が達者ではないが、だいたい相手の言ってることは分かる。会わせたい人がいるのでついてこいということであった。 三木は黒いリュックを背負ってその男について行く。あるドアの前で男が、何か合言葉のようなことを言うとドアが開いた。地下室への入り口であった。案内の男は懐中電灯であたりを照らす。入り口の番人は銃を持っている。三木は胸を触り自分の銃を確認すると腹を括った。地下へ降りる階段の足元を照らしながら案内人は進んで行き、部屋のドアを変則的なリズムでノックする。 「入れ。」中から声がする。 部屋の中は石油ランプで明るい。 「ボンジュール、二ホン人の三木。」と中央の男が前に出てきて、手を差し出す。 (二ホン人の三木?何で?)と思いながらも、相手の手を握り、握手する。 周りには武装兵が何人もいる。
September 1, 2025
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川本と日野は司令室に戻った。川本に日野が尋ねる。 「どういうことです、スパン帝国とは?」 「先ほどの男はネント少尉と名乗りました。皇太子の護衛でロマスク帝国にいたそうですが、ロマスク帝国と二ホンが国の奪還に動いているのに、何もしないのはおかしいと皇太子に参加するように命じられたそうです。で、3台のオート3輪に10人ほどの兵を連れてやってきたわけです。」 「そうですか。分かりました。ところで、お願いですが、ロマスク帝国と先ほどのスパン帝国の兵を、最前線で戦わせたいのですが、通訳を頼みます。」 「いいですよ。ロマスク帝国とスパン帝国を盾にするのですね。」と川本が言うと、 日野がムッとして、「自衛隊は人を盾なんかに絶対しません。」と言った。 川本が困った顔をしているのを見て、強く言い過ぎたと思った日野は、最前線で戦わせる意図を説明した。 「我々は、遠くの敵を倒すことはできるが、目の前に迫ってきた敵に対しては弱いものです。それに対してロマスク帝国の兵たちはゲリラ戦を戦っているだけあって、目の前に迫ってきた敵に対しては我々よりはるかに強い。この世界の戦争は、遠くで攻撃しあう現代戦ではなく、敵味方入り混じって戦う接触戦です。今は、我々の土俵で遠方の敵を倒しているが、弾丸や弾薬が無限にあるわけではない。小さな紛争ではなく、総力戦の戦争です。数えきれないほどの人数で突進してきたら、少人数の我々の負けは目に見えてます。いずれ接触戦の可能性もあります。そのときは、ロマスク帝国の兵たちが頼りになる。そのための最前線で、ロマスク帝国に1人の犠牲者もでないように考えています。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74式戦車、機動戦闘車、装甲戦闘車に続いて、コガタトラック、オート3輪、自走砲が森林を抜けていく。かなり遅れて、輸送防護車が通り抜けた。 リベルテ国の基地が戦車砲の射程距離になったところで停止し、戦闘に向けて配置展開した。 基地に城壁などはなく、軽トラを並べて防御のバリケードを築いていた。 ロマスク帝国とスパン帝国のオート3輪を横一列に並べ、自動小銃をもった兵たちをオート3輪に隠れるように配置する。その指揮はアコリ少尉とネント少尉、敵が400mに近づくまでは攻撃しない、逃げる者は攻撃しない、突進してくるものだけを攻撃する。自走砲は使用しない。 日野は念のため、装甲戦闘車を1台、オート3輪が横一列に並んでいる100m先のかなり離れた場所に配置し、100mを越えてきたものだけを射撃するよう指示していた。 海からの護衛艦いずもの砲撃を合図に、護衛艦まやの砲撃、74式戦車の砲撃が始まる。 オート3輪が並んでいるところはロマスク帝国の兵で、二ホンではないとみたのか、軽トラのバリケードの隙間から多くの兵が突進してくる。どんなに多くの兵が出てきても400m以内になるまで撃つなと徹底している。攻撃がないものだから、次々と兵が出てくる。戦車や機動戦闘車のある方向へはいかない。オート3輪を目指してやってくる。 400mを越えた兵が現れた。ダダダダダ。オート3輪の陰から自動小銃の攻撃。 ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。突進してくる兵たちが倒れる。 ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。突進していた兵たちが反対方向へ逃げる。 ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。100mを越えて近づくものは1人もいない。 ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。ロマスク帝国とスパン帝国連合軍の圧倒的勝利。 74式戦車、機動戦闘車、装甲戦闘車がバリケードの軽トラを押しのけ、基地内に侵攻していく。 軽トラのバリケードで守り切れると思っていたイータ大尉は、それが破られると、基地を捨てる決心をして、退却命令を出した。
August 31, 2025
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ロマスク帝国の兵たちが休んでいる建物のアコリ少尉の部屋に川本が現れた。川本は外交官のする仕事ではないと思いながらも、言葉が通じるのは自分しかいないと諦めていた。 「ついに、敵さんが動き出しましたよ。」と言ったので、迎え撃つ準備をと、兵に指令を出そうとする。すると「いえいえ、そのままで。アコリさん、ついて来てください。」と川本はアコリを司令室へ案内する。アコリは怪訝な顔をしてついて行く。 司令室では日野たち隊員がモニターを観ていた。モニターには森林から出てきたリベルテ国の軍隊が映っていた。 ドカーン、ドカーン。74式戦車の砲撃。リベルテ国の戦車が爆発。 ドン、ドン、ドン。16式機動戦闘車の射撃で軽トラが破壊。 軽トラから兵が飛び出す。 ダダダダダ。銃撃ドローンからの射撃。兵たちが倒れていく。 モニターの映像を観ていたアコリの顔が真っ青になる。 さらに追い打ちをかけるように、川本が説明をする。 「あのドローン、隣の部屋で操作の訓練をしてるんですって。」 それを聞いたアコリは開いた口が塞がらなかった。 ・・・・・・・・・・・・・ 二ホンの攻撃を予測していたメイキ中尉は、最後尾を行進していたため、1発目の砲撃ですぐに森林の中に引き返すことができ、軽トラも隊員も無事だった。 イータ大尉は、敵の戦車と機動戦闘車を目視していたが、攻撃される距離だとは思わなかった。突然の砲撃に、指示を出すこともできないほど混乱した。幸いなのは、助手席から飛び出した後、乗っていた軽トラが爆発したので、森林の中に逃げ込むことができ、命が助かったことぐらいであった。 一方的に攻撃されて隊は壊滅状態、戦車は全滅、軽トラが3台無事だっただけ。退却する以外に方法はなかった。 ・・・・・・・・・・・・・・ 動いている敵がいなくなり、ドローンの銃撃も止まると、モニターを観ていた川本外交官が日野一尉に言った。 「ちょっと、マズかったですね。」 「えっ、どういうことですか。」と日野。 「森林へ逃げ込んだ兵がかなりいましたね。もう少し進行させてから攻撃すれば、逃げ込めれなかったのにと思いまして。」と川本。 「あは、川本さんも隊員になりましたね。攻撃にケチをつける。」と笑いながら言って、「実は、作戦通りなんですよ。逃げてもらわないと困る、逃げて相手の強さを伝えてもらい、戦う意欲をそぐのが狙いなのです。壊滅させるなどというのは、やってはいけないことです。もう、動いてますよ。敵の基地の奪還に向けて。」 日野はそう言うと、窓の外を指さした。港に停泊していた護衛艦いずもと護衛艦まやが出航していた。川本が窓の外を眺めていると、隊員が入って来て日野に耳打ち。 「川本さん、一緒に来てください。」と言って日野が司令室から出ていく。 司令室のある建物の 入り口付近が騒がしい。日野と川本が外に出てみると、隊員が入ってこようとしている男を止めている。川本がフランス語で話しかけると、その男もフランス語で答える。日野はその様子を眺めているが、何のことか分からない。 「日野さん、アコリ少尉たちのいる建物は、あの向こうの建物でしたね。この人たちはスパン帝国の人たちです。詳しいことは後で。」そう言うと、川本はその男にフランス語で向こうの建物にロマスク帝国の人たちがいることを伝え、そちらへ行くように言った。 その男はやってきたオート3輪に乗り、3台のオート3輪で移動していった。
August 30, 2025
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この惑星の暦で498年、8月。日本の暦で言えば10月なのに、真夏の様に暑い。 日本はだいたい北緯35度から45度の間にある。北緯35度は正確には屋久島より南、奄美大島より北であり、北緯45度は稚内より南であるが。 地球であったときは、地球温暖化で暖かくなったとはいえ、冬には北陸や東北に雪が降り、四季の顕著な温帯気候であった。 この3年間の気象の統計から、緯度は変わらないのに、温帯ではなく亜熱帯気候に変わっていた。緯度が40度の西方大陸東岸地区の集落でサトウキビが栽培されているのだから、当然と言えば当然である。 そして、北緯20度ちかくのバーキー王国に熱帯雨林気候のジャングルがあるのだから、赤道直下がどんな気候であるか想像もつかなかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 日本はロマスク帝国の国境よりも10km北側の海岸を整備し大きな港をつくり、その港湾近くに空港もつくって、一帯を軍事基地にし、スパン南基地と呼んでいた。 ロマスク帝国のアコリ少尉は、自走砲6台と日本の自動小銃で武装した兵を載せたオート3輪10台を率いて、ロマスク帝国の国境まで来ていた。北方からコガタという愛称の日本のトラックがやって来て、アコリ少尉の率いる隊を案内する。案内された場所は、短期間で完成された日本の軍事基地であった。 整備された港湾には、いろいろな形の船舶が停泊している。港湾近くの空港には、見たこともない航空機が並んでいる。 建物の中に案内されたアコリ少尉は、待っていた川本外交官と握手をすると、「すごいですね。」と言った。「そうですね。まあ、こちらへ。」と川本が司令室へ案内する。その部屋には日野一尉と何人かの自衛隊員がいた。 川本が日野にアコリを紹介する。「私は通訳ですね。」と笑いながら、アコリに日野を紹介する。アコリはただ驚くだけだった。部屋の中にある設備は理解できないものばかり。特にモニターに映し出されている映像が気になった。 「あれは?」と川本に尋ねる。 「あれですか、ドローンで撮影している敵の陣地の様子です。日がたつにつれて兵も装備も増えていますよ。どれだけ増えるのでしょう。」と川本。 アコリは茂みに潜んでいた時に飛んできた鉄の羽虫(ドローン)を思い出していた。そして、この国の恐ろしさを感じていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ リベルテ国のメイキ中尉は、ロマスク帝国の国境よりも60km北側にある軍事基地まで退き、態勢を整えて攻撃すべきか、防御に徹するべきか、迷っていた。そんなとき、戦車5台、軽トラ10台に兵70人を乗せた隊が到着した。 メイキ中尉は、その隊の軽トラの助手席から降りた男を出迎えた。 「イータ大尉殿、お疲れ様です。」と言って、メイキが敬礼する。 イータは黙って返礼する。 基地の司令室に案内されたイータは、部屋を見渡し、口を開いた。 「まだ、ロマスクを倒せないのかね。こんな所で油を売って。」 「申し訳ありません。侵攻したのですが二ホンが出てきて。」 「二ホン?やってきたけど、逃げ帰ったのでは?海軍がそう言ってたぞ。」 「二ホンです。あの攻撃はロマスクではありません。」 「どちらにせよ、はやく降伏させろという命令だ。どうせ、二ホンも攻める予定、ついでに叩けばいい。明日、侵攻するぞ。」 翌朝、戦車5台、イータ大尉の乗った軽トラ10台、それに続いてメイキ中尉とセント砲撃隊長が乗った軽トラ1台が、自分たちが切り開いた森林の中の真っ直ぐに南へ向かう道を進行していた。 メイキの部下やそれまでに補充された兵たちは、基地の整備と守りの名目で基地に残した。イータは自分たちだけで侵攻できると自信を持っており、多くの兵が待機することに異論はなかった。メイキは何もしないわけにいかなかったので、セントと部下5人だけでついて行くことにした。 (説明しても分かってもらえない。)そう思っていたメイキは、鉄の羽虫(ドローン)の飛来から二ホンの攻撃を予測していた。そして、攻撃されれば逃げる気でいて、それを運転手に指示していた。 森林を抜けると、急に視界が広がる。はっきりと目視できる位置に二ホンの基地の建物が現れる。
August 29, 2025
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リベルテ国にいる三木は、今日も酒場で働きながら、情報を探っていた。 (戦争特需か。景気は良さそうだ。この酒場も客が多い。東のプロリ帝国もリベルテ国による再開発が行われ、多くの労働力と資金が集まっているそうだ。単に占領による搾取だけの豊かさではなさそうだ。 以前から感じていたことだが、この国の人々は政府の選民思想に毒されているみたい。どの顔も浅黒く、同じ混血人種のようにしか見えないのに。 性的少数者、退廃芸術者、障害者、宗教者などを迫害するのは政府だけでない。国民全体が民族共同体の血を汚す種的変質者であるとして断種しようとさえしている。生きるに値しない命などあろうはずもないのに。 そんな国民に、政府が反社会的人物と認定した者をかくまうものなど誰一人いないだろう。こんな中で、政府に反逆する工作など不可能だ。 でも、奇妙なことに占領した地域では、人々の支持をえるような融和策をとっている。以前の国よりも民に優しいのだ。弾圧するのは自国民ではなく他国民のはずなのに、このいびつさは何なんだろう。 内に厳しく、外にいい顔か。あは、我が職場だ。) そんなことを考えながら、大きなテーブルに陣取ってビールを飲んでる兵たちを眺めていると、彼らが「あっ、ニコル少尉殿」と立ち上がって敬礼した。ニコルは何人かの兵を連れている。 (マズい。拘束される。)咄嗟にそう思った三木は、すぐに従業員用控室に飛び込み、黒いリュックをもって、勝手口から外へ出た。 (やはり、囲まれている。)逃げ場を探していると、「いたぞ」と叫んでこちらにやってくる兵がいる。その兵に向けて、ブシュ。続いてやって来た兵に向けて、ブシュ。三木は、兵の集まる前に、倒した兵を踏み越えて逃走した。 (もう、アパートに帰ることも、職場に戻ることもできない。そのうち手配書も出るだろう。人混みに身を隠し、帝国兵、警官はもちろん、一般人さえからも見つからないように気をつけねば。 宿が問題。段ボールハウスか。浮浪者、取り締まりが厳しいのだろう、あまり見かけないからなあ。) 三木はそう思いながら用心深く街を彷徨った。 三木は日本との連絡が取れるようになった時点で、本格的な戦争が始まることを知っていた。そして、それは我が身が危うくなることであり、警戒に警戒を重ねていた。ニコルが兵をつれているだけで身の危険を感じたのは、前々から拘束されることを予測していたからである。 西方大陸東岸地区の集落は相変わらず電気もガスもない生活で、石油燃料で動く農具や道具が作業を楽にしただけで、ゆったりした時間が流れていた。 奴隷が解放されたトメリア王国では、街や村が舗装された道路でつながり、人や物が大量に動くようになった。ビルの立ち並ぶ街があちこちにできて、国全体が活気を帯びていた。 亜人と共存する理想的な国家と下野大使が評価したバーキー王国は、耳の尖った人たちの住むジャングルもそのまま保護され、近代化と自然環境の保全とがバランスのとれた形で発展していた。 ジュラス都市国家とサンパル皇国は戦いが終わったばかりで、自国だけでなく占領していた地域の問題もあり、課題が山済みであった。 日本は、突然の異変の混乱から冷静にこの惑星を見つめるようになったものの、まだまだ分からないことばかりだった。この惑星の全容を知るために、偵察衛星を打ち上げる計画であったのだが、リベルテ国との戦争により、その地域との通信が優先され、通信衛星に変更された。 この惑星の暦で498年、突然の異変から3年が過ぎていた。 第4章 (完)
August 27, 2025
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オート3輪について行った輸送防護車がカーペの街に入り、ロマスク帝国の陸軍基地で止まる。陸軍基地の入り口にはアコリ少尉が待っていて、彼がオート3輪に乗り込むと、基地内に入っていった。続いて輸送防護車も基地内に入ってオート3輪についていく。 オート3輪が停止したところで、輸送防護車も停止し、川本外交官と事務官、そして警護の隊員3人が降りる。残りの隊員は輸送防護車で待機。 アコリ少尉に案内されて、川本たち5人の日本人が建物の中に入り、誰もいない応接室のような部屋に通される。しばらく、待っていると、「お待たせしました。サランと申します。」と軍服を着た男が入ってきた。フランス語である。座っていた川本たちが立つと、「どうぞ、そのまま。」と座るように促して、サラン中佐は向かい合うように座った。 「話は少尉から聞いております。防衛大臣に連絡しまして、外交官がこちらに来るように手配しています。申し訳ないですが、外交官が来て会議の準備ができるまで、もうしばらくお待ちください。」 サラン中佐はそう言って、警護の隊員たちの装備を眺めながら、「二ホンという国だそうですが、どこにあるのですか。」と尋ねた。言っていることを理解できるのは川本だけである。 「西側にある海のずっと向こうにある島国です。」と川本が答える。 「あの海の向こう?陸があるのですか?」そう言って、やはり、隊員たちの装備を気にしている。 サランはアコリから戦闘車両でリベルテ国の軍を壊滅させたことを聞いていたのだ。 「私どもは今、リベルテ国と戦っています。ご存じで?」 「はい、存じております。」そう川本が答えたとき、アコリが入ってきて、サランに耳打ち。 「失礼。」と言ってサランとアコリが出て行った。 しばらくすると、アコリ少尉がやってきて、「準備ができました。」と川本を案内する。 警護の隊員も立とうとする。「ここでお待ちください。案内できるのはお二人だけです。」と、隊員の付随を制した。川本が「大丈夫です、待っててください。」と言って、隊員たちを座らせると、アコリについて行った。 部屋に入ると、サラン中佐とヨルベ外交官は立って待っていた。そして、サラン中佐が川本と事務官に席に着くよう促し、自分も座った。互いのあいさつの後、ヨルベが口を開く。 「わざわざ、我が国へやってきたわけは?」 「はい、先ほどリベルテ国と戦っていると伺いましたが、我が国もリベルテ国と戦っていましてね。」 サランとヨルベが怪訝な顔をする。 「我が国の領土も一時占領されたのですよ。すぐに、追っ払いましたが。そこで、共に戦えたらと思いまして。多分聞いていると思いますが、この国に侵攻してきたリベルテ国の軍を叩いて、国境まで押し返しているはずです。」 「侵攻してきたリベルテ国の軍を叩いてくださったことは聞いています。でも、どうして我が国のために。」とサラン。 「あなたの国のためだけではないですよ。我が国のためでもあるのです。我が国の武器も提供します。共に戦って欲しいのです。」 サランはアコリの話を聞いた時から、ロマスク帝国だけではリベルテ国の攻撃が防げないが、二ホンがいれば勝てると思っていた。 「共に戦うとして、その見返りは?」とヨルベ。 (見返り?何をばかなことを。)とサランは思ったが、呆れてヨルベの顔を見るだけだった。 「見返りですか。スパン帝国の皇太子が亡命していますよね。」と川本。 ヨルベもサランも(どうしてそんなことを。)と思った。 「スパン帝国からリベルテ国を追い出して、そっくり皇太子にお返ししますよ。」 途方もないことを自信たっぷりに話す川本にヨルベもサランも何も言えない。 「皇太子にお伝えください。今はリベルテ国の領地だから遠慮なく一角の地域を確保し、港湾と空港の整備を行い、リベルテ国への攻撃の拠点としています。戦いが終わればお返ししますと。」 2人はただ唖然とするばかりだった。
August 26, 2025
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護衛艦いずもからの小艇が、輸送防護車のある上陸地点で、川本外交官と部下の事務官、そして日野一尉たち警護の隊員を降ろす。そして、降りた川本たちは輸送防護車で戦闘のあったところへ向かう。 輸送防護車が戦闘車両の集まっているところまで来ると、戦闘車両から隊員たちが出てくる。川本と日野の2人が輸送防護車から降りると敬礼で迎える。 ちょうどそのとき、茂みの中から武装兵が何か言いながら出てくる。日野たちが銃を構える。 「ロマスクの兵です。」と川本が日野らを制する。川本はロマスクの兵のフランス語が分かったのだ。 日野はやって来た兵が川本と話をするのを聞いていた。言語は理解できないが、2人の表情から話の内容を読み取ろうとしていた。 2人は笑顔で握手を交わすと、ロマスクの兵は走って茂みの中へ消えて行った。日野が川本に話の内容を目で催促する。 「ロマスク帝国のアコリ少尉だそうです。こちらの国は二ホンだと伝えました。首都はカーペと言ってここから50キロ先にあるようです。外交官との交渉は伝手がないので、カーペにある基地の上官を紹介するそうです。案内の車をよこすからついていけばいいと。彼は先に報告にいくそうです。そうそう、ロマスク帝国と旧スパン帝国との国境を教えてくれる兵をよこすとも言ってました。」 しばらくするとオート3輪がやってくる。1人の兵が降りて、川本と話をする。川本はその兵を戦闘車両のところに連れて行き、89式装甲戦闘車に乗せる。そして戻ると、日野に「後は、トラックと機材がきますので、そちらをよろしく。」と言って輸送防護車に乗り込む。日野の代わりに警護の隊員が1人、輸送防護車に乗る。 ロマスク帝国のオート3輪の後を輸送防護車がついて行く。 日野はそれを見送り、89式装甲戦闘車に乗り込む。トラックが来ると89式装甲戦闘車を先頭に戦闘車両とトラックは輸送防護車と反対方向へ進んで行く。 護衛艦いずもの渡辺艦長はドローンから送られてくる映像で、戦闘車両とトラックが北に進むのを確認すると、停泊している輸送艦しもきたにエアクッション艇を回収してから北に引き返すよう指示した。 (こんな作戦を考えた人の気が知れない。多分、三木さんだろう。)と渡辺は思った。 護衛艦いずもとまやはゆっくりと旋回し北に向かって動き出した。 ・・・・・・・・・・・・・ ロマスクの兵の身振り手振りから、ロマスク帝国と旧スパン帝国との国境に着いたと理解した日野は、戦闘車両とトラックを止め、下車してあたりを見渡した。国境らしきものは何もない。 ロマスクの兵の仕草によると、遥か東の高い山から西の海岸までが国境で南側がロマスク帝国、北側がスパン帝国だったらしい。 (何と曖昧な国境だろう。陸続きなのに、城壁どころか塀も柵もない。検問所らしき建物もない。集落もなく人の住んでる気配もない、ただの草原、はるか北に森林が見える。それに、敵もいない。) 戦闘車両とトラックが国境まで来る間、リベルテ国からの反撃がなかったのは、退却したメイキ中尉が、後からやってくるリベルテ国の輸送隊や警備兵に退却を命じ、国境よりも後ろに退いていたからだ。 そして、国境が曖昧なのは、ロマスク帝国とスパン帝国の間に争いがなく、領土の取り合いなどをするほど人口が多くなかったからだ。土地は、未開の地が自国に有り余るほどある。 戦闘車両とトラックは国境を越え、少し進行したところで海岸へ向かい、海岸で止まる。トラックから調査隊員が降り、海岸を調査する。 北上していた護衛艦いずもの渡辺艦長は、停止している戦闘車両とトラックを目視すると、その沖合に停泊し、二ホンと連絡をとり現状を報告する。 後続の護衛艦まやも輸送艦しもきたも同様に停泊する。
August 26, 2025
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護衛艦いずもを先頭に護衛艦まやと輸送艦しもきたが続いて航行している。いずもの指令室のモニターには偵察ドローンからの映像が映し出されている。 「あれはリベルテ国の軍隊ですね。戦車や自走砲があります。侵攻していないのは物資待ちですか。」と川本外交官。 「そうですね。あっ、あそこ。兵が潜んでいますよ。ロマスク帝国の兵ですよ。」と渡辺艦長。 「リベルテの軍を叩いて、ロマスク支援ですね。どうします、日野さん?」と川本。 「静観、静観!様子を見ます!」と日野一尉。 「我が国の目的は、ロマスクと接触することです。リベルテを叩けば・・・チャンスですよ。」 「しかたがない、やりますか。」 リベルテ国のメイキ中尉は、上空を飛び回る見たこともない鉄の羽虫(ドローン)が何をしているか理解できなかった。攻撃もしてこないから、撃ち落とす指示をしなかったが、沖に大きな船が3隻航行しているのを見つけると、偵察だと悟って、撃ち落とす指示をした。しかし、そのときは遅く鉄の羽虫(ドローン)は飛び去っていた。 ゲリラ攻撃を指揮していたロマスク帝国のアコリ少尉も鉄の羽虫(ドローン)を目撃していた。彼はそれをリベルテ国の偵察機と考え、潜む位置を変えるように指示した。 護衛艦まやと輸送艦しもきたが陸に近づいていく。この場所も海岸に砂浜がないが、土地の低い場所があり上陸できそうなので、輸送艦しもきたからエアクッション艇が出て、車両を運んでいく。 と同時に、上陸を援護すべく、護衛艦まやの62口径砲が火を噴く。ドカーン。ドカーン。 リベルテ国のメイキ中尉は、もう一つの敵国二ホンの艦からの砲撃だと理解していた。しかし、陸軍の彼は、二ホンの兵器が自分たちよりも優れていることを、海軍ほどは認識していなかった。見える艦の外観から、自国の戦艦のようなものがいないことから、少し甘く考えていた。 (海軍は海では強いが、陸にあがれば弱い。上陸兵とて知れている。こちらには、戦車がある。海からの砲撃は、散って広がれば避けられる。) そう思ったメイキは、迎え撃つことを決心した。 ・・・・・・・・・・・・・・ エアクッション艇2隻で往復し、上陸した車両は、74式戦車2台、16式機動戦闘車2台、89式装甲戦闘車2台、輸送防護車1台であった。 輸送防護車は上陸地点にとどまり、74式戦車を先頭に6台の戦闘車両が進行していった。 ドカーン、ドカーン。74式戦車105mm戦車砲の正確で迅速な射撃でリベルテ国の戦車に命中。 ドン、ドン、ドン。16式機動戦闘車の直接照準射撃で自走砲を破壊。 ダダダダダ。89式装甲戦闘車の銃眼孔から小銃射撃。兵たちが倒れていく。 リベルテ国の戦車や自走砲は全滅。軽トラックを運転するセント砲撃隊長がメイキ中尉に声をかける。 「乗ってください、無理です。逃げます。」 荷台に何人か乗っている。メイキは助手席に乗った。生き残った歩兵も逃げていく。 砲や銃の攻撃音が止み、あたりに静寂がもどる。 戦闘の様子を見ていたロマスク帝国のアコリ少尉は、瞬く間に敵リベルテ国の軍を壊滅状態にしてしまった6台の戦闘車両を驚きと恐れの入り混じった複雑な心境で眺めていた。(リベルテ国の軍を攻撃したのだから敵ではない。このまま潜んでいる理由もない。しかし、どこの国かも分からない。)
August 25, 2025
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カンナ川河口近くにあるトイヤ港の港湾地帯に、リベルテ国の海軍基地がある。その建物の1室で、ゲイン少佐とヘリ―艦長は、レアル大佐に戦いの報告をしていた。 「2隻の戦艦と2隻の軍艦がなすすべもなく沈んだというのかね。」とレアル。 「はい、1つはわが軍にもある潜水艦による魚雷攻撃かと、もう1つは砲弾のようなものが敵艦から飛んできて、でも砲撃にしてはあまりにも遠すぎて。とにかく、兵器が違いすぎる。」とゲイン。 「爆撃機4機とも撃墜したわけは?」 「分かりません。敵艦に近づくと爆発して。砲撃かと思われます。」とヘリ―。 「飛んでいる航空機に当てたというわけかね。」 「そうとしか思えません。」 ゲイン少佐もヘリ―艦長も、そしてレアル大佐もミサイルや誘導弾を知らない。 「機体は造ればいいが、優秀なパイロットは痛いな。離着陸の訓練からやらないといけない。」 「申し訳ありません。」 「とにかく、二ホンとの戦争は危険です。やめるように言って下さい。」とゲイン少佐。 「それは、無理だ。政界も財界も、マスコミまでもが二ホン占領へ動き出している。ロマスク帝国との戦争が終われば、二ホン侵攻が本格化する。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ロマスク帝国との戦争が終わるまで二ホンは待ってはくれなかった。元スパン帝国の都マドラの沖合に、護衛艦いずも、護衛艦まや、そして、輸送艦しもきたが現れ、停泊していた。 リベルテ国はマドラの港の前に軍艦を並べる。1隻2隻……8隻。距離はリベルテ国の軍艦の砲の射程距離かどうかは分からないが、日本の護衛艦の射程距離内であった。 護衛艦いずもから、三木に連絡が入る。 「三木さん、生きてましたか。」外交官川本であった。 「まあ、何とか。またやって来たのですね。」 「はい、三木さんに情報をお伝えしようと思いましてね。もちろん、それだけではないですけど。」 「情報?」「はい、実はリベルテ国との戦いが避けられなくなって、どうしても、ここと日本との通信が必要ということで、偵察衛星が後回しになって、通信衛星が打ち上げられたのです。ここと日本を結ぶための。もう、情報は直接日本へ送れますから、送ってください。その情報によって、こちらにも、そちらにも指示があると思います。では、また。」 日本政府はこの惑星の全容を知るために偵察衛星の打ち上げを計画していたが、目前の危機を回避するために通信衛星に変更していたのだ。 三木からの情報が日本に届く。日本からの指示と情報が三木に届く。指示は「リベルテ国滞在、情報収集、扇動工作。」だった。そして、興味ある情報が届いた。それは、サンパル皇国のサンジー教の経典が翻訳されたということとその内容だった。そのなかに、古の民のことがあったのだ。 (古の民、これで3度目。もう単なる伝承ではない。史実なのだ。500年か1000年前に、この惑星に今の日本よりも遥かに科学技術の進んだ民がいた。今戦えば日本は負ける。古の民が滅ぼされるはずもない。今はどこにいるのか、どこに行ったのか。) 三木はリベルテ国との戦いは何の心配もしていなかった。気になるのは古の民の情報だった。 護衛艦いずもにも指示が来ていた。航路を西にとり、陸地に沿って進み、ロマスク帝国まで進行せよと言う指示だった。ちょうどそのとき、東の方からリベルテ国の戦艦が3隻やってきた。 護衛艦いずもが西に進んで行くと、護衛艦まやと輸送艦しもきたもそれに続いた。 マドラの港を守っていた軍艦の艦長たちは、ホッとすると同時に、勘違いをした。8対3、いや11対3だから勝ち目はないと判断して、敵は西へ逃げ帰ったと。 護衛艦いずもが西へ進んでいると、やがて海岸線が南に向く。今度は陸に沿って南へ進む。 ・・・・・・・・・・・・・ ロマスク帝国に侵攻しているリベルテ国のメイキ中尉は砲撃隊長セントに尋ねていた。 「砲弾、弾薬がなくなったと聞いたが、本当か。」 「はい。残り少なくなっています。今、攻撃されるとマズいことに。」 「そうか。催促の伝令を走らせよう。進撃はここで止めよ。防御を厳重にして。」 「はっ」敬礼をしてセントが去る。 (ロマスク帝国の兵はシツコイな。逃げたかと思えば攻撃してくる。戦車や自走砲に被害はないが、歩兵に死傷者がかなり出ている。戦車や自走砲を前線に、その遥か後ろに歩兵を配置すれば、その歩兵が狙われる。敵の指揮者は侮れない。これは苦戦するかも。)メイキがそう思った時、テントを設営している兵が狙われた。バン、バン、バン。 バババン、バババン、バババン。反撃して敵を追っ払う。 (敵は茂みの中や木の陰から攻撃してくる。敵に戦車も自走砲もない。銃の性能も格段にこちらが上。大きな戦闘は圧倒的勝利、だから侵攻してきた。しかし、地の利は向こうにある。こうして、小さな戦いで削られる。キツイな。)メイキの気は重い。
August 24, 2025
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航空母艦には4機の戦闘機が載っていた。 「こんなに早く、よく出航できましたね。」とゲイン大佐。 「命令ですからね。」と航空母艦のヘリ―艦長。 「そういうことではなく、離着陸の訓練も必要でしょうに。」とゲイン。 「飛行機乗りを舐めないでください。」口をはさんだのは若い航空隊長。 「あはは、失礼。ところで、艦長、すぐに退却してください。」 「退却?命令違反ですよ。」 「責任は私がとる。とにかく、退却してください。」 「何を馬鹿なことを言っている。」次に口をはさんだのはオイド外交官。 「こちらには戦闘機がある。敵のあの艦を攻撃しろ。」海に放り出されたのに威勢のいいオイド。 「攻撃か退却かを決めるのは私です。外交官様」と言って、ゲインが「退却、これは命令だ。」と叫んだ。 「申し訳ないが、この艦は少佐の艦隊ではありません。私は攻撃の出航命令に従うだけです。隊長、攻撃の準備を。準備でき次第攻撃してください。」 航空隊長は艦長に敬礼をして、走っていった。 航空母艦から戦闘機が次々と離陸していく。そして、護衛艦まやに向かって飛んで行った。 戦闘機がまやに近づくと次々と爆発していく。対空ミサイルで攻撃されたのだ。 それを見たヘリ―艦長は青くなってゲイン少佐の命に従った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ニコルに占領地に連れていかれた三木は、そこでの情報の収穫はなかったが、ニコルの正体が見えてきた。最初、1人で二ホンの船に乗り込んだのは二ホンを探るため、自分と同じ諜報員かなと思ったが、自国で武装兵に変装は無理な気がしていた。軍隊での階級は分からないが、彼は宣伝部隊の隊員なのだ。宣伝部隊とは占領した地域で自国の都合がいいように住民を洗脳する役割をもっている部隊である。そんな部隊の隊員で、三木の監視役もしているところをみると、相当なやり手であろう。 三木は片言ではあるがフランス語が話せるようになり、酒場で働くようになった。三木が破壊工作をしていないと判断したニコルは、監視の手を緩め、1人で占領地へ行くことが多くなった。最近、東方を占領したので、そちらへ行ったきり帰らない日が何日もあった。 酒場は情報の巣である。ビールを運びながら聞き耳を立てる。理解できる片言の単語で内容を推測する。今まで長い間やってきた仕事だ。でも、日仏辞書は欠かせない。 三木はアパートの部屋で、今日も、1日の情報を整理する。 (秘密警察、通常の警察ではない。反戦主義者を取り締まるところみたい。どこの国でも反戦を唱える者はいるものだ。どこを探しても反政府の影さえ見えなかったのは、徹底的に取り締まっているからだろう。 軍隊への期待も志願も多いな。役所もマスコミも勝ち戦しか伝えない、被害ゼロ。戦争で被害ゼロなんてあり得ないのだが。 ここの暦も西方大陸東岸地区の集落、トメリア王国などと同じ。この惑星はどこも同じ暦なのか。498年。転移してからもう3年たった。 この国も占領地も、会った外交官のように浅黒い顔の人が多いな。浅黒い顔でないニコルが例外だ。以前、潜入したトメリア王国の人たちと似ている。何か、意味があるのだろうか。 元スパン帝国の行商人の話によると、このリベルテ国のずっと南にロマスクという帝国があるみたい。高い山がさえぎってリベルテ国からはいけないが、元スパン帝国からはいけるそうだ。そして、そのロマスク帝国にスパン帝国の皇太子などが逃げ込んでいて、リベルテ国と戦争中だという。その国に行くことも考えないと。 この国の言語はフランス語、スパン帝国もフランス語、おそらくロマスクもフランス語だろう。苦手で、まだよく分からないが。でも、不思議だな。言葉というものは地域によって違うもののはずだ。まして、国が違えばなおさら。民族は同じか。同じ民族で対立することはよくあることだ。 でも、外見からすれば、リベルテ人もスパン人もトメリア人もバーキー人もみな同じ。見ていないが、ロマスク人もサンパル人も同じだろう。地球では外見の違う人種がいろいろいたのに。)
August 23, 2025
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戦艦2隻、軍艦2隻、輸送船1隻の艦隊でやってきたリベルテ国は、南鳥島に上陸、占領していた。 日本はその島から撤退していて、戦うことなく上陸したリベルテ国のマイト中尉は首を傾げていた。 見たこともない機材が並ぶ建物、整備された滑走路。部下たちが破壊しようとしていたのを止め、とんでもない国を相手にしていることを感じていた。 部下たちは簡単に占領できたから、次の島を攻略しようと士気も高かったが、マイトはいやな予感がして、南鳥島から出ようとはしなかった。部下には、食料などが届くまでは待たないと、侵攻しても食料切れになると説明したが、部下たちは、食料など現地調達すればいいと主張するばかりだった。 「どうしたのかね。」 その声に振り返ったマイトは、敬礼をして、「どうしてここに?」と言った。 そこにいたのは、艦隊の指揮をしているゲイン少佐であった。 「いや、いつまでたっても戻ってこないから、様子を見に来たのだよ。」 「少佐、ちょっと、一緒に来てください。」 マイトはゲインを見たこともない機材が並ぶ建物へ案内する。建物の中に入ったゲインは、「これは。」と言って顔を曇らせる。 そして「マイト君、我々は今まで、一方的な勝利の戦いしか、してこなかった。兵の練度ではない。圧倒的な兵器の差でだ。今度はそうはいかないかも。いや、今までと逆になる可能性もある。」 「少佐、私もそう思います。侵攻は見合わせた方が。」 「そうもいかないのだよ。オイド外交官、司令室へやってきて、侵攻しろと矢の催促、それで、ここへきたのだよ。そうそう、待望の航空母艦が完成し、戦闘機を載せて、こちらに向かっているそうだ。それを待って、侵攻しよう。」 と、そのとき、沖に停泊している戦艦や軍艦に水柱が上がる。 バカーーン。バカーーン。バカ――ン 戦艦や軍艦が爆発する。 ドカーン、ドカーン、ドカーン。 潜水艦うずしおからの魚雷と護衛艦まやからの対艦ミサイルの攻撃だった。戦艦2隻と軍艦2隻が傾いていく。 上空にヘリが飛んできて、大音量のフランス語で、 「上陸兵は、ただちに引き返せ。2時間後に総攻撃をする。ボート、輸送船は攻撃しない。乗組員を救助して引き返せ。繰り返す。上陸兵は、ただちに引き返せ。2時間後に総攻撃をする。ボート、輸送船は攻撃しない。乗組員を救助して引き返せ。」 ゲイン少佐とマイト中尉は顔を見合わせて頷いた。 マイト中尉が叫ぶ。「退却、全員退却、ボートに乗れ!」 「少佐もはやく。」「わしは最後でいい。お前こそはやく。」 「私はこの隊の指揮をする任務があります。最後にします。」「じゃあ、2人最後だ。」 数隻のボートで上陸兵が輸送船に帰る。途中で沈んだ戦艦や軍艦の泳いでいる乗組員を助けながら。 輸送船からもボートが出て救助している。引き返してきたボートに、自分たちが最後であることを確認して、ゲイン少佐とマイト中尉が乗り込む。途中、浮遊物にすがりついているオイド外交官を見つける。「無視しよう。」とゲイン。「それはいけません。」とマイト。「本心だが、冗談だよ。」と笑いながらゲイン。 オイド外交官を救助して輸送船に向かっていると、東方に航空母艦がやってくるのが見えた。 ゲインは、ボートを操縦している兵に、「あちらに見える艦に向かってくれ」と指示。
August 22, 2025
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「陛下、宣戦布告を撤回してください。それさえしていただければ、日本は攻撃しません。国交はそちらがその気になった時でかまいません。」と下野。 アロル皇帝は何も言わない。 「返答は明日でいいです。陸軍が帰るのを待っているのでしょう。帰ってからでいいですよ。よく相談をして。返答は文書で、港湾事務所に届けてください。返答のない場合、撤回をしていただけない場合は、総攻撃をします。もう私はここへは来ません。では。」 相原はポルトガル語がサッパリで、下野が何を言っているか分からない。下野が日本語で「帰ります。」と言った時も、なぜ帰るのか分からなかった。相原の質問がシツコかったので、下野は会話の一部始終を説明した。 下野を載せた輸送防護車は、港まで戻り、桟橋から下野がボートに乗ろうとすると、相原が声をかけた。 「大使はもう出向いてこなくていいですよ。返事はここで私が受け取ります。」 「ポルトガル語、読めないでしょう。また、出向いてきます。」 「大丈夫です。チャコ総領に読んでもらいますから。」 「そうですか、でも出向いてきます。私の仕事ですから。」 そういうと、下野はボートに乗り込んだ。 74式戦車もトラックも港湾地帯まで退却し、隊員たちは食事の準備に取り掛かり、明日に備えることになった。 ジュラス東空港には2機の改造Cー2と2機の戦闘機Fー35Bが待機していた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 翌日、下野は港湾事務所でアイン海軍大将とトマス提督と会っていた。 「ダメでしたか。仕方がないですね。アセス城ですか、あの城を攻撃します。」 「そんなことを、無理です。まもなく、陸軍がこちらに攻めてきます。」 「大丈夫です。それより、城に帰って、皆に城から出て避難するように言って下さい。アロル皇帝とトール宰相の避難場所はつかんでおいてくださいね。攻撃が終われば拘束しますので。あなた方はここへ避難してください。ここは攻撃しません。4時間後に攻撃が始まります。急いでください。」 アインとトマスが城へ引き返してから、しばらくすると、マルト司令が率いる陸軍がやってきた。3台の自走砲と歩兵200、進行は遅い。ナガア地方から帰ったばかり、疲れ果てて士気は低い。下野はすでに護衛艦たかなみに帰っていた。 ドン、ドン、ドン。自走砲からの攻撃が始まる。 ドカーン、ドカーン、ドカーン。74式戦車の105mm戦車砲の砲撃で、3台の自走砲が爆発する。 3連発の銃剣をもって突進してくる兵に向かって、ダダダダダ。機関銃が火を噴く。半数が倒れマルト司令も倒れると、残りの半数は逃げ出した。 たった2台の戦車、その圧倒的な強さにチャコ総領は驚愕していた。トラックにいる人たちは何もしていない。そして、もっと驚くべきことが、その3時間後に起こった。 ドカドカドカドカーン。ドカドカドカドカーン。 ドカドカドカドカーン。ドカドカドカドカーン。 改造Cー2の爆撃によって、アセス城が爆発する。静寂が戻ったときには、アセス城は跡かたもなかった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 拘束されたアロル皇帝とトール宰相は、護衛艦たかなみの船室にいた。その船室にアイン海軍大将とトマス提督もついて来ていた。 「宣戦布告を撤回する。」とアロル皇帝。 「結構です。これを見てください。」と下野大使が要求文を見せる。 それを読んだアロル皇帝の顔が見る見るうちに青くなる。 皇帝から渡された要求文を読んだトール宰相が言った。 「こんなことは承服できぬ。」 「できなくても、してもらいます。要望ではなく要求です。トール宰相の手腕、期待してます。皇帝は日本を見学、いいですね。」と下野。 ジュラス都市国家の独立、ナガア地方の独立、スリム地方の独立を認めること、ガント港湾地帯を5年間の日本の租借地とすること、国内の地質調査と発掘を認めることなど、占領こそしないが、敗戦国に求める要求文であった。 要求の詳細を下野から聞いた相原は、 「昨日の今日、昨夜一晩で要求文を作成したのですか?」と尋ねた。 「いえいえ、要求文は日本から持ってきたものですよ。」と言って片目をつぶった。
August 21, 2025
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アセス城では、攻撃を命じた衛兵が全滅。アロル皇帝は青くなって、アレルテ軍務大臣に、 「何とかならんのか。」と怒りをぶつけていた。 「何ともなりません。ドドル陸軍大将もマルト司令もナガア地方の治安維持に出向いており、陸軍は誰もいません。」 「海軍がおるではないか。」 「海軍?陸では、どうにもなりません。ドドル陸軍大将に伝令を出しておりますが、兵を連れて戻ってくるのがいつになりますやら。」 「それまで、籠城か。この城は堅固だから、破られることはないだろう。近づいたら砲もあるし、砲兵はいるのだろうな。」 「はい、少し残っています。」 ・・・・・・・・・・・・・・・ 輸送防護車とトラック1台が港へ向かう。港の沖合に停泊している護衛艦たかなみに、相原が連絡を入れる。たかなみからボートが出てきて、港に入ってくる。桟橋に降り立った外交官を見て、「やっぱり、大使でしたか。」と相原。 「ポルトガル語が喋れる外交官は私だけですから。」と下野大使。 「城は閉ざされています。とりあえず、港湾事務所へ。」と相原。 トラックから水陸機動団の隊員が警護に降りてくる。 輸送防護車から降りたチャコ総領は下野と握手をして、「私はどうしましょう?」と尋ねた。 「一緒にいきましょう。その方が話がはやい。」と下野。 港湾事務所にはアイン海軍大将とトマス提督がいた。 「宣戦布告の撤回を働きかけてくれませんか。友好的な国交を希望しています。」と下野。 驚いたのは、アインとトマス。降伏を要求してくると思っていた。2人とも、占領されても仕方がないほどの戦力差であることを感じていたのだ。 「友好的な国交?陛下が聞き入れてくれるかどうか。東方に遠征している陸軍の帰りを待っている。」とアイン。 「聞き入れてくれなければ、国が滅びますよ。」とチャコ。 「聞き入れてもらわないと。やってみてください。」とトマス。 結局。アインとトマスは城に入り、アロル皇帝を説得することになった。 交渉の場が持てる場合は、トマスが連絡にくるようになっていた。 下野大使らは輸送防護車のなかで、74式戦車と共に待っていた。いつまで経っても、連絡がない。 説得はできなかった。陸軍が戻ってくれば、追い払うことができる。そう思っていたのだ。 「ダメだったようですね。どうします。強行しますか。」と相原。 「引き上げるわけにはいけないし、困ったな。」と下野。 「行きます。」と言って相原は輸送防護車から出ると、隊員に指示。74式戦車を先頭に動き出す。 しばらく進むと、ドン,ドン。城から砲撃をうける。でも当たらない。 ドカーン。74式戦車の105mm戦車砲の砲撃で城壁が崩れる。 ドカーン。ドカーン。ドカーン。城の砲台が破壊される。 城からの砲撃がなくなると、74式戦車に続いてトラック、輸送防護車が進行し、城内に入る。 トラックから防弾チョッキを着た水陸機動団や陸自の隊員たちが降り、城内の制圧にかかる。 すでに衛兵は全滅していたから、すぐに制圧できた。その手際よさに驚くチャコ総領に輸送防護車で待っているようにいった下野大使は、ゆっくりと腰を上げた。 輸送防護車から下野大使が降りてくると、相原一尉とアイン海軍大将がやってきて、アロル皇帝とトール宰相を拘束している部屋へ案内する。 部屋の入り口近くでトマス提督がアレルテ軍務大臣に一生懸命説明している。下野はそれを横目で見ながら、相原とアインの後から部屋に入っていく。 部屋にはアロル皇帝とトール宰相が椅子に座らされて、水陸機動団の隊員が銃を突き付けている。 下野は2人の拘束を解くように言った。相原が目配せで合図をすると、銃を突き付けていた隊員がその場を離れ、入り口に立った。 「お初にお目にかかります、皇帝陛下。日本の全権大使下野と申します。」下野が流暢なポルトガル語で言った。アロル皇帝は黙っている。 「お前、陛下をこのような目にあわせて、ただではすまぬぞ。」とトール宰相。 アイン海軍大将が苦笑して、「状況を理解してください。」と言った。
August 21, 2025
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国交使節団がリベルテから帰還してから、2週間がたった。リベルテの要求を承服できるわけもなく、すべて拒否をどう穏やかに伝えるかを思案していた時、小笠原諸島のはるか東を航行している船団を発見した。戦艦2隻、軍艦2隻、輸送船1隻の艦隊である。 日本の最東端は小笠原村南鳥島。日本列島との間にある海溝はなくなったのに、島は残っている。住民はいないが、海自、関東地方整備局、気象庁の人たちが常駐していて、近海にレアアースを豊富に含む泥があり、それを採取する船が来ている。 日本政府は、人的被害を避けるため、南鳥島および周辺からの撤退を命じていた。実は、リベルテの要求を受け入れない場合は、攻撃すると、宣戦布告文を要求の最後につけていたのだ。返答もしていないのに、やってくるとは思わなかったが。 東方のリベルテの軍隊が、日本の領土南鳥島を占領。西南地域のサンパル皇国も宣戦布告。戦いたくない日本であるが、法の解釈だけではどうにもならないところに追い詰められて、やっと、憲法が改正した。 第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は 武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 ②ただし、日本国及び日本国民を攻撃する勢力に対しては、国の交戦権を認める。 第9条の国際平和を誠実に希求する姿勢は残されたが、②が劇的に改正された。改正か改悪かは分からないが、それは歴史が証明するだろう。とにかく、やっと戦えるようになったのだ。 ・・・・・・・・・・・・・・ サンパル皇国では、陸軍の自爆兵の数が多く、死に報いる報酬が払いきれない事態になっていた。それでも、パルコンの神に対する忠誠から志願する兵はいたが、数は少なくなっていた。 戦いに敗れたという情報が占領して支配していた地域に流れると、いたるところで反乱の兆しが見え始めていた。そちらに兵を派遣する必要があり、ジュラス都市国家を再度攻撃するどころではなくなっていたのだ。 メリル教皇は、占領したナガア王国の民に強引にサンジー教を押しつけ、そのお布施から膨大な利益を得ていた。その地域の人々が支払いを拒否し始めた。そして、ナガア王国の残党の扇動によって、武力蜂起したのだった。 その反乱はサンパル皇国の陸軍によって鎮圧されたが、元スリム王国へも飛び火した。 そんなとき、二ホンが攻めてきたのだ。自分たちが作ったジュラス都市国家とサンパル皇国を結ぶ道路を使って。陸軍の兵力のほとんどを東の占領地域の反乱の対策に当てていたため、西からガントに侵攻してきた二ホンに対し手の打ちようがなかった。 首都ガントの街を鉄の大砲車(74式戦車)2台と鉄の荷車(トラック)2台、鉄の箱車(輸送防護車)1台が進む。街の人たちが見物するだけで何の抵抗もなく、皇国の城アセス城に105mm戦車砲の射程距離まで近づいた。そして停車。 城から衛兵が多数、3連発の銃剣を構えて突進、攻撃してきた。 ダダダダダ。ダダダダダ。 7.62mm機関銃が火を噴く。 「これから、どうします?」と輸送防護車のチャコ総領。 「日本の外交官が来るまで、ここで待機。海路でやってきます。」と相原一尉。 「降伏の要求ですか?」 「いえいえ、宣戦布告を撤廃して、友好的な関係を結べればそれでいいと考えているようです。」 「それまでに、サンパル皇国から交渉があった場合は?」 「待ってもらいます。私に交渉する資格はない。それを伝えてもらうために、あなたがいる。」
August 20, 2025
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三木はこの国の名がリベルテで、この街が首都でカンナといい、大きな川の名もカンナ川ということを教えてもらっていた。 (どうもこの世界は、川の名を街の名前にすることが多いようだ。リベルテか、自由の国という意味だが。この国の科学技術のレベルは第2次世界大戦直後といったところか、核兵器もあるかも。) そんなことを思いながら街を散策していると、「ボンジュール」と声をかけられた。案内の兵ニコルであった。一生懸命説明してくれるのだか、三木にはよく分からない。宮殿で何かの会があってそれに呼ばれているようだった。中に港がある城のような建物をトスリン宮殿と言うらしい。よく分からないが、ニコルについて行くことにした。身の安全のために、黒い長方形のリュックをもって。ニコルはリュックの中身を調べたが、それらが何か理解できなかったらしい。もちろん、弾薬や砲弾は下着で包んで隠していたが。三木は、ニコルが自分の監視役であることを知っていた。 トスリン宮殿の中に入り、宴会場のような大きな部屋に案内された。テーブルには料理が並んでおり、多くの人たちがいた。三木は、見覚えのある男の所へ案内された。先日の浅黒い顔の外交官である。名前の紹介があったかも分からないが、言葉も分からず、名前を知らない。ニコルはその男に敬礼をして去っていった。 その外交官は、鉄道会社の社長を呼んで、三木が日本人であることを紹介した。次々と人を呼んで、三木を紹介する。三木は察した。自分が珍しい見世物になっていることを。 ここに集まっているのは、この国の実業家たちである。占領した植民地の利権を掌握している人たちで、次の利権を貪りに来ているのである。このような人たちが軍事政権を支えているのだ。そして、次のターゲットがプロリ帝国と二ホンであった。 三木は言葉が分からないものの、会話の雰囲気で、彼らは自分たちの国が最強であると思っていると感じていた。 見世物から解放された三木は、豪華な料理を食べることに専念した。周りの人たちは、その食べっぷりを、貧しい国の蛮人を見るような目で見ていた。 アパートに帰った三木は、1日の調査を整理していた。 (この国の豊かさは、占領した植民地からの搾取によるもののようだ。植民地へ行ってみる必要があるな。明日、ニコルに尋ねてみよう。) そんなことを思っていると、外が騒がしくなる。窓を開けてみると、提灯の明かりが溢れている。提灯行列の群れだ。何事かと、アパートの管理人に聞いてみる。身振り手振りでも理解できる。戦勝祝いの行列だ。 (似たような映像を見たことがある。南京陥落のときの日本の提灯行列だ。)そう思った三木は、なぜか暗い気持ちになった。 ・・・・・・・・・・・・・ 翌日、ニコルがやってきて、いつものことだが、一生懸命説明説明する。三木は、リベルテ領スパンに用があるから、ついてこいと理解した。監視役、目の届くところにいて欲しいらしい。三木にとっては願ったり叶ったり。黒い長方形のリュックを背負って、ついていく。 宮殿内にある港から戦闘艇のような船に乗って、水路を出る。カンナ川を下り海に出て、西進する。そして、日本の使節団が最初にたどり着いた港に入る。 桟橋に降りると、ニコルが教えてくれた。この街はマドラと言って、元スパン帝国の首都だったと。そして、食堂らしいところに連れてきて、身振りを交えて説明。昼時にここに戻れ、連れて帰る、と三木は理解した。ニコルは近くの領事館に入っていった。 三木は、古い石畳の道を歩いていた。家は石造りか、レンガ造り、木造の家はない。 (占領してからかなり時を経ているのだろう、街が落ち着いている。戦災孤児のような子供も見受けられるが、人々は穏やかだ。占領下の統治、うまくいっているようだ。リベルテに反撃、難しいな。) 三木がそう思ったのも無理もない。人々は、スパン帝国の圧政から、戦争による重税から、解放されたのだ。反リベルテの勢力など見つけようもなかった。
August 17, 2025
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日本では、無線によるインターネットの速度が遅いので、低軌道の人工衛星をどんどん打ち上げて、高速インターネットを提供するように、企業やマスコミから要望が上がっていた。以前の地球では、アメリカの民間企業が競って低軌道上の人工衛星を打ち上げていて、それらが光の帯(スターリンク)となり、UFOと間違えられることもあった。低軌道上に毎年8000以上の人工衛星が打ち上げられていたのだ。UFOと間違えられる騒動を避けるために、太陽光を反射しない素材の使用が研究されたりしたこともあった。 問題はそんなことではない。毎年8000基が大気圏で燃え尽きて、アルミニウム硫化物の微粒子になり、オゾン層を破壊していたことだ。それを指摘した学者もいたが、フロンの様に中止にはならなかった。フロンは人畜無害。夢の流体ともてはやされて冷蔵庫やエアコンに使用されたが、オゾン層の破壊物質として生産中止になっていたのに、人工衛星を打ち上げ競争は終わらなかった。 ともかく政府は、それよりも偵察衛星、この惑星の全容を知ることの方が先だと考えていた。 日本列島は以前の地球の時と同じ緯度なのにかなり暖かい。日本海側は豪雪地帯だったのに、雪が降らない。それどころか、富士山にも雪がない。 防衛上もさることながら、この惑星を知らなければ政策の立てようもない。日本だけでは生きていけないのだ。 国内でも手は打っていた。 深刻な食糧不足は西方大陸東岸地区やトメリア王国やバーキー王国との交易でなんとかなったが、食料自給率の低さは改善すべき課題であり、耕作放棄の土地や所有者不明の土地を無償で貸し出すだけでなく、耕作するものに補助金を出すことによって、失業した人たちが農業に活路を見出すようにした。 空き家を無償で借り受け、日本に取り残された外国人だけでなく、住居を持たない人たちに無償で貸し付け、空き家問題の解決と、住民税の増加をもくろんだ。 どちらも強引だとマスコミの批判を受けたが、確実に成果をあげている。 ・・・・・・・・・・・・ 西方大陸東岸の自治保護地区の集落は、電気ガスのない生活のままであり、変化がなかったが、壊滅した3つの集落に、自治保護地区に逃げていた人たちやトメリア王国に捕えられていた人たちがもどり、集落が再建されていた。猫耳、熊耳の人たちは寿命は短いが、人口は増加傾向にある。この惑星に適応した人たちであるといえる。日本人の人口は1億1千万と減っていた。 トメリア王国では、奴隷の解放に四苦八苦していたが、日本大使下野の強い要望で、強制的に開放、故郷に帰るかこの国で働くか自由に選択させ、国が補助するようになった。 バーキー王国では、首都とアルミ港湾地区すべての電力を賄う発電所とジャングルを抜ける舗装道路が完成し、自動車が行き交うようになったが、ジャングルの破壊が深刻になり、国内のガソリン車はすべて日本が引き取り、電気自動車と交換していた。 ジュラス都市国家では、チャコ総領の管理体制が整い、弾圧こそしなかったが、サンジー教の聖堂は軍の備品倉庫や兵舎に変わり、サンジー教の信者も少なくなっていた。 ジュラス東港の護衛艦かがは修理点検が終わり、日本に帰還していた。入れ替わるように、帰還していた相原一尉と水陸機動団のほか、74式戦車、コガタという愛称のトラック、高機動車、輸送防護車などと一緒に陸自の隊員たちが来ていた。 サンパル皇国とジュラス都市国家を結ぶ一直線の道路を監視していたジュラス都市国家の兵が、サンパル皇国の軍の進行を見つけた。すぐに、チャコ総領に連絡が届き、相原一尉の耳に入った。 相原は2台の74式戦車と水陸機動団の隊員を引き連れて、現場に急いでやってきた。ジュラス都市国家の軍を率いているのはサミー補佐官、政治の補佐と軍のトップを兼務しているのだ。 サミーは、やってきた相原に言った。 「後方で観ていてください。わが軍の力を試したいのです。」 「敵は自爆覚悟で突っ込んできますよ。」 「分かっています。来る前に叩く、そう指示しています。」 「わかりました。城壁にある建物を越えるまでは攻撃しません。町まで来ると厄介ですから、越えたら攻撃します。」 「ありがとうございます。」 ドカーン。79式誘導弾がサンパル皇国の自走砲に命中する。 バカーン、バカーン、バカーン。 自走砲の側にいた自爆兵が爆発する。 ドカーン。バカーン、バカーン、バカーン。 ドカーン。バカーン、バカーン、バカーン。 自爆兵が突進してくる。 建物の2階からジュラスの兵が自動小銃で狙撃する。 ダダダダダ。ダダダダダ。バカーン、バカーン、バカーン。 ダダダダダ。ダダダダダ。バカーン、バカーン、バカーン。 自爆兵の数が多い。倒しても倒してもやってくる。パルコンの神に導かれて。 ついに、城壁にある建物を越えて、ジュラスの兵を巻き添えにして自爆している。 ダダダダダ。ダダダダダ。バカーン、バカーン、バカーン。 日本は攻撃できない。ジュラスの兵とサンパル皇国の兵が入り乱れているからだ。 ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。ダダダダダ。 後方で戦況を見ていたサンパル皇国のマルト司令は、自走砲と自爆兵の全滅を確認すると、退却を命じた。ジュラス軍のサミーも攻撃を停止させ、けが人などの救助を命じた。 相原の心境は複雑であった。 (最初から日本が参加していれば、ジュラスの兵の命が救えたはず。サミーに従ったのは正解だったのかどうか。街に被害はなかったが、城壁にある建物を越えてきたら、攻撃できないことを予想しなかったミス。) そんなことを考えていると、サミーが声をかけた。 「ありがとうございます。助かりました。」 「いえ、何もできなくて。」 「いえいえ、後ろにいてくださるだけで。それに、わが軍だけで防いだことは大きいことです。自信になります。ありがとうございました。」
August 17, 2025
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小艇に戻ると、すぐに日野が川本に尋ねる。 「三木さんは何で?」 「あの方にはあの方の考えがあるのでしょう。」と日野。 「何の考えか分からない。で、交渉は?」 「はい、話になりません。属国になれとか、領土の一部を軍事基地によこせとか。そうすれば、守ってやると。どこかに攻め込まれて、助けを求めに来たと勘違いしているようです。」 「で、何と答えたのですか。」 「持ち帰り検討しますと。答えは拒否ですが、それを言うと我々の身が危ないと思いましてね。」 「そうですか。いずもに戻れば砲撃でも食らわしてやりますか。」と日野。 「あはは、それもいいですね。」と川本。 小艇は水路をぬけ、川を下り、いずもの待つ河口へと航行していた。 川本が交渉したこの国はリベルテという名の共和国である。自由という言葉をかかげ、民主革命で帝政を倒した民兵は、議会を開き憲法を制定し、民主的に国政を運営していた。しかし、西にスパン帝国、東にプロリ帝国という巨大な国に挟まれ、東西の国境で争いが絶えなかった。 国を守るには軍事力を高めねばならない。そのためには軍備増強、拡張が必要である。必然的に軍部の発言力が強くなる。 そんな中で台頭してきたのがハイルという人物である。最初は小隊長に過ぎなかった彼が、西のスパン帝国との戦いで大勝利をあげると大隊長になった。そして、その帝国を滅ぼし占領すると、民衆は熱狂的に支持し、東のプロリ帝国も占領すると期待した。 国民の総意が彼を国の指導者まで押し上げていたのだ。 リベルテという名の共和国は、ハイル総統の軍事政権、共和制独裁政治の国なのである。 ・・・・・・・・・・・・・・ 案内人の兵が三木を連れて行ったのは、ワンルームのアパートだった。通じるかどうか分からないが、 「メルスィ、メルスィ。」と頭を下げて、三木はその兵に礼を言った。兵の名はニコル、そう教えてもらった。 三木はアパートの管理人に、もっていた砂金を見せて、身振り手振りで、換金できる場所を尋ねた。 言葉が通じなくても何とかなるものである。アパートの管理人は意図を理解し、その場所に連れて行ってくれた。その場所は日本の金券ショップのようなところで、換金の交渉も管理人がやってくれた。かくして、1か月分の家賃を払い、この国の言葉を覚えながらの生活が始まった。 アパートの部屋は白熱電灯、コンセントもある。台所にはガス台がありプロパンのようだ。シャワーもできる。三木はテスターのようなものを取り出し、コンセントの電源を調べる。100V、60サイクル交流、西日本と同じ、機器の充電問題なし。 三木は通信機を取り出し、護衛艦いずもと連絡をとろうとするが、通じない。いずもは砲撃を食らわすこともなく、日本に向かって航行していた。 (もう、出発したか。もっと、多くの通信衛星がいるな。それより、軍事衛星か。とにかく、明日から大変だ。言葉も覚えなきゃあ。) 三木は川本から預かった日仏辞書に目を通しながら、眠りについた。
August 14, 2025
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日本の使節団は小艇に乗り込み、川を上る。只者でない兵が水先案内人である。 白い巡視艇も護衛艦いずもも河口で停泊。 「日野さん、見ました。すれ違ったボートの群れ。銃砲がついていましたよ。」と三木。 「戦闘艇と言ったところでしょうか。先々気が重い。」と日野。 「何を言っているんですか。次は何が出てくるか楽しみでわくわくしますよ。」 (やはりこの人にはついていけない。)と日野は思った。 「わあ、すごい。大きな橋の下を通っていますよ。この国は面白いですよ。」 (何が面白いだ。)日野は呆れていた。 やがて、河岸に建物が見え始める。行き交う戦闘艇や船舶が多くなる。 両岸に建物が立ち並ぶ川を上り続ける。 水先案内人と話をしていた川本が、「あそこの、左にある水路へ」と操縦士に言う。小艇がゆっくりと左に曲がり、水路に入る。支流と間違えるほど広い水路の岸に戦闘艇がたくさん停泊している。 突如、あたりが暗くなる。この広い水路は建物の中に入っているのだ。 「何々、わあ、すごい。すごい。」三木がはしゃぎだす。 日野は警護のことを考えて不安になる。 建物の中が港になっている。桟橋に降り立ったのは、川本外交官と部下の事務官 1人、日野一尉と部下の隊員3人、そして三木の7人。三木は黒いリュックを背負っている。只者でない兵に案内されてついてゆく。 至る所に武装兵がいる。日野は最悪の場合、どう桟橋まで逃げるかを考えていた。 案内された部屋には、浅黒い顔の男が、椅子に座って待っていた。両脇に武装兵が立っていた。 部屋に入れたのは川本外交官と部下の事務官、そして三木の3人であった。警護の4人は部屋の外で待たされた。 言語が分からなかったが、日本を発つときに、いくつかの国の言語で文書を用意していたので、フランス語の文書を渡すことができた。日本の要望は、対等の国交と交易である。 川本は相手からの文書を受け取って、目を通している。そして、青ざめた顔で、抗議の声をあげ、浅黒い顔の男と言い合っている。 言葉のわからない三木でも、言い争ってることは分かる。 川本はフランス語で「国に帰って検討します。」と言って、三木たちに「帰りましょう。」と席を立った。 部屋から出てきた川本の様子を見て、「どうしたのですか。」と日野。 「話は帰ってから、とにかく、帰ります。」と川本。 案内人の只者でない兵が寄ってきて、川本と話し合っている。 2人の話が終わったような雰囲気になったとき、三木が川本に声をかけた。 「その人に、この街の寝泊まりができる宿とか部屋とか、紹介して欲しいと言って下さい。理由は私がこの国を気に入り、働きたいということで。」 川本は三木が内調の職員であることを知っており、下野大使からすごい人と聞いていたので、その意図を察した。 驚いたのは、日野であった。 (何、この人。この国にとどまると言うのか。只者でない兵どころか、気違い沙汰だ。) 川本が案内人に話をしている。 「三木さん。いいそうですよ。」 「申し訳ないが、これを内調の室長に。」 三木が川本に封筒を渡す。 「じゃあ、気を付けて。」 川本はそう言って、他の人を促し桟橋へ歩いて行った。 それを見送った三木は、案内人について反対方向へ歩き始めた。
August 13, 2025
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傷だらけの護衛艦かがの修理に帰れるものと思っていた橋本艦長と乗組員は、政府の決定にショックを受けていた。ジュラス東港にとどまれという指示である。そして、日本からかがの修理ができるドッグを建設するための資材や人が送られてくる。政府はサンパル皇国との戦いが長引くと予想して、ジュラス東港に修繕ドッグの建設を決定したのである。表向きは。 実は、傷だらけの護衛艦かがが日本に戻ると、人の目に留まり、ただでさえ反戦論調の多いマスコミが騒ぎ立てることを恐れたのである。 とにかく、橋本艦長と乗組員は、修繕ドッグが完成するまで、そして護衛艦かがの修理が終わるまで、日本に帰れないのである。下野大使と水陸機動団がやってくる船で帰っても。 ジュラスとサンパル皇国とを結ぶ道路に防御の壁を造ろうとしていたのを、相原は止めた。戦車が通れなくなるからだ。壁を造らないと防衛できないというチャコの主張に、道以外の所から侵入できるから無意味だと反対したのだ。 結局、街はずれから1キロ先の道路の両脇に監視と狙撃ができる建物を建て、道を開けて周りに壁を築くことになった。 ・・・・・・・・・・・・ 白い巡視艇のあとを護衛艦いずもがついて行く。やがて、軍艦が数隻停泊している港が見えると、いずもは停船して、小艇で港に向かった。三木が桟橋に降りると、武装兵がやってきて、川本外交官と何か話している。日野一尉はその武装兵を注意深く眺めている。 話を終えた川本は、「艦に戻ります。」といって、その武装兵と一緒に小艇に乗り込んだ。三木らは訳も分からないまま、川本に続いた。 (言葉が分からないということは、状況も分からないということか。)三木は自嘲気味に心の中で呟いた。 小艇に乗り込んだ三木は、川本に尋ねた。 「どういうことですか?」 「交渉は首都でやってくれということ、ここは首都でないそうだ。」 「そうですか。港しか見なかったが、大きな街の港のようでしたが。」 「三木さん、さすがですね。あそこは元首都。詳しいことは後で。とにかく、首都へ案内してくれるそうですから。」と言って、川本は見知らぬ武装兵と話始めた。 ・・・・・・・・・・・・・・ 護衛艦いずもに戻った三木は、日野に尋ねた。 「乗り込んできたあの兵、どう思う?」 「只者ではありませんね。敵の中に1人ですよ。私には無理です。」と日野。 「詳しいことは川本さんに聞いてみないと分からないが、相当な自信だよ。」 「持ってる武器を見ましたが、連発銃。兵の武器としては時代遅れ。」 「そうですね、国に対する自信かもしれません。」と三木。 護衛艦いずもは白い巡視艇に導かれて、未知なる国の首都に向かう。 やがて、河口にたどり着く。 「わあ、すごい。戦艦ですよ。ロマンですよ。」と三木。 「日本は戦艦を造らないのですか。日野さん。」とはしゃぐ三木。 (私に聞かれても。この人には、ついていけない。)日野はそう思ったが、黙って苦笑い。 川本がやってきて、「ここからは小艇で川を上るそうですよ。」と言った。 「川を上る?」と三木が聞き返すと、 「そう、首都はこの川のずっと上流にあるそうです。」と答えた。
August 12, 2025
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護衛艦かがは傷だらけで、ジュラス東港に停泊していた。 下船した相原は哨戒ヘリが撮影したガントの街の写真を持って、ジュラス東空港の空港管理棟の大きなテーブルのある部屋にいた。その部屋にはチャコ総領もいた。 「また、この写真の軍事施設を教えて下さい。」と相原。 「サンパル皇国を去って、一度も行ってないのだから、分かりません。まして、新しいところなんて。」と言いながら、写真を見るチャコ。 そして、写真の一点を指さし、 「ここ、海岸にあるこの建物、こんなものなかった。これ造船所ですね。この隣にある建物もなかった。」と言った。 相原がその場所をマークする。 「このぐらいですか。前の写真と見比べた方が、正確に分かりますよ。でも、この写真、同じようにして撮ったものでしょう。サンパル皇国の海軍大将アインは優秀です。2度目は通用しない。上司だったのでよく分かります。きっと、場所を変えてると思いますよ。」 「そうですか。そのことも報告しときましょう。ところで、サンパル皇国が陸路で侵攻してきたあの道、警戒を厳重にした方がいいですよ。」 「どういうことですか。」 相原は自爆ボートの件を説明すると、チャコは「トマスがそんなことを許すはずがない。」と言って黙り込んだ。 「陸軍でも考えられますから、十分警戒を。要は街に近づけない、はやめに叩くことです。」 ・・・・・・・・・・・・・ 護衛艦いずもは水平線しか見えない海を東へ、東へと航行していた。 すると、ブオーン、ブオーンと大きな音をたてながら飛行機がやってきて、艦の上を旋回すると東へ去っていった。 「プロペラ機ですね。目的地も近い。」と三木。 「そうですね。爆撃機です。銃口がありました。交渉ができないと、厳しいですね。」と渡辺艦長。 「この艦、ミサイル防御装置ですか、そんなものがあるのでしょう。」 「ありますが、ミサイルは飛んでこないでしょう。あの飛行機ですから。」 「いえいえ、爆撃機をミサイルに見立てて撃墜するのですよ。」 「あははは、面白いことを考える。無理です。」 しばらくすると、潜水艦がいると報告がくる。 「潜水艦ですか。ヤバくないですか。」と三木。 「魚雷でもくると危ないですね。」といって笑った。 艦には魚雷防御装置もあることを三木は知らない。 やがて、巡視艇であろう、白い船が近づいてきて、大音量で、 「C'est Liberte. Qu'est-ce que tu fais ici?」 三木には何を言っているのか分からない。 すると、いずもから、「Nous sommes Nihon,nous sommes venus pour negocier.」と返答がある。 川本外交官のフランス語である。
August 11, 2025
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相原一尉たちがもどると、護衛艦かがはサンパル皇国に向けて出港した。 「どうでした、ジュラスの街は?」と下野大使。 「街は被害が少なかったが、港湾地帯がガタガタで、立て直すのは大変。」と相原。 「隊員から戦車や車両をジュラスにおくるよう要望してくれと言われて、通信室へ連れていかれたが、どういうことです?」と下野 「すみません。ジュラスからサンパル皇国に通じる道を見つけましてね。いずれ、役に立つだろうと思いまして。」 「そうですか。あなたの部下もよく知っていますね。私を利用すれば、事が運ぶと。連絡しときましたよ。」と笑いながら言った。 「ありがとうございます。」 「こういうことですか。下野大使が乗艦しているわけが分かりました。」と橋本艦長。 「えっ、どういうこと?」と下野。 「今回の目的はサンパル皇国の偵察、それとジュラス都市国家の警護。外交目的ではありません。それなのに、外交官がいる。水陸機動団は分かりますよ。でも、外交官は分からない。不思議に思っていたのです。」と橋本。 「戦車や車両をジュラスにおくるよう要望するために、私を派遣?そんな馬鹿な。」と下野。 「よくわかりませんね。とにかく、任務を果たして帰りましょう。」と相原。 ・・・・・・・・・・・・・・ サンパル皇国の首都ガントの港が目視できる位置で、護衛艦かがから哨戒ヘリが飛び立った。 しばらく、橋本艦長はガントの港の方向を監視していたが、軍艦の動く気配もない。 今回は何事もなく任務が果たせそうと思っていた橋本は、ガントの港ではなく、はるか東方に多数の船を見つける。あわてて、指令室へ戻る。偵察ドローンが飛び、モニターに映像が映る。小さなボートだ。しかも、30隻ほど。 「まずい。哨戒ヘリはまだか。退却の用意。機関砲攻撃の用意。」そう言って、相原に、 「輸送ヘリを2機出します。それに載って、銃撃してください。自爆ボートです。哨戒ヘリが戻ったら、戻ってください。逃げます。」 「自爆ボート!了解。」そう言って相原は指令室から出て行った。 かがから機関砲が火を噴く。バババババ。バババババ。 ボートには弾薬が載っている。当たればドカーン。 ヘリから銃撃。ダダダダダ。ダダダダダ。ドカーン。ドカーン。 バババババ。バババババ。ドカーン。ドカーン。 ダダダダダ。ダダダダダ。ドカーン。ドカーン。 哨戒ヘリが戻ってくる。輸送ヘリ2機も戻る。護衛艦かがが退却し始める。 ドカーン。ボートが衝突。かがが揺れる。 「航行に問題なし、全力で退却。機関砲は攻撃継続。」 バババババ。バババババ。ドカーン。ドカーン。 バババババ。バババババ。ドカーン。ドカーン。 ドカーン。また衝突。また揺れる。 大きな護衛艦かがが逃げる。小さなボートが集団で追う。まるで、逃げる象をハイエナが集団で襲っているようだ。逃げても逃げても追ってくる。時々衝突してかがを揺らす。 (まだ、半数以上もボートが残っている。このままだと危ない。)橋本がそう思っていると、 ドカーン。当たってもいないのにボートが爆発。 ドカーン。ドカーン。ドカーン。ドカーン。 ボートはもう追ってこない。ドカーン。ドカーン。ドカーン。ドカーン。 遠くで自爆が続く。ドカーン。ドカーン。ドカーン。ドカーン。 (燃料が切れたら爆発か。酷いことを。)橋本は爆発の続く海に手を合わせた。 ・・・・・・・・・・・・・ サンパル皇国の海軍基地で、アイン海軍大将、トマス提督、ストル指令、それにアレルテ軍務大臣まで参加して議論している。 「あんなことをして、みんな無駄死にだ。」とトマス。 「無駄死にではありません。敵艦を撃退させました。」とストル。 「あんなのは撃退ではない。ちょっと退いただけだ。」と、批判するトマス。 「撃退です。もう恐れて来ません。」と、ムスッとしてストル。 アインはメリル教皇の言ったことを思い出していた。 (古の民も、突進して自爆するサンパル人を見て、退却したのかも)と思った。 「わしも、あの艦は来ないと思うよ。それより、気になるのは大きな鉄の羽虫(ヘリ)。」とアイン。 「以前あれが来た後、基地や兵舎が攻撃された。場所を探っているんだ。」とアレルテ。 「わしもそう思う。造船所、兵器工場など、場所を変える必要がある。大臣手配を。」とアイン。
August 11, 2025
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相原一尉たち水陸機動団が乗船した護衛艦かがは、再びジュラス東港に向かって航行していた。 サンパル皇国の軍事施設を破壊したはずなのに、ジュラス港とアルミ港が攻撃されたという連絡を受けて、再度、調査のためサンパル皇国に出向くよう指示を受けていた。 途中でアイロン港に立ち寄り、トメリア王国の日本大使下野を乗せた。下野はもうポルトガル語が話せるようになっており、通訳の必要がないので、通訳タケルはいない。ブラジル大使館の職員タケルはスペイン語も話せるので、今度は通訳として護衛艦いずもに派遣されていたのだ。 ジュラス東港に到着した護衛艦かがから下船したのは、相原一尉とその部下数人だけだった。桟橋で待っていたのはジュラス都市国家補佐官サミーであった。相原はサミーと握手をかわし、サミーが用意した軽トラックの荷台に乗り込んだ。軽トラックはもちろん日本製である。 ジュラス港湾の被害を目のあたりにした相原は、戦いが壮烈であったことを理解した。 「軍艦は沈没したんですよね。よくぞ、防衛できましたね。」 「チャコ総領の指示です。上陸兵のいる輸送船ををたたけと。」 「そうですか、水兵さんは軍艦では強いが、陸に上がると弱いですからね。」 サンパル皇国が陸路で侵攻してきた場所に案内された相原は、部下に言った。 「この道、戦車通れるよな。」 「はい、大丈夫です。いけます。」 「あとで、通信係に言っといて。戦車などの車両をジュラスに送れと連絡するように。」 「はい、サンパル皇国のつくった道を利用するのですね。」 「そうだ。いずれ、そうなるだろう。船に帰ろう。」 ・・・・・・・・・・・・・ アイン海軍大将は新たな海軍基地で、トマス提督とストル指令に爆弾ボートの話をした。 「何を言ってるんですか。そんなことできるわけないでしょう。」とトマス。 「それ以外に敵を倒す方法があるかね。」とアイン。 「兵を、民を守るために戦っているんです。パルコンや国のためではない。反対です。」とトマス。 「ボートもすでにできている。これは国の方針で、もう動きだしているのだ。」とアイン。 「他に方法がないのなら、志願者を募ってみましょう。」とストル。 「何を馬鹿なことを言い出すのだ、そんなこと許さぬ。」とトマス。 「トマス、これは陛下の命令だ。」とアイン。 「どんな処罰でも受けます。私はそんな命令は出せません。」とトマス。 ストルが部下たちに爆弾ボートの話をして、それを操縦して突進する兵を募った。攻撃に成功しても失敗しても必ず死ぬ片道切符であることも説明した。残された家族に支払う報酬額も提示した。 その結果、志願兵ができているボートの数以上いた。みんな、国もためでも家族のためでもなく、パルコンの神のためであると言った。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 護衛艦いずもでは、長い船旅にうんざりしながら、渡辺艦長と三木が喋っていた。 「国交使節団の団長は川本外交官ですね、どんな人です。」と渡辺。 「よく知らないですが、英語とドイツ語とフランス語が喋れる人みたいです。それで選んだと聞いています。私のハッタレ言語とは違います。」と言って三木は笑った。 「そんな人なのに通訳がおりましたよね。」 「はい、川本外交官は、ポルトガル語はダメなので、以前、ジュラス都市国家に出向いた時も通訳をつけていました。だから、ブラジル大使館のタケルさんを同行させているのです。彼は、ポルトガル語だけでなくスペイン語も達者だそうです。とにかく、相手の言語が分からないですからね。中国語と韓国語、その他も私がカバー、」と言ってまた笑った。 「使節団の警護の方、日野一尉でしたね。佐川さんは検討もしなかったのですね。すれば退職したことが分かるはず。」 「あは、お見通しですね。佐川さんは偉くなってて、名簿に載っていませんでした。日野さんは旭川駐屯地の第2特科連隊の方です。」 「このいずもを選んだのもあなた?」 「まさか、私ができるのは警護隊長の人選だけです。」 以前の西方大陸への船旅は、未知の大陸とは言え、どこにあるのか分かっていた。しかし、今度の船旅は、場所も分からないのである。目的の国は、違う方向にあるのかもしれない。このまま、東に進んでも到着するかどうか分からない、そんな不安な旅であった。
August 10, 2025
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軍艦を撃破したトマス提督は、2隻の軍艦にジュラス東港の攻撃を指示し、ガント号と1隻の軍艦、1隻の輸送船でジュラス港を攻撃。ジュラス港にいた輸送船と多くの漁船はすでに避難した後であり、港に1隻の船もなかった。 ドン、ドン。サンパル皇国の軍艦の砲撃で湾岸の建物の土煙があがる。 ドカーン。79式誘導弾がサンパル皇国の輸送船に命中。 79式誘導弾は対舟艇用でもあるのだ。でも、沈まない。 ドン、ドン。 ドカーン。2発目の命中で輸送船が傾きだす。 輸送船を沈めれば上陸兵は壊滅。上陸し占領することは、軍艦だけではできない。 ドン、ドン。軍艦の砲撃は止まらない。 ドカーン。今度は軍艦に命中。でも沈めることはできない。 ドン、ドン。ドカーン。 何回か繰り返され、港湾の被害も、軍艦の被害も大きくなる。 トマス提督は輸送船が沈んだ時、占領できないことを悟っていた。 ジュラス東港へ向かった2隻の軍艦が砲撃する間もなく撃沈したことを知ったトマスは、退却の指令を出した。 ジュラス東港へ向かった軍艦は12式地対艦誘導弾で攻撃されたのだ。 ・・・・・・・・・・・・・ 護衛艦いずもは東方海を東に向かって航行していた。未知の陸地、未知の国を目指して。潜水艦で日本近海までくる国があることは確かなのである。そんな国なら航空機がある可能性が高い。いずもには念のため戦闘機Fー35Bを載せていた。 「未知の東方世界ですか。しかも未知の海。また羅針盤ですか。ロマンですね。」と内調の三木。 「ロマンですか。私は恐怖です。」と渡辺艦長。 続けて「ロマン、ファンタジー、スペクタクル とよく言う人だと、佐川さんが言ってましたよ。」 「あはは、佐川さんがいたら、西方大陸東岸への旅と同じですね。佐川さんは?」 「水陸機動団が無事帰ってきて、任務終了と退職しました。」 「退職?」 「そう、早期退職です。殉職者が出たら家族に詫びに行く必要があると、帰ってくるのを待っていたそうです。彼らしいですね。」 「早期退職ですか、有能なのに。」と三木が言うと、 「有能だから、退職できるのですよ。」と渡辺艦長。 そして、「三木さんは今度も通訳ですか?」といたずらっぽく言った。 「まさか、他の人がいます。」 「佐川さんが言ってましたよ。三木さんはハッタレ通訳だったってね。」 ちなみに、噂の佐川は、早期退職して警備保障の会社に就職し、警備員の指導にあたっていた。 ・・・・・・・・・・・・・・ ジュラス都市国家もアルミ港も占領できず帰還したトマス提督とストル司令は、アイン海軍大将に敗戦報告をしていた。 「二ホンの軍艦がいないのに、占領できなかったというわけかね。」とアイン。 「ジュラスの軍艦は沈没させたのですが、敵は二ホンの兵器をもっているようです。」とトマス。 そこへ、アレルテ軍務大臣がやってきて、 「報告の途中のようだが、アイン、教皇が呼んでいる。すぐに、大聖堂へ。」と言った。 「教皇が?何で?」とアイン。 「わしも分からん。わしも呼ばれている。」とアレルテ。 アレルテとアインが大聖堂へ行くと、「こちらへ」と言って派手な飾りがドアについている部屋に案内された。すでに先客があり、メリル教皇と話をしている。先客は陸軍司令マルトから敗戦報告を受けたドドル陸軍大将であった。 アレルテとアインの入室に気付いたメリルは「あいさつはいい、こちらへ。」と2人を席に着くよう促した。そして、「3人ともよく聞くがいい。」と言って、3人にとって衝撃的なことを話し始めた。 「経典に、北の空が真っ白になりそして空全体が真っ黒になって後に、やってきた古の民を、パルコンという神の啓示を受けたサンジーが、奇跡を起こし、追い払ったとあるのを知っておるな。でも、具体的にどうやって追い払ったのかは知るまい。実は、陸軍は人間爆弾、爆弾を体に巻いて突進。海軍は爆弾ボート、艇に爆弾を載せて突進。」 「そんなことをすれば兵が」とアインが口をはさむ。 「兵の命と国とをはかりにかけてみよ。どちらが重いか分からぬお前ではあるまい。」 そして続けた。 「パルコンのために死ねる信者はいくらでもいる。すぐに実行せよ。これは陛下の命でもある。」
August 10, 2025
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