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生命改変のリスクに対する責任も
科学文明研究論者 橳島 次郎
マンモスの復活計画
今年3月、米国のバイオ企業が、絶滅したケナガマンモスの遺伝子特性を組み込んで、マンモスと同じような毛むくじゃらのマウスを誕生させたと発表した。これは「マンモス脱・絶滅」という壮大な計画のワンステップだ。
これまで、永久凍土から発掘したミイラ標本から採取した細胞を使い、マンモスを復活させようとする試みは日本を含めいくつか行われていた。だが保存状態のよい完全なゲノムを得るのは難しく、棚上げされた状態だった。
それに対し、マンモスそのものを復元するのではなく、その遺伝子の特性を現代に生息する近縁種のアジアゾウに組み込んで、いわば「シン・マンモス」を誕生させようというのが、このバイオ企業による計画の狙いだ。そのためにまずアジアゾウの細胞から iPS 細胞を作る。次にマンモスのゲノムを解析し、密生した体毛や分厚い皮下脂肪などを寒冷気候に適応できる特徴を発見させる遺伝子を数十個選び、ゲノム編集によりゾウの iPS 細胞に組み込む。そこで編集してできたマンモスに似たゲノムを持つ細胞核をゾウの卵子に移植してクローン胚を作り、ゾウの代理母の体内で育てて誕生させる。
この計画が野心的なのは、作り出したマンモスに似たゾウの群れを永久凍土に生息させ、広大な不毛日に生態系を蘇らせることを最終目的にしている点だ。さすがにそこまで実現させるのは難しいだろうが、そのために行う技術開発を通じて、絶滅が危惧される希少動物を保全し過酷な環境への適応を可能にする生物学的メカニズムを解明しることが、計画の現実的な目標とされている。人間の活動が原因になっている種の絶滅と地球環境の劣化に対応することは、確かに現代人に課された道徳的義務だろう。だがその大義名分の下で、遺伝子工学と生殖工学を総動員し、自然界には存在しない生物種を作り出すことは許されるだろうか。大量の異種の遺伝子を組み込まれ実験対象とされる動物にもたらされるリスクは正当化できるものだろうか。畜産分野での牛の研究で、細胞核の移植で作られるクローン個体は過体重など異常な発生をして死産する率が高く、生まれる子だけでなく代理母とされる動物の福祉も脅かされるリスクがることがわかっている。
生命を改変する科学技術を手にした私たちは、地球で共に暮らす生き物たちに対し、どのように責任を果たせばいいだろうか。そんな観点から、このマンモス「復活」計画の成り行きを見守りたい。
【先端技術は何をもたらすか—41—】聖教新聞 2025.4.15
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