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自分が変われば相手が変わる
元中学校教頭 寒川 義文
香川県で高知留中学校教員となって 39 年となる今年は、新型コロナウイルスの感染拡大という、経験したことのない状況に直面するなど、激動の一念でした。感染症の対策以外にも、学校現場には課題が山積しています。ある新聞で、全国の教育現場における昨年度のいじめ認知件数と不登校児童生徒数が、過去最多を更新したことが報じられていました。
この記事を見たとき、 90 年前、教育者でもあられた創価学会初代会長・牧口常三郎先生が『創価教育学体系』の発刊に際してつづられた言葉が、思い浮かびました。
〝一千万の児童や生徒が修羅の巷に喘いでいる現代の悩みを、次代に持ち越させたくないと思うと心は狂せんばかりなり〟
どこまでも子供の幸福を第一に考えられた牧口先生。私も一人の教育者として、いかに大変な状況であっても、次代を担う子供に尽くしぬこうと、自らに強く言い聞かせる毎日です。
分かったつもり
私が教員に採用された 1980 年代は、全国世校内暴力の嵐が吹き荒れていた頃。授業中に生徒が騒ぎ、老化をバイクが走り回り、学校にパトカーが来ることも日常茶飯事。私自身、担任として、寝る間もないほど多忙日々を送っていました。
そんなある年、 A 君という生徒を受け持ちました。やんちゃな彼が問題を起こすたび、私は厳しく指導しましたが、 A 君は反発するばかり。
〝なぜ分かってくれないんだ〟—私は次第に、自信を失っていきました。
ある日、友人同士のけんかに巻き込まれた A 君に、私はきつく指導しました。そると彼は、目に涙をためながら、「お前は俺のことを分かっているつもりやろうが、何もわかっとらん ! 」と、学校を飛び出してしまったのです。その夜、 A 君の家に行き、話を聞くと、彼は友人たちのけんかを、やめさせようとしていたことが分かりました。
A 君の言う通り、私は「分かったつもり」になっていただけでした。彼の行動を「問題」だと決めつけ、「彼のために」と言いながら、結局は〝教師として、良く見られたい〟という、私の自己満足にすぎなかったのです。
A 君に謝った後、帰宅して御本尊に向かった、自らの至らなさを反省しました。すると、〝彼のおかげで気づくことができた。彼のおかげで教師として一歩、成長できた。これからも彼に関わり続けよう〟と、感謝の持ちが湧いたのです。
一念が変化した時、 A 君の長所が次々と見えてきました。その後、 A 君との信頼を深めることができ、彼は有意義な学校生活を送って、笑顔で卒業していきました。
仏法には「一念三千」という法理があります。自身の一念が変われば、相手が変わり、ついには世界を変えといけるという「人間革命」の原理が示されています。どんな状況も、自分次第ですべて大きく変えていけるのです。
実は、 A 君とは卒業後も年賀状などを通して交流は続きました。彼の卒業から 20 年ほどたったある日、相談を受けました。「息子が反抗期で困っている」と。私は、 A 君にアドバイスをしました。
「子どもは親の言う通りには、なかなか育たない。親の背中を見ている。自分もそうだったと我慢して、よく話を聞き、愛情を注ぎ続ければ、いつかきっと、分かるときが必ず来る」
安堵した彼の笑顔を見て、私自身も元気になりました。
大病を乗り越えて
5 年前に教頭に就きましたが、定年を間近にした昨年 11 月、大腸から出血し、緊急入院。一時は意識不明に陥りました。
しかし、学会の同志が私の回復を五懸命に祈って下さるなか、治療が奏功して早期に職場復帰でき、職務を全うすることができました。定年退職後、再任用で職場に戻った今年 6 月にも再び出血しましたが、幸い、大事に至らず、今も教壇に立ち続けています。
私がこれまで教師として心掛けてきたことの一つは、「子どもを尊重する」ということ。あいさつも、なおざりにせず、「おはようございます」と元気に声を掛け、きちんとお辞儀します。
御書に「三千大千世界にみてて候財も・いのちには・かえぬ事に候なり」( 1596 ㌻)とあります。一人一人の生命には、宇宙大の可能性が秘められています。
それほど問うと以下の生を持った生徒たちを最大に輝かせていくことこそが、教育者の使命ではないでしょうか。
「教育」は、すぐに答えが出ないものであるがゆえに、時に葛藤や自身の無力さを感じることもあります。それでも、子どもの可能性を信じて、どんな時も励まし続けることで、子どもは、自分のことを大切に思ってくれるその心を滋養として、おのずと成長の目を大きく開花させるのだと確信します。
私自身、中学から大学まで過ごした創価の学びやでの、教職員の方々の励ましが大きな支えでした。とりわけ、創価大学時代、所属していた剣道部の恩師や先輩方の温かな薫陶があったからこそ、教育の道を志し、歩み続けて今日に至ることができました。
これからも、太陽のように皆を照らし、育んでいく「創価の人間教育の体現者」を目指して、「黄金の日記文書」をつづっていきます。
[ プロフィル ] さんがわ・よしふみ 創価大学を卒業後、香川県の公立中学校教諭、教頭職を歴任して本年 3 月に定年退職。 4 月から再任用教諭として勤務。 61 歳。 1962 年 ( 昭和 37 年 ) 入会。香川県坂出市在住。副県長。四国教育長。
視点
因果具時
蓮華は花と実が同時に成長するが、同様に、仏の生命を開く原因と結果も同時に具わる—仏法の「因果具時」の法理です。具体的には、御本尊を信じ、自行化他の唱題行を実践することで、私たちは、いつでもどこでも、この身に仏の生命を開くことができるのです。それはまた、今この瞬間の一念こそが、未来を創る原因であるとも言えます。
池田先生は小説『新・人間革命』でつづっています。
「一念は大宇宙を動かす。『因果具時』であるがゆえに、今の一念に、いっさいの結果は収まっている」(第 10 巻「新航路」の章)
学会員一人一人に「因果具時」の法理が脈打つからこそ、困難な状況にも臆することなく希望をもって挑んでいけるのです。
【紙上セミナー「仏法思想の輝き」】聖教新聞 2020.112.5
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