真理を求めて

真理を求めて

2003.12.18
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宮台真司氏は、実に示唆に富んだ言葉を語ってくれる。三浦つとむさんや板倉聖宣さんに初めて出会った若い頃を思い出すようだ。「サイファ覚醒せよ!」という著書でも次のような言葉が印象に残った。

「いずれにしても「マインド・コントロール」が一般的に悪いと言うことはない。ただ、基本的に、ある社会が行き詰まったときには、自分たちが受けてきた特殊な「マインド・コントロール」すなわち、いままで意識しないで踏まえてしまっていた暗黙の前提について、自覚的であろうという態度が、すごく重要になってくる。それを君は「覚醒」と呼んでいます。その意味では、いまほど「覚醒」が重要なときはないと思います。」

マインド・コントロールは、文字通り心を支配することだが、これが自分に主体性があって、自分が自分の心を支配しているのであれば弊害は少ない。それどころかプラスの作用をもたらす場合が多いだろう。せっぱ詰まった状態で、気が動転するようなことが起きても、自分の心をマインド・コントロールできる人間は冷静な判断を下せる。あわててしまって信じられないようなミスをすることが少ない。危機管理にとっては、本当の危機の時にいかに自分をマインド・コントロールするかという技術は重要になるだろう。

しかし、世間のマインド・コントロールのイメージは、他人に支配されるもののイメージが強いので、マインド・コントロールそのものが悪いと思いたくなる人もいるかもしれない。他人に支配されるマインド・コントロールが怖いのは、本人からしてみると、他人に支配されているという感覚がなく、自ら進んでその方向に行っているように錯覚していることだ。だからその呪縛から解かれると言うことが難しい。自分でコントロールしているという自覚があれば、そのコントロールを解くのも容易だろう。

ある種の常識と呼ばれる規範の中で生きていることは、実はマインド・コントロールであることが多いのだがなかなかそれを自覚できない。そこを自覚して「覚醒」せよと宮台氏は語っているように感じる。それは、その常識がもはや通用しない時代になってきているからだ。常識が非常識になりつつある時代において、常識の呪縛から解き放たれないとしたら、いま行き詰まっている問題からの解放は永久に訪れない。

この言葉から連想できる事柄はたくさんある。「社畜」という言葉があったが、この言葉で言われているのは、会社の常識に骨の髄まで染まってしまい、実は世間では非常識なのに、会社の中ではそのことを疑いもせずに従ってしまう心理を持った人間のことを指している。かつては公害の原因を作ったような会社で、社会的には犯罪的なことをしていることを知っていながら、世間の規範よりも会社の存続が大事になってしまうという心理を指していた。いまでは、ここから覚醒した人間が内部告発者になる。

内藤朝雄さんの指摘では、広い世間では暴行・傷害という刑事犯罪にもなりかねない事柄が、学校という特殊な世界の常識では、行き過ぎた指導とか、心の持ち方が悪かっただけという加害者への温情が過大になり、被害者は泣き寝入りをするというマインド・コントロールがあった。それがいまでは新聞でかなり報道されるくらい表に出てくるようになった。やはり覚醒した人間が増えてきたのではないかと思う。

いままでは、社畜でいても少数の人間にとってはつらいことがあったかもしれないが、大部分の「常識」の中で生きてきた人間にとっては不都合がなかったのでなかなか覚醒できなかったのかもしれない。しかし、社畜であっては会社に利益をもたらすどころか、かえって害悪になるという面が出てきたので、ここから覚醒する人が出てきたのだろう。

この話と通じる事柄で、この前ニュースで見たときに、テロの時代になったらセキュリティに気を遣うのは常識だという、新たな常識が我々をマインド・コントロールしているように感じた。それは、テロ対策のためには、過剰とも言える警備体制が常識になることを受け入れなければならないと語っていた。それに関連したニュースが一つある。



 【ブリュッセル17日共同】欧州連合(EU)の欧州委員会は17日、航空機でEU域内から米国に向かう乗客の個人情報を、テロ防止の目的で米国に提供することで米国と合意したと発表した。来年3月か4月ごろに実施される予定。
 対象は国籍にかかわらず乗客全員で、乗客は搭乗手続き時に個人情報が米国に送られ保管されることに同意を求められる。拒否すれば搭乗券が発券されないか、米国に入国後に厳重な取り調べを受けることになる。
 米国は2001年9月の米中枢同時テロを契機に、米国に航空機で向かう乗客の個人情報を提出するようEUに求めたが、EUはプライバシー法に抵触するとして難色を示していた。(共同通信)」

人類が長い歴史を経て獲得してきた基本的人権の考えが、テロを避けるためということで捨てられようとしている。これは、ある意味では「人を見たら泥棒と思え」と言うことが常識化してきているのだろうと思う。誰がテロリストか分からないのだから、自分がテロリストではないと証明するには、プライバシーという権利を放棄する必要があるというわけだ。

誰がテロリストか分からないという常識は、いったいどこから生み出されてきたのだろうか。それは、テロリストは力で押さえ込まなければならないのだという常識から生み出されてきたのではないだろうか。力によって押さえ込もうとすることは、ある種の理不尽さを押しつけることであるから、その理不尽を受けた人間は誰でもテロリストになる可能性がある。誰でもテロリストになりうるのだから、誰がテロリストなのか分からないという状況になるだろう。

あるイギリスのジャーナリストは、イギリスはアイルランドの問題で長いテロとの戦いをしてきたが、結局力でテロを制圧することは出来なかったと語っていた。テロをやめさせるには、力ではなく話し合いが必要なのだと言うことを学んだ、と語っていた。

テロが蔓延したら警備がどんどん厳しくなるのは論理的必然性として理解できる。だから、テロの蔓延は、警備があるのが常識だという意識が広がるのも分かる。しかし、テロの蔓延はどうして起こるのかという問題意識が抜けていないだろうか。警備が厳重なのは仕方がないというマインド・コントロールから覚醒しないと、テロの原因を求めるという問題意識も薄れてしまうのではないかと思う。

しかし、将来的には警備はどんどんエスカレートして、そこからある種の破綻が来てほとんどすべての人が覚醒せざるを得ない状況が来るものと思われる。まず経済的な問題から言って、警備に金をかけると言うことが経済的に見合うものでなくなるレベルが訪れると思うからだ。警備は、いくら厳重にしてもこれで十分と言うことがない。少しでも弱いところがあればテロにねらわれるから、どんどんエスカレートしていくと思う。しかも金をかけても、警備というのは何もないのが効果の現れだから、ほとんど新たな価値を生み出さない仕事になる。次のニュースは象徴的だ。

「牛もアルカイダの標的? 食物テロに戦々恐々」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20031217-00000003-wir-sci

これは、何らかの伝染病によって牛に被害を起こさせようというテロの予想だ。もしこのようなことが起こったら経済的な損害は計り知れない。だから、このようなことが起こる前にその対策をしておかなければならない。しかし、その心配だったら牛だけではなく、他にもいくらでもあるだろう。そうであれば、それに対してもやはりすべて対策を講じなければならなくなるのだろうか。想像できるすべての事柄の対策をとらなければならないと言うことになるのだろうか。



テロは、直接的に犠牲になる人間だけに被害を及ぼすだけではすまない。飛行機に乗る人が激減したら、航空会社や旅行業者は大打撃を受けるだろう。テロによる経済損失は、警備会社や兵器会社のもうけよりも、それによって損害を受ける方が圧倒的に多くなるのではないか。それに気づいたとき、テロを力で抑えるのだという常識から覚醒できるようになるのだろうか。

テロが力で押さえ込めるのなら僕の思いは杞憂になる。常識に反した考えを持つ愚かな人間と言うことになるだけだ。テロが本当に力で押さえ込めるものならば、僕自身は愚かな人間といわれても、そういう結果がもたらされるならそれはいいことだ。しかし、テロが決して力で押さえ込めるものでないならば、僕が常識に反することを語ることも意味がある。いずれにしても、僕がこういうことを語ることには意味があるような気がする。イラクの現状は、果たしてテロが力で押さえ込めるものであることを物語っているだろうか。今後のニュースを注目していきたい。





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最終更新日  2003.12.18 09:19:11
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