真理を求めて

真理を求めて

2004.01.06
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
夜間中学には大人の生徒が多い。それでずっと考え続けているのが、大人にとって学ぶに値する数学とは何かということだ。僕の専門は数学なのだが、今の中学校の教科書にある数学で、本当の意味で役に立つ数学というのが見あたらない。学校を卒業してしまえば、ほとんど忘れてしまっても不便を感じないばかりでなく、こういうことに役に立ったとも言えないものばかりだからだ。大人になってから学ぶには、労多くして功少なしという感じがしている。

僕は数学の中でも一番に勉強したのは論理学で、これはとても役に立つと思っている。しかし、これはやや専門的な面倒な議論が必要になり、なかなか学びやすい形に工夫できないので、教えることが難しいという感じがして残念だ。学生の時に、もう一つ面白いと感じた数学は統計数学だ。これは、現実の問題を解決するものなので、とても学びやすいと感じていた。せめて、統計的なセンスのようなものでも伝えられないだろうかということを考えている。

統計というのは、個々の性質を捨象し、集団としての全体の性質を予測しようというものだ。個々の動きはランダムでデタラメのように見えるのに、ある一定の量が集まれば、その集団としての動きが予測できるというのが統計数学の考え方だ。数字を通じて社会の姿を把握しようと考えるのが統計的センスの第一歩とも言えるだろうか。

社会というのは、個人の単純な延長ではないというのが社会の難しさで、社会の中で何らかの体験をしても、社会というものの全体像が見えるとは限らない。その全体像をかいま見る窓のような役割をしてくれるのが統計というものだという感じだろうか。

統計数学で大事なのは、得られたデータを加工してそれについて考えることも大事だが、データそのものにどれだけの信用があるかを考えるのも大事なことだ。得られたデータの加工やその解釈は、数学的に正しくても、データそのものに信用性がなければ、その結果や解釈も信用できなくなる。統計的センスの中には、データとして得られた数字に対するセンスというものがまず含まれる。

神保哲生と宮台真司のマル激トーク・オン・デマンドで「世論調査を疑え」というテーマでの番組があった。世論調査というのは、国民がどのような考え方をしているかを、簡単な質問に答えてもらうことによって予想しようとするものだ。これは国民全員に答えてもらうことは出来ない。あまりにも数が多すぎるからだ。だから、全体の傾向を予想するために、その中の部分を選び出して調査をする。

この調査数は、基本的には1000人くらいらしい。しかも、この1000人は全員が答えを返してくれるものではなく、この中から有効回答数というのは、600~700くらいになるらしい。この数で、日本全体の傾向を予想しようとするわけだ。まず問題になるのは、この選び出された1000人が、本当に日本を代表しているような、全体の縮図にふさわしい1000人であるかということだ。偏りがあったら、それは日本全体を予測するということにふさわしくなくなる。

これには、いくら慎重に選び出そうとしても必ず誤差が含まれる。誤差の計算は難しいので簡単に説明は出来ないが、誤差があるという前提で眺めるという意識が統計的センスの第一歩だと思う。世論調査で、もしも小数点以下の数字なんかが出てきたら、これはかなり怪しいものとして見ておいた方がいいだろう。かなり大差が付くようなら、大きく差がついているというくらいの意識を持ってみておいた方がいいだろう。細かい数字をあげて論じてはいけないと思う。それは誤差の範囲内かもしれないのだから。

世論調査の場合は、その質問の仕方にも気をつけなければならない。質問によっては、最初から結果が読めるような質問である場合もあるからである。ある主張の正当性を宣伝するために行われる世論調査もあるのではないかという疑いをもっておいた方がいいかもしれない。



統計的センスの問題は、だまされないための知識を得るということでも大切なことのように思う。大人にとって学ぶに値する知識は、だまされないための知識かもしれないからだ。新聞記事の中から、具体的に授業で使えそうな数字を探していきたいと思う。新聞を正しく読むための数学を勉強できたらと思う。

ちょっとだけ数字を読むことを試みてみよう。次のニュースには、いろいろと数字がでている。

「米大統領、再選に向け始動…党内対抗馬なく資金も独走
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040106-00000211-yom-int

ここには、ブッシュ大統領の支持率が6割という数字が出ている。この6割という支持率に、積極的支持がどのくらいあるのかというのが一つの問題だろうと思う。もし、全部が積極的支持だったら、これは圧倒的多数が支持していると言ってもいいだろうと感じる。しかし、その比率が低ければ、消極的支持は、いつ不支持に変わるか分からない不安定な支持と言うことになり、これはかなり割り引いて支持を受け止めなければならない。この記事からだけではどちらかは分からない。希望的観測をしないように気をつけないとならないだろう。

「運動論いろは」という本を書いた仮説実験授業研究会の牧衷さんは、運動において、積極的賛成派と積極的反対派は、せいぜい2割程度しかいないといっていた。だから、中間層の3割を獲得すれば、形の上では過半数を超えてしまい、それが明らかに分かるようになれば、あとの3割は雪崩を打って自分の陣営に流れて来るというようなことをいっていた。支持するかしないかという世論調査が、積極的支持なのかどうかという点まで分かるようであれば、その安定度がかなり分かるような気がする。

この記事では、「「ブッシュ対ディーン」でどちらに投票するかの問いでは、ブッシュ55%がディーン37%を圧している」という記述も見える。この55対37という数字も、圧倒的にブッシュが優勢だと見て取るかは、やはりその中身が問題になるだろう。

アメリカの大統領選は、結果的にブッシュが勝つかもしれない。しかし、その宣伝にはだまされないように気をつけてみていきたいものだ。ブッシュ大統領も小泉首相も、政策的なミスが目立つのに、その支持率はいっこうに衰えない。これはだまされる人間がかなり多いのではないかなと思うのだけれど。統計調査の方にも問題があるのだろうか。世論調査の結果だけではなく、その中身の方も調べてみたいものだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2004.01.06 22:50:49
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

コメント新着

真の伯父/じじい50 @ Re:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) 現行憲法も自民草案も「抑留」に対する歯…
秀0430 @ Re[1]:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) 穴沢ジョージさん お久しぶりです。コメ…
穴沢ジョージ @ Re:自民党憲法草案批判 5 憲法34条のロジック(02/03) ごぶさたです。 そもそも現行の憲法の下で…
秀0430 @ Re[1]:構造としての学校の問題(10/20) ジョンリーフッカーさん 学校に警察権力…

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: