真理を求めて

真理を求めて

2004.01.15
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カテゴリ: カテゴリ未分類
三浦つとむさんの哲学を勉強していたときに、一番心を引かれたのは主体性の問題だった。三浦さんはマルクス主義者で、唯物論の立場に立った哲学を展開していたのだが、マルクス主義者や唯物論というのは、主体性のない機械的なものというイメージがかなり強かった。しかし、三浦さんは違うという思いがあった。

唯物論は、人間の主観とは独立に存在する物質的な存在を基礎にして、その物質的な存在の間に成り立つ法則を客観的に認めるものだ。これは主観とは独立に存在するので、どんなに心で思っていても、思うだけでは現実は変わらないと言うことを教えてくれる。精神主義の限界を教えてくれるわけだ。これは正しいのだが、これが行き過ぎると、すべては機械的に決定されて、そこに意志の入り込む隙がないように思う間違いに陥る。人間の生き方と関係なく世の中は決定しているという感じだろうか。

マルクス主義も、マルクスが発見した社会法則が、客観的なもので、それはもうすでに決定しているものだというイメージがあった。どんなことがあろうとも、マルクスが予想したとおりに歴史は動くのだという信念を持っている人が多かったようだ。

物と物という存在の間の法則で未来が決定しているのは、頭の中の想像の世界で作り上げた「理想状態」での物の存在について言えることにしかすぎない。これは、考慮すべき属性を抽象した、ある一面に注目した物の存在だ。現実には、物には他の面も無限に多様に見られる。そうすると、考慮していなかった面が法則に影響を与えると言うこともあり得るわけだ。そうなれば、たとえ法則が正しくても、その法則がそのままでは適用できなくなる。

存在を単に与えられたものとして受動的に受け取っていると、なかなか予想外の物を発見することが出来ない。何かを信じ込んでいて、その呪縛を逃れることが難しくなってくる。しかし、能動的に、事実の中に疑いをもって眺めていくと、予想外の物にも注意を払うことが出来て、法則を修正しながら現実を見ていくことが出来る。この能動性を左右する一番大きな要因が、三浦さんが主体性と呼んでいるもののような気がしていた。

外から見ていて同じ行為のように見えるものでも、主体性が違うとその意味が違ってくる。今イラクへの自衛隊の派遣に関しては、賛否両論が拮抗していて、どちらが正しい判断になるかは分からない状態だ。しかも、同じ賛成派・反対派の中にも、かなりの温度差があって、どのような主体性のもとでの賛成・反対かには大きな差があるような気がする。

たとえ主体性に差があろうとも、大同団結のもとで反対することが大切だという考えもある。これももっともだと思うが、本当に小異を捨てて大同のもとに集まれるかどうかは、主体性をはっきりと自覚していなければならないのではないかとも感じる。そうでないと、日本の運動の歴史でよくあるように、同じ陣営のもとでの反発の方が強くなって、相手を攻撃し合って運動に障害をもたらすと言うことも出てきてしまうのではないだろうか。近い相手の方にこそ憎しみを大きく抱いてしまうと言う姿をこれまでもよく見てきた。

反対する人間の主体性を考えるとき、一番脆弱な主体性は、ある種の善意に支えられた主体性のような気がする。これは、ある面では美しい心を表すのだろうが、その美しい心の期待を裏切るような出来事があったら、反対の方へ揺り戻しが起きかねない脆弱な主体性のような気がする。

差別はいけないことだと単純に信じている人が、善意でもって差別される現場に入り込んで、差別されている人のために何かをしようとしているとき、その差別されている人間の汚れた一面を見たりすると、自分が信じている美しさをけがされたような気がする。実際には、差別されている人が生きていく現場は厳しいもので、かなりあくどいことが出来ないと生きていくことさえ難しいと言うこともある。そんな中で清く正しく生きられるはずがないとも言える。しかし、汚れた一面を見ると、今度は意識の方がひっくり返って、せっかく善意で助けてやろうと思っているのに、こんなにひどいのでは差別されても仕方がないと思ってしまうかもしれない。その時に、現実をもっと深く見つめるには、その背景にある事柄に注目して、なぜそのような生き方をしなければならないかを考えなければならない。世の中の汚さを見つめる主体性が必要になるわけだ。



毎日の生活が脅かされ、生きるか死ぬかという修羅場を体験しているイラクの人々の気持ちを、表面上は平和で安全な日本にいて切実に感じるのは難しい。だから、イラクの人々の行動には、我々の予想外のことがあるのが当然だという受け止め方がまず必要だと思う。同じ気持ちだなどと単純に考えない方がいいと思う。イラクでの出来事に関しては、その行為の背景というものを常に注意してみることが必要だろう。そして、その背景の中に主体性の問題を考慮に入れるのが、予想外のものを発見するきっかけになるのではないかと思ったりする。

「<イラク>バスケ選手らがサマワに日本友好協会設立
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040113-00001026-mai-int

この記事に書かれているイラクの人々の歓迎を、単純に善意が通じた美しい心の交流のたまものと見ないで、誤解の上に成り立っているかもしれないものだと見るのは、ある意味では意地悪な見方だ。お互いの善意が通じて、温かい心を感じられた方がいいに決まっている。しかし、あえて意地悪な見方も考慮の中に入れて、今後の推移を見守った方がいいと思う。もしイラクで自衛隊がある種の悪意の中に落ち込む事件が起こっても、それはもしかしたら彼らの期待を裏切ったからかもしれないという考えを持つことが出来るようにするためだ。

「<イラク戦争>米国にとって不必要だった 陸軍大教授が批判論文
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040114-00000002-mai-int

ここでの報告は、批判が道徳的なものではなく、利害の面から見ての批判であることが面白いと思う。これは、ある意味では善意の人にとっては納得しがたい面がある批判かもしれないが、立場を越えた客観的な面からの批判として、このような見方を知ることは、主体性を「善意」という道徳面からだけに偏らせないためにはいいのではないかと思う。ここには次のような記述がある。

「さらに、あらゆる国際テロ組織の壊滅、イラクを手がかりとする中東全域の民主化、大量破壊兵器拡散の完全封鎖などを追求する「テロとの戦争」は、米国への脅威が乏しい相手との「終わりなき、無用の戦い」へと米国を追い込み、それは財政的にも政治的、軍事的にも継続不能な非現実的戦略だと非難した。」

これは、一般国民から見たときの利害から考えられる評価(解釈)だ。一般のアメリカ人にとっては、利益よりも損害の方が大きいという評価だろうと思う。しかし、今のブッシュ政権の中枢に位置する権力者にとっては、この評価がまた違うだろう。彼らにとっては利益が大きいと読んだから戦争に踏み切ったのだろう。彼らの主体性は、彼らの立場を想像して考えるのが必要だろう。

「月面基地に火星有人探査 米大統領が新宇宙政策
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040115-00000018-kyodo-int



しかし、今回の宇宙計画については、僕はもう無邪気な中学生ではないからそんな単純な感激はない。これは、ブッシュ政権が考えた、選挙のための人気取りの政策に違いないという風に受け止めるだけ世の中にはすれてきている。ブッシュ政権が誕生した当初は、宇宙開発のための予算などは付いていなかったそうだ。ブッシュは宇宙への関心などは全くないと誰かが語っていた。それが急にこのような計画を出すのは、そこにどのような主体性が潜んでいるかを疑ってもいいだろうと思う。

「イラク南部で発見の砲弾「化学兵器と判定されず」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040115-00000202-yom-int

というニュースは、予想通りの結果を報道している。思った通りのことだったというのが確認できた。結果的に、このようなことが見通せたのに、最初の報道では「大量破壊兵器発見か?」などと言うような見出しが付いたのは、どういう主体性のもとでその見出しが選ばれたのかと言うことに関心がある。暴露される続報が出てくるだろうか。

「緊急治療機のイラク派遣も 独首相、対米協調また一歩
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040115-00000033-kyodo-int

このニュースに関しては、「対米協調」という言葉を見出しに入れるというものを支える主体性を知りたいものだ。ドイツでさえも対米協調しているのだから、日本がそうしても当然だという思いがそこにあるんだろうか。でも、この記事は次のように語っている。

「首相は「負傷者を手助けする人道支援を考えている」と説明。ただ、派兵を拒否してきた従来のドイツの方針を変えるものではない、と強調した。派遣に際しては、国連安全保障理事会の決議を求めるもようだ。」

と言う基本姿勢を保った上での「対米協調」なのである。ずいぶん「対米協調」のイメージが違うなという感じだ。まあ、「反米」ではない「対米追従」でもないと言う意味では、「対米協調」なのかなという感じはするけれど。

主体性の問題を常に考慮に入れて事実を解釈していくというのは、大事なことのように思う。





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最終更新日  2004.01.15 11:00:58
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