真理を求めて

真理を求めて

2004.07.07
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カテゴリ: カテゴリ未分類
田中宇さんの最新のメールマガジンが届いた。これは、次の所にアクセスすると見ることが出来る。

「狂牛病とアメリカ 」

ここで田中さんが直接語っているのは、アメリカの執っている狂牛病対策の政策への疑問だ。アメリカが行っているような対策は、基本的に狂牛病の被害を防ぐことに役立っていないのではないかと主張している。それは、利権の絡んでいる人間の利益を守るために、他の理由を優先させて安全性を危険にさらしているという批判だ。

田中さんが扱っているのは現実的な問題で、これからどうなっていくかが分からない問題だ。だから、田中さんは自分の主張をすべて「仮説」という形で語っている。その「仮説」は、これから事実が確かめられることで「真理」の資格を獲得するかどうかが決まってくる。それが「真理」であることが信頼できるかどうかは、田中さんが構築する論理が、今までに知られた事実と整合性がとれているかどうかにかかっている。

今までに知られた事実と整合性がとれているからと言って、まだ知られていない事実は考慮の中に入っていないのであるから、それが大きな影響を与えるものだった場合は、田中さんの「仮説」が間違っている場合も大いにあり得るわけだ。この結果をとらえて、田中さんの「仮説」を否定的に評価することも出来る。しかし、僕は田中さんが構築した論理の「過程」を評価する。

その「過程」が論理的に納得のいくものであれば、もし間違えた場合も、その間違いを論理的に受け止めることも出来る。間違いをこれからの問題を考える際の参考にすることが出来るのだ。この狂牛病に関するレポートも、田中さんの論理のすばらしさを感じるものだと僕は思っている。どこを僕が評価するのか、具体的に見ていきたいと思う。

田中さんの報告は、「アメリカ東海岸のニュージャージ州に住むフリーランスライターのジャネット・スカーベック(Janet Skarbek)さん」のクロイツフェルト・ヤコブ病の調査のことから始まる。

ヤコブ病というのは、「ヤコブ病は100万人に1人しかかからない病気」と言われているくらい珍しい病気らしい。それが、「ヤコブ病で死んだ2人は、同じ職場に勤めていたことがあるのだった」と言うことを知って、スカーベックさんは、「100万人に1人の奇病が、同じ職場から3年間に2人も出るのはおかしい」と感じて調査を始めた。

ここまではちょっと鋭い感覚を持っている人ならば誰でも気づくようなことだろう。しかし、これは確率的なことなので、現実的には本当に偶然的なことも起こりうると考えられるのがまた確率現象でもある。「変だなあ」と思っても、その印象だけでは「変だ」という判断にすぐ結びつくことはない。

しかし、スカーベックさんが、これは「変ではないか」と疑問を提出したときに、「変ではない」と即座に断定するような反応が出てくると、「変ではないか」という疑問が正しいのではないかという可能性が高まっていくと僕は思う。普通は、「変だ」という判断も「変ではない」という判断も、互いに同等なもので、どちらかに優位性があるかどうかはよく調査してみないと分からない。だから、その疑問を解消するためによく調査をしましょうという判断がかえってくるのが普通ではないかと思う。



「当局からは何の返答もなかったが、昨年12月、アメリカ北西部ワシントン州の屠場で狂牛病の牛が見つかり、全米が大騒ぎになった後、スカーベックの調査は一気に米内外のマスコミの注目を集めるようになった。その後、CDCから依頼を受けた地元ニュージャージ州の保健局がスカーベックの調査について再度検証したが、その結果は「13人は全員が散発性ヤコブ病の症状であり、変異性ではない。アメリカでは狂牛病は発生しておらず、変異性のヤコブ病が起きることはない」というものだった。」

昨年12月に大騒ぎになってから注目されたというのだから、回答が出されるまでが少し早すぎないだろうかと僕は疑問を感じる。ちゃんと調査されたのだろうかという疑問を感じる。さらに、その結論を出すことの理由として、「アメリカでは狂牛病は発生しておらず」と言うことを理由にすることにも疑問を感じる。スカーベックさんの疑問は、まさに「アメリカで狂牛病が発生したのではないか」という疑問だったはずなのに、その疑問を否定したことを、証明なしに根拠にしているように僕には感じられる。これは論理的におかしいのではないかという疑問だ。

僕に生じた、この「おかしいのではないか」という思いを、田中さんは、様々の事実で、そのおかしさが生じてくる合理性を説明している。普通で考えればおかしいのだが、そこに何らかの利権が絡んでいると言うことが読みとれると、そのおかしさが、実は利権のための動きだと言うことが理解できてくるのだ。

おかしさというのは、頭の中に生まれた論理的矛盾だが、それは、現実の解釈が、普通はこうであるはずだというものがあって、それに照らして考えるとおかしいという判断になる。しかし、現実が、僕が考えている普通とは違うものであった場合は、そのおかしさは十分現実に存在するものとしてとらえられる。

そして、改善すべくは、そのおかしさを存在させている現実の条件の方であって、この場合で言えば、一部の人間の利権をそのままにしておいて、狂牛病の安全性を確保することが出来ないのではないかと考えることだ。だから、利権の構造の改革こそが、安全性の確保のために必要だという論理展開になる。

田中さんが指摘する利権の構造には次のようなものがある。

「ニューヨークタイムスによると、農務省の広報担当責任者であるアリサ・ハリソンは、アン・ベネマン農務長官によって現職に任命される以前は、牛肉産業の業界団体である「全米牛肉協会」の広報担当部長をしていた。ハリソン女史は、牛肉生産者のために米政府による安全強化政策に抵抗したり、「アメリカには狂牛病は存在しない」と主張するプレス発表をおこなうことなどが仕事だった。

 ハリソン女史は、農務省に入ってからも「アメリカには狂牛病は存在しない」とする発表資料を作り続けたが、農務省に入ることで、彼女は自らの主張を「業界」の主張から「国家」の主張へと格上げすることに成功したことになる。

 このほか、ベネマン長官のもとで政策を立案している農務省の高官たちの中には、畜産や農業の業界団体の戦略家から転進してきた人が多い。たとえば長官の首席補佐官をつとめるデール・ムーアは全米牛肉協会の首席ロビイスト(政府に圧力をかける担当)だった。農務省は、業界に乗っ取られている感がある。ブッシュ政権は、選挙時に政治献金をもらう見返りに、業界の戦略家が官庁に入って業界寄りの政策を立案することを許したのだと思われる。」

このように、業界の利益を代表する人間が、政府を代表して調査の結果などを発表すれば、それは、業界に有利になるように、業界の利権を守る方向での発表になることが理解できそうだ。この背景があれば、「おかしい」ことが少しも「おかしくなくなってしまう」。

このほか、利権に絡んだ事実では、田中さんは次のようなものも指摘している。



スカーベックさんの疑問がどうしてあのような扱いを受けたのかは、このような背景を知るとよく理解できる。疑問が間違いであると証明できるのならいいが、もしも疑問が正しいと言うことが証明されてしまったら、利権の構造はすべて壊れてしまう。利権の構造を守るためには、スカーベックさんの疑問を否定しなければならない。それも、ちゃんとした理由で否定しようとすると、かえってやぶ蛇になって逆の結果が出てくる恐れがあるから、曖昧にしたり、無理な理由で否定しなければならなくなる。これが「おかしい」と感じることにまたつながってくるから論理をひっくり返すというのは難しいものである。

田中さんは最後に、

「もう一つ、的外れかもしれないが心配なのは、アメリカの狂牛病発生は、もしかするとアメリカ上層部に自国経済を自滅させようとしている勢力がいることとつながっているのではないか、という懸念である。」

と語っているので、この文章だけを見ている人間は、田中さんは「陰謀論者」だというふうに見えてくるだろう。しかし、田中さんは、この判断を「懸念」であると言って、締めくくりには、

「ただし、私のこの見方は、他の問題に対して米政府が行っていることからの類推で考えたものであり、明確な根拠のある分析ではない。」



僕は、田中さんの論理展開の見事さの方を評価する。結果的に予測が当たったかどうかだけを見るような、占い師的な評価はしない。過程を評価するので、田中さんは素晴らしいと思うのだ。





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最終更新日  2004.07.07 09:40:45
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