真理を求めて

真理を求めて

2006.10.31
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核兵器の是非を考えるときに、「北朝鮮」の立場からこの問題を考えることに論理的な違和感を感じる人がいるかもしれない。それは「北朝鮮」を擁護することになり、「北朝鮮」の核兵器開発を承認することにつながるのではないかという疑問を生むのではないかと思う。核兵器の是非を論じるなら、個別の国家の立場は捨象して、一般論として是非を論じるのが論理的ではないかと感じる人もいるだろう。

しかし、この問題は一般論として論じたら、あまり面白い結果は求められないのではないかと思う。人類にとって核兵器が使われるような事態が起きたら、その悲惨さは計り知れないものであり、下手をすれば人類滅亡という結果になりかねない。一般論としては、核兵器は絶対に使ってはならない、使う「べきではない」というような結論が導かれるだろう。

だが、「べきではない」という主張は、現実的な有効性を持たない。一般論として核兵器をなくすべきだと考えても、この「べき」という倫理に従って行動する核保有国はないだろう。むしろ、今核兵器を持っていない国が、核兵器を開発しようとする動機の方が強くなるのではないかと思われる。「北朝鮮」に刺激されて、日本でさえも核武装論が出てくるのだから、きっかけさえあれば核を持つ方向にシフトしたい国の方が多いのではないかと思う。

「べき」という倫理的主張は、脱ダムのことを考えても、未来の子どもたちのためには脱ダムをするべきだという結論が出るはずだが、現実にはその方向を選ぶことが難しい。それは、「べき」という考えが理解出来ないからではなく、今現在の利益を考えるという合理的思考から、脱ダムが拒否されるという結論が出てくるからだ。この今現在の利益という方向が変わらない限り、合理的思考からは脱ダムが拒否されるという結果が出てしまうのではないかと思う。

「北朝鮮」の核開発についても、それがケシカランものであり、開発すべきではないと主張しても、合理的思考の下に核開発をした方が国益にかなうという結果が出るのであれば、「北朝鮮」の核開発を止めることは出来ないのではないかと思う。

核兵器の是非というものが道徳的な問題として一般論で考察されるときは、それは現実に適用することが難しい抽象論になるだろう。現実に適用して、現実の問題をもっと深く理解するために論理的な考察をするなら、「北朝鮮」という国家の特殊性を捨象することが出来ないのではないかと思う。だからこそ、「北朝鮮」にとって核兵器開発がどのような意味を持つか、それは国益になるかということを合理的に理解することが大事だと思う。

合理的考察の結果として、核兵器開発が「北朝鮮」にとっては国益にかなうという結論が出るなら、「北朝鮮」は合理的思考の下に行動していると理解することが出来る。これは大事なことだと思う。「北朝鮮」がケシカラン国で、何をするか分からないとんでもない国だというのではなく、よく考えて行動する国だと言うことが分かれば、「北朝鮮」のこれからの行動も予測出来るものになり、それに対処するのに不安を静めることが出来るのではないかと思う。

合理的な思考をするからといって、それが倫理的に正しいということを言っているのではない。合理的思考の下の行動に対しては、こちらも合理的思考で対処することが出来るので論理的に考えることに有効性が出てくると言うことを意味するだけだ。合理的思考の下に行動しない人間は、こちらが論理的に理解しようとしても、論理に反する行動をするのだから、論理的な対処に意味がなくなってしまう。相手が合理的に行動しているかどうかを考えるのは大きな意味があるだろう。

推理小説には、完全犯罪を計画する頭のいい犯罪者が登場する。この犯罪者は、完全に合理的な思考の下に行動する。しかし彼は犯罪者であるから、倫理的には「悪い」ことは確かだ。むしろ、感情的に突発的な犯罪をする人間よりもずっと「悪い」だろう。だが、そのように合理的な行動をする人間は、同じくらい頭のいい名探偵には、その行動の合理性を見破られてしまう。



「北朝鮮」にとってもっとも大事なことは、体制の維持であり、国家の崩壊を防ぐことだと言うことは合意してもらえることになるだろうか。緊急の危機としては、アメリカの軍事力によって国家崩壊の危機を招くことを避けることが,今の「北朝鮮」にとっての最大の課題と言うことになるのではないかと思う。この課題を解決するために、核兵器開発が役に立つと言うことが論理的に帰結出来るのであれば、今の「北朝鮮」の行動は合理的思考の下に選択されているのだと言えるだろう。

イラクは、実際には大量破壊兵器を持っていなかったのに、それを持っているという理由で武力攻撃されて国家が崩壊した。「北朝鮮」が核兵器を持てば、これ以上の大量破壊兵器はないのだから、イラクと同じように武力攻撃されるという恐れはないのだろうか。合理的思考からすれば、核兵器開発をすることはむしろ国家の崩壊を招くことにならないのか。そのあたりのことを「北朝鮮」はどう考えているのだろうか。

「北朝鮮」は、核兵器開発をしても武力攻撃を受けないという見通しの下に、今の核実験などの行動の選択があるのではないだろうか。実際に、アメリカが武力攻撃をしようとする気配は感じられない。この見通しはいったいどう言うところからもたらされるのだろうか。

一つには、イラクが攻撃を受けたのは、決して大量破壊兵器を持っていると疑われたことが理由ではないのだと解釈したのではないかと言うことだ。それは表向きの大義であって、攻撃された本当の理由は別の所にあると考えたのではないかと思う。それは、これが真相だと明確に言うことは出来ないが、少なくとも大量破壊兵器が原因ではないということだけは言えるのではないかと思う。

むしろ、実際には大量破壊兵器を持っていなかったことが、アメリカが安心してイラク攻撃が出来た理由だったのではないかと考えたのではないだろうか。大量破壊兵器を持たない国であれば、抵抗されたとしてもその被害は少ない。イラクの現実の姿を見ると、そのことがよく分かる。

もしイラクが何らかの大量破壊兵器を持っていたら、アメリカ軍そのものの被害は防げたかも知れないが、イスラエルが狙われた場合の被害は甚大なものになっていただろうと思う。イラクの抵抗によってイスラエルが大きな被害を受けると予想されたら、アメリカはイラクへの攻撃に踏み切っただろうか。

「北朝鮮」にとって、イラクのイスラエルに当たる存在は、隣国の韓国であり日本ではないかと感じる。韓国や日本に甚大な被害が出ると予想されるとき、アメリカは「北朝鮮」への武力攻撃に踏み切ることが出来るだろうか。イラクは全く武力的にアメリカの敵ではなかったが、「北朝鮮」が何らかの有効な武力を保有していることが分かれば、アメリカが安心して攻撃することが出来ないことは確かではないだろうか。

イラク攻撃の本当の理由が大量破壊兵器の所有ではないということが分かれば、核兵器を持っただけで攻撃されるとは限らないと言うことが結論出来るだろう。むしろ、核兵器を持った方が攻撃される可能性が薄れるということさえあるかもしれない。

しかし、核兵器がなくても、韓国や日本は近くにあるのだから通常兵器でも十分に対抗出来る可能性がある。それなのに、なぜ核兵器に手を出す必要があるのか。威嚇という意味はあるかも知れないが、そのコストを考えるとそれだけでは国益計算として見合うのかどうかは疑問に感じるところもある。

核兵器開発をしても、この時点ではまだ武力攻撃は受けないだろうと言うことは予想出来る。しかし、それは核兵器開発を積極的に行うという選択肢を選ぶ理由としては弱い。なぜ今核開発なのかという、積極的な理由は見つけられるだろうか。

消極的な理由は見つけることが出来る。「北朝鮮」が今の閉塞状況を打破する手が何もなく、とにかくアメリカに対して何らかのアクションが必要だと考えて、ある意味ではアメリカに追い込まれてここに至ってしまったというものだ。特に経済制裁の解除というものに何らかの反応を引き出したいということで行った行動と理解することも出来る。



むしろ、追い込まれているのだと言うことを見せかけたいという計算はないのだろうか。本当に追い込まれているのではなく、そう思い込ませておいた方が有利なので、そう見えるように行動していると言うことはないだろうか。

韓国では世論調査によれば、「北朝鮮」が核実験をしたことの原因として、アメリカが悪いと答えた人が一番多かったそうだ。これは、「北朝鮮」がアメリカによって追い込まれて仕方なく核実験をしたと解釈している人が多かったと言うことを意味する。韓国の一般国民にそう思われているということは、「北朝鮮」にとっては有利なことではないだろうか。そのように思わせるという計算が働いているとしたら、これは合理的思考の下の行動であり、しかもこのことから核兵器開発の積極的な理由が生まれてくる。

マル激の議論は2周続いて「北朝鮮」の核実験の問題を論じているが、今このタイミングで行ったことについては、アメリカの中間選挙をにらんでのことではないかという指摘があった。

アメリカ国民の中にも、「北朝鮮」が核実験までいってしまったのは、ブッシュ政権が追い込んだからだという認識が広まっているそうだ。つまり、ブッシュ政権の「北朝鮮」対策は失敗だったという世論が多くなっているそうだ。そうなれば、イラク統治の失敗に続いて、この失政によってもブッシュ政権の支持率は下がり、中間選挙で民主党が勝利するという可能性が生まれてくる。

これは、直接交渉の相手にしてくれないブッシュ政権に対する、何らかの政策変更を促す可能性も生み出す。この時期に核兵器実験をすることは、そのような追い込まれたというイメージを持たれることで、何をするか分からない国というイメージとともに、アメリカの政策にも影響を与えるという有効性を持つと考えたかも知れない。






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最終更新日  2006.10.31 10:07:57
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