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2006.12.14
「批判」の本当の意味
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障害児教育との関わりから、以前に津田道夫さんの著書の感想を書いたことがあった。津田さんは戦後マルクス主義に詳しい人なら知っている人で、マルクス主義理論家として三浦つとむさんともつきあいのあった人だ。大西赤人さんが障害のゆえに高校の入学を拒否されたのに抗議する運動に関わってから障害児教育とも関わりを持った人だった。
その津田さんから、著書について書くように頼まれ、「十分批判して書いてくれ」と言われたので驚いてしまった。その時の僕のイメージでは、「批判」というのはどこか間違いを見つけてそこを論じることのように思っていたからだ。津田さんの著書に間違いを見つけることは出来なかったし、自分の非力な能力ではとてもできそうにないことだと感じたものだった。
しかし、津田さんの言う「批判」というのは、カントの「純粋理性批判」という著書で使われているような、深い吟味の末にその本質を明らかにするというような意味だった。津田さんは戦後まもなく活躍した理論家だが、いわゆる「知識人」と呼ばれる人だ。仲正さんが『ネット時代の反論述』で語っているが、昔の知識人は「批判」というものに対する姿勢が違っていたという。仲正さんは次のように書いている。
「少し前の大学の哲学の講義では、必ずといっていいほど、カントの『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』の三批判書とか、マルクスの『ヘーゲル法哲学批判序説』などで言うところの「批判(クリティーク)」の語源はギリシア語のクリネインという言葉で、元々は「分離する」とか「裁く」という意味があることを習いました。物事を自分なりの直感だけでぼんやり見るのではなく、細かく切り分け、どういう内容があるのか反省的にきちんと把握していくと言うことが含意されています。自分の思い込みではないかとまず疑ってみて、冷静に判断しないと「批判」ではありません。そういう反省や吟味の姿勢で、お互いの「意見」を検討し合うのが、「対話」や「論争」における「批判」なのです。お互いの言っていることや相手の立場を限界づけて、その論理はここでは通用しないだろうというように相手より少し高い視点に立って指摘する。相手もそれに対して、いや、あなたが言っていることも、こう言うところで限界があるじゃないかと、反省しお互いの立場を切り分け吟味し合うことによって、批判と自己批判をする。マルクス主義の運動では、互いに糾弾して、闘争して潰すことを「批判」と言っていたふしもありますが、マルクスも元々は今いっていたような意味で、「批判」と言っていました。大衆を動員して、相手を罵倒すればいい、ということではなかったのです。」
仲正さんが語ることは教養の一つだろうと思う。このような教養が失われてしまったので、言葉尻を捉えて相手の言っていることを単純化して、自分が与えた意味に文句をつけるような、「批判もどき」が増えてきたのだろうと思う。特に、相手がそれなりの教養を持っているときは、その言葉に含意された、直接表現されていない深い意味があるはずなのに、それを知らないで全く見当はずれの文句をつけるような「誤読」が生じる場合がある。
もっとも「朝まで生テレビ」などを見ていると、世間では専門家として通用していると思われている人々でさえ、相手の話などマトモに聴かずに、自分で勝手に読みとった意味に文句をつけるという「批判もどき」をしているのが見られる。あれは役割が決められた単なるショーで、バラエティ番組の一つだと受け取っておけばいいのだが、そこに何らかの「批判」があると勘違いすると、同じようなことをするのが「批判」だと思ってしまうだろう。
「批判」というのは、直接相手にしている人間の批判になったら失敗するだろう。その人間が、自分が「批判」している言説を語っていると言うことの証明が難しいからだ。言葉というのは何重もの複雑な意味を持っている。相手の真意がこうだという指摘をするのは難しい。
「批判」というものは、それが本当に説得力を持つには、対象を抽象理論として設定して、その理論を深い吟味によって正しい部分と間違っている部分とを明確にして分けていくと言うことがいいのではないかと思う。「批判」の対象はあくまでも一つの理論であって、それを誰が語っているかという人間の問題にはしないのだ。
その「批判」をした理論が、誰かが言っていることと重なるようであれば、いかに重なっているかを説得的に示せばいいだけのことだと思う。それが重なっていると同意してくれる人は、理論に対する「批判」によって、その人物が語っている言説に対しても疑問を持つことに同意するだろう。言説と理論とが重なっていることに同意しない人間は、いくらその人物を「批判」しても人物に対する「批判」には同意しない。
左の人間は、客観的に安倍総理の間違いを指摘していると思っているだろうが、右の人間がそう思うとは必ずしも言えないのではないか。人物に対する「批判」というのは、論理的に真偽を決定できる問題ではなく、大衆動員的な運動として行うのだろうと思う。そういうものには、あまり真偽に関する関心はないのではないかと感じる。
マルクスは『ヘーゲル法哲学批判序説』を書いたと仲正さんは語っている。これはヘーゲル個人を批判したものではないのだろうか。これは違うと僕は思う。これは「ヘーゲル法哲学」という理論に対する批判なのだ。「法哲学」一般ではなく、ヘーゲルによって確立された「法哲学」だからヘーゲルの名前が付いているが、「批判」の対象になっているのは抽象理論なのであって、だからこそ客観的な真理だと主張できるのだと思う。
抽象理論を「批判」するにはそれなりの教養と能力が必要だ。個人に悪口を言って罵倒するのとはわけが違う。少なくとも悪口や罵倒には教養が感じられない分だけ、まともな「批判」にはなっていないと判断してもいいだろうと思う。このようなマトモでない「批判」に対する仲正さんの次の感想は共感できるものだ。
「それに加えて、私は自分の専門である思想・哲学の本だけでなく、軽いエッセイのような本も書きますので、読者の方から、その手の「批判」をネット上、特にブログ日記などで受けることが良くあります。こちらの言っていることをじっくりと読んで、理解しようと努力した上で批判するのではなく、先ほど述べました、学生さんや偉い人のように、さっと斜め読みしただけで、「たぶん、こう言いたいのだろう」と最初から決めつけて、「批判」すると言うことです。印象で決めつけているので、的はずれなことが多いです。著者としては、自分が言ったのではないことを「批判」されている感じがして、かなり不愉快です。出来たら、「反論」したいと思いますが、最初からちゃんと読まないで「批判」している相手ですから、のれんに腕押しになるのは分かり切っています。仮に、「私はそのようなことは言っていません。あなたの批判は△△の誤解に基づいています」と「反論」しても、「いや誤解ではない。私が△△だと理解したのは、あなたの表現の仕方が悪いからだ。誤解であるというのなら、あなたは、人に伝えられるような表現の仕方を学ぶべきだ」という感じで、のれんに腕押しどころか、よけいに傷つけられるような言葉がのしが付いて返ってくるのが目に見えています。だから、本を書いている人はあまり「反論」しないのですが、実際にはかなりストレスがたまっているのではないでしょうか。」
相手をちゃんと理解するつもりが無く、最初から罵倒することだけが目的であれば、「反論」などは全く無駄になり、かえって罵倒の材料を増やしてやるだけのことになりかねない。だから、そういう相手は無視できるなら無視していた方がいいのだろうと思う。だが、そう出来ないときにどうしたらいいか、ということのヒントを与えてくれるのが、この仲正さんの『ネット時代の反論述』という本の内容らしい。
次の仲正さんの言葉も、同じように理不尽な書き込みに腹を立てた経験のある人は共感するのではないだろうか。ちょっと長い引用になるが最後に引いておこう。こういうことを経験し・感じている人にとって、仲正さんのこの著書は心を静めてくれるのに役立つかも知れない。
「これは本を書くことを半ば商売にしている特殊な人間の事例のように聞こえるかも知れませんが、これを一般読者として読んでおられる方の中にも、ブログなどのホームページで真面目な意見表明をしたつもりなのに、書き込み欄に、あまりちゃんと読んでいるとは思えない、文章の中の一言二言の特定の単語とかフレーズに対してだけ過剰に「反応」し、全体の文脈を明らかに取り違えているとしか思えない「不当な批判」を書き込まれて、不快に思ったという体験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。たとえば、「……は自己責任だと思います」という言い回しだけに着目し、どういう脈絡での「自己責任」を問題にしているのかよく読まないまま、反射的に、「自己責任というのは、弱肉強食の市場原理と結びついた危険な概念であり、そういう概念をこう言うところで不用意に使ってしまうあなたの危険な姿勢は……」という調子で、とうとうとまくし立て始める人がいますね。そういう人は、「自己責任」という言葉が権力者によって悪用されているという「強い信念」を普段から持っていて、たまたま、あなたのブログにその言葉を見つけたので、あまり考えずに反応してしまったのでしょう。
あなた自身は、その「自己責任」という言葉にあまり強い意味を込めて使ったわけではなくても、「自己責任」という言葉を批判したくて仕方ない人には、そういうことは関係ありません。「自己責任」という言葉を使ったこと自体が悪いのであり、無自覚的に使ったというのであれば、なおさら悪いと思ってしまうでしょう。日常会話でも、この手のボタンの掛け違え、過剰な深読みは良くあることですが、ネットでは「文字で書かれたもの」に対して「文字で書かれたもの」によって反応することになるわけですから、後で第三者的に読み直すと、行き違いであることが歴然としていることがしばしばあります。しかし、問題の一言を「批判」している人は、夢中になっていて、自分の見当がかなりはずれていることになかなか気づかず、見当のはずれたまま長々と書き込みがちです。ネット用語でそういうのを「脊髄反射」と言います。「条件反射」よりもさらに短絡的で、何も考えないで、反応しているという意味合いで、こんな言い方をしているのだと思います。
言うまでもないことですが、「脊髄反射」する人に「反論」するのはかなり困難です。というのも、相手はあなたの書いた文章を最初からマトモに読んでいないので、「反論」をちゃんと読んでくれるとはあまり期待できません。言いたい放題言って、すでに満足していて、もはや関心がないかも知れません。どうせ本人から面と向かって反論されるわけではない、たかがブログだと高をくくっているかも知れません。そう思うとよけいに腹が立って「反論」したくなりますが、相手がマトモに話を聴いてくれる期待が持てないので、徒労に終わる可能性大です。だから、なかなか「反論」は出来ない。ますます、ストレスがたまってきます。」
普段から自分が思っていることを、実に適切に正しく表現してくれていると思う。だから大きな共感を覚えるのだろう。
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最終更新日 2006.12.14 09:49:01
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