真理を求めて

真理を求めて

2008.02.16
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さて、次に野矢さんが提出する練習問題を見てみよう。これも接続の構造を分析するものだ。


問1 以下の文章は、日本の「洋間」を訪れた外国人がその部屋を「和風」だといって賞賛するという設定の発言である。1~5の接続構造を記号と番号を用いて図示せよ。
「窓が大きくて、天候の変化や季節の変化が部屋全体の雰囲気に影響を与えているのも、和風の最たるものよね。ヨーロッパでは屋外の変化をシャット・アウトしちゃうの。窓を小さくしてね。それから、この大きな窓が南向きなのも、和風ね。朝から陽が入って、夕方の西陽までが、だんだんめぐっていくのね。
1 こういう陽当たりをヨーロッパでは嫌うわ。
2 ワニスをたっぷり塗った年代物の家具が色あせるし、
3 乾きすぎるとヒビワレが来るでしょう。
4 カーペットも色あせるから陽当たりには出したくないの。だから
5 ヨーロッパでは南向きの部屋は安くて、北向きは高いの。」


この文章を論理的に分析するのは意外と難しい。なぜなら、文章が日常会話の言葉で語られていて、論理を直接示す接続詞があまり使われていないからだ。会話の中で、いちいち接続詞を使って論理を確認しながらしゃべる人は少ないのではないかと思う。上の5つの主張は、その内容から、論理のつながりを解読していかなければならない。



   1 ← (2~4)

この2から4までの構造を細かく見てみると、それぞれの間に何らかの論理的関係があるというよりも、いくつかの異なる点を列挙したものだと思われる。従って、この2から4までは異なる主張を付け加えるという付加の関係になっていると判断できる。上の図示をそのように書き改めると、

   1 ← (2+3+4)

となる。問題は、この全体構造の中で、5の主張をどう位置づけるかということだが、4と5の間に入っている「だから」の解釈がちょっと難しくなる。「だから」がこの位置にあると、一見4から5が導かれているように見える。しかし、カーペットが色あせるということだけが、部屋が安いということの理由だと考えるのは無理がある。これは、様々の理由が重なってこのような結論が得られたと考えた方が自然だろう。その意味では、1から4までの主張が重なって5の結論が導かれたと考えた方がいい。すなわち

   (1 ← (2+3+4)) → 5

のように図示できる。野矢さんは、この問題の解答で、上の図示のように、1から4までの主張から5が導かれているように考えると、5が最終的な結論であるかのようになり、5の主張にあまりに重みがかかりすぎるという指摘をしている。この重さのニュアンスを図示するには、次のように考えた方がいいだろうと提案している。

   1 ← (2+3+4)
   ↓
   5

2,3,4の理由は直接的には1にかかっており、5の部屋が安いという理由は、1で語っている「陽当たりを嫌う」ということのみに求めている。この主張の重みというニュアンスは実感として感じるのはなかなか難しい。何か基準を作って確かにそうだというには、明確な区別をつける指標が見つからない。何となくセンスでそれを感じているような気になる。しかし、確かに野矢さんが言うような感じは受ける。これは、上の論理が日常会話の形で提出されているからかもしれない。もし、論理的に明確な書き言葉で語られていたら、そこに表現されている接続詞から、5の主張の重みも明確に判断できるのではないかとも思う。


問2 次の文章を読んで問に答えよ。


1 販売力の伴わない技術は、かえって経営を危うくする。
2 どんなに素晴らしい製品も、それが一度発表されたということは、技術的な可能性が証明されたということであり、やがては必ず真似されるということである。だから、
3 もし販売力が弱体なら着想を他人に教えただけのことになって、その製品のウマ味はすべて競争相手がモノにするだろう。

そして、この例は実に多いのである。
ここに我が国でも有数の製薬会社がある。その会社では新製品を他社に先駆けて出すということは滅多にしない。その代わり他社が発売すると、販売方法、その製品の売れ行き、購買層などを徹底的に調べる。このデータはおそらく発売した当の会社よりも遙かに詳しいであろう。そしてよいとなったら、直ちに全力を挙げてスタートし、会社の販売力にものをいわせて数ヶ月のうちに猛然と追い抜き、やがて皆が気がついてみると、トップ・メーカーとなっていたというやり方をしている。


5 全く新規な製品を出すときは、市場がそれをどう受け取るか、信頼度の高い予測をすることは難しい。だから、
6 このように計画的に他社の後手に回れば、相手が一つの市場実験をしてくれて、データが有り難くいただけるわけである。しかも、
7 そのデータは再現性がはなはだよい。したがって、
8 当たるかどうか分からない新製品を他に先んじて出すことに比べれば、失敗の危険性を最も小さくできるわけである。

この方法 は販売力に十分の自信があるときには、利口な方法ということができよう。」

(1)1~3の接続構造を記号と番号を用いて図示せよ。
(2)4~8の接続構造を記号と番号を用いて図示せよ。
(3)下線部の「この方法」の内容を述べよ。


これは「だから」という接続詞から分かる構造が

    2 → 3

と図示される。販売力が弱体なら、真似されることによって、販売の大部分は販売力の優れた真似をする会社に持って行かれてしまうだろう。ウマ味は競争相手にとられてしまうという理由として、2が語ることは説得力がある。この2と3の関係は適切な接続詞の使われ方をしている論理構造を持っている。問題は、1が、この構造とどのような関係になっているかだ。

1はきわめて一般的な言い方をしており、その具体的な内容はこの文章だけからは想像できない。「経営を危うくする」ということの内容が多岐にわたっていて、どのようなことを意味するかが不明なのだ。この不明な意味を3が言葉を換えて説明していると読むことができるのではないだろうか。そして、3は具体例を提出しているのではないので、「たとえば」という論理構造ではなく、「=」で結ばれる解説の構造になっていると考えられる。図示すると

    1 = 3
        ↑
        2

ということになるだろうか。野矢さんの解答はそうなっていて、確かにそうだと納得できる。

4から8までの主張では、4で、このような方法の合理性を主張していて、5から8まででその合理性の理由を説明していると考えられる。つまり図示すると

    (5から8) → 4

というのが基本的な構造で、5から8までは、それぞれの一つ一つが細かくどのような関係になっているかが解析される。それは、接続詞によるつながり方から判断される。この問題の解答を野矢さんは次のように書いている。


    ((5→6)+(7+8))→4


この解答に関しては、やや疑問を感じるところがある。ミスプリントではないかという感じがしている。しかし今日はあまりに多く書きすぎたので、それを記すには字数が足りないようだ。この考察は改めてエントリーを別にして考えたいと思う。解答に違和感を感じるのは、「従って」という接続詞をどう解釈するかという問題だ。それと、付加を表す「+」の記号が、わざわざ他の「+」との結びつきと区別して括弧をつける必要があるかどうかという疑問も感じる。これは結合律を満たすのではないかという感じもする。そのあたりのこともちょっと考えてみようと思う。





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最終更新日  2008.02.16 09:51:47
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