この空のかなたに

 この空のかなたに

木に生まれたら


近頃はそんなに思わなくなったけど

時々人間をやめたくなるときがある

「もし人以外の生き物に生まれ変わるなら、どんなのがいい?」

以前友達に聞いたら「白熊がいい」と言っていた

私は動物だったら猫と鳥と迷って鳥にする

でもできれば植物がいい



プラタナスもいいけれど叶うなら銀杏の木

初夏の風にやわらかな緑をゆらし

秋にはゆきすぎる夏の日差しのような黄金色の葉をふるわせる

与えられた仕事に急ぐ車を宿題を背負った子供を静かに見つめる

良かったねとも残念だったねとも言えない

がんばれなんて言わないし言う必要もない

嵐がきたらなすすべもなく倒れて誰かを傷つけてしまうかもしれないけど

よほどのことがない限り誰を傷つけることも傷つけられることもない

できるならそんな世界にいたい



けれど悲しいかな手足は動くし頭も心臓もばくばくしている

人として生きていくしかないらしい

ひとであることを否定したところでどうなる訳でもないのだ

仕方なくたまに木になった気分になってみる

自分を忘れ家族を忘れ友達を忘れ世の中を忘れる

でもそのままではいられなくて

「あぁお腹すいた」なんて思いながらヒトに戻る

ご飯を食べておいしい人とご飯を食べなくて笑うこともない木

どっちがいいのかどれだけ想像しても

よくわからない

たぶんずっとわかれない



木の気持って音にしたらこんなかしら?
Dream (1948) by John Cage

ジョン・ケージは同級生の子に教えてもらいました。
「ジョンけーじって警視庁にいるの?」って聞いたら笑われちゃった。にゃはは~。




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