名無し人の観察日記

名無し人の観察日記

2005.03.07
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 興味のある事について広く浅く観察する、という趣旨ではじめたブログですが、どういうわけか戦争反対のテーマでしか書いてこなくて、羊頭狗肉の観がありましたので、もう少しいろいろ書いていこうと思います。
 と言うことで、新たなテーマは書評……と言っても私は高尚な文学作品などには縁の無い人間ですので、軽く楽しめるものが主体になっていくと思います。

 第一回で取り上げる作品は電撃文庫の「黎明の戦女神(アテナ)」。作者は中里融司氏。
 中里氏を初めて知ったのは歴史群像新書の「北の雷鳴」と言う作品で、こちらは欧州三十年戦争における宿命のライバル、スウェーデンの獅子王グスタフ・アドルフとボヘミアの魔王、大傭兵隊長ヴァレンシュタインの対決を描いた歴史小説です。
 ファースト・コンタクトが歴史小説だったので、ずっと歴史小説家だと思っていたのですが、実際の中里氏は時代劇から仮想戦記まで広いジャンルに活躍している方で、今回取り上げる「黎明の戦女神」はライトノベルです。
 ライトノベルと言うと軽い読み物と思われがちで、実際そう言う作品も多いのですが、「黎明の戦女神」はかなり重めの作品です。

 主人公、峠昌樹は反戦活動家の恋人を持つごく平凡な少年。世界が混乱に向かう中、恋人を庇って街宣右翼団体に袋叩きにされた彼は鬱々とした日々を送っていましたが、ある日突然天空に出現した謎の怪星「妖霊」の光を浴びた事で、自分が人間ではなく、文明を滅ぼす存在「混世魔(カオス)」の一族である事を知ります。

 6年後、覚醒した昌樹が見たのは、すっかり崩壊した文明と、荒廃した世界。己の罪深さに怯え、混世魔の力を使えなくなった彼は、暴力で世界を支配している領主に捕らわれ、古代ローマのように人間同士を戦わせる娯楽の奴隷にされかけたところを、藤沢梓と言う、死んだ恋人に良く似た少女に救われます。
 この梓と言う少女、17歳ながら「繚乱の軍団」という、混乱した世界を救うために戦っている一軍の長でした。贖罪のために梓を守る事を誓った昌樹は、崩壊後の世界を統一せんとする群雄たちの戦いに巻き込まれていきます。

 舞台背景はざっとこんなところでしょうか。中里氏本人は「ジャックのいないバイオレンスジャック」と言っていましたが、私は「バイオレンスジャック」を知らないので、どっちかと言うと「ケンシロウのいない北斗の拳」と思いました。どっちにしろ若い人には意味不明な例えですが(苦笑)。

 この作品世界を面白いものにしているのが、その戦闘シーンです。文明が崩壊しているため、戦国時代さながらの刀槍を用いた戦いがある半面で、文明の遺産である銃火器や戦車といった近代兵器も使われるのです。90式戦車が火を吐く横を、大身槍を掲げた騎馬武者が疾駆する。このアンバランスさがなかなかに楽しく、ともすれば悲惨なだけの戦闘シーンに、剣豪小説や武侠小説のような豪快さ、爽快さを与えています。

 また、昌樹と梓のボーイ・ミーツ・ガールというテーマもあり、ただのバトル小説だけでなく、ほのぼのとした雰囲気も味わえます。特に現代人の倫理観を持つ昌樹と、戦国の倫理観を持つ梓の、ちょっとした意識のズレがもたらす騒ぎ……例えば梓は平然と昌樹の前で裸になったりする……といったシーンは思わず苦笑が漏れます。

 このように恋愛、戦国乱世、近代戦、超能力バトル、剣豪小説と言ったエッセンスを鍋に豪快にぶち込み、それを破綻させる事無く一本の作品に仕上げているのは、さすがに多ジャンルを書き分けている作者ならではの力量なのだろうなぁと感心させられます。
 ライトノベルなんて、と軽く見ている人にこそ、読んで欲しい一冊です。





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Last updated  2005.03.07 22:30:51
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