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2025.11.02
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カテゴリ: 人類学
 アフリカの密林に単身飛び込み、人類に最も近い動物のチンパンジーをこよなく愛し、詳しい生態観察を行い、彼らのヒトらしさを解明した著名な霊長類学者のジェーン・グドール博士( 写真 )が91歳の生を終えた。



 2025年10月1日、ジェーン・グドール研究所は、その創設者で国連平和大使でもあるジェーン・グドール氏の死去を発表した。
 グドール氏は霊長類学者で、動物行動学者で、自然保護活動家で、動物福祉の擁護者で、教育者でもあった。

◎ルイス・リーキーの支援で単身ゴンベ・ストリームに
 グドール氏は、イギリスの海辺の街ボーンマスで、赤レンガ造りのビクトリア様式の家で育った( 写真 =実家の前で生まれて初めて出合ったチンパンジーのぬいぐるみを抱いてポーズをとるグドール氏)。イギリス陸軍士官だった父親は不在がちで(後に離婚)、母親と妹、2人のおばと祖母という女性ばかりの家庭で育った。



 子どもの頃、彼女は冒険をし、男だけがやっていたことをするのに憧れた。中でも強く憧れたのは、アフリカに行って動物の研究をすることだった。
 そして学位も持たないのに、単身・素手で東アフリカ、ケニアの著名な古人類学者のルイス・リーキーの元に飛び込んだ。リーキーは、彼女の熱意にほだされ、ナイロビのコリンドン博物館の助手にし、タンガニーカ湖の東にあるゴンベ・ストリームに派遣、野生チンパンジーの観察に従事させることにした。彼女の最初に入ったゴンベ・ストリームは、その後、日本をはじめ多くの霊長類学者がフィールドにすることになる。

◎リーキーの伝手でナショナル・ジオグラフィック協会に資金支援求める
 彼女は、ただ1人、森の中に小屋を造り、そこで暮らしながらチンパンジー観察を続け、やがてそれまで世界の誰1人気づかなかった(むろんリーキーも同じだった)「チンパンジーの道具作りと道具使い」をつかんだ。彼女は、チンパンジーが草の葉や小枝を使って道具を作り、それを蟻塚に突っ込んでシロアリを「釣る」行動を記録した。
 リーキーは1961年、彼女が観察に専念できるよう、ワシントンに本部を置く、世界最大級の非営利科学・教育団体である「ナショナル・ジオグラフィック協会(National Geographic Society、NGS)に研究助成金1400ドル(当時の為替レートで約50万円)と生活費400ポンド(当時の為替レートで約40万円)の支援を要請した。

◎チンパンジーの道具作り・道具使用を切り札に
 そこで、リーキーが切り札として持ち出したのが、チンパンジーの道具作りと「シロアリ釣り」行動の観察記録だった。誰もチンパンジーの道具作り・道具使用など想像だにしていなかった委員会は、グドール氏の支援を決めた。
 それからも、アメリカやイギリスでの学界の一部の雑音を気にすることなく、彼女のチンパンジー観察の姿勢は変わらなかった。グドール氏は1966年にイギリス、ケンブリッジ大学で動物行動学の博士号を取得しているが、それは彼女の初期の研究が「きちんとした科学になっていない」と批判されたことを気にしたリーキーが勧めたからにすぎなかった。

◎チンパンジーの死に泣く
 彼女は、チンパンジーを単なる研究対象としては決して見ていなかった。通常、研究者は観察対象の動物に数字を割り当てるが、グドール氏は1頭1頭に名前をつけた(今では観察者は個体識別に際し、名前をつけて記録するのが当たり前になっている)。それは彼女がチンパンジーに感情を見て、擬人化していたからだ。若いチンパンジーが母親を亡くした悲しみで鬱状態になって死んでいくのを見たことがきっかけだった( 写真 =111990年、ゴンベで遊ぶチンパンジーたちを観察しながらメモを取るグドール氏)。



 彼女がゴンベで最初に観察したチンパンジー家族の女家長である「フロー」は、子育ての大切さを教えてくれた。耳に切れ込みがあり、団子鼻のフローは、愛情深く、気配り上手で、献身的に子どもを育てていた。後にフローの死を知った時、グドール氏は仲間のチンパンジーたちと同じように悲嘆に暮れ、泣いた( 写真 =ゴンベのキャンプの窓で遊ぶ「フリント」を見つめるグドール氏。フリントは「フロー」の息子だ)。



◎チンパンジーの暗部も見せられる
 グドール氏に最初に近づいてきて、その存在を受け入れてくれたオスの「灰色ひげのデビッド」は、穏やかで、揺るぎない信念を持ち、「奇妙な白いサル」である彼女を信頼した。「ゴリアテ」は群れのリーダーで、気性が荒かった。「フロド」は弱い者いじめをしていた。チンパンジーが1頭1頭の個性を持つことも、観察とチンパンジーとの交流で明らかにした。
 しかしそうしたチンパンジーの暗黒面も見せられた。オスたちは暴力によってリーダーの座を手にしようとしたし、群れが2つの派閥に分裂した時、殺し合いが勃発した。同じ種内の殺し合いを、世界で初めて伝えた。
 「私はそれまで、チンパンジーは人間に似ているけれど、人間よりも優しい動物だと思っていました。だからチンパンジーの残忍さを受け入れられるようになるまでには少し時間がかかりました」と、グドール氏は語っている。

◎環境・動物保護に力を注ぐ
 やがてグドール氏は、自分のフィールドワークを他の人々に引き継ぎ、環境保護のための啓発活動と資金調達に専念するようになる。
 グドール氏は、檻に入れられた動物が、萎縮し、誇りを傷つけられ、その感情が目つきや動作に現れてくるのを目の当たりにしてきた。この状況を変えることが彼女の道徳的な使命だった。グドール氏は、自分の記事を印刷する手伝いをしていた雑誌の写真編集者のメアリー・スミス氏に、「私たちは動物に優しくあるべきです。そうすることで、私たち全員がより良い人間になれるからです」と語っている。
 グドール氏はアメリカ国立衛生研究所(NIH)に働きかけて医学研究へのチンパンジーの利用を中止させた。今ではチンパンジーを実験動物にしている国も研究所も1つとしてない。

◎環境保護団体を創設
 1989年にはアメリカのジェームズ・ベーカー国務長官(当時)にアフリカにおける野生動物の食肉取引の禁止に向けて努力することを約束させている。ただ野生動物の食肉(ブッシュミート)取引は、アフリカの貧しさもあって全面禁止されてはいない。
 古い世代よりも若い世代の方が世界の良い導き手になると確信していたグドール氏は、1991年に、若者の力で環境破壊を食い止めることをめざす非営利団体「ルーツ&シューツ」を設立した( 写真 =1995年、「ルーツ&シューツ」のイベントで中学生と談笑するグドール氏)。



 意外な人々もグドール氏の味方についた。彼女は米コノコ石油を説得してコンゴ共和国にチンプンガ・チンパンジー・リハビリテーション・センターを建設させ、親をなくしたチンパンジーの子どもの保護施設を1992年にオープンさせた。

◎多くの名誉を受けたが代償も
 グドール氏は、フランスのレジオン・ドヌール勲章、大英帝国勲章デイム・コマンダー、京都賞、シュバイツァー・メダルなど、数々の賞を受賞している。ヨーロッパ、北米、南米、アジアの大学からは名誉学位を授与された。
 こうした名声には代償も伴っていた。どこに行っても、「彼女の言葉と視線に飢えた」マイクとカメラが殺到した。グドール氏を崇拝するファンたちは、聖遺物を求めるように彼女に手を伸ばして触れ、言葉を求め、サインをねだった。
 自然保護の福音を説くために旅に出た彼女は、70歳を過ぎてもなお年間300日を世界各地での講演に費やしていた。目覚めた時に、自分がどこにいるのか分からなくなるほど疲れていることもあった。それでも構わなかった。使命の方が大切だったからだ。

◎質素な生活、同僚は「貧乏人のよう」と評
 フィールドでも世間でも、グドール氏は環境にほとんど負荷をかけなかった。彼女は森ではしばしば裸足で行動し、ベジタリアンで、小鳥のように少食だった。同僚は彼女の暮らしぶりを「貧乏人のような生活」だったと証言している。
 グドール氏にとって物質は重要ではなかった。チンパンジーのこと、環境のこと、自然保護のこと、世界が自滅しないようにすることにしか興味がなかった。
 聖書の創世記を文字どおり信じる創造論者を怒らせることになるかもしれないが、グドール氏の研究は、サルが人間の行動をなぞっているのではなく、人間がサルの行動をなぞっていることを示したのだ。

昨年の今日の日記





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Last updated  2025.11.02 05:50:08


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