La Vie・音楽とともに ~標高1,000mの高原だより~

February 2, 2009
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カテゴリ: 楽しむは音


聴く者に向かってくる、圧倒的な感情の発露!これは 嫉妬 という名の情念でひとくくりにして

しまえるようなものではないように思う。どこにも救いがない。


「音」という名の怨讐の上に、更なる怨讐が重なり、破滅的な深みへと堕ちてゆく。

それは、ヤナーチェク自身の感情なのか、或いは、ポズドヌイシェフ自身の感情なのか!


ここでいう「クロイツェル・ソナタ」とは、文豪トルストイが書いた小説のこと。

ヤナーチェクは、このトルストイの小説からインスピレーションを得て、たった一週間ほどで

同名の弦楽四重奏曲を完成させたのだという。





偶然乗り合わせた男ポズドヌイシェフ氏から、「自分の妻を殺した」告白話の一部始終を、

丸ひと晩かけて聞かされるという物語だ。

ポズドヌイシェフ氏は、自分の魅力的で美しい妻が、若いヴァイオリニストの男とベートーヴェンの

「クロイツェル・ソナタ」を合奏し、その合奏のあと、時が経つにつれ、妻が男と密通しているの

では・・との疑惑を抱く。

疑惑は更に、彼の病的な妄想の中で確信へと変わり、ついには自分の妻に手をかけてしまった・・

という顛末であった。


すべては、ひとりの男の妄想と疑惑と嫉妬によって成し遂げられてしまった凶行。

男の話は、主観的な概念のみが語られ、妻が本当に不貞をはたらいていたか否かも、結局の

ところは、読む者には明らかにされなかった。

一度とり憑いてしまった妄想や疑惑が、ここまで人を蝕む恐ろしさ。どこにも救いがない。





「あのソナタは実に恐ろしい曲です。殊に初めの部分が・・・」

「この恐ろしい武器が、誰彼の差別なく手に入れられるのです!たとえば、このクロイツェル・

ソナタ、殊に最初のプレストですね、一体あれをデコルテを着た婦人たちの間で、普通の客間の中で

弾いてもいいものでしょうか?あのプレストを弾いて、後でお客の相手をし、それからアイスクリーム

を食べたり、新しい市井の風評を語り合ったりしていいものでしょうか?」



ヴァリエーションをつけて弾き進みました。そしてフィナーレに至ると、もはや全く力抜けがして

いました。」

以上が、ポズドヌイシェフ氏が語った、妻と若きヴァイオリニストの合奏の感想である。

ここから察するに、あの美しいベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」を、いったいこのふたりは

どのように演奏したのだろう・・。

特に、弾き手のセンスと技量が問われる第二楽章の4つのヴァリエーションを。

願わくば、私も文中の客間に立ち混じって、そっと聴いてみたい気持ちに駆られる。






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Last updated  February 3, 2009 03:40:43 PM
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