趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

March 23, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】としこが、しが寺にまうでたりけるに、ぞうき君といふ法師ありけり。
【注】
・としこ=肥前の守藤原千兼の妻。第三話に既出。
・しが寺=志賀寺。かつて大津市にあった崇福寺。天智天皇の勅願によって建立された。
・ぞうき君=増喜。未詳。
【訳】俊子が、志賀寺に参拝したときに、増喜ぎみという僧がいたとさ。

【本文】それは比叡に住む、院の殿上もする法師になむありける。
【注】
・院の殿上もする=宇多院の御所(亭子院)の昇殿を許可されていた。


【本文】それ、このとしこのまうでたる日、志賀にまうであひにけり。
【訳】その僧が、この俊子が参拝した日に、志賀寺に参拝して出くわしたとさ。

【本文】はしどのに局をしてゐて、よろづの事をいひかはしけり。
【注】
・はしどの=谷や崖などの上に、橋のように架け渡して作った建物。
・局=建物の内部を屏風や几帳などで仕切った部屋。
【訳】山から谷に橋のように建て渡した建物に、部屋を設けていて、さまざまな事を語り合ったとさ。

【本文】としこ帰りなむとしけり。それに、ぞうきのもとより、

あひみては 別るることの なかりせば かつがつ物は 思はざらまし
【注】
・かつがつ=まずまず。ぽつぽつ。まあまあ。

【訳】俊子が京に帰ってしまおうとしたとさ。その俊子に、増喜のところから、作ってよこした歌、
お逢いしたあとでは、もし別れることが無かったならば、まあまあ、物思いに沈むことは、なかっただろうに。

【本文】かへし、としこ、

いかなれば かつがつ物を 思ふらむ 名残もなくぞ 我は悲しき

となむありける。ことばもいと多くなむありける。

・名残も無く=すっかり。
【訳】それに対する返歌として、俊子が、
どういうわけで、あなたは、時折物思いに沈む程度なのでしょう、私のほうは、すっかり悲しく思っておりますのに。
と作った歌を送ったとさ。手紙にはこの歌以外にも、言葉も多く書き連ねてあったとさ。





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Last updated  March 23, 2011 03:46:09 PM
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