趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

May 5, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】先帝の御時に、ある御曹司に、きたなげなき童ありけり。
・曹司=宮中の官人や女官などに割り当てられた個室。
・きたなげなき=こぎれいな。見苦しくない。
【訳】前天皇であらせられる醍醐天皇の御代に、宮中のある御部屋に、見苦しくはない元服前の子供がいたとさ。

【本文】帝御らむじて、みそかにめしてけり。
【注】
・御らむず=ごらんになる。
・みそかに=ひそかに。人目をさけて。内緒で。こっそり。
・めす=お呼び寄せになる。お招きになる。



【本文】これを人にもしらせ給はで、時々めしけり。
【訳】このことを他人にもお知らせにならずに、時々お呼び寄せになったとさ。

【本文】さて、のたまはせける、

あかでのみ 見ればなるべし あはぬよも あふよも人を あはれとぞ思ふ

とのたまはせけるを、童の心ちにも、かぎりなくあはれにおぼえければ、しのびあへで、ともだちに、「さなむのたまひし」と語りければ、この主なる宮すん所ききて追ひいでたまひける物か、いみじう。
【注】
・あかで=名残尽きなく。物足りない状態で。
・のたまはす=おっしゃる。仰せられる。
【訳】そうして、この子に作って吟じなさった歌、
いつも顔を見るのがものたりないからにちがいない、逢わない夜も逢う夜も、あなたをしみじみ愛しくおもうよ

とおっしゃったのを、子供心にも、このうえなく光栄で嬉しく感じられたので、隠しきれずに、友人に「天皇がそのようにおっしゃった」と語ったところ、この子の主人である御妃様が聞いて、なんとこの子を宮中から追い出しなさってしまったとさ、ひどいことです。





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Last updated  May 5, 2011 06:47:47 PM
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