趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

May 7, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】志賀の山越のみちに、いはえといふ所に、故兵部卿の宮、家をいとをかしうつくりたまうて、時々おはしましけり。
【注】
・志賀の山越のみち=志賀の山は、滋賀県大津市の西方の山を越えて京都白川へ通ずる道。
・いはえ=街道の地名らしいが未詳。
・故兵部卿の宮=陽成天皇の皇子、元良親王。(890~943年)。第九十話に既出。
・おはす=「行く」の尊敬語。
【訳】滋賀の山越えの道中の、岩江という所に、故兵部卿の宮が、家を非常に風流に建造なさって、時々その別荘においでになったとさ。

【本文】いとしのびておはしまして、志賀にまうづる女どもを見たまふ時もありけり。おほかたもいとおもしろう、家もいとをかしうなむありける。
【注】

【訳】非常に人目を避けてお出かけになって、滋賀の寺社に参詣する女性たちを御覧になる時もあったとさ。

【本文】おほかたもいとおもしろう、家もいとをかしうなむありける。
【訳】おおよそお屋敷全体が、非常に風情があり、家の造りも非常に趣味が良かったとさ。

【本文】としこ、志賀にまうでけるついでに、この家にきて、めぐりつつ見て、あはれがり、めでなどして、かきつけたりける、

かりにのみ くる君まつと ふりいでつつ なくしが山は 秋ぞ悲しき

となむ書きつけて往にける。
【注】
・としこ=肥前の守、藤原千兼の妻。第三話に既出。
・かりに=仮に。また、「狩り」と「鹿」とは縁語。
・ふりいづ=声をふりしぼる。
・しか=「鹿」と「志賀」の掛詞。

【訳】俊子が、滋賀の寺社に参詣したついでに、この家に来て、周囲をめぐりながら見て、感嘆し、ほめたりなどして、塀に書きつけた歌、

仮りそめにだけやって来るあなた様を待とうと、声をふりしぼって鳴く鹿の住む滋賀の山は、秋が格別にもの悲しいことだ。

と書きつけて、たちさったとさ。





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Last updated  May 7, 2011 07:39:42 PM
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