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2025.10.29
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カテゴリ: ライトノベル
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小説 「scene clipper」 again    第18話


「あの、私の父親の話なんですけど・・・これは短くまとめられると思います・・・東京に着くまでに話し終えるはずです」

「私は、君に任せると言ったはずだね」

「そうでしたね、では・・・父は先の戦争で駆逐艦に乗船していました」

「ほう、海軍さんか・・・どちらへ行かれたのかな」

「はい、南の方でして・・・太平洋に出てしばらくすると赤道を通過して、その際に『赤道を越えた、こんな所まで来たのか』と一時的に戦時であることを忘れて感慨にふけったと話してくれました。

その時私も父の思い出に溶け込んだ気分になったことを覚えています。赤道なんて見たこともないのに、父と思い出を共有できたつもりになってしまうなんて可笑しな話ですが」

「思うに・・・」そう言ったあと、青木氏は空間に視線を貼り付けるような眼差しとなり、直ぐに視線をリョウに向けた。

「私が思うに、君はお父さんのことが大好きだった・・・ちがうかな?」


「はい、それは東京にきて初めて認識したのですが。朝方夢を見て目を覚ますと、枕が濡れていて、夢の中の登場人物は毎回、父親だったという、そんな夢を何度か見ました。申し訳ないけど、母の夢は殆ど見てません。母には内緒ですが」

「気持ちは分かるが、夢の中身を選ぶことなんて出来やしないんだから・・・それでも気にしてしまう、優しい人だね君は」



照れ隠しに頭をかいて、先を続けた。

「父は、我々には想像することさえできませんが、米海軍の艦船と激しく、何度も撃ち合って・・・一度なんかは大きな弾丸が頭の直ぐそばを飛び越えて駆逐艦の向こうに落ちて行った。

それは戦友たちから聞かされたことで「ああ、そうだったのか」と・・・自分では何が起きたのか全く分からず、失神していたらしく、気が付いたら、火傷したかのように、こめかみの辺りがヒリヒリしていたそうです」

「うーん!」青木氏がのけぞり、腕を組みながら感嘆の声を上げた。



「それは・・・君のお父さんは、相当運の強い人だったんだなあ!」

「はい、父が言うには『わしだけじゃない、生きて帰った者はみんな何かしら幸運に恵まれていて、奇跡的に生き残った者の話を聞いたり、実際にこの目で見たことも一度や二度じゃない』そう言ってましたね」

「うん、そうだろうな・・・私は戦場は未経験だから分からないが、空襲で難を逃れた人たちの話を聞くと、前日に田舎へ疎開していて助かった。そんな話を聞かされたものだったよ」

「やはり、運不運てあるんですね。私の父は駆逐艦を2隻続けて撃沈されたのですが、2回とも助かりました。で、もう乘る艦船が無くなって、南の島にあった航空基地に配属されたそうです。

そこでは米軍の戦闘機がやってきて爆弾を落とす。それで空いた滑走路の穴に土を埋めて自軍の航空機が離着陸できるように整備する任務につきました。そこに
米軍機が爆弾を投下して行くのですが、その内みんな慣れてきて、米軍機が爆弾を投下した位置から、風向き等を計算すれば、どの辺に落ちると予測出来ていたそうなのです」

「なるほど、命がけだから学びも早かったのだろうね・・・しかし本当に命がけだな・・・そうやって内地の我々を守ってくれていた・・・どれだけ感謝しようと足りはしない」

「ある日、また米軍機の空襲があった時の事、作業中だった父と同じ隊の人達は、直ぐに風の向きを読んで『あっちだ!あのヤシの林の裏に走れ!』と誰かが言い、父を始め全員に異論は無く一斉に走り出しました。けれど何故か父は途中で足がもつれて滑走路上に倒れてしまいました」

マリを入れた全員が前のめりになった!リョウの話す、その先を、多分リョウの父親の身の安否を案じる思いが姿勢に表れたのだろう。

だが、リョウはのどが渇いていた。身近にあったお茶のボトルを取り上げて一口飲む。

青木氏はやや気短になっていたのだろう、思わず膝を片手で叩いた。

「その時父は、『しまった!もう間に合わない!』反射的にそういう結論に達して覚悟を決めたそうで、遠い日本で暮らす歳老いた父親の面影が頭に浮かんで思わず『父さん!』と・・・

けれどその瞬間、一陣の強風が父の背後から吹き抜けていったと・・・もうタイミング的に堕ちていて不思議ない爆弾の破裂音がしない?『不発弾?』そう思った次の瞬間、破裂音と共に大地が揺れた!

文字通り生きた心地のしない父でしたが、顔を上げる事が出来た・・・『ん?身体が動く、どこも痛くない』前方には爆煙と炎も少し上がっている・・・『これは一体!?・・・もしかして!』そのもしかしては当たっていました。全員の予測では滑走路に落ちたはずの爆弾は、強風にあおられ、逃げ延びたはずの戦友の皆さんがいたヤシの林に落ちてしまったのです・・・


すみません、もう少しで品川駅に着いて解散することなるというのに、暗い話になっちゃいましたね」

「いや、私がお願いしたことだし、それに無事に戦地から日本に帰って来られた方たちは、少なからず強運に恵まれた方たちだ。そしてその方々が帰国後、懸命に働いてこられたから、こうやって日本は復興できたわけだ。そこを思えば、遠い国で散華された方々には申し訳ないが、この国を、そして家族を守ろうと命をかけて戦ってくださった戦友の為にも、懸命に働いてこられたのじゃないかな君のお父さんも・・・それは亡くなった戦友の皆さんも認めて、いや感謝して下さっていると信じるよ私は」

「ありがとうございます。父に聞かせてあげたかった・・・本当にありがとうございました」


リョウの頬に涙が伝わり落ちてゆく、それは品川駅まで止まることはなかった。







39日ぶりです。


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最終更新日  2025.11.04 01:27:22
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