【粗筋】
空海上人が武州橘郡平間村で名主源左衛門の家にやっかいになり、病人を治していたが、名主の娘おそのが上人を好きになってしまい、上人の方ではもて余して、今夜忍んでいらっしゃいと言って逃げてしまう。夜になって娘が来ると、布団には代わりに麦を突く杵が寝かしてある。狂乱した娘はその杵を担いで川へ身を投げる。
上人は死体が上がったところへ通り合わせ、供養のためにと源左衛門の家へ戻って、再び病人の世話を始める。治った者がお礼に持ち寄った物で建てられたのが、川崎の大師様。ここに弘法大師自作自開眼の御尊体があるが、逗子に入っているため誰も見たことがない。実は娘が担いで飛び込んだ、あの杵が入っているという説もある。そこで、坊さんに、
「あのお逗子の中は杵でしょうか」
と聞いてみたら、
「いや、それは臼(嘘)だ」
【成立】
「杵大師」「大師杵」「身代わり杵」などの題もあるが、楽屋帳では昔から「大師の杵」。
三笑亭笑三の十八番。年に数回聞いたこともある。娘が忍んで行こうとして、
「美人のいい女のビフテキが、念入りにけいけいして、忍んで行ったんですからなァ」
と一調子張り上げて、
ってんで、客席とやりとり、どっから来たのなんて話したり、時には客席に下りて握手をしたり、する。すると、また「美人のいい女のビフテキが……」ぐるぐる回って進まない。楽屋に気付いて、
「時間だと言っていますが、お客様がやれとおっしゃれば……」
当然大拍手、私はここで「タップリ!」と声を上げる。とたんに前座が出てきて、バツ!
「やっぱり駄目だって」
と引っ込む。この演出がおかしかった。いつも同じだという人もいたが、中のくすぐりや客とのやりとり、毎回変化しているのが見えないのかしら。
尚、落ちまで演じたのも何度か聞いている。この時は前座が出てきて止めると、
「お客様はやれって仰っているよ」
ってんで、前座が席亭と相談する思い入れでマルを出す。桂夏丸君の前座で見た。
なお、ビフテキとは「美女」のこと、女性を「タレ」というから、それの上等ってこと。「けいけいして」は化粧をする「綺麗綺麗」、古典落語にも出て来る。
【一言】
別に、とりたてて言うほどの噺でもありませんが、やはり、演者によって、面白くも、つまらなくもなるものです。(三遊亭圓生⑥)
【蘊蓄】
高野聖に宿かすな
娘とられて臍(ほぞ)かむな(江戸期の流行歌)
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