全2件 (2件中 1-2件目)
1
オリンピックの本番が終わったあと、さっそくワールドを目指して練習を再開した宇野昌磨選手が、フリーをノーミスで滑ったというニュースを聞いて、大いなる期待を抱いたMizumizuだったが、それが現実になった。単独の4回転、連続の4+3を決めて首位に立ったあとのフリー。曲は『ボレロ』。名選手にしか滑りこなせない難曲だ。冒頭は格調高いポースが印象的な振付。ビシッと決まる宇野選手のポーズを見た時、奇妙なことにMizumizuはウクライナの生んだ偉大なチャンピオン、ヴィクトール・ペトレンコ選手を思い出した。重厚で風格ある滑りを得意としたペトレンコ。ウクライナに里帰りしているときに戦争がはじまり、キエフから脱出できずにいるというニュースが入ってきたばかりだ。その彼がこの場に舞い降りて、新たな伝説を紡む者を祝福しているようだった。それは単なる幻想かもしれない。しかし、アイスリンクには決して現れるはずのないものを見せてくれるのが、宇野選手の他の選手には決して真似できない表現力だ。例えば『天国への階段』では、宇野選手がふっと両手を差し伸べたとき、Mizumizuには天から降りてくる光が見えた気がした。観る者の想像力を刺激し、見えないものを見せてくれる能力――それは浅田真央選手にも、確かにあった。その意味で、宇野選手は浅田選手のもっていた、稀有な能力の継承者とも言える。別に統計を取ったわけではないが、おそらく浅田選手を愛するファンは、宇野選手のようなタイプのスケーターを評価するのではないかと思う。今回のフリー、とりわけ単独4回転の完成度が素晴らしかった。それも、ループ、サルコウ…なんと後半にフリップ。後半のフリップを素晴らしい完成度で降りたとき、宇野選手の勝利は決定的になった。そのあとは体力がもたなかった感がある。4トゥループで乱れ、3Aからの3連続は最後がシングルフリップに(3A+1Eu+1F)。それでも、失敗は最小限…という印象におさまった。お休みする間のない難曲、ボレロ。途切れない表現を重ねながら、これだけ難度の高いジャンプを決める、その体力・精神力には脱帽だ。さらに最後にもってきたステップシーケンスの独創的な動きに目が釘付けに。そして、突然やってくるドラマチックな終焉。芸術と技術の至高のマリアージュ。卓越した振付! 平昌のあと、表彰台落ちが続いた宇野選手を見たとき、「このままシルバーコレクター」として終わってしまうのだろうか、と危惧した。そのまま終わっていくのか、再浮上のきっかけをつかむのか。ギリギリのライン上で明らかにもがいていた宇野選手を救ったのが、ランビエール・コーチ。ワールドを複数制覇した名選手が、これほどの名コーチであることを誰が想像しただろう? 「昌磨はチャンピオンになれる」と断言し、導いたランビエール・コーチの手腕はもちろんだが、それ以上に、この2人の相性がとても良かった気がする。宇野選手もランビエール・コーチも、自分以外の誰かに対して「惜しみなく献身できる」という卓越したキャラクターをもっている。ひたすら自分のため、自分の栄光、自分の名誉だけを見据えて突っ走る人もいる。それはそれで素晴らしい能力だが、誰かのために努力するというのも、素晴らしく、しかも稀有な能力であり、才能だ。調子の悪いときの宇野選手は、単独ジャンプを決めても、連続ジャンプで失敗する。連続は決まっても単独で失敗する。あるいはその両方が重なる――という悪循環に陥っていた。それが今は、フリップ、ループ、サルコウ、トゥループの4回転の確率が格段に上がっている。それが連続ジャンプにも良い影響を及ぼしている。欲を言えばフリーの連続ジャンプ。これを試合でミスなく決める力を見せたとき、宇野昌磨のスケートは完成する。
2022.03.27
2022年のフィギュアスケート世界選手権、女子シングル。坂本花織が金メダルに輝いた。シーズン初めには想像さえできなかった結果だ。しかも、ショート&フリーともミスらしいミスのない、1位+1位の「完全勝利」。ロシアの根深いドーピング問題に揺れ、ウクライナ侵攻という想像を絶する暴挙に翻弄された今季のフィギュアスケートだが、坂本選手という、実にフツーに成熟した美しい体形の選手の、長年積み上げてきたスピード感あふれる素晴らしいスケーティングと、その流れを止めることなく跳ぶ高さと幅のあるジャンプを見ると、フィギュアスケートが本来もっている魅力、その醍醐味を再認識させてもらった気分だ。細い軸の高速回転で高難度ジャンプを跳ぶ、ロシアの少女たちが席巻してきた昨今の女子シングルだが、ここで「健全な競技に戻れ」という見えざる神の手が働いたかのよう。そもそも、最近のシングルはやたらクルクル回りすぎる。いつの間にか滑る競技から回る競技になってしまったかのよう。それによって、「長年滑り込むことでしか体現できない」スケーティングそのものの味わいを損ねてきたのも事実だろう。しかし、この勝利がフィギュアスケートの原点に戻るきっかけになれば、これほどうれしいことはない。そしてもう1つ。多くの有力選手が、さまざまな理由でこの舞台に立てなかった。オリンピック前は「(ロシア女子の)唯一の競争相手」と称されてきた紀平梨花選手。Mizumizuもロシア女子がコケた場合、表彰台の頂点に立てるのは紀平選手だろうと思っていた。坂本選手はトリプルアクセル以上のジャンプがなく、しかもルッツのエッジに不安がある。だが、ワールドが終わってみればトリプルアクセルを武器にしようとした選手は軒並み回転不足判定に泣き、大技はもたないものの、ジャンプの質が抜群によい坂本選手がぶっちぎりの点数を叩き出しての勝利となった。いかに、トリプルアクセルが女子にとって難しいか。その難しいジャンプを軽々跳ぶ一部ロシア女子選手がいかに疑わしいか。回転不足による減点の厳しさについては、Mizumizuは常に反対の立場だ。この厳しさが女子に過重なまでの減量を強い、選手生命を短くしている。体重が軽い、若いというよりもはや幼いといっていい時代の女子選手なら回転不足なく跳べるが、年齢を重ねるにしたがって、軒並みこの判定に苦しむようになる。回転不足を厳しく見ること自体には反対しないが、減点はもっと抑制すべきだ。エッジ違反の減点がひと頃より抑制されたように、回転不足の減点ももっと抑えるべき。だが、悪法だからといって、それが現行の法ならば、それにそってジャッジするのは審判の立場に立てば当然のこと。今回の坂本選手の勝利、いろいろな要素があるが、最大の理由はセカンドに跳ぶ3Tの確実性と質だったと言える。リザルト(プロトコル)を見ると分かるが、3回転+3回転のセカンドジャンプは多くの選手が回転不足(<やq)を取られている。坂本選手は「セカンドに跳ぶ3回転」を後半に2つも入れてきて、その落ちないスピード、回転不足になりにくい幅(高さももちろんあるが、セカンドでは特に幅が大事だ。垂直跳びに近くなると回転不足になりやすい)を見せつけて、高い加点を引き出した。欠点であるルッツに関しては、判定が好意的だった。ショートではエッジ違反を取られずに加点、フリーでは「!」にとどまったことで、ここでも加点を引き出した。クライマックスにもってきた得意の3ループはいつもよりは慎重だったかもしれないが、チャンピオンを決定づけるにふさわしいドラマチックなものになった。そして、なんといっても後半になっても落ちないスピード。連続ジャンプは、ファーストがむしろ抑え気味でセカンドを高く、遠くへ跳んでいる。前後のスピードもまったく落ちない。この跳び方は高く評価されるスタイルだ。やれと言ってできるものではない。高難度ジャンプを入れることで顕著になってきたジャンプの種類の偏りもない。アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トゥループ…全部跳べる。まさにジャンプ構成のお手本。こういう選手こそ女王にふさわしい。五輪後は調整が難しい。にもかかわらず、五輪以上のパワフルな滑り。これは坂本選手の体力、つまりは健康の勝利だと言える。逆に、深刻なのは河辺選手。ルッツにもフリップにも「!」…これはエッジの使い分けが曖昧だというメッセージだ。トリプルアクセルは不安定、セカンドに跳ぶ3回転ジャンプも回転不足気味…。これだけ技術に突っ込みが入ると…
2022.03.26
全2件 (2件中 1-2件目)
1
![]()
![]()