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大島和隆の注目ポイント

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2011.04.22
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<“技術大国日本”という看板の崩壊>



そしてこの被害は直接的な放射能汚染によるもののみならず、今後の日本経済に大きなダメージを与えてしまったと思っています。それは長年かけて先人達が培ってきた「技術大国」というレピュテーションに大きく傷を付け、そしてその信用を失わせたということです。厄介なことに、こればかりは日本国内で被害者の特定をすることはおろか、被害額を算定することもできません。

それをどうすれば回復できるのかも解りませんし、当然のことながら、国や東京電力にそれを補償しろといっても何もできません。かつて「メイド・イン・ジャパン」は信頼の証でした。しかし、この先それが通用するのかと言えば、状況はかなり厳しいと言わざるをえません。

<チェルノブイリやスリー・マイル島よりも悪いという事実>

チェルノブイリ原発の事故については、当時のソビエトのずさんな管理が故と言われて来ました。スリー・マイル島原発の事故についても、多くの人の心の中で「アメリカ製だからね」という暗黙の了解があり、だから「日本の原子力発電所は絶対大丈夫」みたいな虚像を誰もが信じてきたのだと思います。

地震発生直後から「チェルノブイリみたいにはならないよね」と多くの人が信じてきたのは、単に政府や東京電力の情報発信の不確かさ(不誠実さ?)が理由なのではなく、日本製の製品に対する絶対的な信頼のようなものがあったからこそだと思います。その信用の裏書きを結果として支えてきたのは、自動車や電化製品などの多くの日本の工業製品であり、日本人の勤勉実直さに他なりません。

多くの米国企業や欧州企業を訪問してきたので肌で感じたものがありますが、世界中の企業が日本の物作りに学ぼうとしていました。しかし先日の発表、すなわち今回の原子力発電所の事故評価が「レベル7」となった段階でその総てが水泡に帰したと言って過言ではないかも知れません。

<一度失った信用を取り戻す>

企業にとってのみならず、人間関係においても同様ですが、信用を築くのには膨大な労力が必要ですが、それを失うことはいとも簡単です。そして一度失ってしまった信用を再び元に戻すことは、それをゼロから作り上げるよりも更に大変だということは、皆さんご納得頂けるでしょう。

かつて「技術の日産、販売のトヨタ」と呼ばれていた時代があることをご存知の方はこのメルマガの読者の方には少ないかも知れませんが、かつてBC戦争などと言われた日産のブルーバードとトヨタのコロナの販売合戦(共に現在では絶版車)の頃、こんな言い方がされました。あえてこのタイミングでの言及は控えますが、少なくとも今現在トヨタの力が販売力だけだと思っている人は少ないのと同様、日産の方が優れた技術力を有すると思っている人も少ないでしょう。

でも私が就職活動で日産自動車のOBを訪問した時代(1984年)、先輩は「うちはロケットも作っているからね。」とその技術力に誇らしげでした。その後、何が日産自動車にあったのか興味のある方は調べて頂ければと思いますが、少なくとも今現在「技術の日産」という金看板が同社の上に輝いているとは思えず、再び取り戻せるのかどうかも定かではありません。それだけ一度失ってしまったものを取り戻すのは大変だということです。

<ポイントは人災と認定できるかどうか>

震災以降、誰もが原子力発電評論家のようになってしまった感がありますが、その一人として思えるのは、今回の事故はきちんと危機管理がなされていたなら防げたものが多いということです。津波直後の福島第一原子力発電所の写真をみる限り、原子炉建屋は立派にその存在を誇示しており、その後の状況から推察してみても、原子炉や使用済み核燃料が保存されていたプール自体に物理的な損傷はなかったと思われます。

それが見るも無残な今の姿に変容した最大の理由は、そこが電力会社の発電所でありながら、電力供給が途絶えて冷却装置が作動できなくなったという何とも皮肉な結果が理由です。先日の報道によれば、原子炉はその後制御不能に陥るギリギリのところまで追い込まれていたようです。でも電源さえ確保されていれば、ここまで酷い状況にはならなった。

もし地震や津波の直後から原子炉建屋が損壊し放射能漏れが起こっていたり、或いは原子炉そのものが破壊されてしまったりというのならば、これは技術力(耐震技術)の問題だと言えるでしょう。しかし今回の場合はそうではありません。“想定外”のサイズの津波に襲われた結果、非常用のディーゼル・エンジンで駆動する自家発電装置が水没して動かなくなったというにわかには信じ難い理由が原因です。

これは技術の問題ではなく、危機管理意識の問題であり、その後の後手後手に回るどの対応をみていても、総てが技術力の問題ではなく判断ミスです。つまりこれらは人災だということです。

<非常用発電機とは>

非常用発電機と呼ばれるものをご覧になったことがあるでしょうか? 大きさは様々ありますが、基本的には車や船に搭載されているのと同じディーゼル・エンジンに発電用のダイナモ(モーターと基本構造は一緒です)を合体させたものです。特殊なデリケートな装置なんかではありません。極論を言えばダンプカーや漁船に搭載されているようなエンジンですから、多少の振動なんてビクともしません。

以前、米国AOLのデーターセンターで災害用バックアップ電源を見せてもらったことがありますが、緑色に塗られたディーゼル・エンジンがたくさん並んでいるというだけのもので、印象として「かなりローテクだな」と思った覚えがあります。つまりそれが動かなくなったというのは、物が物理的に破壊(シリンダーヘッドが割れるなど)されたということではなく、設置場所の関係で津波で水没したということに過ぎません。

ちなみに「火力発電用のガスタービン」と呼ばれているものは、飛行機のジェット・エンジンと基本一緒です。気流の悪い空を飛んでいる時の飛行機の揺れ方は、間違いなく震度6以上はあると思いますが、それでエンジンが止まったりしませんよね? 翼からエンジンが気流による機体の揺れが原因で脱落したという話も、ジョイント部分の金属疲労などの整備不良以外の理由では聞いたことがありません。

つまり、正しい危機管理意識のもとで、あるべき場所に設置され、それが適正なメインテナンスを受けていたとしたら、少なくとも今回の「冷却用の電源が確保できません」ということを理由とした原発事故は起きていなかったと言えるだろうと思います。



とはいえ、技術大国日本を謳いながら「ややお粗末」だったかなと思われるのはロボット技術です。二本足で歩くロボットや、自転車に乗って走るロボットが日本製であることは有名ですが、残念ながら今回の放射能汚染の場所で人間に代わって活躍するほどにまでは日本のロボット技術は成熟していなかったようです。

もちろん、強い放射線の影響下では通常の半導体などを使った電機装置は誤作動を起こして使い物にならず、そもそもそうした用途の製品開発をしていないという言い訳はあります。しかし、今回米国から借りたと言われて報道されて映像に映ったそれは余りに……、まるでただのラジコン・カーですよね。

それにハンディカムをつけてあるだけという印象でしたが「こんな物さえ米国から借りてこないとならないの?」と誰もが思ったことでしょう。あんな物なら、ちょっとその気になれば日本で当然のごとくに作れるはずです。にもかかわらず、現実にはそれはなく、米国から借りなければならなかった……。

<官僚主義という人災>

「想定外の津波でした」とか「耐震基準はあっても、津波への基準は無かった」といった言い訳が何度もなされました。ただそうした法的な基準がなくても、万が一の場合を自ら想定して対応しておくというのが民間企業のあるべき姿ではないのでしょうか? 東京電力という会社が独占状態でインフラを担う企業として存在してしまったが故、限りなく組織体質が官僚化したということの最大の弊害がここに出たのだと思います。事故後の対応どれ一つとっても、とても柔軟で、機動力のある民間企業という印象は伝わってきません。



その組織をうまく使えば、少なくとも放射線の嵐の中を走れる“ラジコン・カー”ぐらいはすぐに作れた(それらを作る企業なり、研究所を把握しているという意味)だろうと思います。東京電力という民間企業には官僚主義という病魔が宿っていたかも知れませんが、官僚組織はもっと上手に使うべきところだと思います。

<技術大国日本が復活することを信じます>

私は日本が技術大国であり続けること、仮に今回の原子力発電所の事故によってその威信に多少傷がついてしまったとしても、必ずやそれが復活することを信じます。多少浪花節な部分がありますが、日本人の火事場の馬鹿力はすごいものだと思っています。問題があるとすれば、それをきちんと束ねる力、求心力のあるリーダーが見当たらないことだけです。

計画停電で真っ暗な我が街に会社から戻った時、これでひとつの暴動も起きていないなんて有り得ないと思いました。少なくとも個々の民間企業には、それを束ねて引っ張るリーダー(社長)がいます。多少の例外はあるにせよ、私が今までお目にかかった企業のトップたちにはそう思える人が多かったと思います。頑張れ日本!

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楽天投信投資顧問株式会社
CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第95号 2011年4月22日発行より) ==========================================================






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最終更新日  2011.04.27 16:40:40


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