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大島和隆の注目ポイント

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2011.05.13
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<1番の理由は“金儲けでしょう”(笑)>

運用の現場に長くいると興味深い議論に出くわすことがよくあります。その代表格は、その議論の主旨を突き詰めていくと「なぜ株式投資を行うのか?」ということになるものです。私はそもそも変な綺麗ごとは言いたくないタイプなので、大抵の場合「一番の理由は“金儲けでしょう”」と答えることにしています。

もちろん、発行済み株式数の過半数以上を握って買収したり、その会社の経営を左右しようと思ったりする場合や、或いは少数株主として発行済み株式数の3%以上を取得して株主総会招集請求権や役員解任議案の提出を行いたいなど、それなりに株主としての権利を利用しようと目論む場合は別ですが、普通の場合は「値上がりしそうな株を買って、値上がりしたところで売り抜けたい」というのが株式投資をする一番の理由なのではないでしょうか?

一日のうちに同じ銘柄を何度も売り買いして、薄い利益を積み上げて行くようなデイ・トレーダーの人達はその極端な例としても、「長期投資です」と言い切る人でも余程のことがない限り目的はひとつのはずです。「長期投資で資産倍増計画」なんて言うと、どこかスマートな感じがしますが、要するにそれも突き詰めると「金儲け」ですよね。

<株式投資の最大の特徴とは企業の所有権を手にすること>

預金すること、債券を買うこと、或いは投資信託を買うことなどと株を買うことの決定的な違いはその企業の所有権がついてくるということです。預金をしてもその銀行の所有権は自分のものにはならないし、投資信託を買ってもその運用会社は誰か他人のものですが、株だけはその企業の所有権がついてきます。

利息や配当金の他に、債券や投資信託が値上がり益を狙えるのと同様に、株にも配当金や値上がり益を狙えるという同じ特徴がありますが、投資先の所有権までついてくるのは株だけです。案外、単純な小さな違いと思われがちですが、実はこれって大きな違いなのです。つまり責任の度合いが全然違ってきます。

例えば、500万円で購入した自慢の車をぶつけて壊してしまったとします。まだローンはたっぷり残っていますが、車の価値は著しく減価しています。この時、所有者の資産価値はその分目減りしますが、ローンはその分を減らしてくれませんよね。内容はこれと似た意味になるのですが、その代わり、所有者はその車を好きに乗り回せますが、ローン会社は一切その車を使えません。そういう所有権がついてくるのが株を買うということなのです。

ただ一般に所有権が付いている気がしないのは、残念ながら普通はその所有割合が小さいからです。トヨタ自動車の場合、発行済み株式総数は34億4,799万7千株にもなりますので、最低売買単位の100株を持っている人(約33万円)は同社の「0.000003%」を持っていることにしかなりません。

逆にもし5月6日の株価で試算して3,320億円くらい払って3%分の株式を保有したら、個人の判断で株主総会招集請求権を行使することもできますし、「某何某さんは役員として失格だ!」などとして解任議案を提出することだって出来ます。トヨタ自動車で考えるとあまりに金額が大きくて現実性がないような気がしますが、時価総額100億円の企業ならば、それは3億円となり、庶民感覚では程遠いですが、いわゆる超富裕層と呼ばれる方々にとってはそんなに現実性のない話ではありません。

<企業の所有権を持つメリット>

バブルが弾ける前の日本やサブプライム・ローン問題が起きる前のアメリカの住宅は例外として、通常は所有権を売買できるものは、手に入れた端から値段が下がります。車などはその典型例で、余程レア(珍しい)なクラシック・カーなどでもない限り、車はナンバーが付いた段階で3割ぐらいは値段が下がります。それはもうその物が新たな付加価値を生まないから仕方がありません。

ただ企業の所有権の場合、その企業が成長し、新たな付加価値を生み続ける(利益が出続ける)限り値段が上がります。PBRというバリュエーション(企業価値評価)指標がありますが、その企業が解散して総ての資産を処分した場合の1株当たりの価値と、実際の取引値段との比率で計算されるものです。企業は成長し続ける限り、機械も増えるし、工場などの資産も増えますので企業価値は増加します。だから株価が上昇するという訳です。これが企業の所有権である株の最大のメリットです。

<企業の所有権のデメリット>

一方、デメリットも当然ながらあります。もちろん前述したメリットの通り、成長し続ける限り価値は上昇しますが、一方で赤字になったり、経営環境が厳しくなったりすれば価値が下がります。これがひとつのデメリットには違いありません。しかし、本当のデメリットはそんなことではありません。

冒頭、車を壊してしまった時の例を引用しましたが、企業が何らかのダメージを受けた場合に価値が減少した時、一番その被害を受けるのが株だということです。例えてみれば「債権の弁済順位が低い」ということです。同じ会社のものでも、社債を購入している場合は、その会社が存続している限りは満期時に通常は償還されます。つまり満期まで持っていれば元本が返ってきます。

赤字だろうが、工場から火災を出そうが、存続している限り元本は返ってきます。それは債権の弁済順位が高いからです。当然、その間は約束された利息も入ってきます。銀行預金の場合も同様です。社債も銀行預金も、企業の側から見ると貸借対照表の負債部に計上されるため、企業が存続する限りは返済する義務があります。

ただ株の場合、それは資本の部に計上されるため、基本的に企業にその返済義務がありません。というより、株主である以上、借財を返済する側であり、返済される側ではないということです。株主が注入した資本は企業にとって借財ではないのです。

<東電のケースで考える>

なぜ今回こんな話を始めたのかと言えば、東京電力の福島原子力発電所の問題をきっかけに、多くのところで議論がこんがらかっていると思われるからです。すなわち「東京電力の株主責任」という話です。

東京電力の場合、今回の原発事故に伴う補償金がどこまで広がるかが解らない中、数兆円にもなるかも知れない補償金支払いにはとても耐えられないとの政治的判断から多くの案が検討されているのはご承知の通りです。東京証券取引所の上場廃止基準に明記されていますが、上場企業は「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)」に上場廃止するとあります。

東京電力の純資産はおおよそ2兆5千億円程度ですから、これを超える補償金が発生するとなると同社が債務超過に陥ることは避けられません。そして1年以上にその期間が及ぶと当然上場廃止基準に抵触するということになります。

問題は東電が残高にして5兆円以上の社債を発行している会社だということで、そんな債務超過の会社の社債を購入する投資家がいるのかということになり、もしそれがなければ銀行融資(銀行も債務超過の企業には原則的に融資はしませんが…)などで調達できない限り、東京電力は倒産せざるを得ないということなります。

いずれにしても、現状の株式は基本的に価値がなくなり、株価はゼロになるというのが普通の考え方です。債務超過ということは、同社の保有資産などをすべて資金化しても、帳簿価格以上に余程高く売れるものでもない限り、債務を弁済したら何もなくなるどころか、債務さえも全額弁済できないという意味なので、当然企業の所有者である株主にまで回ってくるお金はないということです。これが株主としての責任ということで、逆に言えば、株主の有限責任と言うことで、それ以上の責任を負うことはありません。

<東電の場合で学ぶべきこと>

東電のケースでおかしな話だなと思うことは「東電には個人投資家がたくさんいるのだから、上場廃止になるようなことはするべきではない」とリップサービスをする政治家や経済評論家などがいることです。残念ながら、それは「株とは何か?」いう基本的な部分を踏まえていないとしか言えず、心情的な議論は別として、東電の株価は債務超過となるのであればゼロにならざるを得ません。

それが株というものであり、だからこそ、キャピタルゲインも狙える傍らで、普通の債券よりも高い配当利回りを享受できたのです。恐らく東京電力の株式を買われていた方は「東電は絶対に潰れないから、高利回りの預金感覚で、上手くいけば値上がりして儲かるかも知れない」と思われていたはずです。でもこの資本市場の世界「絶対」はないのです。それを学ぶべきなのが今回の東電のケースだと言えます。相当高い授業料についてしまった方も多くいらっしゃると思いますが、残念ながらこれが本来の資本市場の怖さとも言えます。

<機関投資家の場合の問題点>

ここまでだいぶ長い前振りになってしまったのですが、東電の話が変だと思うもうひとつの点は、機関投資家の購入動機とその後の対応です。とりわけ、SRIといわれる分野で同社を含む電力関連銘柄に投資をしていた場合の話です。SRIとはSocially responsible investmentの略で日本語では社会的責任投資という意味になり、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の状況を考慮して行う投資のこととされています。この辺のことを含めて、機関投資家の場合の問題点を次回考えてみたいと思います。

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CEO兼最高運用責任者 大島和隆
(楽天マネーニュース[株・投資]第96号 2011年5月13日発行より) ==========================================================






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最終更新日  2011.05.16 16:36:10


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