旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪黄金の腕≫と≪失われた週末≫

現代と違って、戦後、ミュージシャン達は結構、
麻薬を打っていたようである。
忙しくて眠る暇が無い人、
打たないと上手くプレイが出来ないなど､理由は様々だが、
今のようにマスコミが大々的に騒ぐことも無かったようだ。
中村八大、ジョージ川口など、完全な中毒患者になって、
立ち直るまで、そうとう苦しんだということを思い出した。

　　ビリー．ワイルダーの≪失われた週末≫は売れない作家が
アル中と闘うさまをリアルに綿密に描いた１９４８年度の
アカデミー作品賞受賞作品である。

また、ドラマーでありながら、麻薬におぼれ、ポーカーの名人で、
黄金の腕と呼ばれ、二人の女性との
かかわりの中、転落してゆく人生を歩む
ギャンブラーを描いた佳作　≪黄金の腕≫を紹介します．

≪失われた週末≫

ニューヨークの安アパートに住む、バーナム兄弟。
弟ドン（レイ．ミランド）は
売れない作家で、いつしか、強い酒におぼれるようになった。
兄、ウイック（フイリップ．テリー）は
彼を何とか立ち直らせようと、監視を続けている。
恋人へレン（ジェーン．ワイマン）も協力して、彼を酒から
引き離そうとしている。
窓の外には誰にも見えないように酒壜が、ひもで結わえられて
ぶら下がっている。

極度にお酒の好きな方は分かるでしょうが、
一杯、いや一滴の酒を口に入れるために、
あの手この手で二人をだましたり、まあいろんな場所に酒を
隠してこそこそと口に入れる。その様をワイルダーは
緻密に緻密に描く。

兄と､恋人はなんとか田舎にドンを連れ出そうとしたが、
なんとかかんとか二人を言いくるめてとりあえず、
音楽会へ追い出す。
そして、部屋中、くまなく酒を探すが、一滴も無い。
メイドに払う日当を見つけ出し酒場へゆき、飲み始める。
１０日間も兄に禁酒を強要されていたので、
一杯口に入れるや、才能豊かな作家と錯覚し、雄弁になり、
体内に気力が満ち満ちてくる。

いくら弟のためにと努力しても、ドンに裏をかかれ、
とうとうさじを投げひとり田舎へ行ってしまう。
兄を追い出したドンの頭は、酒を手に入れるための頭脳が
冴え渡り、酒壜を買って家へ帰った。
それでも足りず、ユダヤ人の休日で、さんざん街をさまよった
あげく、酒場の女グロリアの下宿で失神して倒れ、
気が付いたときには､アル中収容所の壁の中。

アルコールが切れ、とたんに、幻覚､幻聴が起きる。
彼は恐怖におののいた。
やっと、アパートへ帰ったものの強迫観念は消えず、
介抱に来たへレンの毛皮を質屋へ持ち込み、ピストルを
請け出し、自殺しようとするが、それをも
ヘレンに身をもって制され、やっとのこと、
ヘレンの深い愛に気付き、心から禁酒を誓うのだった。

ーーーー彼の部屋の窓にはまた、ウイスキーのびんが一本ぶら下がっている．．．．．

≪黄金の腕≫

フランキー（フランク．シナトラ）はカード配りの名人で、
彼の鮮やかな手さばきは仲間内から
　　”黄金の腕”と呼ばれていた。
いつからか麻薬中毒になり、半年間、国立病院で
苦しい療養生活を送り、出てきたばかりであった。

彼の家には妻ゾシュ（エリノア．パーカー）が車椅子のまま
待っていた。夫の酔払い運転事故で、足が立たなくなっていた。
フランキーは妻のためにも今度こそまっとうな生活に入るべく、
入院中にドラムの修練をし、マネージャーへの紹介状も
もらってきていた。
しかし、妻ソジュはせっかくの黄金の腕を棄てることを
喜ばず、ある画策をした。
彼女の足は、実はとっくに治っていた。
しかし、夫に金を稼がせるために車椅子から離れなかった。
二度とカードを持ちたくない彼は悩み、街へ出て、
万引きの嫌疑をかけられ、逮捕された。
ゾシュからの知らせで賭博場主がすぐに保釈金を払って
身柄を引き取ってくれた。

それも、これもゾシュの企みだった。
せっかくのドラマーのオーデイションにも失敗し、
結局フランキーは元のカード配りに戻るしかなかった。
そして、また、麻薬の世界へ逆戻りしてゆくのだ。
そんな彼の唯一の慰めは、安酒場の女性モリー（キム．ノヴアク）
だけであった。

彼女の愛に励まされ、三日間の拘禁によって、麻薬中毒を
抜こうと努力する。
言語に絶する苦しみに彼は耐えた。

そんな時、ゾシュは車椅子の秘密を麻薬の売人に見つかり、
彼を殺してしまった。
殺人容疑はゾシュではなく、フランキーにかかった。
妻の犯行と知りながら、敢えて､フランキーは
警察に無実の身をゆだね、妻に別れを告げた。

ゾシュは思わず、イスから立ち上がって、彼を追い、
階段から転落して死んだ．．．．

黄金の腕は、アメリカらしい、社会派映画だ。
フランク．シナトラが、この作品で、
演技派に転向したと言われた。
惨めな麻薬患者を惨めったらしく好演した。

恋人を必死で､アル中から立ち直らせよつとして、
本人に全くその気が無い、体の隅々まで、アル中の主人公ドン。

本人が麻薬中毒から、立ち直ろうとして、
妻に阻まれたフランキー・
どちらも、ドラマテイックではある。

黄金の腕はその主題曲のヒット。（エルマー．バーンステイン）
これが良いんですよ！

そして、あの当時、ハスラーならぬ、ビリヤードや、
マージャン、カードが娯楽として、日本の巷にも
部屋が出来始め、この種の映画は若者に受けた。
アメリカは当然である。
それをうまく、ドラマに社会現象としてメスを入れた
オットー．プレミンジャーのカラーが色濃く出ている。

場面にリアリテイーがあり、シナトラが夜っぴて、
ポーカーをやる場面は圧巻中の圧巻である。
人物としては、悪妻ゾシュ役のエリノア．パーカーが
面白い。
キム．ノヴアクは派手な役よりこういった
うらぶれた役のほうが数段良い。

かたや、失われた週末は、ワイルダーお得意の
動かない狭い場所に舞台を設定して、アル中患者の
家庭生活の一部始終を見事に捉え、描いた傑作である。

タバコを吸う人には、根っこまで吸う人や、半分まで吸う人など、
いろいろでも、そう意地汚いと思わないが、
お酒のみ（失礼！）には、杯からこぼれた酒をすくって飲んだり、
一滴をももらさず飲むといった場面によくお目にかかる。

お酒に飲まれる人は苦手である。
嗜好品として捉えて、程々にたしなむがいいですね。

失われた週末．．．．１９４８年　監督　ビリー．ワイルダー
黄金の腕　　．．．．１９５６年　監督　オットー．プレミンジャー

どちらもユダヤ人監督というのも面白いですね。　

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