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2010年05月17日
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星逢瀬

星逢瀬


 暮れなずむ空に見え始めた星を見上げる花梨の頬を涙が一筋伝ったのを、翡翠が見逃すはずはなかった。
 寄り添う肩を抱く腕に力を籠めた。

「どうしたの。」
「ううん、何でもない。」

 応える声が潤んでいないのに少し安心したが、伝う涙が止まる様子はなく、翡翠は花梨の瞼に口づけた。あふれる涙を吸い取った。瞼が震える。

「私、どうしちゃったんだろう……」

 唇を離すと、困ったように笑う花梨の顔があった。

「悲しいことなんかないんだよ。ほらあの、」

 西の空を指さした。



 花梨の瞳が不安に揺らぐ。いたたまれなさを感じて、翡翠は花梨を強く抱き締めた。

「余分なことは考えなくてもいい……私が君を手放すと思うのかい?」

 何が彼女をこんなに不安にさせるのか。出逢う前の遊んだ記憶が翡翠を嘖む。刹那、楽しければいいと思っていた日々。何も拘泥せず、執着もせず、風に任せ波に委ねて心の儘に摘み取り摘み捨てた恋。澱んだ過去が穢れとなって、今、この何にも代え難い宝を苦しめている……。

(私の白菊。私の大事な人。)

 私が君から離れることはない。生まれて初めて、こんなに人を愛しいと思った。心から。私が君から離れるとしたら、それは君が私から離れていくときだ。君がここにいる限り、私は君を愛し続けるだろう。いつまでも、いつまでも、永遠に……


 腕の中の花梨が小さな身じろぎをする。固く抱いた腕の中でもがく小鳥。そっと腕を緩めると、大きな息を吐いて翡翠を見上げた。信じていると穏やかな光をたたえて、まっすぐに見つめる瞳に、翡翠はもう一度唇を近寄せた。両の瞼に一度ずつ、そして柔らかい花の唇に……決して離れないと誓いを籠めて。

 空に残る光が少しずつ薄れ、暗い闇が覆う。明星ばかりが目立っていた空に星々が溢れる。花梨の世界では希少な降るような星空。

 吹く風の涼しさに、花梨がくしゅんとくしゃみをした。
 二人を取り巻く空気が、ふわり暖かくなった。

「戻ろう。」

 促す翡翠に、花梨は素直に従った。



 花梨の頬が赤く染まった。





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最終更新日  2010年05月17日 23時58分23秒
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