東京都内での建設技能労働者に対する求人倍率が 8.88 倍を記録するなど、職人不足が深刻さを増しており、一部の業種はいえ建設技能労働者の職を探す人に対して、 9 倍近い求人があることを示し未曾有の売り手市場になっている。建設技能労働者不足は工事の遅延だけでなく中断や放置に関する多くの相談が行政側にも寄せられているというのだ。設計単価や間接費の上昇分を元請が下請に適切に反映させていないことが問題で、こうしたトラブルが発生する背景には東日本大震災の復興工事や東京五輪などによる建設業界の人手不足があると考えられるが、元請が利益を適正に還元しないと若年技術者は元より建設従事者の確保は不可能で建設業の人手不足が解消されることはないだろう。
建設労働組合総連合東京都連合会と埼玉土建一般労働組合が今年の賃金調査の速報値を発表したのだが、建設労働組合総連合東京都連合会の調査で注目したいのは一人親方の大工の賃金で、材料費が一人親方の大工負担だとすると、なんと昨年度より 163 円安い1万 8226 円だったというのだ。今年の 4 月に消費税率が上がって材料費も上昇しているので、実質的な手取りはもっと安くなっていると思われる。自由回答には「消費増税や材料費高騰の一方で賃金は下がり、暮らしは大変」など、消費税が賃金に反映されない不満を訴える声が複数見られたというのだ。手間請け大工の賃金は昨年度の調査では一人親方より 805 円安かったが今年は 176 円高い 1 万 8402 円なのだ。
材料費を負担する一人親方より負担しない手間請け大工の賃金が高いのは異常事態で、 常用大工の平均的な賃金は 1 万 6739 円とされていることから一人親方の方が高いのだが、常用大工の中には会社が材料費や法定福利費を負担する社員大工が含まれるので、手元に残る金額は一人親方のだいくの方が安いと思われるのだ。手間請け大工と常用大工の賃金はいずれも昨年度より高かったというのだが、しかし自由回答では「単価が安いので長時間働かざるを得ず、きつい」といった声が挙がっているそうなのだ。建設労働組合総連合東京都連合会の書記次長は「職人不足などの影響で仕事が増え、労働時間が伸びている。ただ、単価は上がっていない」と話している。
埼玉土建一般労働組合の賃金調査では昨年度と比べて、大工の賃金は手間請けが 1275 円上がっており、一人親方が 841 円・常用が 39 円それぞれ高くなっているそうなのだ。ここでも建設労働組合総連合東京都連合会の結果と同様に、手間請けの賃金が一人親方より 163 円高くなっている。埼玉土建一般労働組合賃金労働対策部の担当者は、「わずかに上昇したが公共工事の水準と比べても、賃金が引き上げられたとの実感には至らない」と話している。賃金の調査結果と公共工事の設計労務単価の差にも注目してみると、現在の東京都の大工の設計労務単価は 2 万 4700 円で一人親方の賃金はそれより 6474 円安く、公共と民間では事情が異なるとはいえ設計労務単価引き上げの波及効果は皆無に等しい状況だ。
公共工事は9割ほどが土木で民間工事は8割以上が建築であり、建設技能労働者も違うとされているが、賃金が安いために社会保険加入率が上がらず職人離れも深刻化しており、この問題を解決するため国土交通省は設計労務単価を昨年の 1 月に前期比 18.7 %引き上げ、さらに今年の 2 月に同 8.3 %引き上げている。これは法定福利費が引き上げ額の目安になっているが、大工を使用する立場の元請でも、職人の育成支援や契約単価向上に努めているゼネコンとそうでないゼネコンとで大きな違いがあるというのだ。全国建設労働組合総連合賃金対策部長は、「職人自身が立ち上がり、設計労務単価の引き上げ分が賃金に反映されるよう、元請けに強く要求していく必要がある」と話している。
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