中高年や高齢者から働く女性や家庭の主婦だけでなく「歳のせい」と言われるにはほど遠い若い人まで多くの人を悩ませている腰痛なのだが、腰痛が体の不調の原因となって悩んでいる人が多いという。腰痛の原因として骨や筋肉に異常がある「器質的要因」があるが、背骨の骨と骨の間にある椎間板が突出して神経を刺激し痛みが起こる「腰椎椎間板ヘルニア」は腰痛の主な原因だという。ところが腰痛については姿勢や筋肉の強さだけでなくむしろ「考え方」や「気持ち」の問題がもたらす影響が最新の研究から明らかになってきているという。日本では「腰痛と気持ちが関係している」と言えばちょっと怪しいイメージを持たれてしれないが、腰痛の 8 割は医療機関で検査しても痛みの原因となる異常がみつけられないというのだ。
これについては多くの研究結果が発表されていて腰痛治療の先進国であるオーストラリアや欧米では常識になりつつあるという。腰痛を引き起こす因子として注目されているのが心理社会的要因すなわち心身のストレスで、治療を受けても痛みが続く場合にはストレス・不安・うつなどの心理的要因が影響している可能性があるという。ストレスの原因は職場や家庭の人間関係に仕事の内容などさまざまだが、こうしたストレスにさらされていると脳が痛みを抑え込む「下行性疼痛抑制系」という仕組みが働きにくくなるという。この仕組みが正常に働いている場合は痛みの信号が脳に伝わると脳内に「ドーパミン」という神経伝達物質が放出され、「オピオイド」という鎮痛作用のある物質が放出されて脳への痛みの信号が抑えられるというのだ。
ところが長くストレスにさらされていると痛みの信号が脳に伝わっても「ドーパミン」が放出されなくなり、神経のバランスを保つ「セロトニン」という脳内物質の分泌も低下する。その結果疼痛を抑制する仕組みが機能しなくなりわずかな痛みでも強く感じたり、痛みが長引いたりしてしまうようになるというのだ。腰痛を発症すると「腰を動かすのが怖い」と思うようになるそうだが、その「動かすのが怖い」という気持ちが腰痛をさらに悪化させたり、治りづらい状態をもたらしたりするというのだ。腰痛を発症して痛みを感じその際に痛みに対して悲観的な気持ちを持ってしまうと痛みに対する不安感や恐怖感が増してしまい、それによって「腰を動かしたくないな」などという過度な警戒心が生まれ活動範囲を極端に狭めてしまうというのだ。
例えば今まで毎日 30 分の散歩をしていたのに痛みが再発したら怖いのでやめてしまうと、それがさらに身体を弱くしたり後ろ向きの気持ちにつながったりするという。腰を痛くしてしまうなど「恐怖回避思考」と呼ばれて世界的に広く採用されている考え方だというのだが、東京大学医学部附属病院 22 世紀医療センターの松平浩氏らは、軽い腰痛をもっている日本人 1,675 人を対象に調査を行った結果、多くの人が「仕事に対する満足度が低い」とか、「上司のサポート不足」や「週労働時間が 60 時間以上」・「日常生活や仕事に支障をきたした経験のある人が家族にいる」といった問題を抱えているというのだ。つまりストレスが過剰にたまっている傾向があることが判明したわけだが、職業では専門職や事務・技術職などが多かったという。
この思考を断ち切るにはどうしたら良いのかということなのだが、悪循環を断つカギは楽観的に痛みと向き合いウォーキングやストレッチなどの運動を行うことだという。腰痛になったときに「腰痛なんて風邪をひいたみたいなもんだ、数日したらすぐ治るさ」と前向きの気持ちを持つことが大切で、風邪をひいた時に「ああ、このまま一生風邪をひいたままだ、もう何も運動できない」などと思うことはないように、普通の風邪なら実際に数日経てばしっかり治り何事もなかったように生活しているはずだという。腰痛も基本的には同じことだということなのだが、なぜか「ずっと腰が痛い」と思ってしまう人が多いものだというのだ。つまりほとんど腰痛は数日たてば改善してくるので前向きな気持ちを持って腰痛と向き合うべきだというのだ。
キーワードサーチ
コメント新着