独居老人問題等「孤独担当大臣」のポストを設置した英国ほどではないが、米国でもようやく孤独はいくらか注目を集めるようになってきたそうで、さみしさはひとり暮らしや独身だからとかあまり友だちがいないせいだからとも限らないというのだ。 「周りに人々がいるかどうかにかかわらず、さみしさを感じることはあります」 と話すのは米国のマサチューセッツ州ボストンにあるマサチューセッツ総合病院の精神科医であるジャクリーン・オールズ医師なのだが、さみしさが長引けば身体にまで影響が現れてきるそうで、研究者の間では蔓延する公衆衛生の問題として、孤独感を大きな問題としてとらえ始めているそうなのだ。しかも 孤独でさみしさを感じていると死亡リスクが高くなる という研究結果もあるという。
過去の研究結果から社会的なつながりが私たちの心身の健康にとって重要であり、孤独が有害であることが確認されている。孤独が心理的・生理学的に私たちにどのような害をもたらし社会的つながりがどれほど私たちを助けてくれるかを示すもので、研究によると私たちは人から孤独を「もらう」という。孤独を感じる人は次第に社会的ネットワークの端の方に移動していくそうなのだが、そのことがある種のドミノ効果を生み出すとみられている。例えばある人が孤独を感じる日が 1 週間のうちに 1 日増えたと言うとき、その人の親しい友人たちもまた孤独を感じる日が増加するというのだ。その他の研究結果では人は孤独になると他人への信頼感を失い始めそれが孤独と社会的孤立という悪循環を生み出すことが示されている。
ある研究結果によれば孤独感が強い人ほど炎症が起きていることを示す生体指標が確認され炎症性遺伝子が活性化しており、遺伝子の抗ウイルス活性が低下していた。自律神経のうちストレスや脅威に対する「闘争か逃走か」反応を起こす交感神経系が活性化することも確認されている。社会的孤立はうつ病の症状の一つで、慢性的に孤独を感じていれば感情や気持ちに悪影響が及ぶという。この問題について調べた過去の研究によれば、社会的孤立とうつ病の間には相互関係があることが分かっているが、より最近の研究ではメンタルヘルスが孤独の予測因子であるというより、孤独がメンタルヘルスの問題のより強い予測因子であることが確認され、社会的ネットワークが必要で実際の人間関係を持つことを示す結果だとされている。
研究結果では孤独が私たちの考え方にまで影響を及ぼすことを示しており、注意力や実行機能・認知機能だけでなくアルツハイマー病のリスクにまで関連しているという。 1 万 2000 人を超える参加者を対象に 10 年にわたって行った追跡調査の結果では、孤独と認知症リスクの間に有意な関連性があることが確認されているそうで、最も強い孤独感を訴えていた人たちは認知症を発症するリスクが 40 %高くなっていた。たいていの人がいつかは突然さみしさに襲われ、新しい町に引っ越すかもしれないし、新しい仕事を始めたときや別れを経験したときなどは、 ちょっとさみしくなっても当然 でだろうという。そしてさみしさについて話しさみしいと認めるだけでほかの人とつながることができ気持ちが落ち着いてあまり孤独に感じなくなるというのだ。
ハーバード大学が行った最もよく知られている研究の一つに約 80 年間にわたって実施された追跡調査があって、この研究は最も健康で幸せな人はより強い社会的つながりを持っているということを確認したという。生涯にわたる社会的つながりは幸福と長寿の主な予測因子であることが分かっており、一日の単位で考えてみても社会的交流は幸福と健康につながる感情をもたらすそうなのだ。ある研究によればクラスメートや単なる顔見知りのような「弱い」社会的つながりでさえ幸福感をもたらすことが分かっており、私たちは精神的な利益を得るために「深い」社会的つながりだけを必要としているわけではないみたいで、隣人や同僚との日々のちょっとした会話だけでも利益を得ているのかもしれないというのだ。
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