台風の被害が甚大だったこともあって水害対策が改めて注目を集める中で、国土交通省が「気候変動で雨量が増加傾向にある」として堤防強化に乗り出す方針を持つ一方で、河川工学の大家である宮村忠関東学院大学名誉教授は「堤防はリスクにもなる」と反論している。政府は「防災・減災、国土強靱化のための 3 カ年緊急対策」を閣議決定しており、国土交通省も 2020 年度までの予定で堤防を越える「越水」で削られやすい河川反対側の「のり尻」の強化などの整備を進めてきている。川底の掘削で堤防を高くしたり河川沿いの遊水地を整備したりもしている。今年の台風被害は国土交通大臣も未曽有の事態だというように、従来の対策だけでは気候変動を背景に激甚化する水害に耐えられないと判断しているという。
国土交通省幹部は「堤防を元の形に戻すだけでは被害を防げない。同じことを繰り返さない抜本的な方策を考える必要がある」と話すが、堤防ができればという期待感はあるだろうし一般的に治水といえば堤防が挙げられるけれど、堤防は造るだけでは駄目で非常に維持管理が大変となる。堤防は土で造るのが一般的だが地震が起きれば内部でクラックができるかもしれないし、大雨が 2 ~ 3 日も降り続くと傷みも生じる。モグラや蛇といった動物が穴を開けかもしれないが、モグラと堤防の決壊との因果関係ははっきりしていないというが、大体の場合はモグラがいるようなところは堤防が切れているという。堤防も含めて防災施設は何十年や 100 年に 1 回とかいわれる災害が起きたときに計画通りの活躍ができなければならないのだ。
しかもそういう災害はいつ起きるか分からないのだから非常に長い距離に設けられた堤防が常に能力を発揮できる状態か管理しておかなければならないという。マンパワーも膨大になるしそればかりか堤防はどこに造ったらいいかというのも大変難しいとされている。今まで水があふれていたところに堤防を造ればそのリアクションはどこかにくるはずで、影響は対岸に行くかもしれないし下流に行くかもしれないというのだ。しかも堤防ができたとしても決壊しないとは限らないそうで、従来よりも水位が高い状態で耐えられなくなって堤防が切れることになるから、以前よりも溢れた水が持つエネルギーははるかに強くなってしまう。そんなにエネルギーが高くなければこの家が流されることはなかったということも起こり得るというのだ。
つまり堤防というのは丈夫な高い堤防ができればできるほどリスクはあるということも言えるわけなのだが、そこで洪水対策の根本的なこととしては洪水が起こるようなところには住まないということになるというのだ。洪水の被害に遭う家というのは比較的新しい家が多く、逆に言えば何十年もそこに残っている家というのは災害の教訓が生かされているから残っているとも言えるという。すでに住んでいる人に別の場所に移住しろというのは非常に酷な話でもあるが、長い年月をかけてやっていくしかないというのだ。都心部の海抜ゼロメートル地点などでは盛り土をして所々に人工的に高台を造っていくことも考えていく必要があるなどどうしても整備には長い年月がかかってしまい、いずれにしても腰を据えた都市政策が必要だといわれている。
治水はダムや遊水池など水をためて水位を低下させる機能と、河川堤防や河道掘削によって下流へ水を流す能力を向上させる機能によって行われているが、気候変動で雨量が増加傾向にあって懸念されるのが雨の浸透による堤防の地滑りなどだという。対策としては堤防の幅を広げたり護岸で覆ったりするなどが考えられ、国土交通省では堤防の新たな設計基準の検討を始めたところだという。堤防はメンテナンス費用がかかるという意見に対して除草や雨などで削られたり動物に穴を掘られたりといった箇所の点検はしなければならないが、維持管理費は結構かかっているので機械化などの省人化の取り組みも併せてやっているが、取り組みは予算も時間もかかるし時間的にもマンパワー的にも限界もあるというのだ。
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